「千鶴に提案」


沖千斎SS

※とってもおバカなSSです。
二人とも、千鶴が大好きです。




「はい、本日も何事もなし…最近浪士達も大人しいね」
「不満そうだな」
「そりゃあね、どうせ問題起こすなら僕が巡察してる時にぱぱっとして欲しいし…」

何やら物騒な事を玄関先で言い出す総司に、斎藤は咎めるような視線を寄せた。

「何もないなら、その方がいい。今までの我々の行動の成果が出ている、ということだ」
「まあ、それはそうなんだけど…」
「・・・・・・・あの・・・・・」

二人の会話をずっとすぐ後ろで聞いていた千鶴が、言いにくそうに口を挟んだ。

「何、千鶴ちゃん」
「あの、私巡察中ずっと気になっていたことが…」
「気になっていたこと…?巡察中に気が付かずにすまない。何だろうか」

二人が振り返って、自分の言葉を待っている…
そう思うと、あまり確信している訳ではない事なので、だんだんと自信をなくしてくるのだが。

「間違ってても構わないから、言ってごらん」
「ああ、気にせず話してくれると助かる」

促すような言葉に、こくんと頷くと口を開いた。

「あの、私巡察中ずっと…その、後ろから見張られているような…そんな視線を…」
「・・・斎藤君、そんなの感じた?」
「いや…わからなかったな…それはいつごろから…?」
「巡察に同行して、お二人の後をついて歩いて…その間ずっとです」
「…屯所に戻るまでってこと?」
「そう、ですね。屯所に戻って、今お二人と三人きりになった時にはなくなっていました」

千鶴が嘘を言っているとは思えない。
総司と斎藤は顔を見合わせた後、千鶴の方へ顔を向けなおした。

「でも、変だな…千鶴ちゃん程度が気が付くなら僕も絶対気が付くと思うんだけど」

ひ、ひどっ…本当のことだけど!と千鶴が斎藤に助けを求めるように視線を移らせると…

「そうだな」

ガーン!斎藤さんまで!
やっぱり気のせいだったんだ、話さなければよかった…と顔を俯けた時、だが…と斎藤が言葉を続けた。

「俺達に意識は置かず、千鶴にばかり視線を向けていた…ということならわからなくもない」
「まあ、そうなるよね」

二人の言葉に千鶴はぼんやりと考えを巡らせた。
・・・新選組の幹部隊士を差し置いて、私ばかり見るような人なんて…

「…っもしかして父様!?」
「「違う」」
「…即答ですね、お二人とも」
「だって、考えても見てよ。綱道さんなら君が不快に思うような視線じゃないと思うよ」
「ああ、それに巡察中ずっと…付き歩くような蘭方医がいれば、いくら何でも目につくだろう」

二人の言葉にガックリ項垂れながら、それならやっぱり気のせいですね…と千鶴は力なく言った。

「…何で気のせいだと思うの?」
「だって、父様以外に私のことそんな見つめる人なんて、いないと思いますし」

・・・・いや、いるだろうな――

いつもじ〜〜〜っと千鶴を飽くことなく見つめている二人は、同じように心の中で反論した。

「鈍感」
「っな!?いきなりなんですか、沖田さん…っ」
「総司、気持ちはわかるが押さえるんだ」

・・・斎藤さん、沖田さんの気持ちどうしてわかるの…?(この辺が鈍感たる所以)

「千鶴、視線は斜め後ろ、横と変わることなく、ずっと後ろか…?真後ろ、と認識してもよいのだろうか」
「・・・・・あっそういえば…そうです。真後ろです・・・あれ?」

真後ろに居たのは、一番組と三番組の平隊士達だけ。
ということは視線の元は彼ら、という可能性が高い。

・・・・・さては不埒な想いを抱いちゃったとか・・?

自分のことはさておき、キっと目を吊り上げる総司に、千鶴はどうしたのだろうと首を傾げた。
総司と同じことを考えたのだろう、斎藤は困ったとように眉を寄せている。

「・・・雪村千鶴は・・・男だと思われている筈だが」
「衆道ってやつじゃない?僕にはわからないけど・・」
「・・・・・あの、何の話を?」

さっぱりわからない千鶴には、ひとまず説明することなく二人は淡々と話を進める。

「しかしそれでは…今のように連れ歩くのは問題なのでは…」
「そうだね。これ以上無遠慮な視線をかき集めるのは嫌だしね」

うんうん、頷きあって。
だけど二人の意思がかみ合ったのはここまでだった。

「じゃあ千鶴ちゃん、僕のお嫁さんになれば」
「・・・・・・へ?」「な、何を・・・」
「だって、僕のお嫁さんになって、別宅にでも住んでもらって…そしたら問題解決でしょう」
「何が問題解決だ!問題だらけだ。新たな問題を増やすな」
「何が問題なのか、一文字で述べたら納得するよ」
「・・・・総司の戯言に付き合っている暇はない」

はあ、と嘆息する斎藤に、よくわけがわからないまま千鶴があの、と声をかけてくる。

「すみません・・話しの流れがさっぱり・・・」
「ああ、総司の事は気にするな。・・千鶴の今の件については俺が対策を考えておこう」
「・・・対策?あの、視線の理由が何なのか教えて・・」
「だからね、君に懸想する平隊士がいるってことだよ。わかる?」
「・・・・・・・え?」

身も蓋もない総司の言葉に、千鶴暫し思考停止。

「だから僕は、君が僕ら幹部のいない時に、そいつらに何かされないように・・僕のお嫁さんになればって言っているんだよ。正論でしょ」
「・・・・・あ、あの・・・それは・・・」
「大体、僕は結婚なんてする気ないけど・・煩わしいし。でも君ならいいよ。楽しいし」
「楽しいって!私は玩具じゃありません」
「そうじゃないならいいってことだよね。もちろん、愛もあるよ」

ね?と無理やり「はい」と言わされそうになった時、斎藤の冷えた殺気のようなものが総司を襲いかかる。

「――総司、そのふざけた態度を止めろ」
「ふざけてないってのに。じゃあ斎藤君は他にいい案でも?」
「おまえがその提案に拘るのなら…一歩も引かないのなら俺だって引く気はない」

斎藤は刀を向けられているような殺気が一度押さえると、千鶴に花でも向けるような柔らかい気配を向けた。

「千鶴、それならば俺の嫁に・・」
「ええっ!?」
「俺には剣しかない。自分の生きる道はそこに―と思っていたが…こんな俺に寄り添ってくれると言ってくれるのなら…」
「さ、斎藤さん…そ、それは…・その…あの…」
「…?ああ、すまない。く、口に出したことはないが、俺の気持ちは・・千鶴を愛しく思って・・」

「ちょっと!!人にはブツブツ文句言っておいて、やってること一緒だよね!?」

沖田総司、私闘は禁じられているのに、刀に手をかけています。

「総司のような求婚を見て、放っておける筈もない。心優しい千鶴が騙されでもしたらどうする」

斎藤一、気圧されることなく、覇気を返しつつ刀に手をかけてしまいました。

「おおおおお二人ともっ!落ち着いて・・・」
「これは何の騒ぎだ」

頼りになる副長。
中々巡察の報告がなかったので玄関まで見に来たところ、二人の喧嘩に遭遇。
何やら右手に握りつぶした報告書らしきものを持っております。
かなり、不機嫌な様子です。

「放っておいてください。これは僕たちの問題です」
「申し訳ありません…総司を野放しにする訳にはいかないのです」
「あの、実は・・・」

おろおろしながら、千鶴が土方に事情を話すと、土方は二人の握りつぶしていた報告書を投げ捨てて怒鳴った。

「てめえら!!この報告書を目をかっぽじって見やがれ!!!」

総司と斎藤は投げ込まれた報告書に目をやると、二人とも唖然とした表情になった。


『報告』

『一番組と三番組の平隊士の間で今、諍いあり。

―原因―
「雪村千鶴」を巡って、

一番組組長 沖田総司
三番組組長 斎藤一

二人が争っているのは明白な事として知れ渡っている。

この二組の平隊士は自分達の組長を尊敬し、何であろうと組長が負けるはずがないと確信している。
且つ、隊士「雪村」は自分の組長のお気に入りなのだと認識している模様。

・・・原因が原因です。
これ以上の諍いは新選組の風評を落とすことになるので、
二人の組長には、節度ある態度を望みたい。


監察方 山崎 丞』




「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

「つまりだ、千鶴の事を好いてる…云々じゃねえんだよ。わかったか」
「何だ、よかった。問題ないじゃないですか」
「・・・千鶴を想っている訳ではないのだな」

てっきり反省すると思われた二人が、千鶴に懸想している訳ではないと知り安心してほっと肩を撫で下ろす姿に、
土方は泣きたくなるのを必死に堪えた。

しかも…

「中々組長思いの隊士達だね。じゃあ決着付けておくのが一番だと思うけど。千鶴ちゃんは僕がいいよね?」
「必ずしも結論を急ぐのを良策とは思わないが、隊士達の揉め事をなくすのも務めでもあると・・・千鶴・・・俺と・・」


節度を改めようなどと、全くしていなかったのである。
この後、屯所中に鬼副長の泣き声交じりの怒号が響き渡った。






END




書いてて楽しかったです。
土方さんは苦労すると思います(笑)
そのうち、平助君や左之さんの隊まで参加しそうですねw