続・雪村千鶴禁止!








「出来た・・・意外に時間のかかるものだな」

ふう、と安堵の息を吐きながら、ゆっくりと今自分がしたためた文を折りた畳んでいく。
今は何刻くらいだろう?もっと早く書いて千鶴が寝てしまう前に渡したかったのに…


千鶴と出かけた帰り道、斎藤は気になっていたことを千鶴に問いた。

「千鶴、総司と…文のやり取りをしていたのだろう?」
「あ、はい…沖田さんだけ責められて、ちょっと…いえ、かなり申し訳ないんですけど」

私も悪いのに…と表情を曇らせる千鶴に、斎藤はどう切り出せばいいのか悩みつつ、話を続けた。

「文は…その、日常のことなどをしたためたようなものだろうか」
「そうですね、こんなことがありましたよ?とか、これどう思います?とかそんなことを・・・」
「そうか」

楽しそうに話す千鶴に、少し胸を痛めながら耳を傾ける。
なかなか…肝心なことが言えない。

「斎藤さんとは…文を交換したこと、ありませんね」
「!!」
「出そうかな?とは思ったんですけど、いきなり送られても迷惑かと思って・・」
「迷惑などではない。…そう思ってくれていたのか…」

千鶴がそう思ってくれているならば、多少言いやすくなった感がある。
斎藤は、総司と千鶴が文通していたのを聞いて、総司への怒りと共に、羨ましい、という気持ちもあった。
だから・・・

「千鶴・・・文を・・・」
「はい」
「その、拙い文章しか書けないと思うが、そんな文でも…渡したら、千鶴も返事をくれるだろうか?」
「はい、もちろん」

笑顔で微笑まれて、よし、帰ったらすぐに…と思ったのだったが。

終わってみれば真夜中である。

普通に考えれば朝に渡せばいいのだろうけど、朝から昼にかけては周りに気が付かれないように渡すのは難しそうだ(すぐに千鶴に張り付く一番組組長とかが主な原因)

・・・・・千鶴の部屋の中に、外からそっと差し入れておけばいいだろうか?

出来ればなるたけ早く渡したい。…どんな返事をくれるのか、気になって仕方ないから。
そう思い、斎藤は千鶴の部屋へ向かった。だが途中で「キャーッ」という千鶴の悲鳴のようなものが聞こえたのである。

急いで戸を開ければ、布団の中にいるであろう千鶴がじっと自分を見上げているような気がした。


「・・・・・・・・千鶴?どうした?」
「さ、斎藤さん。こんな時間にどうしたんですか?」

・・・・・・悲鳴をあげたような気がしたのだが、普通に布団に入って寝ていたのか?

「いや、これを部屋に置きに…と思って…その、昼間話していた・・・」
「あ、文ですか?わ〜!もう書いてくれたんですね…・ひゃあっ!?」
「ど、どうした!?」
「なな、何でもないです。何でも、はい・・・・」

もちろん、布団の中に忍んでいる誰かさんが、むっとして千鶴に手を出しているのだけど。

「・・・・・意外に難しいものだな、時間がかかった」
「え・・・今までずっと書いていたんですか?」
「・・・そうだな、どう書けばいいのか、なかなか思い当らなくて・・・」
「・・・私も返事、時間をかけて書きますね・・・ひゃっ!!」

繰り返すことになるけど、布団の中の誰かさんは全く面白くないのです。

「・・・千鶴、どうした?何か様子がおかしい」
「い、いえ、しゃ、しゃっくり、しゃっくりがね?止まらなくて・・・っ!!」

・・・・・・沖田さん、絶対面白がってる!!もう!!(←本当は半分、いやほとんど嫉妬だと思うけど)

「横隔膜が・・・苦しいか?川で袴を濡らしたし・・・連れ回して風邪でも引かせたたろうか?」
「いえ、違います。大丈夫です・・・っ!!!」

どう見ても大丈夫に見えない千鶴に、斎藤はそっとおでこに手を当てた。
ひやっとした手がそっと触れる。

「・・・・・・熱い、やはり風邪か」
「ええっ!?そんなはずは・・・・あ、斎藤さんの手が冷たいからじゃ・・・」
「いや、熱がある・・・待っていろ、今薬を・・・」
「あ、ちょっと、斎藤さん!」

言うが早いが、斎藤は部屋を出て行ってしまった。
足音が遠ざかっていくのを聞いて、千鶴は布団を引っ張り、悪戯の張本人を引っ張り出した。

「沖田さん・・・今の内に部屋に戻ってくだ「絶対、嫌」
「何でですか!大体…あ、あんなに人の体を〜・・・」
「うん、人の体を〜何?」

続きをどう言えばいいのか、わからなくて押し黙る千鶴に、総司の勝ち誇った笑顔が暗闇の中でもはっきりと見えそうな気がした。

「大体…はこっちの言葉だよ。千鶴ちゃん〜やっぱり言ってないことあったね?」
「え・・・」
「文、・・・僕とは怒られたのに、斎藤君とは堂々とするんだ、へえ〜」
「あ、あの・・・」
「おまけに蕎麦屋も二人の秘密にしたいっぽいし」
「秘密というか・・・・・・・」
「僕が部屋に戻れば、もうすぐ戻る斎藤君と君が二人きりになる。だから…・」

そう言ってそのまままた布団に入ってしまった。

総司にしてみれば、自分の方が先を行こうとするのに、最後にはいつも斎藤がおいしいところを持って行くような気がしてしまう。ここで部屋に戻るなんてもってのほか。
二人の甘くなりそうな雰囲気、絶対阻止!
そう心に決めて、また頭まで潜ってしまった。・・・子供である。

「・・・ところで沖田さん(←すでに部屋に戻ってと言うのは諦めている千鶴)、斎藤さんが来るのわかっていたんですか?」
「ん?何で?」
「だって・・・やっぱり来たって言ったから・・・」
「ああ、そんなの簡単だよ。僕が君と仲良くしようと思ったら・・・必ず見計らったように現れるから。本当、邪魔だよね」
「・・・・そ、そうなんですか」

それだけの理由か、と内心千鶴は思っていたのだけど、口には出さずに。
総司がばれないように隠すよう座って斎藤を待っていた。すると・・・


「千鶴、待たせたな。これを・・・・・」
「・・・・・・・この包み・・・・あの、屯所に置いてある常備薬じゃないですね・・・」
「これは俺のだ」
「・・・・・・・じゃ、じゃあ「石田散薬だ、これで飲むといい」

水まで渡されて、うっと言葉が詰まる千鶴に、総司が笑いを堪えているのだろう、体を震わせているのが伝わって来た。
・・・・・・笑わなくても!!もう〜・・・

「じゃ、じゃあ、ありがたく頂きます」
「ああ」

千鶴は万能薬を口に入れると、そのまま水を一気にあおったのだった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あ〜あ、よりにもよって、酒なんかで飲ませたら・・・・そりゃこうなるよ」
「あんなに飲み干すとは思わなかったんだ。大体総司!おまえがそんなところに隠れていかがわしいことをするから・・・」
「ん?いかがわしいことって何だろう?僕にはわからないな〜」
「おまえ・・・・っ!!」

一気に水・・・・否、酒を飲みほした千鶴は、そのままカ〜っと喉に集まる熱に体を震わせて、倒れてしまった。
慌てて斎藤が千鶴を抱き起こそうとしたのだが、、それを総司が布団から出て来て止めて。
その時の斎藤の衝撃ったらなかっただろう・・・・


「これは〜…土方さんにばれたら…また禁止令じゃない?お気の毒だけど、大丈夫。千鶴ちゃんのことは僕がしっかり見てあげるよ」
「・・・・・・・・・・総司、人の事は言えないだろう?おまえ自分が何をしていたのかわかっているのか?」

危うく刀を抜きそうになったけど、ぐっと耐えられた自分は本当に偉かったと斎藤は思う。
この男が・・・あんなところに一緒にいて・・・何もなかったわけ、が・・・・・・・

考えてしまうと思考がどんどん悪い方へと落ちていってしまう。
斎藤は頭を振って、取り敢えず、今は千鶴のことを、と切り替えようとした。・・・のに。

「千鶴ちゃん・・・柔らかかったな・・・」

その言葉で堪忍袋の緒は、そりゃもうあっさりと切れてしまった。

「総司…おまえには言葉ではわからないだろう、助力しよう。その性格を修正しろ」
「・・・・へえ、やるの?いいよ。僕と同じように文をしようとしてたくせに、そんな男に修正される気はないけどね」

二人が一気にまがまがしい空気を放って、危うく一戦!!と思われたその時、

「ふにゃあ・・・喧嘩は、だめですぅ」

気を抜いてしまうような声が…(二人にはとても可愛すぎる声)耳に入った。
二人がそっと視線を千鶴に向けると、よろよろしながら千鶴が立ち上がった。

「また、けんかしてぇ!!なんろ、言えば・・・わかるんですあ?」

本人はビシっと指を差して、指摘したつもりだけど、実際はふにゃっと曲がった指をよろよろ立たせて、小首を傾げて言っているのである。

「完全に…酔っぱらってるね」
「そうだな・・・しかし・・・・・」

・・・・・・・・・可愛い・・・・・・・・・

二人は同時にそう思っていた。

「千鶴ちゃん、僕はね、喧嘩したい訳じゃないんだけど、斎藤君が突っかかってくるんだよ」
「そうあんれすか!斎藤あん!」

先手必勝とばかりに、総司が斎藤のせいにして、千鶴に懐こうとするのを引き離しながら、斎藤は、

「違う、総司が千鶴に度を過ぎたちょっかいを出すからだろう!」
「そうあんれすか!沖田あん!」
「うん。だって、千鶴ちゃんが好きだから」

てっきり否定すると思ったその言葉に、総司があっさり頷くのを見て、斎藤は目を見開いた。
・・・・何を考えているんだ?

「私を好き・・・だかあ?」
「うん、好き。千鶴ちゃんは?僕のこと好き?」
「あい、好きれす」

・・・・・・・じ〜ん
・・・・・・・ぐさっ!!

酔っているとは言え、それが二人の意味合いする『好き』とは違う、と頭の中でわかってはいても、二人の反応は正直なもの。

「そっか、好きなら・・・じゃあ口付けてくれると嬉しいな、ここにね」

総司がそっと指を自分の唇にあてた。

「総司、千鶴に変なことをさせるな。そういう意味じゃない」
「・・・わかってるよ、冗談だよ、冗談…・―――」

総司と斎藤の時が同時に止まった。
千鶴が、自分の唇をそっと総司の唇にあてていたから。
つながった唇をそっと離すと、千鶴はむっと口を尖らせた。

「本当に、好きれすよ〜!冗談じゃ、らいもん」

・・・・・・・・・力が抜ける・・・・い、いきなりこんなの・・・・・・
自分らしくないのはわかるけど、すごく顔に熱が集まるのを感じる。
僕、僕を好き?ほ、本当に・・・・・・・どうしよう、嬉しい、足に力が入らない。

目を横に向ければ、放心状態の斎藤が。

「千鶴ちゃん・・・」
「あい」
「ほ、本当に好き?斎藤君より?」
「斎藤あん?」

千鶴が思案するような仕草できょろきょろ頭を動かす。
立ち尽くす斎藤を見つけて、何故か嬉しそうに笑顔を満開にして・・・・

―――あ・・・これは・・・・・まずい、・・・でも足に力が入らない〜〜っ!!

総司の目の前で、千鶴が斎藤に近づく。

「斎藤あんも、好きれす!好きあ人には・・・」

言葉を最後まで言わずに、千鶴がそっと唇を重ねる。
放心状態で、顔に色がなかった斎藤に、一気に朱が差していく。
一瞬たじろいで離れかけた斎藤の唇を、千鶴はもう一度捕まえた後、ゆっくり離れた。

「冗談じゃ、ないれす〜」

何が楽しいのかにこにこ笑う千鶴に、二人はどうしていいのかわからない。

「・・・・・・・ずるくない?斎藤君二回、二回してたでしょう?じゃあ、僕も・・・」
「なな何を言っているんだ、おまえは!だ、大体・・・あれは千鶴から・・・」
「だから、僕も千鶴ちゃんにもう一度してもらうの!・・・くそ、すごく喜んだのに・・・」
「総司、待て!待てと言っているのに」
「うるさいな、二回もしてもらって余裕なの?」

言い合う二人の背後に、突然ものすごい怒気の固まりのようなものを感じた。
酔っていた千鶴も、あれえ?とその方向を見る。

「あ、土方あん!!沖田あん、斎藤あん、土方あんが遊びに来ましあよ〜」

「「・・・・・・・・・・・・・」」(また禁止令って言われそうで、振り向く勇気のない二人)

「おまえら・・・禁止令解けた途端に・・・この様か?ほ〜・・・いい度胸してるじゃねえか」
「いい度胸れす!」
「千鶴は黙ってろ!ったく・・・・・こんなにべろべろにさせやがって・・・何で酒なんか・・・」
「酒じゃないれす。水れす」
「だから、おまえは黙ってろ!って言ってんだよ」

いちいち絡んでくる千鶴のおでこを指でついて、押しやると、総司と斎藤の前に回りこんだ。

「で、一から説明してもらおうか」
「・・・・説明するから・・・禁止令はなしでお願いします」
「何都合のいいこと言ってんだ!てめえは!」

話せば話すほど、眉間に皺寄せる土方に、二人は正座で沙汰を待つ。

・・・・・・・もう一度禁止令が出たら、どうしよう?

そんな不安で胸いっぱいになっていたのだけど。

「千鶴、おまえも誰かれ構わず、めったなことするんじゃねえよ」

おまえにも責任の一端はある。と土方が千鶴を諌めると、千鶴は・・・

「・・・・違いあす〜沖田あんと、斎藤あんだけです!土方あんには・・・してあげらい」
「誰がしてほしいか!馬鹿かっ!」

説教で落ち込み気味の二人には、そのやり取りは気持ちを浮上させるのに十分だった。

「千鶴ちゃん、それってつまり、僕は少なくとも・・・・特別ってことだよね?」
「あい」
「総司、おまえだけではないだろう、・・・千鶴、俺も・・・特別な『好き』のか?」
「あい」

「ちょっと斎藤君!何また『好き』とか単語入れてるんだよ!僕がすごく遠慮がちに聞いてるのに!」
「おまえだって、いつもいつも自分のことだけ取り上げて、いいように解釈するだろう!」
「うるせ〜夜中に騒ぐな!!!」

一番うるさく怒鳴ったのは土方さんだけど・・・・

次の日、どんな沙汰がくだされたかはまた別の話。






雪村千鶴禁止!
勢いでだ〜っと書いたものの続編を書かせて頂きました。
甘めより、ノリが大事な作品です(笑)

この後、どんな沙汰が下されたは、皆さまでご想像なさってくださいv

艶姿の三人EDの続きなので、どちらとくっつくとかではなく、あくまで三人でわいわいさせました。
楽しんで頂けたら嬉しいです(^^)/