嫁取り物語



7



「千鶴、何か変わったこと・・・・」

なかったか?続きの言葉は口には出せなかった。
一目瞭然で、起きている。

部屋に入った途端に二人の厳しい視線を一身に浴びて、訳がわからず立ち尽くしていると。

「土方さん、こんなこと言いたくはないが・・」
「・・・な、何だよ」

真剣に、今にも食ってかかりそうな左之の気に押されつつ返事をすると、左之の目はより鋭くなっていく。

「俺はこういうやり方は反対だ。はっきり言うが認めるつもりは、これっぽっちもねえよ」
「・・・・・・・(な、何だ?何のことだ?)」
「僕もです。僕たちには黙ったままにしておいて、その間に手に入れようだなんて・・・」
「・・・・・・・(て、手に入れる??つ〜か、刀に手をかけるな!)」

おろおろしながらその様子を見ていた千鶴が、ふと、左之に声をかける。

「あ、あの・・・原田さんも、好きなんですか?」
「・・・・ああ、・・本気で答えているからな、疑うなよ?」

振りかえる顔は思わずどきっとしてしまうような優しい表情で。
思わず顔がかっと赤くなる。

「・・・信じて、くれるか?」
「は、はい!信じます・・・」

心臓がうるさい・・・あんな顔、初めて見たかも・・・
・・・・・いいいけない、いけない・・・私じゃないんだから(←鈍)

そんな千鶴と原田の様子を見て、土方はあることをようやく思い出した。

・・・・そうか!こいつら俺と千鶴のことを勘違いして・・・・・・

言えば済む。正直に言えばいいことだが・・・・
この場は収まっても、こいつらのことだ、きっと会食に千鶴を連れていくのを反対するに決まってる。
さて、どうするか・・・・

「まあ、落ち着けおまえら。これには深い事情ってものが・・・「へえ、是非聞かせてください」

何を言おうと、斬る。
そんな感じの殺気をビシビシと向けられて、土方が一瞬うっと詰まっていると、

「こんな夜中に、千鶴ちゃん連れ込んで、仲良く交代ばんこでお風呂」
「で、これから何をしようとしていたんですか?千鶴ちゃん部屋に戻る気ないみたいですけど」
「これからすることって限られているんじゃないかなあ?ねえ、・・・・土方さん」

にこにこしながら、目が全く笑っていない。
挙句言葉尻に刀を突き付けられた。

「ご、誤解だ!!聞け!!実は・・・・「土方さん、誤解っていうのはないんじゃないか?この状況で」

総司を援護するように、左之も土方にビシビシと厳しい殺気を・・・

「俺達にばれなかったら、何する気だったんだよ?」
「知られたら知られたで、シラ切る気か?」
「男らしくねえな!!」

その言葉で総司と左之、二人が同時に構えをとる。

・・・・・・だ、だめだ!こいつら、聞く気ねえ!!
なんて単純で、阿呆な奴らなんだ・・・・こ、こうなったら・・・・・

千鶴に冷静に対処しそうな山崎や斎藤を呼んでもらおう。そう思って千鶴に目を向ければ・・・・・・・・・・

「・・・・・おい、千鶴・・・おまえ、それどうした?」
「え?な、何でしょうっ!?」

何が何だか、事態がわからなくなってきて、混乱中の千鶴は、土方の呼び掛けにもびくっと肩を揺らす。
それがなんだか怯えた仕草のように土方には見えた。

風呂に行く前より、乱れた胸許。
そして首筋には、きっちりと印がつけられている。
それはつまり・・・・・・・

「・・・・何が男らしくねえな、だ。こいつにこんなことする方がどうなんだよ・・どっちの仕業だ!」
「僕ですけど、それが何か?土方さん、自分は違うって言い切れるんですか?」
「総司!てめえ!!「ちょ、ちょっと待ってください土方さん!!」

不機嫌の絶頂をとうに超えた三人を遮るように、千鶴が土方の前に出る。
事態が呑み込めないけど、これ以上騒動を大きくしては、とその一心で。

「ど、どうしたんですか、落ち着いてください!」
「俺は落ち着いてる。…おまえ、それ気づいてないのか」
「え?・・・・・・それ?」

それはそうだろう。自分の首筋についた痕なんか見えないものである。
近くに寄って鮮明になった痕が、土方の気持ちをより言いようのない気持ちにさせる。

「・・・・ちょっと来い」
「えっ・・・・・・ひゃっ!?」

一瞬で自分の許に千鶴を引っ張ると、少しだけ見え隠れする胸許に顔を埋めると、そのまま、鮮やかな印を千鶴に刻みつけた。

「なっ・・・・・・・!?」「何をっ・・・!?」

憤る二人の前で、土方は先ほどとは全く違い、落ち着いた様子で、今刻みつけた印に指を置く。

「こういうのが、おまえの首についてんだよ、わかったか」
「・・・///////」

恥ずかしくて、とにかくコクコクと頷くことしか出来ない千鶴に、土方は少しだけ笑顔を見せた。

「・・・もう、俺以外の奴らに付けられるんじゃねえぞ」

ええっ・・・ど、どういう意味なんだろう・・・
とにかく恥ずかしさに首を頷くことしか出来ない千鶴は、取り敢えずコクっと頷いてしまった。

それに気を良くして、更に笑顔になる土方を射るような視線で二人は見る。
じりじり、と間を詰めて、刀や槍を持つ手にぎゅっと力を込める。

「・・・そうですか、そんなに早く死にたいですか?・・・望み通りにしてあげますよっ!」
「だな、黙っている訳にはいかねえな!!」
「上等だ、かかってこい!」


・・・・・・・ええええ!?
わ、わからない・・・どうしたらいいんですか!?

お互いを睨みあう三人・・・いや、今は二対一。
だ、誰か・・・助けを求めて・・・これを止められそうな人・・・斎藤さん!!


そう思うや否や、千鶴は斎藤の部屋に向かって飛び出したのだった。