御礼SS
CZレイ撫
「処方箋」
「脳波異常なし。脈拍異常なし…ってええー?」
「何?何かあったの?」
いつもならにっこり微笑んで
「問題なしですー」と終わる検診が、今日はレインの曇り顔で終わらない。
安定してみえる結果に、何故かレインはう〜んと理解しがたいように口を尖らせるばかりで理由を中々話そうとしない。
「レインったら!どこかおかしいの?」
「いえー…全く。」
「……じゃあ何だって言うのよ。もう、きちんと説明して」
本当なら、こうしてレインと会話するのを今は遠慮したいのだけど。
自分の健康のことなら、まして特殊な状況に在る撫子ならそんなことを言ってられなかった。
「……説明、ですかー?………」
「………何よ、じっとこっち見て――」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちょっと近付きすぎではないかしら?」
納得出来ないといった表情を浮かべ、撫子をじっと見つめるレインに、
理解できないのは私の方だわと一人ごちる。
「脳波、脈拍とも落ち着きすぎですー顔色もちょっと、いつもより白いですしー」
「……?悪いことなの?でも身体はなんともないわよ」
「健康状態に問題あるとか、そういうことではないんですけどねー?」
はあ、とわかりやすい溜息を漏らした後、レインはまた視線を撫子に移した。
逸らす気などないような真っ直ぐな視線に、いつもなら、意識して頬が熱くなるところだが――
「………撫子くん、もしかして何か怒っていますかー?」
「あら、どうしてそう思うのかしら」
「いつものキミなら、こんなにボクが近付くと脈も乱れたり、顔も赤らめたり、可愛い反応するんですけどねー?」
「そう。今日は可愛くなくてごめんなさいね?」
わざと笑顔を作ってます。
そんな笑顔を浮かべてレインを見つめ返すと、至近距離で何やら思案するレインの視線は撫子のある一部に集中した。
「……おやおや…眉間に皺まで寄せられちゃいましたよー。」
「人間だもの。そういう時だってあるわよね。あなたも何だか寄っているわよ。終わったなら出て行ってね」
「……撫子くん。ボクだけに怒っている――ように見えるんですけど」
「レインがそう思うのなら、そうかもしれないわ」
出て行けば、と言ってしまった言葉に、レインが「はいはいー」と頷かなかったことにホッとしながらも、
撫子は可愛くない態度の自分をそろそろどうにかするキッカケを、すっかり失ってしまった。
「それなら、薬はこれですよねー?」
チュ――と軽いリップ音を鳴らせて、
撫子の鼻に軽くキス
唇を離し過ぎず、
吐息の触れるキョリで「今日は3回ってところでしょうかー」と呟かれる。
…3回って…本当に薬みたいに――もう…何を言ってるの
チュ、…チュとキスをされ、顔を覗き込まれた時にはもう自分の顔が緩んでいるのなんてわかっていた。
***
「いやーそんなことで拗ねちゃう所もあるんですねー。」
「…………」
つい、むくれた理由なんて単純なことだった。
こんな雑誌を見つけた――と廊下で円と話すレインの手元には自分とは違う、ショートカットの可愛い子が写っていた。
世間話程度に、花を咲かせる2人に何故か付き合う気がしなくなって部屋に戻ったのだったが。
なんだか沈んだ気持ちで自分の長い髪をぼ〜っと見ていたところレインが検診に来ての、あの態度だった。
今考えると自分でも情けない。
「さ、撫子くん。ボクも薬の時間です」
「薬?レイン風邪でも引いたの?」
「違います。…キミのさっきの態度にボクも眉間に皺が――」
「…今、無理やり作ったわね」
しかめっ面レインの眉間を軽く指先で押さえると、その指を絡め取られなんの障害もなくなった顔が近付く。
「一日、3回…くらいでいいですよー?」
「私と同じなのね」
「違いますけど」
「?」
「ボクには口に、じゃないと効かないですよー?」