みぃ様リクエスト




薄桜鬼:斎千SS

※みぃ様のみお持ち帰り可とさせて頂きます。




『愛に生きます』
ED後です。



斗南に落ち着き、決して楽ではない厳しい暮らしではあったが、慎ましい暮らしの中に幸せを灯す日々。
時を経る毎に、最初意識をした夫婦としての会話も今では自然に。
それに伴い愛は日々増すばかり。

そんな斎藤夫妻の許にこの日、二人の客人が来ることになっていたのだが――

「すごい料理の数だな…千鶴、俺に何かできる事は…?」
「大丈夫です。あと田楽の下ごしらえだけですから…」
「竹串にさすのだろう?それくらいなら手伝える。千鶴は朝から立ち尽くしだ。少しは体を休めておけ」

どうせ、あの二人が来たら…お前はもっと張り切って給仕をしようとするのだから、と斎藤は千鶴の手から串や食糧を取った。
屯所にいた頃は定期的に食事当番が回ってきていたのだから、こういう事には不慣れではなく、むしろ手際がいい。
あっという間に進めて、千鶴を休ませようとする斎藤の厚意に甘えて、千鶴もゆっくり準備を進めていった。

「一さんは…私に気を遣いすぎですよ。周りの方は旦那さんこんなこと手伝わないって言っていました」
「周りは関係ない。友人が訪ねて来るのに俺が手伝わない道理はないだろう?
手伝いをして千鶴が少しでも楽になるなら・・それに越したことはない。――それに…」
「・・・それに?」

串に食材を通し、斎藤は炭の準備を。千鶴は甘味噌の準備を進めながら、お互いの言葉に耳を傾けて。
ずっと一緒に過ごすからわかる、付けくわえようと続けた夫の声が、照れているのか上ずっていて…
そんな声に振り向けば、斎藤の方も千鶴に優しい眼差しを向けていた。

「一人で待っているより、千鶴の手伝いをして、二人で時間を共有するのがいいんだ―」

どれだけ一緒にいても、そんな言葉を向けられれば自然に頬に熱は集まるもので。
思わず支度の手を止めて、二人で微笑みあっていると…

「うおお…っ!!ふ、二人の世界だな…こりゃ今は遠慮時か?」
「んな声出した時点でもう邪魔してんだよ。全く…久々に会って第一声がそれかよ、新八」

懐かしい声が土間に響く。
予定より早く着いたらしい、その姿は長旅に疲れているようにも見えず。
元気な姿は目にすれば、瞬く間に蘇る懐かしい日々――

「原田さん、永倉さんっ!お元気そうで…」
「よっ!!千鶴ちゃんも元気そうで何よりだ!それに斎藤もな!・・いい具合に雰囲気作って・・あの堅物がなあ」
「・・・・・・・声をかけろ、黙って見ているな」
「おっそいうところは変わんねえな、斎藤。前に別れた時も・・・俺らがからかって、お前は俺らに突っかかったんだよな」

左之の言葉に、ありありと思いだせるあの日のこと。
あの時から…流れた月日はいろんな変化をもたらしただろう。けれど…
変わらない絆がここにある―

「・・・遠いところをよく来たな。左之、新八―」
「おおっ!遠路はるばる来たから腹減ってんだ!千鶴ちゃんの料理が食えるんだろ?」
「はいっ新鮮なものは中々…難しいんですけど、出来るだけ用意しました。どうぞ」
「千鶴の手料理がまた食えるなんてな、おし、んじゃ皆で語らうとするか!」

二人を座敷に案内して、寛ぐように座らせるとすぐに準備していた手料理、酒の肴などを出していった。
お酒に目がない二人の為に、評判の地酒も用意して。
杯を酌み交わし、話を弾ませる様子はまるで屯所の頃に戻ったようだった。

「・・・こりゃうめえな・・・酒もうめえし、飯もうまい!!初めて食うもんも多いけど・・さすがは千鶴ちゃんってとこか。」
「そんな・・おだててもあまり大したものは出ないですよ」
「おだててんじゃねえって、本当のことだぞ。いい女房貰ったな、斎藤」

コンと肘でつつかれて、斎藤は照れるでもなく、普通に、ごく自然に言葉を返した。

「そう思う。俺には過ぎた妻だと・・日々実感する」
「・・な、何言ってるんですか、一さん。一さんの方が・・私には過ぎた旦那様です」

人の前だろうが何だろうが、千鶴の事に関しては『謙遜する』という言葉を知らない夫に、千鶴は慌てて答えた。が、その答えも左之や新八にすれば惚気である。

「・・・どっちも過ぎた女房、亭主て言い合ってよ~…似合いじゃねえか!か~!あてられっぱなしだな。それにしても・・・聞いたか?左之」
「お~聞いたぞ。しっかりこの耳でな」

にっと悪戯っ子のように笑いあう二人。
何を聞いたと言うのかわからないが…あの表情は何かくだらないことを企んでいる時によくした顔だ―
斎藤が少しだけ警戒して言葉の続きを待つと…

「は~じめさん!いつから名前で呼ばれてんだよ!すっかり夫婦だな、おい!」
「・・え、ええっと…」
「…俺と千鶴は夫婦だ。名前で呼び合い何が悪い」
「悪いなんて言ってねえだろ。いいことじゃねえか。ただ俺らは聞き慣れないから・・つい過剰に反応しちまうだけだって。怒んなよ、斎藤」

左之が斎藤の背中をバンバン叩いて、新八は一さん~とからかって。
千鶴は二人の言葉に照れながらも、その様子を見ながら、今では普通に呼ぶ『一さん』と初めて呼んだ時のことを思い出して。
つい、くすっと笑いを零してしまった。

「ほれ、斎藤。んなことで臍曲げるから千鶴ちゃんが呆れているぞ」
「・・なっ・・」
「・・っち、違いますよ?呆れてなんて…」

一さんを呆れるなんて、そんなこと!と慌てて首を振る千鶴に、何故か左之がはは~ん、と楽しそうに微笑んだ。

「じゃあ、何を思い出して笑ったのか・・・聞いてみたいところではあるな」
「だな、おし、千鶴ちゃん。包み隠さず話してくれるよな」
「え、ええっ!?」
「千鶴、聞かなくていい」

名前を口にしてくれた時のことはよく覚えている。
あんなものを酒の肴にされたらたまらない。
それに、二人にとっての大切な思い出なのだから―

斎藤はそう思い、千鶴に詰め寄る二人と千鶴の間に割入った。
そこで斎藤が口にした言葉に、二人はこの日一番目を丸くして驚いたかもしれない。

「左之、新八。これ以上詰め寄るな。千鶴に近寄り過ぎだ。触れるな」

「「「・・・・・・・・・・」」」

大切な宝物を、その背に隠すように。
自分だけの宝物を誰にも触れさせたくないように。
冗談ではなく、本気で言っている・・のが目の前にいる男、斎藤 一である。

「・・・な、何言ってんだよ、どっこも触れてねえし。これくらいの距離なら屯所にいた頃しょっちゅうだったよなあ?」
「・・・しょっちゅうだと?」

ピクっと斎藤の眉があがる。
そんなことに気が付かず、新八はぺらぺらと話し出して。

「そうそう。夜中こっそり屯所で酒吞む時なんかにゃあ・・寂しいもんでよ、千鶴ちゃんによく酌してもらったよなあ」
「ありましたね、永倉さんは酔いが回ると『島原に通う金がない』って・・泣いてましたもんね」

斎藤の背中からひょこっと顔を出して、そんなこともあったとクスクス笑う千鶴。
ええ!?俺泣いたのか!?と照れ笑いする新八。
だけど、左之は見ていた。

・・・斎藤は笑っていない―

「・・・酌?そんなことまでさせていたのか?」

千鶴は芸者でも何でもないのに―
いや、むしろ島原で芸者に紛した時、あの姿で酌をしてもらう面々を、どこかで羨ましく思いながらも任務の為なのだ、とグっと耐えていたというのに…
芸者姿を正視すら出来ない自分を余所に、あの芸者姿の千鶴に酌をしてもらっていただけではなく、屯所で、自分の知らない所で――

――おいおい、斎藤のやつ、膝の上に置いてる手の拳・・震えてねえか?

左之は危機を感じて、新八にそこらで止めておけ、とばかりに目配せで合図をしたのだが…ほどよく酒が回った新八には通じなかったらしい。

「千鶴ちゃんはよく、酔い潰れた俺たちを介抱してくれたっけなあ…千鶴ちゃんが来るまでは他の奴らが乱暴に起こしたもんだがよ」
「私は背中をさすっただけですよ。大したことはしてないです」
「いや、今までそんなことは誰もしてくれなかったしな、なあ左之!お前もよくしてもらっただろ!」
「・・・・しっ新八、黙れ、わかったから・・・」

・・・背中をさする?
俺は酔いたくても中々酔えなくて―
晴れて夫婦になった今でもそんなことはあまり…いや、ない――それなのに…

――やばい、斎藤がキレるっ――

「ま、まあけどな!今では千鶴は斎藤のもんだし!それも昔のことって話しだからな!よし、吞むぞ新八、斎藤!千鶴も吞めるのか?」
「あ、私はお付き合い程度ですから・・遠慮しときます。三人でゆっくり話してください」

にこっとその場を和らげる笑顔を瞬時に作って、両手を床について、しとやかにそう告げた千鶴に、新八だけでなく、思わず左之も感嘆の息を吐いた。

「…いい女になったな、千鶴。心底斎藤が羨ましいって思うぞ」
「え、ええっ!?そんなこと…私なんてとても…」
「いや、本当にそう思うぜ。惜しいことしたんだな、俺らは」
「永倉さんまで…ほ、褒めすぎです!ねえ、一さん…」

千鶴は助けを求めるように、斎藤の顔を仰いだ。
斎藤はまだ不機嫌が直っていないのか、輪をかけた仏頂面ではあったけれど――

「…いくら褒められても、惜しまれても― 千鶴は誰にもやらん。俺がこの手で守り抜くと決めている」

誰にも、その役は渡さない――

いつもは冷静な藍の眼差しが、驚くほどの熱情に絡られ、新八と左之に向けられた。

「・・は、一さんっ!誰もそんなこと言ってませんよ!もう・・お酒が回っているんですか?」
「俺は素面だ」
「どこがですか…もう…」

嬉しいけれど、人前で、しかも左之や新八の前で臆面なく言われるのはどうだろう。
恥ずかしさが勝ってしまう。

「・・っははは!斎藤の奴をここまで惚れさせるんだから、やっぱいい女ってことだな、千鶴ちゃんはよ」
「ち、ちがっ・・論点がずれてますよっ」
「ずれてねえって。素直に認めとけ。じゃねえと旦那がいつまでたっても心配で目を離してくれそうにねえぞ?」
「どうあっても俺は離す気など、欠片もない」
「ま、またそんなこと…ううっわ、私失礼しますから!後は三人でどうぞ!!」

真っ赤になって、慌てて部屋を後にする千鶴を見ながら、左之は斎藤の杯に酌をした。

「ったく、斎藤。お前も嘘がつけねえ性格だな」
「嘘をつく必要がない。本当のことだ」
「お前、こういうところで、どんだけ素直になってんだよ!!昔はもっとごまかして一人でうじうじしてたような気がするんだけどよお」

夫婦の強み、というものを見せつけられたのか。
行き道の道中、きっとこんな感じだろう、からかってやろうと思っていたのに、こちらが二の句も告げられないような見せつけっぷりである。

「まあ、斎藤はこうと決めたら一直線なところがあるからな…それが今は千鶴に真っ直ぐ向いてんだろ」
「でもよ、お前いつもあんな調子か?照れることなんかあるのかよ。千鶴ちゃんばかりが振り回されてんじゃ…」

先ほどのやり取りを見ていれば、そう思ってしまうのも仕方がないだろう。
けれど、そこで斎藤は少し口を噤んだ。

「…いや、そうでもない」
「俺もそう思うぜ、新八。実際、斎藤がここまで俺らに目くじら立ててんのは…振り回されてる証拠じゃねえか」
「…なるほど、千鶴ちゃんあってこその…この斎藤だからな」

こんな会話聞いたら、千鶴がまた慌てて真っ赤になるだろうな、と左之が笑って酒を煽って。
新八がそうだな、もう一度呼ぶか?と答えて、箸を伸ばし、煮物を頬張っていると、斎藤が間髪いれずに口を挟んだ。

「呼ぶのは構わないが…千鶴をからかうな。あと、酔い潰れても介抱はさせんぞ」

先ほど見て思ったこと。
恥じらう顔も、笑顔も、自分一人に向けさせていたい―
そう思ってしまえば独占欲はとめどなく溢れて来る。
左之や新八のように、昔から知ってる友人にでさえ――

「・・・・・・・わ~かってるって。斎藤、お前意外にしつこいな…」
「でもよ、千鶴ちゃんは酔い潰れたのを、放っておけるような女じゃねえだろ」

新八は斎藤をからかいたい、とかではなく。
本当に思ったことを口にしただけなのだけど…左之は、はあ、と眉間を押さえた。
火に油とはこのことだ―

斎藤は新八の言葉に、酒を吞む手を止めると杯を徐に盆に乗せて、無表情に頷いた。

「―そうか、そうだな」
「だろ?そういういい女だから・・・「では酒を吞むな」
「って…だああっ!!悪いっ悪かったって!!しまうなよ~何だよ、千鶴ちゃんに言いつけるぞ!!」
「・・・新八、言いつけるって何だよ・・時と場合を考えて発言するってことをいい加減覚えろよな?」


その日遅くまで呑み明かした三人。
明け方、酔い潰れた二人を介抱しようとする千鶴を制して、男二人を介抱する斎藤の姿が見られたとか―






END






みぃ様。

斎千でED後、左之さん新八さんが遊びに来るっ!
すごく楽しみながら書かせて頂きました。
千鶴溺愛で嫉妬する斎藤さん…ちゃんとそうなっているでしょうか??

斎藤さんを照れさせるかどうかで悩んだんですが、
千鶴を照れさせるとのことでしたし…
それに照れるよりもきっと…嫉妬の気持ちの方が大きい筈!と思って
突き進みました^^;

好きなように書かせて頂きましたが、楽しんで頂けると嬉しいです。

素敵なリクエストありがとうございました!