しし日々』の文月様から相互記念で頂きましたv

書いてくださるとのことで、私は沖千だけど薫も絡めて〜と言ってたんです。
結構前から薫が好きだったのね!と実感。

ではでは、楽しいSSお読みください^^

薫がとってもかわいいですよ〜vv(あ、沖千ももちろんかわいいですv)





猫とネズミ★仲良く喧嘩しな!

※SSL。沖千でvs薫っぽくなってます。




「平助君、今日はパンに何のジャム塗ってるの?」
「ん? これか? 適当に塗ってきたんだけど、確かアプリコット……って言うんだっけ?」

いつもの平助と千鶴の登校時間。
遅刻寸前ではないにも関わらず、平助はよく登校しながら朝食代わりにトーストを齧っている。
本人曰く「効率化だ!」と言っているが、実際のところはただ単に時間がないだけだったりする。

「へー、美味しいよね。アプリコット」
「ホットケーキとかにつけても美味いよな!」
「ホットケーキっていえば昔、平助君ってばホットケーキが見えなくなるくらいにジャム塗ったことあったよね。つけ過ぎだよって言ってもたくさん塗ってたし」
「あ、あれは千鶴がせっかく作ってくれたジャムだったから────」

もったいないと思って、という言葉を平助は飲み込んだ。
飲み込んだというよりは言うのをやめた、というのが正しいかもしれない。

既に目の前には校門が見えており、いつもの二人がいつものように立っていたからである。

「おはよう、雪村」
「おはようございます、斎藤先輩」

通常よりわずかに嬉しそうな声音の斎藤に、千鶴が律儀に頭を下げる。
親しき仲にも礼儀あり、という言葉を体現する千鶴に、斎藤が好感を持っているのは傍から見れば誰でも分かることではあるが、当の千鶴だけがそれに気付かない。

そんな二人にいつも割って入るのはこの男、千鶴の兄の薫である。

「やぁ、おはよう。千鶴」
「おはよう、薫」
「朝一番に俺に会いに来てくれるだなんて、さすがは俺の妹だな」

薫が目を細めながら千鶴の頭を優しく撫でる。
通りすがりの者が見れば、麗しき兄妹愛として見えているだろうが……、薫は見た目以上に千鶴に執着を持っている。
ただ、生まれて間もなく薫だけが養子に出されてしまったせいで微妙にやさぐれてしまった経緯はあるものの、二人っきりの兄妹である千鶴を本人なりに可愛がっている。

そんな、世間を微妙に斜に構えて見ている薫を妹の千鶴は心配しているのだが、その心配を薫自身は嬉しがっているらしい。


「何言ってるんだろうね、薫は」


千鶴の背後から声が聞こえ、薫と千鶴がそちらへ視線を向ける。
そこに立っていたのは、薫にとって天敵とも言える男、沖田総司である。

「千鶴ちゃんは普通に登校してきただけでしょ。それを自分に会いに来ただなんて、どこまで自意識過剰なんだろうね」
「妹との朝の会話を邪魔しないでもらおうか」
「君こそ、僕と千鶴ちゃんの朝のランデブーの時間を削らないでくれないかな。────千鶴ちゃん、おはよう。今日もいつもと同じで可愛いね。好きだよ」
「お、おはようございます。沖田先輩」

何気なく沖田が言った言葉に千鶴が恥ずかしそうに顔を俯かせる。
それを見た薫の機嫌は当然のように悪くなった。

「千鶴が可愛いのは当たり前だろ。俺の妹なんだから」
「君の妹じゃなくても、千鶴ちゃんは充分可愛いよ。何言ってるの」
「あ、あの……」

二人の間で千鶴があたふたしている。

「お前こそ何言ってるんだ。っていうか、千鶴に気安く触るな」
「じゃあ、気安くじゃければいいんだね」
「いい訳ないだろ! さっさと離れろ!」
「えっと……」

二人の間で千鶴が…あたふたしている。

「君はさっさと他の生徒の失点ポイントでも換算してれば?」
「じゃあお前に特別に失点ポイントを100点つけてやるよ」
「あのね……」

二人の間で千鶴が……あたふたしている。
いつもの朝の光景ではあるのだが、平助は毎度行われるこの言い合いに溜め息を吐いた。

「なぁ、一君」
「何だ、平助」
「この二人にオレたちの存在って見えてんのかな」
「……恐らく見えていないだろうな」

斎藤も平助の隣に立ち、小さく息をつく。
沖田も薫も、二人共千鶴のことが好きなのは同じなのに、何故にこうも相容れないのだろうか。
というよりも、斎藤も平助も千鶴と話したいのは山々なのだが、この二人の言い合いに参加するのは火に油を注ぐ結果となる為、声を掛けれずにいる。

平助は齧りかけのトーストを食べながら、いつものごとくチャイムが鳴るギリギリまで二人の言い合いを眺める羽目になるのだった。



◇◇◇



「はーーーーっ! 終わったなー」

斜め後ろの席で平助が大きく伸びをする。
そんな平助の様子を見ながら、千鶴はクスリと笑った。

「平助君、さっきの授業当てられっぱなしだったもんね」
「そーだよ。もう、新八っつぁんはオレに昨日ゲームで負けたからってさー。きっと腹いせだぞ、あれ」

平助は口をへの字に曲げて机に突っ伏す。
黒板には先程平助が数式と格闘した経緯が未だに残っていて、その壮絶さを物語っていた。

「でも、半日授業って嬉しいよね」
「そーだなー。午後の授業がないってだけですっげー得した気分になるもんな」
「滅多にないことだもんね」
「そうそう、今日は部活もないしさー。こう、パーっと遊びたくなるよな!」

平助は身体を起こすと、両手を広げながら『パーっと』を表現する。


ぐぅ〜〜〜〜


「平助君、大きかったね。今のお腹の音」
「し、仕方ねーじゃん。さっきの授業ですっげー頭使ったし」

ビシっと黒板を指差しながら、平助が慌てて言い訳をする。
そしてどれだけ大変だったかを説明しながら、机の上の教科書などをしまう。
すると、ノートの間に挟まっていたあるチラシが目に入り、千鶴に声を掛けた。

「なぁ、千鶴。お前、今日って何か予定とかあるのか?」
「予定? 特にないからこのまま帰ろうかと思ってるけど……」
「だったらさ、オレと今からワックに行かね?」
「ワックに?」
「あぁ! ほら、見てみろよ。ワックのクーポン券! お前、確かここの新作のハンバーガー食べたいって言ってただろ? 今から食いに行こうぜ!」

平助がキラキラと目を輝かせながら千鶴に近付く。
千鶴は平助とクーポン券を交互に見ながら、プッと噴き出した。

「もう、平助君ってば。食べたいのは平助君でしょ?」
「そ、そーだけど、でも千鶴だって食べたいだろ? ほら、CM見て気になってるって言ってたじゃん!」
「そうなの、すっごく美味しそうだったから一度食べたいなって」
「じゃあ、行こうぜ! 安くなる時に食った方がおトクだしさ!」
「うん、そうだね。じゃあ、行こっか! 私も食べたい!」

幼馴染特有の、昔ながらの気心の知れた関係に温かい雰囲気が流れる。
邪魔さえ入らなければ、平助もこうやって千鶴と良い雰囲気を作れるのだ。

だが……、そうそう邪魔の入らない状況はやってこない。


「抜け駆けは良くないな、平助君♪」


「俺の妹を何気安く誘ってんだ、チビ」


そう、この二人が黙ってはいない。
一体いつから聞いていたのか、どこから湧いて出たのか。
その辺を追求すると面倒なので省略することにする。

「平助君。千鶴ちゃんとワックデートなんて許さないよ」
「いや、許すも何も────」
「おい、お前。幼馴染なら何でも許されると思うなよ」
「幼馴染カンケーねーと思うんだけど……」

いつもいがみ合っている、もとい千鶴を巡って言い合いを繰り広げているくせに、こういう時だけ変に調子を合わせてくる。
二人に迫られて困っている平助に、千鶴が助け舟を出してくれた。

「あの、良かったら沖田先輩と薫も一緒にどうですか? 大勢で食べた方が美味しいと思いますし」
「そうだよね。僕も今そう言おうと思ってたんだ」
「こいつらと飯だなんて御免だけど、お前がそう言うなら付き合ってやってもいいよ」

……この切り替えの早さは感心に値する。

平助はあわよくば千鶴と────なんて思っていたことなど欠片にも表に出すことが出来ず。
結局四人で高校生らしくファストフード店へ行くことになってしまった。



◇◇◇



「やっぱさー、ハンバーガーといえばビッグワックだよな!」

平助が自分の広げた口の倍以上の高さのあるハンバーガーにガブリとかぶりつく。

「何言ってるの、平助君。ハンバーガーといえばてりやきでしょ」
「お前こそ何言ってんだよ。ハンバーガーといえばチーズバーガーに決まってるだろ」

平助の前に座る沖田と薫がバチバチと火花を散らす。

「薫、てりやきの美味しさが分からないなんて人生の九割を損してるんじゃない?」
「馬鹿だな。チーズバーガーは万人に受け入れられてる味だろ」
「てりやきのあのしょうが&にんにく風味が食欲をそそるのに」
「あのクリーミーなチーズがいいんじゃないか」

……何でこんなことで言い争ってるんだろう。
平助は呆れた様子で自分のハンバーガーを口に運んだ。

「ねぇ、千鶴ちゃん。やっぱりハンバーガーといえばてりやきだよね」
「違うよな、千鶴。ハンバーガーといえばチーズだよな?」

今、千鶴が食べているのはそのどちらでもないのは分かっているのに、お互い負けたくないからか千鶴へ意見を求める。
千鶴は目の前に座っている沖田と薫を交互に見ながら静かに口を開く。

「てりやきもチーズも美味しいですけど、この新発売のチキン立田バーガーも美味しいです!」

「………………」
「………………」

二人共がじっと千鶴の食べているそのチキン立田バーガーに釘付けとなる。

(つーかさ、何なんだよ。この争い!!)

そんな平助の心の中のツッコミは当然沖田と薫には届かず。
そして届かなかったからこそ、二人は当然のように同じ言葉を口にする。


「「チキン立田が一番だよね♪」」


千鶴が一番、というのは目に見えて分かっているのに、この二人は決して相入れない。
いや、目に見えて分かっているからこその反発なのだろう。
平助や斎藤、山崎、それにあの生徒会長も千鶴を好いていることは周知の事実なのに、この二人はまるで自分たちだけが争っているかのように互いを意識している。

(美味けりゃ何でもいいじゃん!)

というとまた面倒なことになりそうなので平助は言わない。
隣に座っている千鶴が嬉しそうにしているのなら気にしないことにしようと────。

「ん?」

ふと、平助は隣に座る千鶴のカバンから見慣れない雑誌がはみ出ているのに気付いた。

「なぁ、千鶴。何だ、この雑誌」

平助が問えば、千鶴は「あ、これ?」とその雑誌をカバンから取り出してくれた。

「女性……ファッション誌?」
「うん。今朝、職員室に行った時に永倉先生から貰ったの」

千鶴のその言葉に平助のみならず、沖田も薫もピシリと固まった。

「え……、千鶴ちゃん。今何て?」
「えっと、永倉先生から頂いたんですけど……」
「ちょっと。何であのジャージ男からそんなもん貰ってるんだよ」
「先生が『俺はもういらないからよかったら千鶴ちゃん読むか?』って────」
「つーか、何で新八っつぁんがんなもん持ってるんだよ」

千鶴が持っていたのは20代後半から30代前半の女性向けに作られたファッション誌で、煌びやかなモデルがバッチリ決めポーズを作った表紙で飾られている。
明らかに、万年緑ジャージの大人が読むようなものではない。

すると、千鶴が自分の言葉が足りなかったことに気づき、慌ててページを捲る。

「あの、確かこの特集につられて買ったんだって言ってました」

開かれたページには大きな文字で『知っ得! 馬主になる方法!!』と書いてあった。
大金持ちでなくとも馬主になれる方法についてのレクチャーが詳しく載っており、一般のOLが馬主になった経緯から馬好きが集まる場所の特集まで、ありとあらゆる情報が掲載されている。

「永倉先生、馬主になって自分の考えた名前の馬を走らせるのが夢だって言ってて。それでこの雑誌を買ったみたいです」
「新八っつぁん……、だからってこんな女もんの雑誌買うとかさー」
「新八さん、確か山南さんに給料前借りしてる分とかあるんじゃないっけ? よくそれで馬主になりたいって言えるよね」
「まぁ、言うだけならタダだからな。でもよくもまぁあの保健医に給料の前借りしようなんて思うよ」

メガネの奥をキラリと光らせてスマイル0円で給料の前借りを受諾している山南を想像すると、何やら背中に冷たいものが伝ってくる気がしないでもない。

「千鶴、見てもいいか?」
「うん、別にいいけど平助君も興味あるの? 馬主」
「いやいやいや! オレは別に興味ねーから。ただ、こういうのって読む機会ねーからさ。どんなんだろうなって思って」
「そっか、そうだよね」

平助は千鶴から雑誌を受け取ると、そのままパラパラと捲っていく。
ファッション誌なだけあって、綺麗なモデルが様々な服を着てページを飾っているのが続く。

「へー、女子ってこういうの読むんだなー。────ん?」
「どうかした? 平助君」
「いや、大したことじゃねーけど、こういう特集もあるんだなって思ってさ」

そう言って三人に見せたページは『THE☆女性が選ぶモテる男!』という特集ページだった。
千鶴ではなく、沖田と薫がそこに食いつく。

「へー、面白そうな特集やってるね」
「ふーん、まぁ書いてあることなんて大体世に出てることばっかりだろ」

ジトリと互いを見てはそこに見えない火花を作る。
平助は「またか」と呆れながら、その特集ページに目を通し始めた。

「『こういう男は女子からウケがいい。こういう男には要注意』。ふーん、そういう女子目線ってオレたち男子には分からねーから面白そうだなー」
「どんなことが書いてあるの?」

千鶴が聞くと、平助は「んーとな」と大きいフォントで書かれている題字を読み上げた。

「えーっと、なになに……? 『目も瞳孔も大きく見える二重まぶたの男はモテる』……?」
「たとえばどんな人なんだろうね」
「いや、オレに聞かれても」

そこで「オレのことじゃね?」と言える男がいたらお目にかかりたいものだ、と平助は思う。

「あぁ、よく見たら一人いるよね。そういう男。たとえば……千鶴ちゃんの目の前とか?」
「あぁ、よく見たらいるな、一人。そういう男が。たとえば……千鶴と同じ顔とか?」

……いたよ、ここに二人も。

「何だか僕の隣に自意識過剰なやつがいるな〜」
「何言ってんだろうな。そう言ってるやつが大体自意識過剰なんだよな」
「そう言うやつが自意識過剰なんだよ?」
「さらにそう言うやつが自意識過剰なんだぞ?」

「つーか……お前ら両方ともすげーよ」

よくもまぁ、そこまで自分のことをカッコイイだとか言えるもんだと平助はある意味感心してしまう。
適当なツッコミを入れながら続く題字を読み上げる。

「えっと、『身長は女性よりも13センチ高いのが理想。モテる男は大体そう』だってさ」
「13センチってすごく詳しいんだね」
「男と女の平均身長から割り出してるみてーだぞ」

平助は千鶴にそう言いながら、内心13センチの差を結構真剣に考えていたのだが……。

「あぁ、よく見たらいるよね。千鶴ちゃんにピッタリ似合う男。13センチじゃなくてもお似合いならここに」
「お前、一度眼科にでも行ってくれば?」
「ははーん? さては身長が足りなくて僕にやっかむしか出来ないのかな?」
「これがやっかみに聞こえるのならついでに耳鼻科にでも行きなよ。それに身長だけが全てじゃないだろ」
「でもモテる要素の一つではあるんだから素直に負けを認めれば?」
「はっ、何を言ってるんだろうな。馬鹿はこれだから困る」

「お前らと一緒にいるオレが一番困るっつーの。てか、何でお前らが張り合ってんだよ」

身長差がある二人が張り合ったところでどうにかなるもんでもないだろうに、と平助は溜め息をつく。

「他にも、『低めでさらに明瞭で深みがある声の男は女性にモテやすい』。へー、そうなんだ」
「低め?」
「あー…、例えば土方先生とか左之さんとか……か?」

そう言って何だか空しさを覚えないでもないが、それよりも気になるのは────。

「それならもうドンピシャリで僕のことだよね、それって」
「はぁ? お前おかしいんじゃないのか? やっぱり耳鼻科行くべきだろ」
「それは君の方じゃない? 知ってる? 僕の声、すっごく女性受けするんだよ」
「それはお前じゃなくて中の人のことだろうが」
「でも声を含めて僕なんだから、やっぱり僕がモテ声ってことじゃない?」
「なら俺だってそうだろ?」
「じゃあ、僕と勝負でもする?」
「俺に勝てるとか思ってる訳?」

「つーか、どんな勝負するつもりだよ。あと、ここ公共の場だぞ」

そういえば一君や山崎君もモテ声だよな、とか。
低いといえばあの馬鹿生徒会長もじゃないか?とか思う部分は数多く。
でもオレも負けてない!と、そう思いながらチラリと千鶴を盗み見る。

「千鶴、オレの声って……」
「平助君の声? 素敵だと思うよ?」
「そ、そっか……!」

千鶴の言葉に気を良くしながら平助が次の題字に目を通す。
……少し声を低めにしながら。

「えー、ゴホン。『キザかもしれないけど、女は花をプレゼントされると喜ぶ』。花を贈る男性は減ってきましたが、花を好きだという女性は増えていますーだって。千鶴は花とか好きだもんな」
「うん、その辺に咲いてるのも見てるだけで楽しいよね」

確かに他の女性は分からないが、千鶴になら花を贈ればすっごく喜んでくれそうだな。
平助はそう思いながら、やはりお約束とばかりに目の前に座る二人に視線を移す。

「千鶴ちゃんにはやっぱり花が似合うよね。あげるならかすみ草たっぷりのバラの花束かな」
「はぁ? 妹にはオレンジ系のガーベラとかカーネーションとか、そういうのが似合うんだよ」
「君こそ何言ってるんだろうね。千鶴ちゃんにはピンクが似合うんだよ。っていうか、何でも似合うけどね、千鶴ちゃんは」
「俺の台詞を取らないでくれない? 俺の妹なんだから何でも似合うのは当たり前だろ」
「僕の千鶴ちゃんなんだから当然だね」
「いいや、俺の妹だから当然だな」

バチバチと舞う火花はまるで手持ち花火のように。
二人の間に手でもつっこめば、火傷をしそうなほどである。

そして、二人は同じタイミングで千鶴の方へ乗り出した。

「ねぇ、千鶴ちゃん。僕と今度、植物園行かない?」
「いいや、千鶴は俺と花がたくさん咲いてる公園に行くんだよ。な? 千鶴」
「私はあの────」

「っていうか、もうお前ら仲が良いんだか悪いんだか……」

総司と薫の言い合いに常に巻き込まれるオレの身にもなってくれ。

「ほら、千鶴ちゃん。ポテトあげる。あーんして」
「何言ってんだよ。千鶴は俺のナゲットを食べるんだよ」
「あ、余ってんならオレにくれよ」


「「平助にあげる分はない」」


「何でだよ!」


今日一番のツッコミがさく裂した。
というか、こういう時には必ずといっていいほどに調子を合わせてくる。

この二人は仲が悪いように見えて実は仲良しなのかもしれないと平助は思う。
すぐに言い合いが始まり、その考えは消えてなくなってしまうのだが。

そして千鶴が食べ終わるまで、沖田と薫の着地点の見えない言い合いは続き……。
それに対して平助はとにかく溜め息混じりのツッコミを入れていた。

今に始まったことではないが、もし千鶴が沖田とくっついたとしても、たとえば自分や他の誰かとくっついたとしても、この二人の言い合いはなくならないんだろうなと思いながら。

「最初に千鶴を誘ったの、オレなんだけどな」



◇◇◇



【千鶴ちゃん、今からちょっと出てこれる? 渡したいものがあるんだ】

そんな沖田のメールを受けて、千鶴は近くの公園へと向かった。
先程みんなでハンバーガーを食べていた時にはそんな素振り見せていなかったのに────。

既に辺りも薄暗くなってきている時間帯に一体何を渡したいのだろうと疑問を浮かべながら、それでも少し楽しみなのか、向かう足取りは小走りになっていた。

少し息切れをしながら公園内に入ると、噴水近くのベンチで沖田がこちらに手を振っていた。

「千鶴ちゃん、こっちこっち」

笑顔でおいでおいでをする沖田の元に千鶴が駆け寄れば、隣をポンポンと叩かれる。
座ってと指示されてそこに座ると、沖田が申し訳なさそうな顔でこちらを見てきた。

「千鶴ちゃん、別にそんなに慌てて来なくてもよかったのに」
「で、でも沖田先輩が待ってると思って」
「うん、その気持ちは嬉しい。だからありがとね」
「そ、そんな────」

何となく沖田の顔を直視するのが恥ずかしくて、千鶴は視線をまっすぐ前に向けたままで首を横に振った。

「あの、ところで渡したいものって────」
「こーれ」

そう言って差し出されたのは、先程のハンバーガーショップで売っていたアップルパイだった。

「先輩、これ……」
「千鶴ちゃん、レジでこれ買うか結構悩んでたでしょ? 僕たちが座っている席の近くの女子高生がこれ食べてた時もチラチラ気にしてたし」
「そうですけど、でも────」

何で沖田先輩がこれを持っているんだろう。
確か、食べ終わった後は普通にそのままみんなで帰宅したはずなのに。

千鶴が飲み込んだ言葉を、沖田が笑顔で補足してくれた。

「みんなで帰った後、また僕だけ戻って買ってきたんだ。千鶴ちゃんにあげようと思って」
「えっ? 戻ったんですか!?」

千鶴が驚くと、沖田は人懐っこい笑顔で頷いた。

「うん。ホントはみんなで食べてる時に買ってあげようって思ったんだけど、そんなことしたら薫がまた煩そうだし。『俺の妹なんだから俺が買う』とかさ」

有り得ないことではない。
というか、ほぼ120%そういう展開が待っていただろう。
そして120%の確率で平助が大きく溜め息をついてそうである。

「だから、帰った後でこうして千鶴ちゃんに渡そうと思って」
「何で────」
僕が千鶴ちゃんにあげたかったから」

千鶴が顔を上げると、沖田が嬉しそうに笑っていた。

「千鶴ちゃんが欲しいと思ってるものは、出来れば全部僕があげたいんだよね」
「沖田先輩……」
「僕さ、ああやって薫と張り合ったりしてるし、結構思ったことポンポン言うから軽く思われがちだけどさ。今まで千鶴ちゃんにウソを言ったことは一度もないんだよ?」
「そ、それって────」
「ん?」

千鶴は沖田の顔をじっと見てみるが、沖田はにっこりと笑顔を作って黙っているだけ。
それ以上、特に言葉を重ねようとはせず、ただただ楽しそうに千鶴を見ていた。

「どういうことか、考えてくれたら嬉しいなぁ」
「嬉しい?」
「うん。分かった時は多分二人の仲は進展してると思うから」
「……?」

千鶴がよく分からないと小首を傾げてみるのだが、沖田はやっぱり核心に迫るようなことは言うつもりはないらしい。
沖田の言った意味を知りたい、けれど考えれば考える程、隣に座る沖田のことを妙に意識してしまう自分がいる。

「ま、今一番千鶴ちゃんに近いのは僕だって思いたいなぁ」
「え?」
「ううん、何でもない。こっちのこと。ところでさ。僕、自分のも買ってきたから、一緒に食べよ?」

沖田が袋から自分の分を取り出して千鶴に見せる。
恐らく自分だけが食べるとなると千鶴が気を遣うと思ったのだろう。
沖田の優しい気遣いに、千鶴は満面の笑みで首を縦に振った。

「はいっ! 沖田先輩、ありがとうございます」
「うん、素直でよろしい」

食べようか迷っていたものが目の前にあることで食べたい欲求が高まったのか、千鶴は小さく「いただきます」と言うと嬉しそうに齧りついた。

「お、美味しいです〜」
「アハハ。千鶴ちゃんったら頬、緩みまくってるよ」

沖田が楽しそうに千鶴の頬を人差し指で突く。

「お、沖田先輩〜〜〜〜っ」
「ん? 千鶴ちゃん、顔が赤いよ?」
「……夕焼けのせいです。多分」

先程の沖田の意味深な言葉を意識しているせいか、いつものスキンシップなのに変に構えてしまう。
照れくさいのを隠す為に、千鶴はアップルパイを食べることで誤魔化した。

「うん、これも美味しいね」
「沖田先輩のはアップルパイではないんですか?」
「これ? これはね、ベーコンポテトパイ」

沖田のからはほくほくと美味しそうな匂いが漂ってくる。

(それも美味しそう……)

そんな千鶴の心の声が漏れていたのか、沖田が「ん」とそれを差し出してくる。

「ほら、千鶴ちゃん。よかったら一口どうぞ」
「えっ? あ、いや! そういうつもりじゃ────」
「でも、さっきからこれ、凝視してたし」
「で、でも────」

ただでさえ先程から緊張しているというのに、沖田の食べかけを齧るだなんて。

食べてみたいけど、恥ずかしい。
恥ずかしいけど、せっかく勧めてくれているのを断るのも忍びない。
忍びないけど、食べかけを頂くということはつまり────。

千鶴がどうするべきなのかと葛藤していると、沖田が明後日の方向を指差した。

「あ、千鶴ちゃん。あそこ見て、土方さんが上半身裸で自転車に乗って一句詠んでるよ」
「えぇ!?」

指差された方向に思わず目が行く。
土方先生が何でそんなことを────!?

しかし、沖田の指差した方向に土方はおらず。
夕暮れで見にくいせいなのかと目を凝らしていると、隣から「いただきまーす」と声が聞こえてきた。
その言葉で視線を戻せば、沖田が千鶴の持っていたアップルパイに思いっきり齧りついているところだった。

「えっ? せ、先輩!?」
「うーん、美味しい♪ 出来たてを貰ってきて正解だったね」

そんなことを言いながら沖田はすかさず自分の持っているベーコンポテトパイを「ん」と再度差し出してくる。

「ほら、僕も千鶴ちゃんの食べたんだし、千鶴ちゃんも遠慮せず食べなよ」

恐らくはさっきの土方のこともウソで────。
自分が食べることで、千鶴が食べやすい状況を作ってくれたのだろう。
沖田の食べかけを食べること自体が恥ずかしい気持ちがあるものの、沖田のその優しさが嬉しくて。

千鶴は少し逡巡するものの、「でしたら……」となるべく沖田が齧っていない部分を選んで少しだけ頂くことにした。

「どう? 美味しい?」
「お、美味しいです……」

美味しいのだろうと思うが、恥ずかしさで味がよく分からない。
アップルパイを食べることで先程みたいに恥ずかしいのを誤魔化そうとしたのだが────…。

(そ、そういえばこれも沖田先輩が────)

沖田に齧られたアップルパイを食べる行為も恥ずかしく、口の近くまで運んだそれを思わず止めてしまう。
沖田を見れば、何だかキラキラと顔を輝かせてこっちを見ている。

(食べにくい……っ! けど、食べずにいるのも────)

それはそれで失礼な気がして。
口の近くで宙に浮いていたアップルパイを千鶴はやはり小さく齧りついた。

最初に食べた時に感じた美味しさは今はよく分からなくて。
ただ、何だか胸に気恥ずかしいような温かいような何かが残っていた。

(恥ずかしいけど……もう少し一緒にいたい、かも)



◇◇◇



────pppppp〜♪────

「何? メール?」
「はい、薫からみたいです」

【今日は晩飯一緒に食べる約束してただろ。どこにいるんだよ】

「そ、そうだった。早く帰ってご飯作らないと」
「薫と一緒に食べるの? 二人で?」
「えっと、家族は今日は遅くなるので多分」
「ふーん?」

何だか機嫌が良くなさそうな沖田に千鶴が顔を覗き込む。
何かいけないことでも言ってしまっただろうか。

すると、沖田はへの字に曲げていた口をにんまりと弧に変えると、大きく伸びをしながら立ち上がった。

「千鶴ちゃん、家まで送るよ」
「あ、ありがとうございます」
「その代わりに、僕も一緒にご飯食べたい」
「えっ?」
「…………ダメ?」

ここぞとばかりに捨てられた子犬みたいに甘えてくる沖田に千鶴はダメとは言えず。
そもそも、もう少し沖田と一緒にいられたらいいなと思っていただけに、無言で「ダメじゃない」と、とにかく首を横に振った。

「よかった。じゃあ、はい」
「へ?」

じゃあと言って差し出されたのは、沖田の手で。
千鶴はただただ沖田とその手を見ていた。

沖田はそんな千鶴に苦笑しつつ、訳が分からずポカンとしていたその手を取って歩きだした。

「ほら、早く帰らないと薫が煩いよ」
「お、沖田先輩……っ! あ、あの…手……」
「ん? 嫌?」
「嫌というかその……」
「ほら、もう暗くなってきたし、危ないでしょ?」
「だ、大丈夫ですよ」
「んー、っていうか僕が大丈夫じゃないから繋いでてくれる?」
「沖田先輩が危ないんですか?」
「ハハハ! まぁ、そんな感じかな。だから繋いでて」
「……? わ、分かりました」

沖田が危ないとはどういうことなのだろう。
よく分からないが、繋いでいる手の方が気になって千鶴は考えることをやめた。

「薫のやつ、行ったらまた煩いんだろうなー」
「薫は素直じゃないから……。でも、先輩や平助君たちといる時はすっごく楽しそうです」
「それは、いつも君がいるからじゃない?」
「え?」
「ううん、何でもなーい」

沖田と二人、夕暮れに染まった住宅街を歩きながら思うのは先程の沖田の言葉。

『今まで千鶴ちゃんにウソを言ったことは一度もないんだよ?』

あの言葉の意味をもう一度沖田に聞いてみたら、ちゃんと答えてくれるだろうか。
聞いてみたい気持ちと、聞かずにこのままでと思う気持ちと。

ちらりと沖田の顔を盗み見る。
いつも会っているのに、どうしてこんなにドキドキしてしまうんだろう。

自然と頬に熱が集まるのを感じながら、もう一回沖田に顔が赤いことを指摘されたら夕焼けのせいだと言い張ろうと、千鶴は決めるのだった。



***



「……何でお前もいるんだよ」
「千鶴ちゃんの隣が僕の指定席だからだよ。薫こそ、勝手に千鶴ちゃんちに上がり込んでさ」
「ここは俺の家みたいなものだ」
「みたいなもの、ね」
「というか沖田。お前、その汚い手を千鶴から離せ」
「やだよ。千鶴ちゃんの手は僕だけが握っていいんだから。君こそ、離してよ」
「何言ってるんだ。千鶴は俺の妹なんだから俺のものに決まってるだろ」
「あー、やだやだ。こういうジャイアニズムな考え方」
「お前にだけは言われたくないね」

「あ、あの……このままじゃご飯の準備が出来ないんですけど……」

三人仲良くご飯が食べられたのかは……三人にしか分からない。







ふふっ…(笑いが止まらない変な人になりつつ…)

文月様、素敵なSSありがとうございました!!
もうバッチリですよ!!薫の絡みが多くて嬉しかったです〜ww

笑いどころもキュンとするところもたくさんあって、大満足です!!
何て仲の良いみんな…楽しいですね!

あの、土方さん上半身裸でのところがはまりすぎて笑い死ぬかと思った…
だって脳内再生があの、何故か沖田さんの落書き土方さんだったので(←)

「ウソを言ったことは〜」ってところでやられました。
千鶴!もっとちゃんと考えて!!と応援してました(笑)
薫が千鶴の家に上がりこんで一緒にご飯。まさかの先輩乱入締めがとっても好きですv

全部書きたいこと書くと、読書感想文みたいになりそうなので、また御礼メールさせてくださいv

本当にありがとうございました(^^)/