VD!!〜特別になりたい〜



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沖千、斎千、沖・斎・平・薫→千鶴な話に分岐します。




朝、起きれば机の上にはかわいく飾り付けられたチョコレート。
皆がほしがる千鶴のチョコレートを、今年も一番にもらえた、と滅多に見せない笑顔を少し浮かべてから、薫はリビングへと向かった。
そこには…

「ああ〜時間がない!どうしよう〜」
「…ったく、愛想良くこんなにたくさん義理ばっかり作るからだよ」

今日はVD。雪村家では、薫と千鶴のこの朝の会話は、すでに毎年恒例のものとなってきていた。

「だって…みんな喜んでくれるし・・すごくよくしてくれてるし」
「ふん、その優しさのほとんどが下心で構成されているってことを、いい加減学んだら?」
「も〜またそんなこと…みんな優しいんだよ」

テーブルの上に山積みにされたチョコはまだ半分が未包装。
千鶴は時間がない、と言いながらも、一つずつ丁寧に包装していた。
よくしてくれる男どもの本音など全く意に介さず、のほほんと喜んでくれるかなあと微笑む千鶴を見て思わず溜息を吐く。

その後大量のチョコに薫はさっと視線を流して…自分と同じラッピングのものが並んでいるのを見て安堵したのも束の間。
脇の方にこっそり置いてあるのは…?

「・・・へえ、今年は本命作ったんだ、誰?」
「え!?っみ、見ちゃ駄目!!」
「今更隠しても、もう見たんだよ。無駄だって…それで誰だよ」
「な、内緒〜!!ほら、風紀委員のお仕事あるんでしょ!急がないと!」

・・・毎年、毎年、恐れながらも、それでも回避し続けてきたのに。
ついに千鶴にも好きな男が…相手は誰だ?と、薫は身支度中ずっと顔をしかめながら、家を後にした。


薫が家を出ると千鶴はほっと息をついて。
もくもくと作業を進めていった。

・・・ふ〜薫はこういうことには鋭いっていうか…さて…出来た!

ぱっと顔を輝かせて、ふと時間を気にして時計に目を向ければ…もうこんな時間!!
千鶴は慌てて出来上がったチョコを手提げにいれると家を飛び出したのであった。


「おはよ〜千鶴!今日はオレと同じだな!」
「おはよう平助君!あ、あのね…これ!」

渡す人はいっぱい。会えた時に渡せないと…と、千鶴は一つのチョコを手に取り平助に渡した。

「おっ!チョコ!ありがとな!…あ、あのさ」
「うん、なあに?」
「こ、今年も…みんなに…」

同じものを渡すのか?本命はいないのか?
そんなことを聞きたいけれど、本命がいる、と言われたら・・と思うと怖くて声が出ない。
千鶴はそんな平助の様子を、不思議そうに眺めていたのだけど、その時。

「おはよ〜千鶴ちゃん。一緒に学校行こう」
「あ、沖田先輩!おはようございます」

さも自然の流れのように平助と千鶴の間に割って入ると、千鶴の手を攫いそのまま歩きだしてしまう。
後ろで平助が置いていくな〜!と怒りながら追いかけてくるけど、相変わらずマイペースの総司。

そんな総司に千鶴はちらっと視線を向けると…

1…総司にも義理チョコを渡す→このままお読みください
2…総司に本命チョコを渡す

「あの、沖田先輩」
「うん、何?」
「チョコレート渡したくて…あの、ちょっと手をよろしいですか?」
「・・チョコレート?嬉しいな」

嬉しいけど、朝の登校時。平助の前。こんな状況で渡されるということは…
密かな期待が砕け散る瞬間ほど悲しいことはない。
千鶴が差し出したチョコを笑顔で受け取りつつ、平助に目を向けると・・・

平助も気にしているのか、総司のチョコを見て…見るからにほっとしている。
総司はチっと心の中で軽く舌打ちすると、笑顔で千鶴に話しかけた。

「ねえ、千鶴ちゃん。今年もみんなにあげるの?」
「え?はい。この学校に入ってから特にお世話になること多いので…」
「そう、みんな同じチョコ?」
「え、え〜っと…内緒です」

!?

毎年、「はい」と言う千鶴が、今年はごまかした。
ということは…

「あ、遅れちゃいますね!急ぎましょう!」
「・・・・・ああ、うん。そうだね」「おお〜・・・・」
「?」

かくして元気いっぱいの少女と、元気をなくした二人は学校へと急いだのであった。

ようやく見えた門には、お馴染み風紀委員二人が前に立って…
どこかいつもより落ち着かない斎藤と、じっと千鶴の傍にいる総司と平助の様子を見て、何やら笑っている薫の二人。

「おはようございます」
「おはよう、千鶴…総司と平助はどうかしたのか?」

いつも元気いっぱいに三人で門になだれ込んでくるのに、今日は二人ともやけに元気がない。
その理由を知る薫が、意地の悪い笑みを浮かべながら確心をついた。

「ああ、お気の毒にね。千鶴に今年は本命が出来たから・・・こうなると義理ほど悲しいものはないよね」
「千鶴に…本命?」

薫の言葉にいち早く反応したのは斎藤。
総司は薫を今にも殺してしまうのではないか、という殺気めいた視線を送り、平助はそんな元気がないほど肩を落としている。

「もう!そんなこと言うなら、薫のだってそうでしょう?薫、嬉しくなかったの?」
「・・・・・・・そうなんじゃないの」
「え?そ、そうなの?」

いつもならブツブツ言いながら喜んでいると思っていたけど、今年は本当に嬉しくなさそうだ。
そういえば、総司と平助も去年より元気がないような・・・
余計なことをしたのだろうか?千鶴が困ったように視線を巡らす中、斎藤がたまらず口を開いた。

「千鶴、好いた男がいるのか?」
「えっ・・・・」

1…斎藤にも義理チョコを渡す→このままお読みください
2…斎藤に本命チョコを渡す

「そ、そんなことないですよ!別に本命チョコとか…」
「何、気を遣っているんだよ。一つだけ別に用意していただろう?」
「何の事?私、知らないけど・・・」

知らない、と言いつつ千鶴の目は泳いでいるのを四人はしっかり見た。
本命チョコは確かに存在する。そう思いを強くした四人の前で千鶴は…

「あの、斎藤先輩にも…チョコレート。あの、迷惑でしょうか?」

義理だと嬉しくない発言を受けて、渡すのもおずおずになってしまうけど、チョコを手渡せば…

「いや、そんなことはない。ありがとう」

斎藤は優しく口元を緩めてくれたのだけど。
安心して千鶴がじゃあ、と教室に向かうと薫、総司、平助の三人が斎藤の持つチョコに注目して…

「・・・違うな、それじゃない」
「うん、それ、僕のと同じだ」
「オレも一緒」

「「「義理だね」」」

三人の言葉に、千鶴の知らないところで落ち込む斎藤の姿があった。

――今年は雪村千鶴が本命チョコを用意している!――

そんな噂は本人の知らないところで流れているものである。
千鶴はその日、たくさんの人にチョコレートを配った。

先生陣には土方先生、原田先生、永倉先生、近藤校長、山南先生。
生徒陣には朝渡した四人以外にも、山崎、そして何と生徒会メンバーにまで配ったのである。

だがそれはみな同じチョコレート。
薫が朝見たチョコは誰も受け取ってはいなかった。

放課後…

「薫…君、見間違えたんじゃないの?」
「俺は見間違えてなんかない。それに沖田、おまえも見ただろう?千鶴の朝の態度を」
「う〜ん、そうだよなあ…確かに…慌ててたし。別のを用意してあるように見えたよな」
「だが、千鶴本人からはっきりと本命チョコと語られた訳じゃない。…別のでも義理なのでは…?」
「一つだけ別に?何の意味があるんだよ」

薫、総司、斎藤、平助の四人は教室に残っている。
帰らないのは千鶴がまだ帰っていないから。

千鶴が普段この学校内で仲良くしている男には、すでに義理チョコが行き渡っている。
まさか自分たちの目をかいくぐって、千鶴に接触した命知らずの馬鹿な男でもいたのだろうか?と…
四人は千鶴の動向を探りつつ、待機していたのだった。

「おまえら…何してんだ?」

珍しい組み合わせのメンバーが、教室で固まっているのを目に留めた左之と新八が入ってくる。

「何って…ちょっと用事が…」
「何だ何だ?もしかしてまだ千鶴ちゃんにチョコもらってないんだろ〜!俺はもうもらったぜ!」

何やら得意気にしている新八が去年までの自分たちと重なってむなしくなる…

「…僕らだってもう貰ってますよ。当然でしょう?」
「何だ、チョコ待ちじゃないのか。まあ、千鶴はもう帰っていたしな」

その左之の言葉に、四人はえ?と固まる。
それはそうだ。千鶴に残っているのがバレないように、離れた教室で待機。
窓際からずっと…門の方を見ていたのだ。
帰ろうとしたらすぐにわかるように…と

「しかし、門には千鶴の姿は見えませんでしたが」
「ああ、裏門からこっそり帰ってたぞ?なんか土方さんと二人で「ばっ!新八!」

しかしその言葉ははっきりと、悲しいほど四人の耳に届いてしまっていた。

裏門から、こっそり、土方さんと…

「僕はやっぱり、あの人嫌いだなあ」
「珍しいな沖田。同感だ」
「せ、先生が生徒に手を出していいのかよ!?」
「俺には、この学校の風紀を正す使命がある」

一斉に立ち上がって教室を出て行く四人に、左之はあ〜あ…と溜息を吐いた。

「おまえ、どうすんだよ…完全に誤解してんぞ?あれ」
「あ?誤解なんだから・・・大丈夫だろ!」

そんなことになっているとは露知らず、土方と千鶴の二人。
千鶴を助手席に乗せて、今まさに学校を出ようとしているところ。

「あ〜…間に合うか?悪いな…約束あったとは知らずに・・」
「いえ、いいんです。向こうも用事があってちょっと遅れるって…」
「そうか、あ〜そうだ。チョコうまかった・・・けど、おまえ、本命はまだか?」
「えっ・・・そ、それ今年は結構みんなに聞かれた気がしますけど・・・」

顔を赤らめて、まだなんです、と呟く千鶴に土方は小さく笑った。
あいつら、どいつもこいつも女一人口説けず、情けねえな…そんなことを思っていると、ふと、バックミラーに映った四人の影が目に入って…

「・・・・・・・・・・・・千鶴、急ぐぞ。しっかり掴まれ」
「え?は、はい!」

土方は、四人を無視してアクセルを踏み込んだのだった。


「・・・・・・・く、くそ〜〜〜!!!!オレらに絶対気がついてただろ!今の!!!」
「相変わらず性悪だなあ…」

総司は目についた自転車を勝手に一台ひったくると、器用に鍵を壊してそのまま車の後を追いかけようとした。

「あ、あ〜〜!!総司!おまえ何してんだよ!」
「いいんだよ、緊急事態だし」
「・・・・・・・・・・・・」

その自転車の後ろに、何故か薫が飛び乗った。

「・・・・・君、何してんの?邪魔だけど」
「うるさい、この件は風紀委員で片付けるから・・・早く追いかけろよ」
「はあ?・・・まあ、今は義兄さんと揉めてる場合じゃないか」
「こんな義弟、俺はいらない」

そんな会話を零しつつ、一気にスピードあげて追いかけてしまった。

「は、一君…どうする?・・・・って!!おい!!風紀委員!!」

気がつけば、総司と同じことをして自転車にまたがっている斎藤の姿が。

「俺には…この学校の風紀を正す使命が・・・」
「学校じゃなくて、千鶴だろ!!ったく〜・・・・ちょ、ちょっと待って!オレも乗せて!!」

こうして残る二人も後を追いかけたのである。


四人が駅前に、見慣れた車を見つける。
その車に…土方の姿を見つけると・・・

「この極悪教師!千鶴ちゃんは!?」
「・・・・・・なっ!?お、おまえら…どうやって…」
「いいから、千鶴は?千鶴はどうして横にいない?」

窓の外から、車の中に手を伸ばし、にっくき恋敵を車の外に引きずり出そうと総司と薫が奮闘する中、
斎藤と平助は冷静に周囲を見渡す。

「・・・いないな・・・先生、千鶴とは別行動ですか?」
「く、苦しっ・・・!そ、そうだよ!俺は送っただけだ!!だ〜!!離せ!この馬鹿ども!!」

総司と薫の腕を振り切ると、土方は苦々しい顔で車の外に降りた。
このまま逃げるより説明した方が早い、そう思ったからだった。

「あのなあ、千鶴が用事あるのを知らずに…俺が放課後手伝わせちまったんだよ」
「・・・・・・それで?」
「だから、間に合うように送ってやっただけだ。それでも文句あるのかてめえら」
「ある。大いにある。どうして千鶴に手伝わせるんだ」

薫の反論を受けて言葉を詰まらせる土方に、平助は続けて質問を投げかける。

「なあ先生。千鶴の用事って…何だった?も、もしかして…お、男?」
「・・・・・・・・平助・・・・・・」

土方の四人を見る表情が、何だか同情めいたものに変わる。
そして駅前の、あるカフェを指さした。その先には・・・・・・

「・・・・・・・千鶴ちゃんと・・・・・・・誰?あの男」
「知らない顔だな・・・うちの生徒ではない」
「あ・・・今千鶴が渡したチョコは・・・俺が今朝見たものだ」
「そ、そんな・・・千鶴はあんなやつが好きなのか〜・・・」

四人が立ち尽くす中、土方は、まあ、邪魔しないで帰れよ?と一言声をかけて、やれやれと学校に戻って行った。

邪魔せずに帰る?
そりゃ邪魔はしない。そんなことして千鶴に嫌われたくない。
ならば・・・・・・・

「・・・あの男、今日家に帰られるかな?」
「無理だろうな。わざわざうちの学校の花に手を出したのだからな」
「あいつ・・・あんなやつに千鶴は絶対渡さないし!」
「・・・俺はあの男と千鶴が帰ろうとしたら、千鶴だけに声をかけて連れ帰る。後は任せた」

こんな時だけ一体感。

その日の夜、千鶴の許に電話がかかってきた。

「もしもし…あ、お千ちゃん?委員会お疲れ様!友チョコありがとう〜確かに受け取ったよ!」
『よかった!ちゃんと渡せてはいたのね!』
「うん!ちゃんと教えてくれた男の人が待ってて…渡してくれたよ!私のも受け取った?」
『う〜ん…それがね…』
「・・・・・?どうかしたの?あ、明日かな?今日は遅かったしね」
『ううん、何だかチョコ狩りにあったみたい。二度とこんな役引き受けないって…大変だったみたい』
「ええ!?ちょ、チョコ狩り!?そ、そんなのあるんだ…」
『まあ、千鶴ちゃんのチョコだからよ、きっと。千鶴ちゃんも相変わらず大変ね』
「・・・え?それ、どういう・・・?」
『ううん!何でもない!』

その日、せっかくお千ちゃんに頑張って友チョコ作ったのに…と落ち込む千鶴。
四人は四人であんな男のどこが…と落ち込んでいて。

来年は、お千ちゃんにちゃんと直接渡そう。それに…本命も作れたらいいなあと思う千鶴。
来年は、来年こそは…本命を!!と願う男性陣(一人は来年は本命作りませんように!と祈ってる)

来年のVDに向けての火蓋はもう切られている。




END