艶姿をもう一度

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・・・何この紙、いつの間に?

自分では周囲を警戒しているつもりだった。
こんなところに差しこまれた覚えなどない。
多少お酒の匂いに中てられたからと言って・・・こんな・・・
千鶴は自分の迂闊さに閉口するしかなかった。

「千鶴様、本日はもう置屋の方にお戻りください」

部屋の外から声がかかる。
千鶴は急いでその紙をまた閉まいこむと、外で待つ見習いの少女に頼みこむように手を合わせた。

「あの、少しだけ、二人とお話させて頂きたいんですが・・・」
「でも…おかみさんにもすぐ戻るように、と・・・」
「少しだけ、少しだけなので!すみません!!」
「あっ!?」

言うが早いが千鶴がその少女の脇をすり抜けて二人の部屋へと急ぐ。
向かいながらふと、なんだか、前の時より行動を制限されているような気がする、と感じた。
いつでも廊下に出れば、見習いの子が控えて、案内されるままに部屋に向かう。それだけ。
自分であちこちの部屋の様子を覗って、などはもってのほか。

・・・こんなことで、ちゃんと解決するのかな?
少しだけ、何かわからないけれど胸に不安の種が舞い落ちる。

「失礼します、千鶴です」
部屋に辿着きいつもとは違い、少し乱暴に戸を開けると、出て行った時と変わらない二人の姿がある。
そんな二人を見ると、不安も吹き飛ぶような気がして、千鶴は思わず笑みを浮かべた。

「「何かあったの(か)?」」

そんな千鶴を見て二人が少し心配そうに視線を送ってくる。

「はい…あのこれを…」

そう言って千鶴が紙を襟元から取り出して渡すと、それを見た二人の表情は変わらない。
慌てた様子もなく、落ち着き払っている態度に、千鶴もさざ波立つ気持ちも凪いてくるような気がした。

「関わるなって言われても…ねえ…」
「・・・・・・・・千鶴、これに気が付いたのは?」
「あ、あの…さっきです。部屋に戻ってから・・・」

手紙を渡されたときに気が付かなかった。それが情けなくてつい小声になってしまう。

「どこにあったの?」
「あっそれは襟元に差しこまれていました」
「襟元?」
「はい」
「それって…紙が見えるくらい浅く?それとも見えないくらい?」
「指先に触れたくらいですから・・・結構深く?」

その言葉にうんうん、と二人は頷きあう。
何か二人だけが事を理解しているようで、千鶴は置いていかれたような気がして、単刀直入に聞き返した。

「あの、何かわかったんですか?」
「ん?ああ…これはきっと…置屋でもうすでに入れられていたんだよ」
「・・・・どうしてわかるんですか?」

総司の言葉に千鶴は首を傾げる。
きっとさっきの宴の時に入れられたと思ったのに・・・

「この筆跡は…細くて柔らかい。女性のものだと思う、それに…」
「それに?」

斎藤が差し出した紙の筆跡を見て、なるほど、と思いながら聞き返すと、総司が当然だよ、と言わんばかりの表情を湛えて、千鶴に体を寄せてきた。

「こんなところに手を入れられたら…さすがに千鶴ちゃんだって気が付くでしょう?」

ほら、ね?と言いながら襟元にそっと手を置く総司に、千鶴は頭の中が真っ白になってしまった。
固まった千鶴の代わりに、斎藤が総司に鉄拳制裁。
痛いよ、と文句を言う総司を、うるさいとはねのけて。

「まあ、そういうことだ。そんなことをする輩は…いなかったのだろう?」
「は、はい!いません!」

ようやく意識を取り戻して、こくこくと頷く千鶴に、斎藤は小さく笑って、次いで視線を空において、

「いたら斬っている」

・・・・・・・・・・
冗談で言うような人じゃない分、その言葉が真実だと思うと・・・
物騒ですよと、たしなめるのも忘れて、千鶴は嬉しいと思った。
やっぱり二人に相談してよかった、不安なんかどこかへ行ってしまうな、と気持ちを噛み締めていると、

「千鶴様、そろそろお戻りください」
「え、あっでも・・・・」

まだ、もう少しと思って、千鶴は総司と斎藤の二人に視線を送る。
するとその視線に応えるように、総司の腕が伸びてきて、千鶴の頬をちょんちょんと突っつきながら、

「ねえ、この子は僕たちで送るから、君は下がっていいよ」
「いえ、でも・・・」

突然の総司の言葉に、少女は困ったように視線を這わせている。
有無を言わせないように、斎藤が続けさまに口を開いた。

「帰り道は、絶対安全とは言えないだろう?守らなければ来た意味がない」
「は、はあ・・・」

その言葉を了承ととらえた二人は千鶴の方へ向く。
少女は困ったように千鶴を見上げている。
二人は送ろうとこちらに視線を向けている。

千鶴は・・・・

1 沖田さんに送ってもらおう
2 斎藤さんに送ってもらおう
3 少女を困らせるわけには…