嫁取り物語




8




「失礼します!斎藤さ、ん…っていない!?」

こんな夜中にどこへ?まさか島原とか??
ううっどうしよう…他に…平助君は見廻りだし…

一人であの修羅場に戻る勇気は、あんまりない。
というか、何がどうなって、ああなったのか・・・・

何か話がかみ合っていない時があった。

う~ん、待ってよ?沖田さんと、原田さんが土方さんの友人のお嫁さんが好きで。
その式を中止させたい…(正確には会食だけど)
だから式の準備を進める土方さんが許せない??

ん~…でもみんな興奮してたし、何かわからないけど、印・・・つけられたし。
これはどういうことなの??そういえば、俺以外につけさせるなって…う~ん・・・・・・


考えてもさっぱりわからない。
誰もいない以上、私があの三人を止めなきゃ…
斎藤の部屋の前まで来る時とは逆に、足取り重く、土方の部屋へ戻ろうと歩きだした時。

「だから、副長のことは尊敬していても許されることではない。そうだろう?む・・・・先ほどから返事がない・・・・・」

来る時は気づかなかったけど、左之の部屋から何かブツブツ小さい呟きが聞こえる。
でも、小さいけど、この声はっ!!

「失礼します!!斎藤さ、ん・・・・・・・・・(うっこの部屋お酒くさい~)」
「なんだ」
「の、吞んでいらっしゃたんですか?原田さんと一緒に??」

珍しいと思いつつ、空き瓶をそっと端にのければ、斎藤は首を傾げている。

「・・・・何故千鶴がここに?」
「何って…あ、そうだ!!斎藤さん、大変なんです。助けてください!!あの・・・・「もちろんだ」

斎藤は千鶴の言葉を遮ってすくっとその場に立ち上がると、千鶴に一歩二歩近づいて。
千鶴がほっとしたのもつかの間、部屋を出ようとする千鶴の手を、こんな時でも優しく包んだ。

「あ、あの・・・急がないと・・・」
「そうだな。わかってはいるが準備をしなければいけない」
「準備ですか?何の・・・・「もちろん、式のことだ」

ここでようやく斎藤が助けてほしいことを勘違いしていることに千鶴は気づいた。

「あ、あの、違います!それは今はいいんです!そうじゃなくて・・・「それは、いい?」

千鶴の言葉に斎藤が反応して千鶴の両手をそっと自分の両手で包みなおす。

「何故だ」
「何故って、それはだから・・・「それ以上に、大切なことなどない」

きゅっと一瞬手を強く握られたと思うと、そのまま千鶴の目を覗きこんでくる。

「気が変わったのか?」
「え?気がって…(・・・・え~と斎藤さんは式のことを言っているのよね?)そ、そうですね。土方さんと話して、やっぱり無理なのかなって気も・・・「無理じゃない」

斎藤がまた一歩千鶴に近づいて、繫れた手だけが二人を阻む壁のような感じになる。

「無理、というな。そんな風に気持ちを固めるな。俺は・・・・・・「さ、斎藤さん。お気持ちとっても嬉しいです」
「嬉しい・・・?」
「はい、嬉しいですよ。そんな風に真剣に考えるの、やっぱり斎藤さんだな~って・・・・でも今はあの急がないと・・」

今頃三人とも倒れているんじゃ・・・?
そんなことを考えて不安になり、さ、行きましょうとばかりに斎藤の手をそのまま引っ張ろうとすれば、その手は動かず。もちろん体もびくともしない。

「嬉しい・・・・嬉しい・・・・・」

斎藤は何故か顔を赤らめて、視線を横に逸らしている。

・・・・・・ど、どうしたのかな・・・・斎藤さんやっぱり少しおかしいけど、もしかして酔ってる?(←遅い)

「千鶴」
「は、はい。行きますか?」
「俺は真剣だ。」
「え?・・・・・(真剣?何が?・・・・・・・・も、もしかして斎藤さんまでそのお嫁さんを!?すごい…)←」

その人はどれだけ魅力的なひとなんだろう・・・(自分なのに…)
千鶴が一瞬呆けて動きを止めた。その時たまたま斎藤に視線を合わしていたのだけど。
斎藤が千鶴に視線を戻せば、じっと見つめられているように見えたかもしれない。

「そ、そういう、ことだ。覚えておいてくれ」
「は、はい。・・・・・・・って!あ、いけない!斎藤さん!行きますよ!!」
「行く?どこへ・・・・・・」
「土方さんの部屋です!今大変なことに・・・・・」
「副長の・・・?」

その瞬間に斎藤の顔が一瞬苦いものに変わる。
・・・・・・・婚姻を祝福しているのがそんなに嫌なのかな・・・・(←あくまでその考え)

「何故?」
「沖田さんと、原田さんが来て・・土方さんと喧嘩を・・・」
「・・・・・いや、左之は俺と吞んでいた」
「あの、・・・ほら、今いませんよ?」
「・・・・・・・・・いや、そこに・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・いませんから!!!!
どうしよう、今の斎藤さんじゃ
止められないかも・・・・
山崎さんとか?島田さん・・・・そうだ、平助君もうそろそろ戻る頃かも!!

「・・・・・斎藤さん、あの、ゆっくり休んでくださいね?私ちょっと・・・・・・・」
「どこへ行く。副長の部屋にか?」

繋いだ手をゆっくり放そうとすれば、何故かぎゅうっと強く握られた。
これじゃ、出られない…・っ!

「いえ、平助君のところにちょっと。それじゃ・・・・・」
「何故平助の許へいく?」

う~…真面目な表情の分、振りきれない!!!
でも、でもでも!!三人の為に鬼にならなければ・・・・

「すみません!斎藤さん、急いでいるので・・・」

無理やり手を放そうと体をぐ~っと傾けて、足に力を入れようと一歩後ろへ下がれば、事もあろうか転がっていた空き瓶に足をかけて、そのまま均衡を崩す。

「キャッ!?」

千鶴は斎藤ごと畳に倒れてしまった。