Everything ties




22






どちらにお進みになりますか?




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沖田さんルート

斎藤さんルート

varietyルート



































〜沖田総司〜






総司と千鶴がまた竹林の道を抜けず、駅の方へと歩いていた時。

野宮神社の帰り道、事態を察知したのかあっさりひいた天霧に、千鶴の許へと急いでいた斎藤と。
渡月橋の騒乱に収拾つけて、何とか戻ってきた土方・左之、そしてその二人と合流した平助・山崎と。

皆が無事に合流した時、千鶴を見た5人の一瞬の喜ばしい表情は、瞬く間に怪訝なものに変わった。

千鶴は真っ赤で、ぼうっとして、心ここにあらずといった様子で。
そして繋がった手。
今まで幾度もこうして手を繋ぐ様子を見たことはあるが、千鶴のこの態度はあまり見たことはない。
訝しむのも当然だろう。

総司だけが、何事もなかったように事態の説明を淡々としていた。


「・・・・と、いうわけで。一応引きましたけど…どうかな。あれくらいじゃ諦めないような気はするけど」
「・・め、目の前で千鶴とき、キキキ…」
「・・・平助、猿?」
「んな訳あるかっ!!!ったくキスとか…フリとは言えさ〜…そんで、その手!いつまで繋いでんだよ」

ん?手?と今気付いたように、わざとらしく目を向ける総司に、同じくハッと我に返った千鶴は重なっていた手の、添える程度だった指を伸ばし、解く意思を示したのだが――

「・・・・・千鶴ちゃんは無理やり連れて行かれそうになってたんだよ?不安がるのは当然だよね」

伸ばした指先を辿るように、総司の指が絡み合って。
キュっと軽く力を込められる。

「大丈夫、離れたりしないよってことで…この通り。何か問題が?」
「・・・・・・う〜…それは・・・・・・」

まだ不満そうな平助だけど、確かにそんなことがあれば千鶴も不安だろうと、これ以上文句を言うのは耐えた。

肝心の千鶴はそこまで不安に思っていた訳ではない。
おでこに貰ったキスのせいで頭がうまく回らずに、神社を出る際手を引っ張られたままの状態が続いていただけ…ということは皆、もちろん知る由もなく。

・・・そっか、私のことを心配して繋いでくれていたんだ――

総司の平助への返事を聞いて、繋いだままの手に目を向ければ、恥ずかしくもあり嬉しくもあり…胸が温かくなった。
だけど、それとは別に頭のどこかで―

あれほど熱心に参拝して祈願したのに…自分と手など繋いでいていいのだろうか―

どうしてもそこが、心にチクっと引っかかってしまう。

ちらっと見上げれば、何でもないような顔で、いつも通りで。
おでこのキスも、こうして手を繋ぐことも…そんなに沖田さんにとって意味はないんだ―

何が気に入らないのかわからないけど、何だか泣きそう・・・

じわっと熱くなる目をごまかすように軽く頭を振っても、中々気は紛れない。
千鶴が一人、そんなことに気を捉われている間にも、話は進んでいた。

まだ手を繋ぐ件でむくれ顔の平助に、まあ、この場合は仕方ねえだろ、と左之が軽く背中を叩いて。

「まだその風間のパーティとやら終わった訳じゃねえからな。油断ならねえし…何するかわからねえっていうのが今日で痛いほどわかったからな」
「・・・明日もあいつら纏わり付いて来んのかな・・・オレもう疲れたよ・・旅行どころじゃないじゃん」

目の前の二人が手を繋ぐ様を見れば、疲れは余計に増すように思える。

「・・・そうですね。パーティが終わってもそれはそれ。雪村君を傍に置きたいという点で絡んで来るのは十分あり得ますね」
「・・・・厄介だな。風紀委員に武器の使用許可を――」

ふう、と斎藤が腕組みしながら目を細め、不機嫌そうに、何でもないようにさらっと口を挟んだのだが…

「・・ぶ、武器って何だよ・・それはヤバイんじゃねえの?」
「ヤバイことなど何もない。武器と言ってもせいぜい木刀程度だ」
「・・・おいおい、斎藤。十分やべえよ。お前何気に一番怒ってんじゃねえか」
「・・・・・・というか、何で僕を見て話すのかな、斎藤君」
「何故だろうな」

総司の視線に、珍しく挑戦的に視線を向ける斎藤。
ああ、また面倒臭いことになってきた…と左之が二人の間に「火花飛ばすなよ」と割って入ろうとした時。

無機質な携帯の着信音が鳴る。
それまでずっと眉間に皺を寄せながら、黙って聞いていた土方が携帯を取り出すと、途端にブチっと血管が切れたような音がした気がした。

―― それくらい、一瞬にして怒りを噴き出したのである。

「てめえ!!新八っ!!!どこ行ってやがった!!」

その怒声を聞いて、『…ああ、新八の野郎・・俺にかけようとして間違えたんだな、本当に馬鹿なんだな』と左之は思ったのだが…

「どうせ馬だろうが!!てめえ帰ったら覚えておけ!」と息まいている土方が、ふいに「あ?」と眉を顰めて。
黙って新八の話を聞いている辺り、本当に土方に用があったようだ。

何だ?と皆が注目する中…

「・・・あー・・・そういうことか、わかった。・・・・・・わかったって言ってんだろうが!」

そのままブチっと電話を一方的に切る辺り、土方らしい。

「・・おい、土方さん。あいつに馬以外に用があったのか?」

左之のその言い方も中々にひどい。

「・・あいつは・・今風間のパーティの会場にいるんだと」
「・・・・風間の?何で新八がそんなところに…」
「近藤さんに、花手配して持ってけって言われたらしい」
「・・・ああ、うちの学園の財政事情ってやつか。寄付してもらってるんだっけ?近藤さんそういう配慮怠らないよな」

みもふたもない学園の内輪のことを言う左之に、土方は釘をさすように一睨みしたのだが。
山崎がそんな土方に、ですが…と声をかける。

「配達の手配をするだけでも…よいのではないでしょうか?…仮にも一応、永倉先生は今我々を引率中の教師の一員ですし」

『仮にも一応』を強調する山崎に、左之がぷっと軽く吹きだした。

「・・まあ、説得力はないがそうだよなあ。俺も手配だけでいいとは思うけどよ…新八の聞き間違いじゃあねえよな」
「だな。近藤さんは礼節はキチっとしようと考えてんだろ。京都に人がいるのに誰も向かわないってことは避けて・・・俺は責任者だから離れられねえしってとこだろうな」


頷き答えながら、まあ、あいつが今会場にいるなら・・何かあればわかるだろと一息ついて。

ひとまず、今日のところは落ち着けたのだろうか―

土方がふぅっと姿勢を崩した時に、総司の感嘆の息が漏れた。

・・・・・もちろん土方に向けられたものではない。

「さすが近藤さん・・・こっちの事情も全てお見通しでの見事な配置だなあ」
「・・・・そうかあ?別にたまたまなんじゃねえの?新八っつぁん食い意地張ってるから残ってんじゃ・・・っいっ!!」

総司の言葉に異論を唱えた平助は、千鶴とは繋いでない反対の手でこっそり抓られたらしい。

「配達なんかじゃなくて、直接ってところがまた―あんなのにまで気を遣って・・・忘れていたどこぞの教頭とは大違いですね」
「・・・・・・・・・・人一倍手間かけさせるてめえが文句言うな」
「あれ、手腕のなさを認めるんですか」

・・・・土方さんの顔が見る間に青鬼のようになっていきます。

「…ってめえら!!さっさと戻るぞ!!!」
「は、はいーーー!!って何でオレだけ首根っこ掴まれるんだよ!!」
「やかましい!!くそっあいつら面倒臭え…っ帰ったら即効生徒会室なんて漬して教頭室にしてやる」
「・・・土方さん、それ結構本気だろ・・」

ズンズン平助を連れて歩きだす土方に、左之がもろ個人的な理由じゃねえかと後を追って。
土方の剣幕に斎藤や山崎も千鶴を気にしながらも後を追って行く。

千鶴は、「さ、僕らも行こうか」と、また手を引っ張られ…

「あの、沖田さん。私、ちっとも不安はないから大丈夫ですよ」
「・・・・ん?何の事?」
「何の事って…」

千鶴が視線を手に下ろせば、ああ、とわかったように頷かれ。
すぐに離されると思われた手は、繋がれたまま――

「・・・・?あの、私、大丈夫ですから・・気を遣わずに・・・」
「ああ、ごめん。気は全く遣ってないよ。だって千鶴ちゃん僕のお参りに付き合ってくれるほど余裕あったし・・不安そうには見えないからね」

・・それじゃあ、何故?

と、見るからに戸惑う千鶴を、総司は目の端で確認して口を三日月にする。

「・・・何でだろうね〜」
「特に・・意味はないんですよね…?」
「ううん、意味はある。すっごくあるよ」

だから離してあげない、と指先に力を込めると、意識がそちらに移ったのか、千鶴の指先がぴくっと動いた。
どうしたものかと困惑する気持ちを、力ない千鶴の指先が現しているのがわかる。

「あの・・・どんな――」
「さあねえ…わからないのが神がかり的だよね」
「・・・もしかして、からかってますか?」
「そんなつもりは・・・・ちょっとはあるかも」

総司は意地悪な微笑みを一つ、千鶴に向けた。
何も分からずに、ただ戸惑うだけの千鶴に、少しくらい意地悪したってバチは当たらないとでも言うように。

もう、と口を僅かに尖らせる千鶴に、尖らせたいのはこっちだよ―と今度は苦笑いを浮かべた。

「拗ねないの。僕にからかわれるのは・・君の特権なんだから」
「他の方もよく・・からかって・・いますよね?」

前に、千鶴をからかうのは僕の特権だと言っていたのを何となく覚えてる。

…からかうのも、からかわれることも特権って…同じことなの?違うの?

それに、総司は誰にだってからかうことを楽しんでいるところがある。
千鶴は素直に反論した。

・・・それに、特権って言っても・・・からかわれるっていい事じゃ・・

「・・・あ〜・・そうかも。でも女の子で僕にからかわれるのは、君だけだし。特権だよ」
「だって私しか女性っていないじゃないですか」
「・・・・・・・そうだね、早く来年になって新しい女の子入って来ないかな」
「・・・・・そう、ですね。女の子、増えるといいですね」

そしたらきっと、沖田さんは私にこうして構うこともなくなるのかな――

何故か俯きがちになった千鶴に、優しい言葉が降り注いだ。

「うん。・・・そうなったらきっと―…千鶴ちゃんも自分が特別だって…嫌ってくらい、わかるのにね」


意地悪な表情はどこへ?

向けられた、優しい―なのにどこか淋しげな笑顔に、苦しいくらいに、甘いような切ないような…わけのわからない感情が広がっていった。




23へ続く


























































〜斎藤一〜




「斎藤さんのお願い事、叶うといいですね」
「・・・それには千鶴の願いが叶わなければな」

千鶴の言葉に素直に頷いて、ふわりと微笑みを浮かべた斎藤に、斎藤を笑顔で見上げていた千鶴の目が途端に白黒して、丸くなって。
ふふっと急に笑を漏らして、おかしそうに斎藤を下から覗き込んだ。

「それなら、斎藤さんのお願い事が叶わなければ―です」

そんな事を言い返されるとは思っていなかったのか、斎藤も千鶴と同じように目を白黒させた後…表情を変えないまま、顔を赤くして。

「おんなじですね」と笑顔で語りかける千鶴に、素直に口元を綻ばせながら、躊躇いがちに手を差し出そうとした時。

「まだこんな所にいたの?」

後ろから冷ややかな声が聞こえて来る。
振り向けばいつの間にやら声の主の総司だけでなく。
事態を察知したのか天霧があっさりひいた為、こちらに向かって来た総司と。
渡月橋の騒乱に収拾つけて、何とか戻ってきた土方・左之、そしてその二人と合流した平助・山崎と。

全員がいたのである。

「皆さん、どうしてここに…?あの、色々・・大丈夫だったんでしょうか・・」

驚く千鶴に集まる面々。
しかし千鶴以上に驚いたのは斎藤である。

・・・少し熱心に参拝しすぎたのか・・・・・

広いとは言えず、すぐに見渡せる神社だが、千鶴と手順を踏んで参拝することに気を取られ時間を失念していた。
少しくらいなら―と思ったのだが。

参拝する前に、千鶴から手を預けてくれたことで、気持ちが浮ついていた―というのもないとは言えない。

・・・いや、それが一番の理由だな――

どちらにしろ、こうして皆に…先生にまで足をここまで向けてもらい、迷惑をかけたと反省しつつ。
もしや今の会話も聞かれていたのだろうかと、俯きがちに様子を覗おうとすると…

総司や平助はもう最初から一目散に千鶴の方へと向かって話しかけている。
山崎は何となく居心地悪そうに、こちらを気遣っているように見える。
二人、土方や左之をちらっと覗えば、曖昧に苦笑いを浮かべられた。

聞かれていたのかも知れない―と妙に気恥ずかしくなり黙りこんだ斎藤に、土方が説明してくれるか―と遠慮がちに声をかけた。
その声に、他の者も斎藤の言葉を待つように口を閉ざす。
気を引き締め直し、斎藤は土方に顔をあげるとゆっくり口を開いた。

「はい―ここにいた風間は―…」


斎藤の一通りの説明を聞いて、土方は頭を抱えた。

「んな事の為に半日も振り回されたのか・・・・・・・あいつ、今度会ったらぶっ飛ばす」
「珍しいですね、土方さん。僕も同意見です」
「おい総司。そこは乗っかるなよ。気持ちはわかるけどな」
「無理やり婚約披露なんて…千鶴がいいって言う訳ねえし。何にもならねえとオレは思うけど違うのか?」

この間、結婚結婚と騒いでいたのはこの事だったのかと思い返しながら、平助は首を傾げた。
平助の問いに、土方や左之がう〜んと難しい顔をする。

「まあ…千鶴が嫌って突っぱねられれば問題はねえとは…思うんだけどな」
「でも考えてみろよ平助。大勢の人の前で…婚約者って言われて…千鶴が風間が赤っ恥かくのわかってて『違います』ってはっきり言えると思うか?」

・・・・そんなことない!とは100%では言えない。
ここは100%で「言えるよ」と返事出来るようにならねば、安心はできないと言うことだ。

複雑そうに顔を曇らせる面々に、千鶴は申し訳なくなってきた。
今日一日、皆に多大な迷惑をかけて来たことを考えると…やはり無理してついて来なかった方がよかったのかと思ってしまう。

そういう感情を抱くことも、せっかく連れて来てくれた人達に対して失礼なことだとは思うものの―
考えないようにすれば、考えてしまう―というのが人である。

「・・千鶴、顔をあげておけ」
「え?」

まだ皆が話を続けている中、斎藤がこちらに顔を向けないまま小声でそう呟く。
言われて初めて視線を落としていたことに気が付いた。

言葉のままに顔をあげれば、一瞬こちらを確認する柔らかい眼差しにぶつかって。


・・・・・・あれ・・・・?気持ちが・・・軽くなってる――


何でだろう・・?と胸に手を当てて小首を傾げながら、顔をあげたまま皆の話に聞き入った。


「まだその風間のパーティとやら終わった訳じゃねえからな。油断ならねえし…何するかわからねえっていうのが今日で痛いほどわかったからな」
「・・・明日もあいつら纏わり付いて来んのかな・・・オレもう疲れたよ・・」

明日はせっかくの一日自由行動なのに…と軽く嘆息する平助に、山崎が嫌々ながら同意した。

「・・・そうですね。パーティが終わってもそれはそれ。雪村君を傍に置きたいという点で絡んで来るのは十分あり得ますね」
「もし…明日も邪魔してくるようなら・・・いっそのこと、一緒に旅行させたらどうです?」

総司の言葉に、はあっ!?と驚愕の表情に皆が固まった。

「だって、別々に行動するから面倒なんですよね。ここは土方先生が責任もって一緒に行動して見張っててください」
「俺かよっ!!」
「だって妥当でしょう?責任者だし。もともと知ってる仲なんだから大丈夫でしょう」
「気持ち悪ぃこと言うんじゃねえよ!!」
「あ〜でもそれって…いいかもってオレも思えてきたって・・な、何でもありませんっ!!」

土方の鬼のような形相に、平助がばっと口を押さえた。
斎藤は、はあ、と隠しもせずに総司に溜息を吐いた。

「総司、これ以上土方先生の心労を増やそうとするな。そんなことを言うなら、言い出したお前が責任を持て」
「嫌だよ、じゃあ斎藤君がそうしたら?風紀をしっかり守ってくれないと」
「・・・・・・お前は・・・こんな時ばかり――」

ああ、また面倒臭いことになってきた…と左之が二人の間に「火花飛ばすなよ」と割って入ろうとした時。

無機質な携帯の着信音が鳴る。
それまでずっと眉間に皺を寄せながら、黙って聞いていた土方が携帯を取り出すと、途端にブチっと血管が切れたような音がした気がした。

―― それくらい、一瞬にして怒りを噴き出したのである。

「てめえ!!新八っ!!!どこ行ってやがった!!」

その怒声を聞いて、『…ああ、新八俺にかけようとして間違えたんだな』と左之は思ったのだが…
どうせ馬だろうが!!てめえ帰ったら覚えておけ!と息まいている土方が、ふいに「あ?」と眉を顰めて。
黙って新八の話を聞いている辺り、本当に土方に用があったようだ。

何だ?と皆が注目する中…

「・・・あー・・・そういうことか、わかった。・・・・・・わかったって言ってんだろうが!」

そのままブチっと電話を一方的に切る辺り、土方らしい。

「・・おい、土方さん。あいつに馬以外に用があったのか?」

左之のその言い方も中々にひどい。

「・・あいつは・・今風間のパーティの会場にいるんだと」
「・・・・風間の?何で新八がそんなところに…」
「山南さんから…連絡もらったらしいぞ。花でも持って挨拶回りしておけって。こういう気遣いは大事なのですよ…とか何とか脅さ…いや、言われたらしいが」
「・・・ああ、うちの学園の財政事情ってやつか・・・さすが山南さん・・・新八・・ご愁傷様だな」

姿の見えなかった相方は、きっと馬でも楽しんでいるんだろうと思っていた左之は、そんな運の悪い新八を不憫に思った。

「電話越しに早く帰りてえとか、泣きそうな声出してたけどな」

さらっと言い放つ土方に、皆が同じことを思った。

――なのに、一方的に切っちゃったんだ――

さすが鬼教頭である。

「まあ、山南さんがそう仕向けるくらいだから・・余程の面子なんだろうな―あいつが何が何でもと千鶴を引っ張りだそうとする訳だ」
「ああ、認めてもらって、グループ束ねる最大の好機ってことか」
「・・・・ごめん、まっっっっっったく、意味わかんねえ」

教師二人の会話はオレには高等過ぎるとばかりに、平助が眉を八の字にする。

「・・あのな、風間は嫁を貰わないと卒業できない、とか、俺らにはよくわからない縛りがあるんだよ」
「へ〜・・・それでずっと3年なのか・・」
「婚約者発表して、あいつを不信任だって騒ぐやつを一掃できるってことだ、わかったか」
「・・・・な、何かあいつ馬鹿に見えて、実はやるのか?」

学園内の風間と人物が一致しないのはオレだけだろうか・・と平助は首を捻っていたのだが。

「あ〜・・とにかく戻るぞ。他の奴らはとっくに飯の時間だ―」
「あ〜オレ腹減った!つか時間がずれるなら・・・戻っても飯ないんんじゃ・・・」
「いくら何でもそれはねえだろ・・もしそうだったら何か奢ってやんよ」
「さあっすが左之さんっ!!いろんな生徒に好かれるだけあるよな!!」

飛び跳ねて喜ぶ平助に、それは何か?俺への嫌みか―と射るような視線が飛ぶ。
こそっと左之の背中に隠れる平助に、総司が呆れたように声をかけた。

「何でそんなにお腹空くの?あれだけよく食べて・・・食欲と身長って比例しな・・「沖田さん、本当の事を言ってはいけません」
「いや、山崎君。その言葉も大概堪えるから…」

そんな皆の様子を見て、千鶴も緊張が解けホっとしたのか、楽しい気持ちが込み上げて来た。

「先生ともこれだけ仲が良いって・・いいですね。私、この学園入ってよかったって思います」
「そうだな――…千鶴、旅行も・・楽しいか?」
「あ・・・楽しいです。来て、よかったです」

ずっと、あの声をかけた時から気にかけていてくれたのだろうか――

斎藤さんのように、微笑んで安心させることは出来ないかもしれないけど、でも・・

千鶴は言葉と共に、斎藤に向けて本心から、微笑んだ。
その笑顔を横目でちらっと確認した斎藤は、すぐに前を向き、顔を染めながら・・旅行に行く前の話をポツポツと語り始めた。

総司が言い出した・・千鶴を旅行に連れて行こうという話。
三人で直談判しただけあって、認められたのは嬉しかった、千鶴と行けると思ったのだが――


「千鶴はやはり、土方先生のクラスの・・総司達との行動が多いのだろうなと…その夜、気付いた」
「そうですよね、土方先生は責任者だったし・・」
「ああ、だから・・・」

クラスが違えば、一緒に行動などほとんどないに等しい。
移動も、食事も、旅行をほとんど共にする班も・・一緒になる可能性は全くなかった。

自分とは違い、千鶴と一緒に何をしようと浮かれる総司や平助を、心から羨ましいと思った。

「・・・・本当は・・・自分から、頼みに行ったんだ」
「・・頼みに?何をですか?」

きょとんと斎藤を覗きこむ千鶴に、斎藤はぎこちなく目を合わせた。
赤くなった顔は緊張もあってか、少し固い表情を見せて、それでも言葉を告げようと唇が動く―

「千鶴と同じ班にして欲しい――と」

頼みに行った時、自分でも何て無茶を言っているのだとも思ったが、何もしないで傍観して。
あまり接点のない旅行の思い出を築くことなんて、考えられなかった。

「一緒に、行動して・・・同じものを見て、感じて、笑いあって――…共有したかったんだ」

傍にいられれば、理由は何でもよかった。
何とか、理由付けて、先生を納得させなければ―と…職員室でどれほどねばっただろう――?

「頼まれたからじゃない―俺が望んで…」

ぎこちなく合わされた目は、今は真っ直ぐに千鶴を見つめている。

「――…千鶴」

視界がぼんやりするくらい、頭がくらくらするのに、斎藤の姿だけははっきりと映る。

どうして、名前を呼ばれただけで・・こんなに心臓が跳ねるようにドキドキするのか―










23へ続く