嫁取り物語




6




「お、お嫁って何を言っているんですか!?そんなの無理です!」
「・・・なんで無理なの」

途端に不機嫌に顔を変えて、後ろから千鶴の両腕を片手で簡単に押さえこんでくる。
気がつけば千鶴の目には、何故か天井が目に入る。

・・・・・・こ、これは・・この状況は・・・・

「お、沖田さん!!していいことと悪いことがあります!!これはっ・・・「していいこと。君に拒否権はありません」

止めるつもりはないよ?と小さく呟くと、それを思い知らせるように、抵抗しようと体をよじらせて踠く千鶴の首筋に、わざとちゅうっと音を立てて吸いついた。
びくっとなって動きを止めた千鶴に気をよくして、吸い上げた場所を優しく舐めあげた。

さーっと青ざめていく千鶴に、そこまで嫌なのか、と内心心穏やかでないけれど、そこは表情には出さないように。
いつものように、に~っと口の端をあげて猫のように笑うと、千鶴の瞳をじっと見下ろした。

「放っておけばいいのに、勝手に優しくしてきて・・・」
「それで、僕の心捕まえておいて、他の人の許へ行くの、ひどいと思わない?」

何を考えているのかわからない笑顔を張り付けて、相変わらず本気かどうかわからない飄々として声だけど、
千鶴はその言葉を聞いて、ふと思い当った。

・・・・・・そっか、沖田さんは、婚姻中止させたいって・・・・
そのお嫁さんがそんなに好きなんだ・・・だからやけになってこんなこと…(←ひどい勘違い)

千鶴の抵抗していた手が一瞬止まって、おや?とは思うけど、それでも今目の前にいる存在を自分だけのものにしたい、という感情は止まらない。
様子を覗いながら、そっと頬に唇を寄せると、小さく、「だめです・・」と声が聞こえた。

「聞く気はないってば」

・・・そんなに、嫌?
土方さんの方がいい?
僕とどこが違うの?

口をついて出てきそうな言葉を喉の奥に押し込めて、瞳に苦しい気持ちを押し出して、睨むように千鶴を見れば・・・

「だ、だめです!そんなに好きなら、こんなことで紛らわすのなんてだめです!!」
「こんなこと、じゃないよ。大事なことだけど」
「大事なことなら、尚更…沖田さん、その、本当に好きな気持ち、せっかく気づいたならもっと大事にしてください・・」
「・・・・・・はあ?」

千鶴の言いたいことがわからない・・・・

「こういうことは、その、好きな人とするものです」
「そうだね(即答)」
「だ、だから、気持ちがないのにこんなこと・・・」
「・・・・・千鶴ちゃんも言うね、じゃあ、…気持ちがあればいいんでしょ?」

・・・・・・この笑顔、危険。
何度も見たその笑顔に、千鶴は本能的に、総司から離れようとしつつ、コクコクと頷く。

「だ、だから。沖田さんの、その人を想う気持ちを大事にしてください。と・・・そういうことです」
「・・・・・・・?僕の気持ちを大事にするの?」

何故か総司がおかしそうに表情を歪める。

「はい・・そんなに好きなら・・・・「じゃあ、いいよね」

再び覆いかぶさる総司に千鶴は思わず悲鳴をあげた。

「よくない!!よくないです!!聞いてますか!?人の話!!」
「聞いてるよ、千鶴ちゃんうるさい。ちょっと黙ってて」

千鶴の口を手で塞ぐと、総司はそれはもう極上の笑顔でこちらを見て微笑んだ。

「僕は本気だから、いいよね」
「モガ!!モガ~!!(嘘!嘘ばっかり~!!)」

お互いの好きな人を勘違いしたまま、事態は悪化。
抵抗する千鶴を全身で固めて、さあ、と言う時に不意に戸がばっと開けられた。
それと同時に慌てた左之の声。

「おい!土方さん千鶴の悲鳴が聞こ…え・・・・って総司~!!てめえ何してやがる!?
「・・・あ~あ、千鶴ちゃんが騒ぐから・・」

悪びれもなく、仕方ない、と千鶴の上から退く総司に、千鶴がようやくほっとして体を起こす。
その瞬間を狙っていたかのように一瞬だけ、唇に湿った感覚が・・・・・い、今のは?

「左之さんちょっと遅かったかな~見ての通りだから」

く、口付け!?私の初めての・・・・・こんなことで・・・ううっ

ケラケラと楽しそうに笑う総司と、対照的に落ち込んでいく千鶴。
左之の表情はみるみる変わってきて・・・・

「てめえ!ふざけんな!!本気で想ってんだったら、もっと自重しろよ!」

・・・・・原田さん!私もそう思います…

「本気だからだよ、あんなの見て・・・我慢出来るはずない」

・・・・沖田さん、沖田さんも苦しいのはわかるけど・・・・・・あんなのって何を見たんだろう?

「あんなのって何を見たんだよ?」

・・・・私も聞いてていいのかな?

「・・・・・・・・・」

・・・・え、沖田さん、どうして私を見てるのですか??

「・・・・・・・・・なるほど、何となくわからなくもないが・・・」

・・・・ええ!?原田さん、今ので何がわかるの!?

「でも、おまえのはやりすぎた。・・・千鶴、おまえも今日は部屋に戻って・・「え、そ、それは・・・」

困る。まだ仕事が終わっていないのに・・・・

「あの、私、今日はここに・・・土方さんもそのつもりで・・」
「・・・・その土方さんは、おまえを置いて、どこに行ったんだよ」
「土方さんなら、お風呂です。私の後に入って・・・」

・・・あ、あれ?どうして沖田さんと原田さんの表情がみるみる険しくなるの??




そしてこの状況で、もうすぐ自室、というところを歩いているのは、湯上り気持ちよく帰って来たのは土方副長。
千鶴を一人部屋に置くのも、なんだか落ち着かなくて、早めに切り上げた副長。

なんとなく、部屋に戻れば千鶴がいると思うと、戻る足もなんだか軽い。
そういや、勝手場に菓子が残っていたな、後で千鶴と食べちまうか。

そんなかわいいことを考えながら顔を緩める土方は、まさかこんなことが起こっているとは夢にも思わず・・・





7へ続く