艶姿をもう一度

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・・・昨夜と同じ人…あの人はいた。あの人は…

話相手をし、酌をしながら、千鶴は周囲の人間をさりげなく監察する。
でも取り立てて何か企んでいるような人達には見えない。きっと杞憂に過ぎないと思ってしまうのは、自分が甘いからだろうか。
その時ふと視線を感じ、気づかない振りをしながらお酒を足しに立ち上げるような動作と共に、自然にそちらを見る。

目が合った。
けれど慌てて視線を外されることはなく、こちらを見て微笑んでいるのは、昨夜名前を聞いてきたあの男だ。
けれど、様子を見るような視線ではなく、ただ単に、おや?あの子は、といった視線のように感じられ、千鶴は少し安心して同じように遠目に微笑みを返した。
すると男は一瞬の間を空けた後、ぱっと顔を逸らしてしまった。

・・・・?
何か、あったのだろうか?
千鶴がそんなことを考えている間に、総司と斎藤に言いつけられていた機会がやってくる。
傍に控えていた少女たちが次々と料理やお酒の補充で勝手場の方へといなくなる。
残っているのは一人だけ。
芸者達は客の相手をするのに注意を向けているので、こちらがどう動こうと何も言えないだろう。

千鶴は、少し失礼します。と横の男に声をかけて、廊下の方へと向かう。
直前、障子戸の前に座って控えていた少女は少し警戒するように、何か?と尋ねてくる。

「あの、お銚子が足りないようなので、頼めないかと…お願いできますか?」
申し訳なさそうに、そしてすぐに戻るような素振りを見せれば、禿の少女は安心したように、只今、とその場を去っていく。

千鶴は自分の場所へ戻りかけていた足を反転する。
その途端、あちこちから視線を感じたような気がした。けれど、気にしないように。と、はやる胸をごまかしながら。
そのまま廊下へ出て、ひとまず、少し見通しの悪い所へ…と移動する。
戻ってきた少女たちに連れ戻されてはかなわないから。

・・・・・・・これから、どうしよう。どうやって問題を・・・・・・
浪士さんのいるお部屋に入って…それでもその後どうすれば・・・
廊下の隅の一角で、そんなことに頭を巡らせていた千鶴にふいに影が差した。

「随分と行動制限されているようですね、大丈夫ですか?」

・・・・この、声は・・・・

ばっと頭上を見上げると、本当にただ心配しているようなだけの、目で、こちらを見る・・・天霧、さん。
千鶴は自分の動揺を抑えるように声を出した。

「・・ど、どうしてここに?」
「どうしてとは・・・ここは薩長も会合に使うこともしばしばです。確かにこの前の新選組の一件で割合は減りましたが・・・」

ちらっと奥の間に目を向けてから、千鶴に向き直る。

「風間はさほど気にしておられないので、・・・来て頂けると助かるのですが」
「私、が?」
「はい。手荒なことはしたくありません。ご自分で・・・」

・・・・どうしてここにいることを知っているのだろう?
ここ最近の騒動に関っているの?

そんな疑問が頭の中でぐるぐる回るけれど、でも・・・・

ここで拒んでも、きっと結果は同じ。部屋に連れていかれる。それに、
問題を起こすなら、丁度いいのかも知れない。
そう千鶴は覚悟を決めて、ゆっくり息を吐くと立ち上がった。

「お部屋・・・どこですか?」
「こちらです」

案内されるがままに向かった部屋に入れば、酒に口をつけるでもなく、窓辺に佇む風間千景がこちらをじっと見ていた。



風間は千鶴の姿を認めると、手で合図をし、天霧を下げさせた。
そのまま設けられた席へと着き、千鶴に杯を傾ける。
千鶴は慌てて傍により、その盃に酒を注ぐ。
黙って行われたそのやり取りに、風間の表情は愉悦を帯びたものに変わってきた。

「ほう、今夜はよくわかっているな…また、何か含んでいることでもあるのか」
「風間さんこそ、何か企んでいるのではないのですか」

固まった声で返事をすれば、にやっとただ笑うだけ。
やっぱり何か…関係があるんだ。どうやって聞き出そう・・・

「あの、今回の一連のこと、どういう・・・「知らん」

きっぱり、躊躇なくそう言われて、千鶴は二の句が告げない。
知らないなんて…そんなこと信じられるはずがない。
知らず、偶然だけでこんなところで会うなんて、あり得ない。

「私がここにいると、知って・・・?」
「・・・・・・・・・」

答えるのも面倒そうに風間は黙って酒を口に運ぶだけ。
だけど、否定しないならば、それはきっと・・・

「・・・何も知らないと言うならば、私がここにいる意味はありません。失礼します」
「意味はある」

立ち上がりかけた千鶴の腕をぐっと掴むと自分の方へと引き寄せる。
自然に風間の膝に頭を置くような形になった千鶴に、容赦なく赤い、瞳が突きつけられる。
そのままぐっと杯を口に中てられ強めのお酒が喉を通っていく。

「ごほっ!こほっ!…な、何を…」
「うるさい、黙っておけ。…天霧」

戸の向こうに声をかければ、すっと戸が開かれる。

「手筈は」
「整っております」
「て、手筈って何…」

焦る千鶴を余所にそのまま風間は千鶴を脇へ抱え込むと、そのまま屋敷の外へと歩みを速めていく。
どうして誰も…いないの?これじゃあ、このまま…

声を出そうと思っても、強いお酒を口にしたせいか頭がくらくらする。
あっという間に肌に寒気が感じられる。
外に出たのだと認識して、あがこうとするも風間にしっかり抱えられたまま、屋敷から離れていくのだった。



1 沖田⇔千鶴♥2以上
2 斎藤⇔千鶴♥2以上
3 それ以外の場合