拍手お礼SS




沖千「猫」




「どこいったんだろ・・・」

そんな呟きを漏らしながら千鶴は縁側に腰をおろした。
探しているのは総司。
いつもならこの時間にひょこっと現れて、かまってかまってと寄ってくるのに。
気まぐれに来て、気まぐれにいなくなる。

「本当に猫みたい」
ふふっと小さく笑をこぼした千鶴に、
「総司のことか?」
と声がかかる。

いきなり話しかけられて振り向けば左之が立っていて、千鶴と目を合わすとにっと笑って、千鶴の隣に腰をおろす。

「原田さん、休憩ですか?」
「いや、ちょっと通りがかったら・・・おまえが一人言呟いて笑ってるから」

そんなところを見られてしまったと、かあっと赤くなる千鶴に、左之は優しい笑みを向ける。

「かわいいなあと思ってよ」
「・・・か、かわいい!?そ、それはどうも・・・」
「そういう反応とかもな」

余裕綽綽の大人の笑顔でそんなこと言われて、千鶴はついドキドキして顔を下に向ける。

「からかわないでください・・・」
「からかってなんかいねえよ、恋をすると女はきれいになる。っていうのは本当だな」
「こ、恋って///」
「まあ、おまえもえらい奴に惚れちまったな・・・」
「・・・そう思います」

最初、あんなに怖かった総司は、いつの間にか一番心の奥に入り込んでいて、本当にわからないものだな・・と千鶴が考えていると、
左之が自然に顔を寄せてきて、

「大体、どこが好きなんだ?あいつを手なずけたおまえもすごいと思うが・・」
「手なずけてなんかいません!いつも気まぐれに振り回されて・・・でも・・・」
「でも?」
「そ、そういうところも好きなのかも・・」
「はあ、なるほどな・・・どうせだったら、俺に惚れたらよかったのに・・・」

誘惑するような瞳でそんなことを言うからたまらない。

「あ、あの・・・あの〜〜〜」

どう言葉をつなげばいいかわからず、千鶴がおろおろしていると・・・

「左之さん・・・近づきすぎ」
「おっ総司!やっぱり来たか」
「僕の千鶴ちゃんに近づかないでくれる?」

総司は腹の中に抱える黒い気を隠そうともせずに左之に向ける。
そんな総司の態度にやれやれ、と左之は首を振って、
「じゃあな、千鶴」
と二人の傍を離れたのだけど・・・


「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」

き、気まずい。
総司の機嫌は悪いまま。
本当にころころ気分が変わるし・・・猫そのものだな・・・どうしよう・・・
猫じゃらしなんか持ってきたら、余計怒るだろうな・・餌も・・・だめだな。う〜ん・・・

総司が聞いたら余計怒りそうなことを千鶴が考えていると、

「・・・・・浮気者
「はい?」

ぼそっと呟かれた低い言葉に思わず何と言ったかわからず聞き返す千鶴に、総司はうらめしそうに千鶴を睨んで、

浮気者って言ったんだよ、僕が好きなくせに左之さんにあんなに顔真っ赤にしてさ」
「あ、あれは、沖田さんのことでからかわれていたから・・・」
「・・・千鶴ちゃん・・・僕全部聞いてたんだよ?」

にっこりと薄い笑いを浮かべる総司は・・・怖い・・・

「僕に惚れたなら惚れたで他の奴にドキドキしないでよ」
「あ、あの・・・・・・」

確かにドキドキしてしまったのは事実なので、どう言葉を返していいかわからず、言葉に詰まっていると、

「僕のことどれくらい好き?」
「え、ええええ〜と・・・」
「・・・・・・・・どれくらい好き?」
「どれくらい、と言われても・・・・」
「左之さんより好き?」
「そ、それはもちろん・・・沖田さんが一番す、好きです」

それは嘘偽りない気持ち。
自信を持って言える。だからきっぱりと言い切ったのに・・
ふと総司を仰ぐと、総司はまだむすっとしてる・・・

「・・・・・・沖田さん?」
「・・・・・・・・・・・・・」

なにかまずいことを言ったのだろうか・・でも、好きとだけ言ったはずだけど・・??
千鶴が総司の様子に戸惑っていると、

「・・・・僕は君が好き」
「・・・・・・・・・」
「君だけが、好き」
「・・・・・・・・・・」
「君が好き、君にしかそう思えない、他の好意はいらない。君のが欲しい」
「・・・・・・・・沖田さん・・・」

総司は拗ねたまま、愛の言葉を連ねていく。
それでも、その言葉は千鶴の胸を温かくしていく。

「千鶴ちゃん、僕が一番に好きなら、二番は誰?」
「え?」
「三番は?四番は?」

総司の不機嫌な理由がわかって、そんなことでむすっとしてる総司がかわいくて。
子供みたい・・・
いつもは千鶴をいとも簡単に転がして楽しんでいるくせに、
たまに、見せてくれるこんな態度がとても愛しいと思う。

「沖田さんだけが好きですよ」
「・・・・左之さんにドキドキしてたくせに」
「沖田さんが好きです」
「・・・・・・・・・・・」

少しだけ総司の顔がゆるんでいく。

「大好き、です」
「・・・うん」

ようやく微笑みを見せてくれた総司に千鶴もほっとする。

「・・・沖田さんってやっぱり猫みたい」
「猫?」
「はい・・・気まぐれで懐いたり離れたり・・ちゃんと小マメに相手しないといなくなっちゃいそうですね」
「・・僕が離れるわけないじゃない」
「だと嬉しいです」
「ん〜でも・・・」
「?」

言い淀む総司の顔を見上げて千鶴は顔を青くする。

・・・この顔は、何か企んだ時の顔だ・・・

「そ、それじゃあ、お茶でも・・・」
さっとその場を去ろうとする千鶴を、後ろからがっしり抱きこむようにした総司は、

「小マメに相手してくれないと、いなくなっちゃうよ?」

後ろから抱き締めたまま、千鶴に頬を寄せてきてすりすりと。

「そんなわけない。ってさっき言ったじゃないですか!?」

千鶴は必死に抵抗しようにも腕を下げた状態で抱きしめられているので、
せいぜい体をひねって脱出しようとするけど全く無理。
そんな千鶴にお構いなしで、千鶴の耳や頬をぺろっと舐めてくる総司。

「気が変わった。僕猫みたいだから」

楽しそうにごろごろ懐いて、千鶴にこの後ずっと相手をしてもらう総司だった。





END





感謝の気持ちを込めて。
みかん