拍手お礼小説

沖田VS平助





まだ空も明けきっていない朝、総司は身支度を済ませて食堂へ向かうところだった。
その途中、千鶴が慌ててぱたぱたとこちらへ小走りで駆けてくる。

「あっおはようございます!沖田さん」
「・・・おはよう千鶴ちゃん」

朝っぱらから廊下を走るのはどうかと思う。
ただ、千鶴が理由もなしに、そんな行儀の悪いことをするとは思えない。
そんなことを考えていたためか、総司は首をかしげてじっと千鶴を見ている。
そんな様子に気づいた千鶴は、すぐに何を言いたいのかピンときて、

「・・・あの、すみません。急いでいて…平助君今日朝一でお仕事あるのに、まだ起きていないんです」
「あ〜寝坊多いからね、平助」
「いえ、まだ時間には少し余裕があるんですけど、土方さんがもう起こせって」

・・・・・なるほど。確かに放っておいたらこのまま起きてきそうにない気はする。
ただ・・・・

「千鶴ちゃん一人で起こしに行くの?」
「?はい」
「平助は寝起きよくないよ?大丈夫?」
「大丈夫です!」

にこっと笑ってまたぱたぱたと平助の部屋へ向かって駆けていく千鶴の後姿を見送り、そのまま食堂へ向かおうとしたのだけど、何を思ったのか総司はくるっと方向を変えて、平助の部屋の方へ向かい始めた。



「平助君!起きて!朝だよ〜」
「んあ〜もうちょっと・・・」
「土方さんに怒られますよ!」
「だ〜うるさい・・・・むにゃ・・・」

・・・・起きないな・・・
確かに寝覚めは悪そうだけど、どうやって起こそうかな?
あっ!そういえば前に沖田さんがこれなら絶対起きるって教えてくれたっけ・・・
試してみようかな?本当に起きるかな?
・・・・・・・よし!


千鶴はそっと平助の傍に寄ると耳に口を近づけて、そっと囁くようにぽそっと。

「平助君、起きて。起きてくれないと千鶴さみしいな」
「・・・・・・・・・・・・な、なあああ!?」

ガバっと跳ね起きた平助の顔は耳まで真っ赤。
何が起こったのかわからない!というような顔で、真っ赤になった耳を押さえて、周りを見渡し千鶴の姿が目に入ると、

「ち、千鶴〜!?おま、おまえ今!な、何した!?」
「な、何って起こしたんだけど、すごい…本当に起きた!」
「?何のことだよ〜」

その時バンっと勢いよく戸が開けられて中に入って来たのは総司。

「総司!何だよ」「沖田さん?どうかしたんですか?」

総司は何も答えずに二人の様子をざっと見ると、底冷えするような笑みをたたえて、千鶴に近づき・・・

「千鶴ちゃん・・・」
「な、何でしょう!?」

総司は笑顔が笑顔ではなく、飄々とした言い方には全く合わないものすごく低い声で、千鶴でなくともおびえるような態度で。

「もしかして、この間教えた起こし方、やったの」
「・・・・・・・え、え〜と・・・」
「やったの?」
「は、はい・・・・・すごいです。本当に起きましたよ!」

その答えを聞いたとたんにブチっと何かが切れる音がしたと思ったとたん、千鶴のほっぺは総司に思い切りつねられていた。

「い、いあい〜!!おいははん!!」
「僕以外の男にしたらダメって言ったでしょ」

ぎゅ〜っとまるで手を緩めずつねり続ける総司を見て、はっと我に帰った平助が、

「そ、総司!手離せよ!」
「は?うるさいよ、平助。・・・・・・その赤い顔見るとむかつくから止めてくれる?」
「だっ・・これはしょうがないだろう!っていうか、おまえいつもあんなこと言って起こしてもらってるのかよ!」
「・・・・・・・・・・・」
「黙ってないで何とか言えよ!っつ〜か手離せって!」

無理やり総司の手を掴んで千鶴の頬から引き離す。
千鶴はそのまま平助の後ろに隠れるから、総司としてはこれ以上ないくらい面白くない。
総司はむっとして、平助に目だけよこして

「何、正義ぶって。あんな風に起こされて顔真っ赤にしてるくせに」
「そ、そりゃあんなこと言われたら〜」
「言っとくけど、僕はまだそうやって起こされたことないんだけど」
「そ、そうなのか?」
「どっかの誰かみたいに寝ぼすけじゃないしね」
「う、うう〜」
「僕より平助の方が性質が悪いよ、なのに正義ぶらないでくれる?」

なんだか無茶苦茶なことを言われている気がするけど、あんな風に起こされたのは自分だけと知ってなんだか嬉しさが勝ってくる。
ついと後ろの千鶴を見ると、つねられた跡がまだ赤く残っていて・・・

「千鶴、ここ冷やしてこいよ、・・・俺、明日からはちゃんと起きるから」
「うん、そうするね。ありがとう平助君」

ぽわっと穏やかな温かい空気を作る二人。
そしてその空気に入れず除外された総司は面白くなさそうにぶすっとしていたのだけど、
ふと急にいたずらを思いついたような楽しそうな笑顔に変わった。
部屋を出ていこうとする千鶴の手を取り引き寄せると同時に、

「千鶴ちゃん、僕が冷やしてあげる」
そう言ってそっと頬に口づけを何度も落とすから、千鶴はつねられた跡など消えてしまうくらい顔中真っ赤になった。

「ほら、これで治った」
「な、治ったじゃね〜よ!総司いい加減にしろ!!」


おまけ。
次の日、皆より早く起きて支度して驚かせた平助と、堂々と寝坊してきた総司の姿があったそう・・・






END



感謝の気持ちをこめて。
みかん