沖千SS

「これからはずっと」



空が高く青空が広がって、白い雲が突き抜けるように真青な空を彩って。
蝉の声が屯所内に響き渡る中、からっとした暑さに少しでも風を、と縁側に出て座りぼうっと外を眺めていた千鶴。
急に視界が暗転して、何も見えなくなる。
衣ずれの音だけが耳に響いて、人の声も聞こえないけれど、息をひそめて自分の後ろに立って、千鶴の目隠しをするような男はこの屯所には一人だけ。

「・・・沖田さん?何か御用ですか?」
「・・・千鶴ちゃん?もう少し反応して?」
ぱっと千鶴を覆っていた手を離しながら、同じような口調で言い返してくる総司に千鶴はくすっと小さく笑って後ろを振り向くと、同じように微笑みを浮かべている総司が立っていた。

「相変わらずぼおっとしてるね、そんなに隙だらけだと誰かに付け入られるよ?」
「・・・そんなことするの誰かさんだけです」
「そんなこと言われるとそうしたくなるけど、いいの?」

いつも言い負かされて、なんだか悔しいからと、ちょっと言い返してみても、結局はかなわない。
じとっと恨めしそうに総司を見上げると、総司は心の底から楽しそうにはははと声を出して笑う。
そのまま千鶴の横に座ると、

「千鶴ちゃん、いつにも増してぼけてる?どうしたの?」

・・・なんだかひどい言われ方のような気がするけど、沖田さんなりに心配してくれてる・・・んだよね?

「・・・いえ、なんだか思い出してしまって」
「何を?」
「毎年、この日は父様が・・・どんなに忙しくても私の傍にいてくれて・・・」
「今日?」
「はい。・・・私の生まれた日なんです。毎年、夏の暑さに負けてしまって食欲のない私のために桃を・・・」
「・・・・・・・」
「今日は…仕方ないけれど、どこにいるのかなって考えてしまって…」

黙って話を聞いていた総司はおもむろに立ち上がって千鶴の頭の上に手を置いたと思うと、細いけれども力のある手で遠慮なく千鶴の頭をくしゃくしゃする。

「きゃっ!?沖田さん~!何するんですか!?」
「ない脳みそでいろんなこと考えない」
「ひ、ひどいっ!!あります!」
「どうかな?ぼうっとするのは勝手だけど、迷惑はかけないでね」
「かけてません!」
「今、僕にかけたよ」

ぴんとおでこをはじかれて、にっと口の端をあげて意地の悪い笑いを浮かべて、総司はそのままどこかへ。

「な、なんなの…もう…」
慰めてくれるとは思わなかったけれど…いや、ちょっとは思ったかも。
「言うんじゃなかった・・・」
総司と会う前よりも気持がなぜかぐっと落ち込んで、千鶴はそのまま部屋に戻った。



日も暮れて来て、心地よい風が少しずつ部屋に入ってくる。
全開にはできないけれど、少しだけ戸を開けたままうつらうつらと訪れた睡魔に身を任せていたのだけれど。
ふと、顔に影が差して・・・

もう、夜なの?とまだ眠いと訴える目をこすり、そっと目を開いてみると・・・
自分のことを覗き込む総司の視線とかちあって。

・・・・・・・・・・・・・・・沖田さん?夢?
そのままもう一回目を瞑ろうとした時に、
「はいはい。いい加減起きようね?」
上から降ってくるあきれた、聞きなれた声とともに、おでこにぴしっと少しだけ痛い感覚。

「!?」
驚いて目を開けるとやっぱり総司の姿が。
「沖田さん!?どうしてここに!?いつから!?というか、勝手に入ってこないでください!」
急いで跳ね起きて、髪や服を手直ししながら文句を言うと、
「千鶴ちゃんに渡したいものがあって。さっき。声をかけたけど、返事しない君が悪いんじゃない?」
千鶴の問いに平然とした顔でつらつらと答えていく。

「・・・・・・・・・それはすみませんでした」
「うん、素直な子は好きだよ?」
「・・・・・・///それで、渡したいものって何ですか?」
「これ」

総司は自分の後ろに隠していたものを千鶴の前に出す。
それはお皿に盛られた、桃。

「・・・・・・沖田さん・・・・これ・・・・・」
「毎年してるんでしょう?・・・はい、お誕生日おめでとう」

そう言って千鶴に、剝かれて一口大に切られた桃を差し出してくるので、千鶴は思わず口を開けて・・・

「・・・・・お、おいしいです」
「当然。僕が選んだんだから」
「・・・・・わざわざ、買ってくださったんですか?」
「うん」
「切ったのも、沖田さん?」
「うん」

何でもないことのように返事して、ほら、もっと食べなよと桃を差し出してくる総司に、千鶴は胸がいっぱいで。

「・・・沖田さん、ありがとうございます・・・嬉しいです・・・本当に・・嬉しいです・・・」
千鶴はぽろっと涙を流して、それでも顔は喜びに満ち溢れていて、総司に微笑みを向けて。
総司は千鶴の涙をそっと手で拭うと、さきほどとは別人のように優しい目で千鶴を見て、

「これからは、僕がずっと・・・お祝いしてあげるよ」
「・・・沖田さん・・・」
「今日みたいに、さみしい顔させないように、僕が毎年お祝いする」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・綱道さんが見つかっても・・・僕が君のことをお祝いする」
「・・・沖田さん・・・それなら、私も沖田さんのお祝いしますね」
「ずっと?」
「はい」
「・・・千鶴ちゃん、意味わかってる?」
「・・・?はい」

・・・絶対わかってないよね・・・
そんな総司の心の声などまるで気づいていない千鶴は、

「沖田さんも一緒にいただきましょう?甘いですよ」
「僕はいい・・・」
「そんなこと言わずに、はい」
「いらない」

少しむっとしている総司に、千鶴は訳がわからなくて。
・・沖田さんどうしたんだろう?何か怒らせることを言ってしまったのだろうか・・・
総司に差し出した桃を仕方なく自分の口に運んで入れた瞬間、

「やっぱり僕も食べる」

そう言うのと同時に気がつけば総司の腕の中。
目の前に総司の顔が、と思ったときには柔らかい感触が唇に、そして・・・
口の中に確かに入れた桃はいつの間にか総司の元へ。
「うん、甘い」
満足そうに微笑んでもう一つ頂戴?と言われ、なぜか千鶴に桃を差し出してきて。


「~~~~~お、沖田さん!!い、今!!あ、あの!!」
「器用なものでしょう?じゃあもう一つ」
「も、もう一つじゃないです!何してるんですか~!!」
「・・・だってこれからずっと一緒にお祝いするんでしょう?これくらいする仲になるってことだよね?」

そのあと、桃は全部総司が食べたとか・・・




END




むぅ☆様
お誕生日おめでとうございます!沖千甘々SSいかがでしょうか・・?
誕生日にかけてみました。
最後、総司が桃をどうやって全部食べたのかわかりますよね?(笑)
ちょっと前の二人の会話の内容をようやく千鶴が理解して、真っ赤になりながらも喜んでいるといいなって思ってます^/^

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