嫁取り物語
最終話
「副長は今、ご友人の許へお出かけになっている筈だ。その報告、全部は信じ難いが…」
「いや、しかし…報告にあった、沖田さん、斎藤さん、藤堂さん、原田さんもいませんし…それに…」
今日は穏やかな日だった。
朝からいささかも揉め事が起こらず、問題も起きず、副長も安心してお出かけになられただろう…
そんなことを考えて、報告書をまとめあげていた時、屯所にバタバタと誰かが駆けこむ音が響いたのである。
監察方の一隊士である、その者の報告に寄れば…
『幹部御一同ご乱心!大通りで今にも私闘が始まりそうな険悪な雰囲気です!』
こんな報告誰が信じられるだろう?
それでも一応と、幹部の所在を確かめれば誰もおらず、新八には助けてくれ、と泣きつかれ。
たまたま任務から戻って来た島田に事情を話し、隊士に聞いた地点まで二人は急いで駆けつけている最中である。
「それに…何だろうか?」
「…雪村君がいません。確か土方さんがお連れになられたとか・・・」
「ああ、そう聞いている。・・・彼女が何か?」
「まあ、それが原因ではないかと」
困ったような仕草をする島田に、山崎は首を傾げる。
彼女が原因でこんなことになる、などの事態が起こり得るのだろうか?
島田のその返答に、いまいち要領を得なかった山崎だが、しかし…その予想は大当たりだったのである。
土方、総司がまず向かい合って、いまにも殴り合いになりそうな暴言を言い放ちあっている。
それを止めるでもなく、平助、左之までもが何だか総司に加担しているように見えなくもない。
いつも冷静に事を収めてくれそうな斎藤も、何故か傍観しているように、何もせず、ただじっと見ているだけ。
その輪を外れたところに、おろおろしながら千鶴が立ち尽くしている。
「・・・・・・・皆さん、何をしていらっしゃるのでしょうか?」
これが新選組の幹部一同か、副長まで加わって何をしているのだ、と若干怒りを声に絡めて、それでも静かに問いただそうとすれば、
「あっや、山崎さん!島田さんも!!」
この時の千鶴には、二人が仏様のように映ったに違いない。
「何だ、山崎、島田。何か問題でもあったのか?」
「はい。今にもご法度に触れそうな者がいます」
「今にも・・・・?何、山崎君、それって僕たちのことかなあ」
嫌だな、私闘なんてしてないよ。と微笑む総司を山崎はさらっと無視して、取り敢えず…このままでは人目に付きすぎているので、屯所に戻りましょう。そう言ったのに…
「そりゃ無理ってもんだぜ?俺らは別にいい。けどな、土方さんにはしっかり誤解を解いて来てもらわねえとな」
「わざわざ、それだけを言いに戻れっていうのか?…それに、全くの誤解ってわけじゃあね「ない、何て言わないでしょうね、土方さん」
「…さっきから嫁にすりゃとか言ってるけど、土方さんには都合のいいことで、千鶴には迷惑かもしれないじゃん!」
「千鶴の気持ちを考えない、とは言ってなんざねえよ。迷惑ならそれでいいんだ」
「・・・・しかし、この状態では…千鶴が自分の意を答えにくいのではないかと・・・」
「だからっ・・・・!!」
・・・・・・・なんてくだらない堂々巡り。
ギャイギャイ同じようなことを延々叫び続ける五人の会話を聞けば、この騒動の原因が嫌でもわかってしまう、というのがまた情けない。
呆れる山崎を横に、う~ん…と腕を組みながら、島田がそっと千鶴に話しかけた。
「・・・雪村君は・・・どなたか好意を持つ方がおられるのですか?」
「えっ!?・・・・わ、私が!?そ、そりゃ・・・・・・・・・・・・」
千鶴は何事かを言おうとして、気付いた。
いつの間にか、皆黙って千鶴の言葉を待っているようだ。
何やら、期待や熱のこもった五人の瞳で、じ~~~~っと見つめられると、変に緊張して声が出ない。
「・・・少し、我々だけで話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?このままだと、雪村君の本意が聞けそうにありませんので」
一斉に頷く五人に、頷き返して、山崎と島田は千鶴を少し離れた茶屋に連れて行った。
何か口にして和んだ方が話しやすくなる、そう思ったからである。
一方、残された五人は、千鶴が誰の名を呼ぶのか、それが気になり変な緊張感を漂わせていたのだが・・・
「・・・・・・・・・・・総司、てめえどこ行く気だ」
「どこって・・・こっそり会話聞くんですよ」
しれっとその場を離れようとする総司に、平助と左之ははあ、と溜息をついた。
「だから、オレらが行ったら、千鶴はしゃべりにくくなるだろ?」
「気持ちはわかるが、行かせねえぞ?」
二人に行手を遮られて、総司は顔をしかめた後、でも、と口をついた。
「僕は、待つのは性分じゃないんですよ」
「性分の問題ではない。」
いつの間にか、斎藤までもが前に立ち、大人しくしていろ、と目で訴えてくる。
「・・・・・・あのさ、千鶴ちゃんが本当のこと言うのを、ちゃんと聞きたいんだよ」
「・・・・・?だから、今、山崎達が聞いて・・・」
「そうじゃなくて、千鶴ちゃんの言葉で、声で聞かなきゃ・・・納得できるような気持ちじゃないってこと」
まあ、もちろん、もし、万が一、絶対ないとは思うけど、絶対自分だと思うけど、自分ではなくても納得する気はない。そんなのこれからどうにでもすればいい。
そんなことを考えているのはもちろん伏せて、皆に語った総司の言葉は、しかし意外にも四人の共感を得たのだった。
かくして、五人は…こっそり茶屋に向かってしまったのである。
「しかし・・・・残念、というべきなのだろうか」
「え?ざ、残念って何がでしょう?」
「いえ、副長の傍に…雪村君がいてくれたなら、きっと…気の休まる時間も増えたのではないかと」
「わ、私なんか、そんな・・・」
茶屋に向かえば、茶をすすりながら山崎がそんなことを呟いている。
その言葉に、土方以外の四人はつい顔を緩めていて、それがまた土方にとっては気に入らない。
(何がおかしいんだよ、てめえら!)
(だって、土方さんはもう違ったっていうのがわかって嬉しいんですよ。決まっているでしょう?)
(総司、てめえ後で覚えてろ…)
(覚えてないです。)
「いや、でも私も副長だとばかり…」
「そ、そうなんですか?」
「島田君もそう思っていたか…まあ、確信していたのは沖田さんじゃない、ということだけだったが」
「そ、そんな…沖田さん可哀想ですよ」
先ほど鬼のような顔をしていた土方が、総司を何故か同類のような目で見て…ふっと笑った。
くっ・・・・僕じゃない?というか、何あの山崎君の言い様・・・・・・思わず刀に手がかかるのは仕方ない。うん。
(・・・総司、殺気を放つな、悟られる)
(…うるさいな、…何、その期待に満ちた顔。苛々するんだけど)
(べ、別に…・期待など…そんな顔はしていない)
「副長じゃないなら斎藤さんかと思ったんだが」
「そうですね、斎藤さんは…雪村君に何かとさりげなく、手助けしていましたから・・・」
「はい。斎藤さんはいつもとっても優しくて…」
「(…優しいだけじゃ駄目なのか?)・・・難しいものだな」
・・・・あんなに笑顔で、優しいと宣言されて・・・日頃千鶴を気にかけていたのは、迷惑ではなかったのはわかった。
わかったけれど・・・・・・・・・とても胸の中が寒く感じるのは何故・・・?
(さ、斎藤…目に見えて落ち込み過ぎだぞ、大丈夫か?)
(・・・・・・・・・・・・・・・・)
(だ、駄目だこりゃ・・・・ま、男は優しさももちろんだけど、他にも大事なもんは山ほどあるってことだ、精進しろよ)
(・・・・・・・・・・・・・・・・)
「原田さんだったら…永倉さんがきっと騒いでいたんじゃないだろうか」
「ああ、それはわかる気がします」
「あっ私も…あの二人は入り込む隙がない気がします」
・・・・・・・・いや、そこは入って来てくれよ!何だ、俺じゃない理由は…まさかの新八か!?
島原で人気の土方に続き、左之までもが袖にされるという事態。というより・・・残るのは一人だけ・・・
皆の視線が自然に平助に集まる。
(・・・・・えっ!な、何だよ・・・)
(何だよ、じゃねえ!この馬鹿!おまえ以外の誰でもなかったんだ、ということは…)
(・・・・・・・・・う、うわああ!!オ、オレ!?や、やった!!!!)
((((・・・・・くっ平助みたいに…最初から優しくしてればよかった…))))
「でも、雪村君の言葉は何だか嬉しいです。皆が同じくらい好きだって言うのは・・・こんな状況なのに嫌いにならないというのはありがたいことですから」
「そんな…嫌うだなんて…皆さんが好きで…本当に大好きなんです」
にこにこ微笑み合う島田と千鶴を余所に、平助は天国から一転してしまった。
残り四人は、何だ…と、ほっと胸を撫でおろすも…
・・・・・これじゃあ何にもならないじゃないか。
そんな気持ちがなくもない。
皆、じゃなくて、そこが自分の名前に変わればどんなにいいだろう・・・・
「しかし、それでは…また同じようなことが起きてしまうな」
「す、すみません・・・でもどうしても一人には・・・皆さん同じくらい大好きで・・・」
「雪村君は一人なのに、求婚者は五人、困ったものですね・・・」
「・・・・・・・島田君、それだ」
「え?」
島田の言葉に何かを思いついたのか、山崎がぽんと手を打つ。
そして千鶴に向き直って、言うことには…
「雪村君、竹取物語は知っているだろう?」
「えっ?は、はい。あの昔話の…それが何か…」
「あの物語で、姫に群がるしつこい求婚者たちを…かぐや姫はうまく追い払っただろう?そうすればいい」
(しつこい求婚者たちって…・山崎~~~!!)
五人の怒りをあおっていることなど知らず、山崎は名案を得たとばかりにぱっと顔を輝かせている。
「え~と…確か求婚者に無理難題を言って…出来れば結婚しますという、あの・・・」
「で、でもそんな!皆さん素晴らしいお方です!私がそんなこと言って選ぶなんてとんでもないです!絶対言えないです!」
(・・・・・・・・千鶴・・・・・・・・・・)
五人はますます千鶴に惚れ込んできています。
「しかし、このままだとまた同じようなことになってしまうかもしれませんね」
「うっ・・・・」
島田の言葉に、そんなことない、と千鶴が強く言えないのは…もう何度もそんな争いを目にして来たからだろう。
前はまさか自分が原因だとは思わなかったけれど…
視線を落とす千鶴に、山崎は口調を改めて、諭すように口を開いた。
「…雪村君が、気になる人が出来ればそれが一番いいことだと思います。」
「しかし、話を聞いた限りでは…それも難しいかと…」
「何より、取り敢えず皆さんに何か対策を立てておかないと…ますます収拾つかなくなりそうなんです。このままでは新選組の規律にも関わります。どうか…お願いできないでしょうか」
真剣に、こんな一町人の娘に頭を下げてお願いする山崎に、千鶴は慌てて、や、やめてくださいと顔をあげさせた。
「・・・あの、わかりました・・・心を・・・お、鬼にして・・・頑張ります・・・・・・」
ぐっと胸の前で手を握る千鶴に、山崎は一度微笑むと、では難題をどうしましょう?という話になり・・・
その間、当の五人は呑気なものだった。
少なくとも、嫌われてはいない。むしろ大好きで…
同じ位置にいるのなら…千鶴の出す難題とやらをささっと片付けて、傍にいる条件を正々堂々と得て、
その後、千鶴にも同じように気持ちを抱いてもらえばいいのだ。
どんな難題でも、さあ、来い!と意気込んでいたところ…
「え~と…鉢とか、枝とか…龍の首の珠とかを持ってきてください・・・でいいんですか?」
「い、いや…雪村君。それはいくら何でも無理だから・・・きっと沖田さんあたりから文句が出る」
「藤堂君は、かえってやる気を出しそうですけどね」
(だから、何で僕!?)
(おう!オレ絶対何でも取ってくるし!)
茶屋に何とも言えない空気が広がっていく。
作りだすのは、悩む三人と、じっと展開を見守る五人(少し離れたところから見れば丸見えな位置なので、不審者に見えているらしい)
「全員に違うことをお願いするんですか?」
「・・・そうですね、同じものだと・・・またそれで争いに発展しそうな気もします」
「違うもので平等に・・・・ならば・・・癖を直してもらうのはどうだろう?」
「「癖?」」
(…癖?)
「ああ、幼い頃からあるという癖は直しにくいものだ。だからそれを直してもらって・・・」
「皆さんにそんな癖があったでしょうか・・・?」
「・・・そうですね、あまり思い当たりませんが・・・」
千鶴と島田が考えても、そんなに直すような癖など思い浮かばない。
それは山崎も同じようで・・・
「生活態度の改善。でもいいかと・・・」
「あ、なるほど・・・それなら・・・」
「えっ?せ、生活態度???」
困惑する千鶴をよそに、そこで突然総司が・・・「じゃあ、そういうことで決まりね。何をお望みかな?」としれっと顔を出してしまった。
実は生活態度、と耳にした時点で、自分が一番無理を言いつけられそうな気がしたので、山崎、島田、千鶴の三人で難題をまとめてしまうまえに、千鶴一人で考えさせてしまおう。という考えだった。
まさか聞かれているとは思わず、「き、聞いていたんですか!?」と真っ赤になる千鶴。
「さすがですね、気配を全く感じませんでした」
「監察方の面目が立ちませんね」と、どこか呑気な二人。
二人は、ここまで決めていればもう大丈夫だろう。と、どこか楽観的に思っていた。
「総司!てめえはいつもいつも…もっと周りに合わせるってことをしろ!」
「無理ですよ、わかっているでしょう?」
「だが、話はまとまったようだ。・・・千鶴、所望は何だ?」
「千鶴の言った難題を…すぐに俺がぱっと片付けて、おまえの傍にいくからな」
「オレだって負けねえぞ!左之さん!・・・よし!千鶴何でも言えよ!」
穏やかな時間はどこかへ、また、皆の視線にさらされて千鶴は困惑する。
実を言えば、そんな難題を突き付けるとか、そんなことをすれば…きっとみんなに愛想を尽かされるだろうな・・・と考えていたのだ。
それをさみしく思いながらも、でもこのままじゃ…と心を決めたのに。
何故なのか、皆さんとてもやる気満々なので、頭が大混乱なのです。
「え、えええ~と・・・」
(雪村君。なるたけ出来なさそうなことを言ってくれ)
(その人がそうしてたら・・・想像つかないことを考えればよいのではないでしょうか)
二人の耳打ちに千鶴はこくっと頷いた。
ちなみに幹部五人は耳打ちが気に入らなかったらしく、監察二人を睨んでいます。
「で、ではいきます!土方さん」
「おう」
「・・・・・・・・・・(土方さん、土方さんと言えば~…)ご飯は必ず召し上がってください」
「・・・・・・・・・」
何故か皆が静まりかえる。土方は目を丸くした後、少し困ったように笑っている。
お、おかしかったの??
「ちょ、ちょっと雪村君それは・・・「山崎君、千鶴ちゃんが考えたことでしょう?口出さないでね」
千鶴の難題のかわいらしさに・・・思わず総司は笑いながら、この分だと自分のも楽勝だ、と千鶴を見つめると、
「じゃあ、僕は?」
「え?あ、・・・土方さんのはあれでよかったんでしょうか?」
「うん、いいんじゃない。ですよね?」
「ああ、文句ねえよ」
それくらいなら…と考える土方。
けれど…ご飯を必ず食べる。簡単なようで、仕事に集中する土方には無理だ。
幹部四人はそう判断していた。
「で、では沖田さん。沖田さんは・・・・・私のことを、からかわないでくださ・・い?」
「何で疑問形なの?それでいいんだよね」
「は、はい・・・・」
にっこり微笑む総司。そして、安堵する面々。
総司以外は皆、それは不可能だと思っていた。
「では、千鶴。俺は・・・?」
「は、はいっ斎藤さん。斎藤さんは~…」
ど、どうしよう?襟巻外したところ見たい、とか駄目よね?
と、特に・・・・あっ!
「大声で笑っているところ、見たいです!」
「・・・・・・・・・・」
よし!斎藤以外の面々が皆心の中で、ぐっと拳を握っていた。
「意外とうまいお題を出しているな。生活態度改善とは違うが…まあ、出来そうで出来ない均衡がいいと思う」
「そうですね。この調子なら大丈夫じゃないでしょうか」
当初のお題を聞いて、先行き不安になった山崎と島田の二人だったが、少しずつ安心してきていた。
「おし。んじゃ俺の番だな。千鶴、俺には?」
「原田さん、原田さんは~・・・」
もっと厚着してくださいとか?ん~でも・・・
千鶴の目に、左之のさらしで巻かれた腹が目に入る。・・・・
「えっと、じゃあ…吞んだ時に・・・お、お腹見せないでください。目のやり場にうろたえてしまうので」
「・・・あんなもんで、うろたえているのか・・・可愛いなあ千鶴」
にこにこと、何て簡単な題なんだ、と思って千鶴の頭を撫でる左之に、皆は無理だな、と思っていた。
あれはもう習慣だ。千鶴がいないと油断させて、してしまった現場に、千鶴を連れて行こうか、とそんな悪企みをするのも一名ではなく…
「千鶴っ!最後はオレの番!」
「うん!平助君。平助君は~・・・・・」
平助君の・・・意外な・・・・?
もう少し落ち着いて・・・・って平助君いざって時はすごく頼もしいし・・落ち着いているよね・・・
落ち着いて・・・そうだ!
「朝、私が起こす時に・・・いつもびっくりして大きな声出すでしょう?」
「あ~・・・(だって、目を開けたらすぐ目の前にいるんだもんなあ)」
「私もびっくりするから・・・」
「わ、わかった!じゃあそれ頑張・・・「物言い」
割って入って来たのは、当然総司さんです。
「何か、平助のは甘くない?というより・・・毎朝起こしてもらっているの?それ、初耳だけど・・・」
「そういや・・・最近起きるのが早くなったと思っていたが・・・そういうことか?平助・・・」
「平助、・・・おまえ俺に・・自分で起きられるようになった・・・みたいなこと言っていたよなあ?」
「これは…見逃しがたい事実だ」
何故自分の時だけ、こんなに文句を言われるのだろう?
「そんなこと言ったって…千鶴が決めたことだろう!?」
「ふざけんな!平助、明日からは一人で寝坊せずに起きる・・・それがおまえの条件だ」
「「「異議なし」」」
「そっ・・・・そんなあああああ!!!!」
毎朝楽しみにしていた楽しみを奪われて、落胆する平助に、当然だとばかりにそっぽ向く面々。
ただ一人、千鶴だけはそんな平助に声をかけようとしたのだけど・・・
その千鶴の手を取って、にこにこしているのは・・・・
「さ、今日から千鶴ちゃんは僕のお嫁さんってことで」
「はあ?」「何でそうなるんだよ!」
周りの視線などお構いなしに、総司は真面目な顔で千鶴に向かうと・・・
「からかってなんかいないよ。本気だから…僕は条件満たしているよね?僕のお嫁さん…」
「あ、ああああああのっ」
「総司、俺にはふざけているようにしか見えないが…おまえに資格はない」
割って入る斎藤に、総司は何故か余裕綽綽の笑顔で…
「黙っててくれるかなあ。大声で笑えない斎藤君」
「・・・・・・今は笑える状態ではない」
「へえ~じゃあ、いつ笑うのかな。楽しみにしておくよ」
「言っておくが、千鶴以外に見せるつもりはない」
・・・え?笑うつもりあるの?という皆の驚いた視線を浴びつつ、斎藤は千鶴にだけ振りかえると、
「善処する」
顔を赤らめながら、必ず、とそっと手を繋いだところで…
「おいおい、斎藤。結局おまえまで抜け駆けか?」
微笑み合二人の間に、次に割って入るのは左之。
「そんなつもりは…「と~にかくだ、千鶴、俺に出した条件。俺はしっかり守るから・・・」
言いながら千鶴の首に手を回すと、視線の位置を合わせて微笑み…
「だから、酒を吞む時は必ず俺の傍に「いたら、駄目だぞ千鶴!」
回された手をがっしり掴んで、千鶴から離し、その手を代わりにぎゅっと握ったのは平助。
「ったく、何なんだよ!みんなそう言ったら困るからって…決めたんだろう!?守れよ!」
「じゃあ、おまえも守れよ。その手は何だよ」
土方にビシっとさされた先にはしっかり握りしめた千鶴の小さい手。
「う、うわ、千鶴、悪い・・・つい・・」
「ううん、悪いなんてそんな…そんなことないよ」
「千鶴・・・オレ、頑張って起きるから!」
「うん、頑張って」
・・・・・・・・『頑張って』
何故平助にだけ・・・?(それは千鶴が決めた条件じゃないので、不憫に思っているからです)
微妙な落ち込みからいち早く立ち直った土方は、これくらいは・・と千鶴に言葉を向けた。
「・・・千鶴、俺も努力はする。飯もちゃんと食うが・・・広間に行けない時は・・・」
「あ、はい。私がお部屋に運びますね」
「ああ、助か「え~それって自分の力で達成してないと思いますけど」
そして話は振り出しに戻って行く…
その様子を嫌でも目にしてしまった二人は、ぽつりと呟いた。
「・・・・・・これは終わりませんね・・・」
「無駄な時間を過ごしたようだな」
二人の呟きは当たっていた。
条件を満たしました。と皆が今以上に千鶴に詰め寄るのは…もうすぐの話。
END
長い長い、オール小説「嫁取り物語」をお読みいただきありがとうございました。
嫁取り物語は、竹取物語からもじったもので…結末はこう!って決めてから始めました。
悩んだのは最後のゲストを誰にするか、ということでした。
千鶴の難題も、最初はもっと難題だったんですけど(笑)
笑いながら…読んで頂けたら嬉しいです。
条件を満たした面々。私は、斎藤さんのが見たいです^/^
ではでは、こんな後書きまで読んで頂き幸せです。
また読んで頂けるような文章を書けるように頑張ります!