嫁取り物語




2




「・・・・・みたいだな」
「そうですか、一応作ってみたんですけど・・・」

じっと部屋の外で気配を殺し耳を澄ませる四人の幹部の光景は、傍から見れば異様である。
人が通らないようにと願いながら…さらに耳を近づけて息を潜めていると、土方と千鶴の二人の会話が耳に入ってきて…

「ん、すまねえな・・・・・」
(静かになったな…今食べているのか?)(畜生〜いいな〜…)

「どう、ですか?」
じっとその様子を覗っているのだろう、千鶴が不安げな声で尋ねる。

「うん・・・これだ、この味だ…」
「本当ですか!?よかった…」
「おまえ、すごいな…こんな味だと、曖昧にしか言えなかったのに…」

(うわあ、何あの声…土方さんらしくない声だね、気持ち悪(総司…口が過ぎるぞ、千鶴の料理は・・・うまいんだ)

「いえ、土方さんの説明がわかりやすかったから・・・まだあるんですよね?好みの味付け」

(好みって…土方さんのか?そのための料理…?)(贔屓!贔屓だ〜!!)

「ああ、悪いがまた作ってもらえるか?」
「もちろんです。私でよければ…土方さんのお役に立てて、嬉しいです」
「千鶴…」

(あ、今絶対、微笑まれて鼻の下伸びているよね…)(……好みの料理…そのために…ブツブツ)

「おまえがいてくれてよかった。これからも頼むな」
「はい」
「ところで日取りなんだが…」
「あ、あの、土方さんそのことですけど…」
「何だ?」

(日取り?…これまでの話を総合すると、何か嫌な予感が…)(な、何だよ…驚かすなよ左之さん)

「私で本当によろしいんですか?だ、だって、その、居候の身ですし…」
「何言ってやがる、それはうちの事情だろ?おまえは運が悪かっただけだ」
「でも…」
「気にするな、おまえにもう決まってんだよ」
「土方さん・・・・・・」

(なんかさ…話の流れが…あれっぽくない?)(あれとは何だ?)(斎藤君…鈍くてうらやましいよ)

「わかりました!その日を…楽しみにしてます」
「ああ、そうしておけ」
「はい!…じゃあ、それまでにもっと好みの味付け教えてくださいね?」
「・・・それは、俺が頼むほうだろ?…ったくおまえは…いい嫁さんになるな、きっと」
「え…//////そ、そういうこと真顔で言わないでください!じゃ、じゃあお皿片付けますね」

(や、やばい!!こっち来るぞ!!隠れろ!)(ちょっ押すなって左之さん!)
(二人とも早くこっち)(閉めるぞ)

パタパタ…・千鶴が顔を赤くしながら、空いたお皿を持って勝手場に駆けていくのを四人はこっそり見送ると一息つく。
そして、その後同時に盛大に重い溜息を吐いた。

「・・・さっきの会話からすると・・・土方さんと千鶴が結婚…か?(やべ、頭がうまく回らないな…こりゃ思ってたより…)」
「う、嘘だろ〜!?いつの間に・・・・だ、だってさ!この間までそんな雰囲気じゃなくて、微塵も感じなかったぞ!?(俺が、一番近い場所にいると思っていたのに…何してたんだ、俺…)」

眉を寄せて考え込む左之に、平助は否定してほしくて縋るような声を出す。

「確かに、そんな雰囲気僕も感じなかったな…もっと前にわかってたら…(?わかってたら?何だ?この気持ち)」
「・・・結婚・・・(すうっと頭の血が下りる感覚がする、…めまい?)」

四人で暗い顔を突き合わせて暫く無言になれば、でも…と平助が希望を込めて口を開く。

「それなら、俺たちに何で言わないんだ?」
「そう、だよなあ、知られたら困る理由でもあるのか?」
「・・・・・・・理由・・・・」
「・・・・・今の状況考えたら、何となく、わかる気もするけどね」

総司の言葉に皆が顔を合わせる。
そうだ、結婚と聞いて、素直に喜べない。喜びたくない。

いつの間に?馬鹿だ、どうしてもっと早く気がつかなかったんだ。気がつけば…変わっていたのかもしれないのに。

そんな気持ちがそれぞれの胸を少なからずよぎる。

・・・・・そうだ、ここでのこのこ諦めるのは・・・性分じゃない。

「・・・僕は、千鶴ちゃんが土方さん好きだったと思えないんだよね〜」
「何故そう思う?」
「ほら、あの子好きな人出来たら操を立てるとか、何ていうか、もっと周りを警戒すると思うんだけど」
「あ〜そんな気がする!」

わかるわかる!と頷く平助に、総司はそうでしょ?と悪戯めいた笑みを向けて。

「今朝だって、僕が後ろからーーーした時、千鶴ちゃんそこまで拒まなかったし」

固まる斎藤に、口をぱくぱくさせる平助に、顔をしかめる左之。それをにこにこ邪気のない笑顔で見つめる総司。

「お、おまえ!やりすぎだろ!?」
「総司、これからおまえ皆に見張られるぞ?ったく…でも、そういや…全く変わりなかったよな」

だから、土方さんが千鶴ちゃん気が進まないのに無理やり…とか」

し〜ん

「…っそ、それはいくら何でも言い過ぎじゃ…」
「さっきのやり取りからは無理やりっていうより、嬉しそうな感じがしたけどな」

総司の言葉に平助は慌てて口を挟んで、左之も首を捻る。けど、その後少し口の端をあげて、

「だが、千鶴の気持ちが変わるってこともあるかも知れない…よな?俺の見たところ、あいつの気持ちは恋だの愛だのじゃないと思うんだが」
「・・・千鶴の気が変わったら…結婚は・・・なくなる、かな?」
「どうだろ、でも千鶴ちゃんがそう思ってくれたら、僕らも堂々と邪魔しやすくなるよね」

とんでもないことを言い出す三人に、固まっていた斎藤は漸く目を見開く。

いくら何でも、副長にそんな仇名すこと・・・許されることではない。
普段なら気でもふれたか、と諌めるところだけど、でも口が開かない。
千鶴の気持ちが、もし、土方に向けられていなかったら、…結婚をとり行うのはどうかと思う。

「・・・今、千鶴の気持ちが副長に向けられているならば、俺たちは何もすべきではないと思う」
「それは、向けられていなければ、邪魔しようってこと。でいいんだよね」

総司の上げ足を取るような返事に斎藤は言葉を詰まらせながらも、そうだな、と小さく呟いた。

「じゃあ、誰が確認する?」
「え?何を?」
「平助、ぼけてんじゃねえよ、千鶴の気持ちだろ?あいつが素直に気持ちを言いそうな奴、は・・・」
「僕が「総司、面白くない」

別に冗談じゃないよとむすっとする総司を無視して、再び黙り合う。
おのずと、視線がある一人に集中していった。

「・・・・・・・何故俺を見る?」

「斎藤か、平助…じゃないか?そういう話をしだしても、変に怪しまれそうにないしな」
「僕が行きたいのに・・・」
「だから、おまえは話どころじゃなくなるだろ!・・・で、平助だと・・・」
「・・・うん、何かボロだしそう」
「ひでえ!?そんなこと・・・「おまえ、猫騒動の時、ごまかしきれなかっただろ?」
「うう…」

ということで、斎藤頼むな、と言われて内心動揺する。
てっきり左之が行くと思っていたのに。どうやって聞けばいい?
無表情でも頭の中でぐるぐる考え込む斎藤に、総司がポンと肩を叩く。

「大丈夫、いつもの天然発揮すればいいんだよ」
「何だ、天然とは…」
「「「いいから行って」」」


任務!雪村千鶴の気持ちを確認せよ!