「続・雪村千鶴禁止!」





す〜っと穏やかな寝息をたてる千鶴のもとに、そ〜っと足音を忍ばせて近づく人物一名。
千鶴が眠っているのをそっと顔を近づけて確認する。
暗くてよく見えないけど、いい夢を見ているのか、柔らかい表情をしているように見えなくもない。

「・・・もちろん、僕の夢だよねえ?」

これでもし、千鶴が斎藤の名前でも寝言で言えば、大事になっていただろう。
冷え切った部屋、千鶴の吐息が頬にかかる。
そこだけが温かくて、総司は自然に顔を緩めると、そのまま千鶴の背後にまわり、布団に入ってしまった。(寒いんだから仕方ないよ)
千鶴の背後からそっと腕を回して…首の下に無理やり腕を通して、自分の方に引き寄せたのだった。


・・・・・・・ううっ!?つ、冷たい!

布団の中は温かいはずなのに、急に寒気を感じて体を震わせる前に、首にひやっと冷たい感覚が。
うっすら目を開けば、何故か誰かに抱きしめられているような・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「っ!?キャもぐ〜〜〜〜〜!?」
「し〜…千鶴ちゃん、みんな起きちゃうよ」

こ、この声は・・・・

「沖田さん・・・な、何していらっしゃるんですか?」

体を総司の方へ向けようとしたけど、がっちり抱きしめられて固定されて動かない。

「だって、約束したじゃない」
「約束?」
「うん。明日一緒に、いっぱい話そうねって。待ってるって、君言ったよ」

確かに言った。言ったけど…今は夜中ですよ…
それにこの状況でお話とか言われても・・・

「もう子の刻過ぎたし、晴れて僕は禁止令解除」
「はあ・・・」
「で、千鶴ちゃんが待ってるって言ってたから、来た」

・・・・・沖田さんには、お昼の空いてる時間に、お話しましょう。ときちんと言わなければいけないのでしょうか。

「・・・ま、まさか今からお話とか・・・」
「う〜ん、本当は話すんじゃなくて、添い寝で取り敢えずよかったんだけど」
「そ、添い寝!?よくない!よくないです!!というか、まず布団から出てください」
「嫌。寒いのに」

きっぱり即答。腕の力をぎゅうっと強く込められる。

「こ、こんなところ見られたら、また禁止令になりますよ!?」
「うん。見られないように朝には戻る」

朝までいる気ですか・・・?
・・・いけない、ということはわかってはいるんですね・・・

「沖田さん、お話ならお昼に・・・」
「え〜千鶴ちゃんせっかく起きたのに。…待ってるって言ってたのに、話したくないんだ」
「そ、そういうわけじゃ・・・」

急に声を落とす総司に、千鶴は慌てて振り向こうとしても、全く体が動かないから無理。
振り向いたら笑いをこらえる総司の姿が目に入ったかもしれない。

「千鶴ちゃんは…斎藤君とお出かけして、いっぱい話してもう楽しんだから、僕はいいんだ」
「違いますっ!そんなこと・・・」
「禁止令解除になって、ようやくいっぱい話せると思って、僕は楽しみにしていたのに」
「私だって、楽しみにしていましたよ?」

千鶴からその言葉を聞いて、じゃあ、いいよね?とねだるような声が聞こえてくる。

「え、・・・で、でも、それとこれとは…お昼に話せば…」

・・・・千鶴ちゃんって意外に折れないな・・・じゃあ・・・

「ねえ、君が斎藤君と出かけた後、僕が何してたと思う?」
「え?…稽古とか?」
「土方さんのお説教。正座で。みっちり」

うっと千鶴は答えに窮する。
文通をしていたのは自分も同じで、本来なら自分もその場にいるべきだと思っていたのだけど。
土方に、まあ、いいから斎藤と出かけでもしてやればいい。と事前に言われていたのだった。

「文通をしてたのは…僕だけじゃないよねえ?」
「・・・はい。私もです」
「なのに、君は斎藤君と楽しくお出かけ・・・・・・」

みしっと音がなるんじゃないかと思うくらい、腕に力が込められて、慌てて力を緩めてほしいと咄嗟に腕をきゅっと掴めば、少しだけ緩んだ。けど、拘束状態は変わらず…

「僕はお説教。昼間はまるまる。それ、どう思う?」
「すみませんでした…私も怒られるべきなのに…」
「ううん、いいんだよ?僕は心が広いし(←)…でも、千鶴ちゃんが悪いと思うのならさ」
「はい、お話させていただきます」

ようやく観念した千鶴に、総司は顔が笑ってしまうのが止まらない。
後ろから抱き締めておいてよかった、と自分の判断に心の中で拍手していた。

「でも、この状態で話すのは…「そういえばさ」

千鶴の言葉を遮って、総司が肩に顔を埋めてくる。
二人の間に距離がまるで感じられない。
その状態を一度意識してしまうと、普通にしろ、と言われる方が無理で、千鶴はかっと顔に熱が集まるのを感じた。

「昼、斎藤君と…何してたの?」
「昼間ですか?何って…お出かけして散策です」
「うん、だから…それを詳しく聞きたいんだよ。・・・斎藤君勿体ぶってさ、僕が低姿勢で頼んでも教えてくれないんだ(大嘘)」

総司が話す度に、吐息がかかってくすぐったい。
この状況で落ち着いて話すなど無理だと思った。

「は、話しますから、取り敢えず、もう少し離れてください」
「なんで?」
「・・・お、落ち着かないからです」
「ふうん?」

何だか声がものすごく楽しそう。
そして離れ…てはくれなかった。
落ち着いていない方がいい、と訳のわからないことを言われ、千鶴はそのまま斎藤との一日を言わなければいけないことになったのである。




2へ続く!