祝!薄桜鬼随想録PSP発売〜!!
…ということで、斎千小説です。
もともと遊戯録発売時に書いた沖千SSと、対な感じで考えていたものです。
なので随想録と全く関係なく、むしろ遊戯録祝い向きな感じですが…
※斎藤さんだけが小さく掌サイズになります。
※無茶な設定があります。
※時々…挿絵があります。怪しいスペースはオンマウスでv
沖千SSを読まれた方は、何となくどんなものかわかると思いますが・・
甘めにしてはいると思います。
大丈夫!と思われた方は、そのままお進みください。
『一度ならずこの先も』
ヒュッ――ビュッ――
素振りすることで、いつもと変わらずキレのよい風切音が、静かな庭に響く中。
時折ひゅぅっと啼くように風が流れてしまったような音に変わって。
・・・・これは・・・
昨夜の巡察での斬合いで、手に負った傷。
些細なことだが響いているのだろうか。
斎藤はさりとて問題ないように、ふぅと小さく息を吐きながらその手を下ろすと、簡単に着物を整えた。
そのまま目的のもの目指して、廊下を音もなくスタスタと進んだのだった。
「斎藤さん、・・今日は当番ではないですよね?」
そろそろ昼餉の手伝いを、と勝手場を訪れた千鶴。
中で湯呑を簡単にすすぐ斎藤の姿を見つけ、声をかけたのだが。
「いや、薬を飲んだだけだ。僅かだが動きが鈍いようなのでな」
「動きが・・?あ、昨日の怪我ですね・・青くなって・・大丈夫ですか?」
斎藤の左手首に青より、黒ずんでいるその痣に千鶴は自分が痛そうな視線を向けた。
「痛みはない。心配することはない。今、薬も飲んだところだ」
「そうですか・・(痛みがないのなら、何の薬飲んだのかな?)・・今からご飯作るので、出来たらお呼びしますね」
「ああ、昼は千鶴が作るのか。・・楽しみ、だ・・・・な・・・・・?」
自分の目の前の少女が、どんどん自分を超えて大きくなっていく。
いや、違う。見るもの全てが自分よりはるかに大きく、高く・・・
目の前で目をまんまるにして、白黒させて、自分を見下ろす千鶴。
どう、したらいいのか。
何か考える訳でもなく、目を周りに向けてはみるものの・・・土間に転がる小さな石が巨大な岩のように。
たったあと数歩で届いた筈の扉が、とても遠く、そびえたつように見える。
「・・・・さ、さささ・・・斎藤さんっ!!」
「・・・落ち着け」
「落ち着けって、だってこんなの・・ど、どうしてっ・・」
こんな時、自分より慌ててくれる者が目の前にいる、ということで却って自分はこんな状況でも落ち着ける。
「・・俺にもわからないが、ここにいても仕方あるまい」
とてとてとて、と小さい歩幅で颯爽と歩き出す斎藤。
千鶴はその行先へ視線を向けて、斎藤に視線を戻した。
「・・・斎藤さん、どちらに行かれるんですか?」
「副長の許へ報告に。明日しなければならない任務に支障が出るかもしれぬしな」
こんな事態でも、明日の任務・・・斎藤の小さくなっても変わらない凛とした態度に、千鶴も徐々に落ち着きを取り戻してきた。
「土方さんのところ・・じゃあ私が斎藤さんを運んで・・」
「いや、いい。小さき身でも出来る事は自分でしなければ・・」
「でも、斎藤さんそこの扉、開けられますか?」
・・・・・・・・・・
斎藤がピタっと足をとめて戸を見上げた。
猫などの小動物が入り込まないように、すぐに締められるのだが・・・
「それに、土方さんの部屋の戸も・・」
千鶴の言うことは尤もで。
案外自分が落ち着いているようで、ちゃんとこの事態を認識していないということがわかってきた。
「それに、猫とかに襲われたら大変だし」
猫に襲われるっ!?
ガーン!!
千鶴の言葉に、斎藤がふるふると体を震わせた。
そんな事態は全く憂慮していなかった。
三番組組長が猫に襲われて万一にも怪我を負ったなど、笑い話にもならない。
「・・あ、すみませんっ大丈夫ですよ。そうならないように・・はい、私が連れて行きますから」
「・・・・・・・すまない。頼む」
斎藤は千鶴の掌に素直にちょこんと乗って。
誰にも見つからぬように、注意をしながら土方の部屋へと向かったのだった。
「副長、斎藤です。今、よろしいでしょうか」
「ん?斎藤か?おお、入れ」
若干いつもより声を張り上げているような…なのに小さく耳に届く声。
風邪でもひいたのだろうか・・と仕事の手を休め、くるっと体を後ろに回してみれば何故か千鶴が立っているだけ。
「・・・・・・?今、斎藤が声をかけたと思ったんだが・・」
「あ、はい。斎藤さんです。そこに・・」
「何言ってやがる。どこに、も・・・・・・・・っ!?なっ!!さ、さいっ!?」
そこに、と千鶴が指し示した方向には人影などない。
冗談に付き合っている暇はと思えば、畳のへりにちょこっと立つ人形よりも小さいもの。
千鶴が作ったものだろうか、と凝視すれば、それがぺこっと頭を下げたのだから、土方と言えど、さすがに動揺するだろう。
夢かと思ったのか、目をごしごしと擦って、それでも消えずに小さく正座する・・指人形のような斎藤が、
「副長、このような姿になってしまい、申し訳ありません」
と、手をついた姿に、漸く「てめえのことの心配をしろよ」と苦笑いを浮かべて、言葉を返すことが出来たのだった。
それでもさすが、と言うべき対応反応である。
「それは・・あれか?何かの実験とか、か?」
一人、こんなことを可能にしてしまいそうな人を思い浮かべながら、土方は斎藤をまじまじと見つめた。
「いえ、突然このような姿に・・千鶴はその様子を見ておりますが、特に変わったことは・・」
「そうですね。私の目の前で・・あ、でも斎藤さん薬飲んだって・・・」
そういえば、と千鶴が土方に付け加えるも、すぐに否定の言葉が斎藤の口から発せられた。
「いや、あれは石田散薬だ。このような症状になることはない(きっぱり)」
「「・・・・・・・・・・・」」
いや、それはそうなのだが、どこかで一抹の不安に絡れるのは何故だろう・・・
「・・他に、普段と変わったことはしてないのか?」
「はい。通常通りです。ただ怪我をしたせいか、剣は普段よりも鈍い気はしましたが・・・」
それで石田散薬を飲んだのか・・・斎藤には一度きちっと話すべきなのかもしれない。
土方は別のことで頭を悩ましつつも、深い溜息の後、わかったと言葉を吐き出した。
「この件については、俺と・・数名の幹部で調べる。山崎ももう戻って来る頃だしな・・」
「あの、私にも何か手伝えることあったら・・・」
「ああ、千鶴は・・・斎藤の傍について身の回りのこと見てやってくれ。その調子だと一人で放っとくわけにもいかねえからな」
とりあえず、他の隊士にも似た症状が出ていないか、報告を洗い出していくか・・と腰をあげた土方に、斎藤は自分の失態を悔やむように苦い顔を浮かべた。
「・・個人のことで、副長の仕事に支障をきたしてしまい・・申し訳ありません」
「気に済んな。さっきも言ったが・・てめえの心配をしろ。千鶴、頼んだぞ」
頼りある土方の背中に、二人は半ばぽうっとしつつ、頭を下げたのだった。
二人が戻ったのは千鶴の部屋。
広げた反物を膝の上に広げて、千鶴は何をする訳でもなく、じっと微笑ましそうに畳の方に目を向けていた。
千鶴の視線の先に、糸を小さな針の穴に通して千鶴に差し出す斎藤の姿があった。
パチパチっと千鶴が手を叩く。
「ありがとうございますっ斎藤さん」
「・・・いや、世話になるのに・・これくらいしか出来なくてすまない」
針を受け取る千鶴に、申し訳なさそうに項垂れて。
そんな斎藤に千鶴はゆっくり首を振った。
「世話になるだなんて・・・私は何もしてませんよ。一緒にいるだけです」
「・・それがありがたい、と言っているんだが」
もし、もしも千鶴がいない時に、この姿になっていたら・・
今頃まだ勝手場で悪戦苦闘していたかもしれない。
一人きりなら、ここまで平静でいられなかったかもしれない。
感謝をこめて、千鶴を見上げる斎藤の目に、映したくない巨大な人影が千鶴の背後に映った。
本当に、気配を消すことに長けている・・これ以上ない厄介な人物だ。
斎藤がその姿を認めて、針山に刺してある針を一本拝借しようと動いている間に…
「ち〜づるちゃん。針仕事?精が出るね」
「沖田さんっびっくりした・・いつから・・」
「今だよ。休憩だからさ。休もうと思って。休ませてね」
部屋に入るなり、千鶴の肩にもたれる総司に、千鶴は慌てながらも見えなくなった斎藤の姿に気が付いた。
・・・・・あれ?斎藤さん・・さっきまでそこに・・・
いたのに。と千鶴が思ったのと、「っつ!」と総司が声をあげたのは同時だった。
「・・沖田さん?どうしたんですか?」
「・・いや、今手に何か刺さって・・」
「刺さる?針が落ちていたのかな・・すみません・・」
総司と千鶴と、二人が目線を下に向けると、そこには針を総司に向けて、小さくても千鶴を守るように佇む斎藤の姿が。
「総司っお前は休憩でも千鶴にはすることがある。邪魔をするな」
「斎藤さん、よかった。そこにいたんですね・・・って針?」
「・・・・・・・刀の代わりのつもり・・ってことかな。だけど、ふうん・・・・・っぷっ・・」
総司を睨む斎藤の顔が真剣なのに。
悪いことなんてしたなどとちっとも思っていないように、総司は一気に破顔した。
「あ〜はっはっはっ・・っ!!何それ!!聞いてはいたけど、本当に小さい・・くっ駄目だ、面白くてお腹痛いよ。・・ははっ」
「何が可笑い。早く部屋に戻れ。お前に付き合うほど千鶴は暇ではない」
「ははっ・・くっ・・・はあ・・・ああ、笑いすぎた・・・そんなこと言っていいのかな、斎藤君。守っているつもりだろうけど・・」
針を構える斎藤を、ひょいっと総司はつまみあげた。
意地悪く笑って、ぷーらぷーらとその体を揺らす。
「何をするっ放せっ!!」
「放してもいいけど、まっさかさまだよ?いいの」
「沖田さんっ止めてください!」
もう、と千鶴が優しく斎藤を奪い返した。
すんなり千鶴の手に戻れた斎藤に、千鶴の心配そうな目が近くに寄せられる。
「斎藤さん、大丈夫ですか?」
あんなに揺らされて、気持ち悪くないだろうか、と気遣う千鶴に、いや、大丈夫だと返す斎藤の顔は何となく赤い。
そんな様子を見ながら、総司は目を細めて「へえ」と含んだ声を出す。
「千鶴ちゃんに守ってもらってるんだ、よかったね斎藤君」
「・・・・・・・・・・・」
むっとした表情を総司に返す中、千鶴が違いますよ、と口を挟んだ。
「斎藤さんは、私なんかいなくても落ち着いてて・・小さくなった時も私の方がうろたえてたくらいで・・すごく頼りになるんですから」
ね、と微笑みかける千鶴に、斎藤は総司の手前どのように応えたらいいのかわからず。
総司は面白くなさそうに、あ、そうと答えた後。
「あ、そういえば土方さんが呼んでるよ。やっぱり山南さんの薬のせいだったみたいだってさ」
「・・・・・それを早く言えっ!!」
「言おうとしたけど、斎藤君見えなかったからさ」
悪気あるのに、悪気のない顔してへらへら笑って。これ以上憎たらしい顔はないだろう。
「戻れるといいですね」
千鶴の言葉が優しくかかる。
戻れればいい。そうではないと困るけど・・自分を支える手の温もりに、少しさみしさも感じていた。
事の発端は、偶然できた薬。
それをしまうものがなかったので、石田散薬の包みに入れさせてもらったとのことだった。
元々入っていた薬はどうなったのか、それは山南さんのみぞ知る…
「それで、元に戻るには・・」
「安心してください。あなたの他にも小さくなってしまった隊士がいるのですが・・元に戻れています」
「・・・山南さん、その報告。俺は聞いてねえぞ」
土方が眉間を押さえながら、ぼそっと口を挟んだ。
当然である。こんな薬の存在が漏れたら大事なのだ。
「ああ、そうでしたね。これは実用性には欠けるので・・偶然できたもので私にも仕組みがわかっていませんし」
だからですよ、といとも簡単に言い切る山南に、平助がええ?と声をあげた。
「でもさ、何かの役には立ちそうじゃん!」
「・・・たとえば何だよ?」
「え〜と・・監察とか、いいんじゃね?見張ってるのバレないしさ!」
「・・・・・・では藤堂さんがどうぞ」
きゃっきゃっと盛り上がりかけた平助に、山崎が冷たい一言で区切らせた。
本当に採用されて一番困るのは誰か、という話にもなってくる。
「ああっ黙れ!とにかく・・元に戻す方法は何なんだよ」
「はい、一番実用性に欠けるのがこの点です。女性に口付けてもらわねばならないようですね」
・・・・・・・・・・・・・・シン・・・・・・・・・・・・・・・・
「女性ね〜女性って言ったら、ここには千鶴ちゃんしかいないけど・・?」
「ち、千鶴は駄目だって!!オレは反対っ!!それならそれこそ、千鶴じゃなくて他の・・誰かに・・」
「斎藤はそういう奴いないだろ?難しいな。それ」
「だよなあ、ちっこい斎藤連れて島原行っても大騒ぎになりそうだしよ」
「だとすると・・やっぱ・・・」
皆の視線が千鶴に集まる。
・・・えっと、斎藤さんには他にそういう女性がいなくって、島原とかは騒ぎになるし、ここには、わ、私しかいなくって・・・
そういう女性がいないというところで、何故か胸がほっとする。
それに、慌てはするけど、嫌じゃない。
「さ、山南さんっ!それって・・人間の女性じゃないとダメなのか?」
「いえ、他の動物で試してはいないのでわかりませんが、まあ無理でしょうね」
「というか、平助・・お前、斎藤に動物にさせる気だったのか?それはお前・・」
「でも猫とかなら、って思ったんだよ!」
皆が騒いでいる中、千鶴はどきどき止まらない胸を押さえながら、必死に落ち着こうとしていた。
斎藤の方に目を向けてみるが、背中を向けているのでどんな表情かわからない。
私で、いいなら・・・
高まる胸の合間に、そんな感情が湧いてくる。
斎藤さんが、私でいいと・・言ってくれたら・・
『私は、かまいません』と口にしようとした時、斎藤のはっきりした声が騒ぐ一同を静かにさせた。
「千鶴に頼む気はない」
さっきまでドキドキしていた胸が、とくっと暗い波紋を描くように沈んでいく。
突き放すように聞こえた声―
「・・・まあ、そうですね。それがなくとも一週間程度で元に戻れるとは思いますが・・」
「・・それなら俺はその方が・・・副長、よろしいでしょうか」
「い、いや。俺は・・構わねえが・・」
ちらっと土方が千鶴に目を向ける。
ぎゅっと袴を押さえこんだ小さな拳が、震えているように見えた。
「・・・あ、あの・・私夕餉のお手伝いしてきますね」
あげた顔は笑顔だった。
そのまま、逃げるように部屋を去る千鶴の背中を見た後、皆の視線が斎藤に集まる。
「・・・・・・・斎藤、お前な。あれはないだろっ!?千鶴ちゃん可哀想に・・」
「そうだよ!ってオレが言える義理じゃないけどさ〜・・あんな冷たく言わなくってもさ」
「・・・・・新八、平助・・何を・・?」
二人の責めるような言葉に、斎藤が困惑したような表情を浮かべる。
そんな三人の様子に、残り四人が同時に溜息。
「あのな、斎藤。千鶴のやつもきっと新八や平助みたいに思って、落ち込んでんぞ?」
「・・??千鶴が落ち込む?何故だ」
「まあ、あのような言い方では、自分が拒まれた、と思ってもおかしくはないでしょうね」
「・・・拒む?」
左之や山南の言葉に、ますます混乱したのか、斎藤はいつもの平静を崩していく。
「斎藤、お前の・・千鶴への気遣いが裏目に出てるってことだ。千鶴が嫌なんじゃねえんだろ?」
「ち、違いますっ千鶴が嫌、などと言うことは・・」
「ないよね、でも千鶴ちゃんはきっと・・・私なんかとしたくないよね、当然だ〜ってへこんでいると思うよ。・・あ〜面倒臭い。僕が小さくなれば簡単だったのに」
土方と総司の言葉に、漸く、千鶴に誤解されたのだということがわかってきた斎藤は、そのまま部屋を飛び出そうとしたのだが・・・
ひょいっとつまみあげられた。
「・・なっ」
「その格好でうろうろさせられないって聞いてた?残念だけどご飯はここで、だよ」
「気持ちはわかるが斎藤、飯食い終わるまでは待っててくれ」
総司だけではなく、土方にもそう言われ、言葉なく斎藤は頷いたのだった。
行灯の灯を消していいものか、千鶴は悩んでいた。
ご飯の後、先に湯あみをさせてもらって部屋に戻った時には、斎藤は千鶴の部屋にちょこんと座って待っていたのだが。
普通に接しようと思っても、何故か機嫌が悪いのか・・「ああ」とか「そうだな」とかそんな一言しか返してくれなくて。
部屋を片付けていても、床の用意をしていても、邪魔にならないように手伝おうとしているのはわかるのだが…
「・・・斎藤さん、灯り、まだ付けておきますか?」
「・・・ああ・・・・い、いや・・・」
・・?まだ寝ないということだろうか。
簡単につくった小さい床に入ろうとせずに、何故か離れた場所で正座して動こうともしない。
・・座禅とかかな?寝る前に精神統一・・とか?
私邪魔じゃないかな、思いながら、起きていようか先に寝てもいいのか悩んでいた千鶴に、「千鶴」と斎藤の声がかかった。
「・・はいっ」
「は、話しがある」
そこに座って、聞いてくれと言う斎藤に、思わず千鶴も正座して姿勢を正したのだが…
「その、元に戻るのを・・千鶴に頼む気がないと言ったのは・・」
「・・・・・・・・・・・」
「千鶴では・・と思った訳ではなく、いや、俺がそう思う筈もなく・・」
「・・・・・・・・・・?」
言葉を選んでいるのか、必死に話そうとする斎藤の邪魔をしないように、千鶴は黙って聞こうと口を閉ざしていたのだが・・
「・・・・・・・・その、とにかく、嫌だと言う訳ではなく、その逆で・・だから・・」
「・・・・・・・・・・・??」
嫌じゃなくて、その逆なら・・・何故頼まなかったのだろう…
「・・すまない。言葉が足らずに・・傷つけた、だろうか?」
「・・いえ・・・あの・・つまり、斎藤さんは私の事、嫌い・・じゃないってことですか?」
「そう伝えたつもりだったが、伝わらなかっただろうか」
不安げに顔をあげた斎藤の顔は、いつもと違って感情豊かな表情に見えて。
安心と、そんな表情に千鶴は思わずほっと顔を和らげた。
「よかった・・・嫌われてるのかなって・・だから・・・」
嬉しそうに、口角をあげる千鶴。
嫌われてないならよかった、と・・そう告げる千鶴に、そうじゃない、伝わっていないと斎藤は唇を引き締めた。
「俺は・・千鶴、千鶴を…他の者とは違う感情で、大切に思っている」
「・・・・・・・え」
千鶴から緊張した雰囲気が伝わってくるけれど、それに気遣う余裕なんかないほど、斎藤自身も緊張していた。
「大切だから、こういう理由で・・したくなかったんだ」
「・・・・・・・斎藤さん・・・」
千鶴の顔が見れない。
迷惑そうな顔をしてないだろうか。
突然こんなことを言われ、気まずそうにしてはいないだろうか。
続く沈黙に、千鶴が動いたのか衣ずれの音が耳に届く。
一歩、二歩、自分に近づいて・・斎藤の傍にゆっくり座って。
「・・・・・・・斎藤さん、元に、も、戻ってください」
「・・・・・・・・?いや、それは・・・」
「元に戻って、もう一度、言ってください・・・」
千鶴の言葉に、そおっと顔をあげれば、顔を真っ赤にして俯いてる千鶴と目が合った。
「・・・こういう理由、じゃないです。斎藤さんが、私にとって大切な斎藤さんが元に戻るためですから・・」
「・・・・・・千鶴」
それは、自分の気持ちを受け取ってもらえたと思っていいのだろうか。
同じ想いを抱いてくれてると思っていいのだろうか。
―薄暗がりの中、ゆっくり近づく二人の影。
触れたか触れないか、わからないくらいの初めての口付け。
斎藤が元に戻ったのはすぐにわかった。
千鶴を包み込む腕。抱きしめてくれる胸。
夢心地に、現を感じていないのか・・そっと添えられる程度に―
「・・よかった・・元に戻った・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・あ、こ、このお布団使わなかったですね。一度寝ているところを見たかったな・・なんて・・「千鶴」
触れる場所、触れない場所、それが覚束ない程度に優しく抱きしめられて。
急に恥ずかしくなってきて、その腕から逃れようと身じろいだ途端、かけられた声。
声に捉われたように動けない。
「・・・・もう一度――」
いいだろうか―と小さく添えられた言葉。
耳から虜にされるような、低く甘い声。
考えることなんてできない。ドキドキと早鐘のような心に促されて、じっと見つめる青の瞳に魅入られたまま、頷いた。
頬に戸惑いがちに触れる手。
千鶴がこの腕の中にあると漸く実感したのか、斎藤の目が細まって。
近づく距離。
お互いの呼気を感じて、目を瞑る。
『一度』ならず何度も交わした優しい口付けの後、離れがたいように「好きだー」と告げられた―
END
斎藤さんverいかがでしょうか…?
ええと、元に戻るためのキスをどうしようかって…悩んで。
結局、このような形にしました。
え、この後どうしたんだろう…とか^/^
続き・・・え?斎藤さんなら部屋に戻りますか?いやいや…(笑)
ちなみに、相思相愛じゃないと元に戻らないんですよ、ふふっとか朝、山南さんに言われて。
斎藤さんと千鶴は二人で真っ赤。
一部の幹部は打ちひしがれているんじゃ・・と思います(←)
挿絵つきなので、イメージ違うって思われた方はすみません。
楽しみつつ、読んでくださると嬉しいですv