拍手御礼SS
レイ撫
『真実はからかいの中にありき』
僅かな脳波の乱れ。
早朝、それを別室モニターで確認したレインはすぐに撫子の部屋へと向かった。
「撫子くん、緊急なので入りますよー」
一応声をかけて部屋に入れば、何も変わった様子もなく。
ベッドで寝息を立てている撫子の姿。
だが傍に行き、顔を近づけると額にうっすらと汗が
「…暑い…んじゃないですよねー」
軽く拭うと暫く様子を見守ってみる。
すると時折、何を言っているのかはわからないけれど寝言を呟いているようだった。
「きっと悪い夢でも見てるんですねー。無理ないですけど。こんな世界に連れて来られて…」
課題メンバーの顔見知りの二人がまさかあんな風になっているとは。
厳密には違う二人。
だけど彼女の中ではまだきっちりと分けることなでど出来ないだろう。
「…撫子くん、それは夢ですよー大丈夫」
語りかけながら、らしくないとは思いつつ頬に触れて。
起きれば起きたでいい。
起きなければ起きなかったでいい。
ただ、これ以上うなされないように――
夢の中では、せめて安らかに――
「そうだ、どうせならボクの夢を見てくださいよーキミはいつもキングやビショップにばかり目を向けていますから…」
「夢の中でくらい、ボクのことだけ考えてみるってどうですかー?」
レインの言葉に覚醒を促されたのか、撫子が軽く身じろぎをした。
起きたのかな、と思いながらレインは撫子に覆いかぶさるように身体を近づけて。
今にも触れそうなくらい耳元に唇を寄せる。
「ねえ撫子くん――こんなことを言っちゃうくらい、ボクがキミのことを好きだって…知ってますか――?」
言葉だけを耳に残して。
そのまま、何もせずにレインはゆっくり撫子の傍を離れる。
離れ際、撫子の耳が赤くなっているのを横目で確認し、悪戯が成功した子供のように目を細めた。
「今日も撫子を誘って一緒に朝食を食べようと思って」
「いいんじゃないですか?キングが作らないのであれば何でもいいです。」
「…ごめんビショップ。実はまたオーブン壊したんだ。爆発はしなかったんだけど…」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「あ〜あ〜…ビショップのお怒りすごいですねー?」
「そりゃそーだろー!アイツもう同じこと繰り返してばかりだしなー!!」
こんなやり取りの中、鷹斗の部屋のドアが軽くノックされる。
パッと顔を明るくした鷹斗が迎える中、撫子が部屋に入って。
レインの顔を見るなり、顔を赤くして逸らした。
「・・・・・・・・・・・・・」
「レインさん何か彼女を怒らせるようなことしたんですか?」
「いーえー何も」
怒らせてはないと思います、と小さく付け足して。
「さ、キングとのお食事邪魔しないように、ボクは退散しますので」
「はあ…なんか気になりますね。その態度。あなたまで余計なことしていませんよね」
「疑り深いですねービショップ…でも、結構いいものですねー」
「何がですか」
キュッと足音を鳴らして鷹斗の部屋を出る。
背中に感じる視線に、思わず素直な反応だなあと吹き出しそうになる。
「彼女に意識してもらえることが、です」
ビショップの怪訝な表情を置き去りにして
たいした意味のなかったつもりだった筈の行動がもたらしたもの
彼女のあからさまな態度の違いより、何より…
その事に、自分が浮かれていることが意外な結果となった。
冗談の中に隠された本気に、否が応でも気付く日もそう遠くない
END