嫁取り物語




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「あっ!?千鶴!!どこ行く気だ!」
「千鶴!ちょっと待てって!」
「僕から逃げられると思うの!?」

後ろから三人の声が今にも追いかけてきそうに…いや、間違いなく追いかけられている。
どうして私を追ってくるの!?

追われる千鶴からすると、つかまってはいけない気がヒシヒシと…
このまま相手に見える状態で走っていては、まず捕まる。

そこで千鶴は廊下のつきあたりを曲がると、草履も履かずにそのまま庭に下りて、急いで茂みに隠れた。
三人が気がつかずにそのまま廊下を走って行く・・・
ほっとするのも束の間、千鶴は頭を押さえこんだ。

・・・どうしてこんなことに・・・
何だか途中から話がおかしくなっていって・・・

・・・・抱き締められたり、何かつけられたり、く、口付けとかされるし・・・
大体皆が好きなのはお嫁さんなのに、こんなあてつけみたいな・・・(←まだ誤解)
あ、斎藤さんは…無事かな?三人とも私を追いかけたみたいだし・・

少しだけほっとして、でもすぐに顔をしかめる。
こんなことしてる場合じゃ…料理も全然・・・でもあんな状態じゃ・・・

とにかくもう少し時間が経って、皆が部屋に戻るのを待とうと思ったのだけど。
お風呂上がりでそんなに着こんでいるわけではなく、夜だと寒さが堪える。
おまけに草履すら履いていない。

・・・そうだ、勝手場の奥に・・・

棚があるけれど、何とか人が隠れる隙間くらいはあったはずだ。
あそこなら風もしのげるし、ぱっと見渡してもいるようには見えないだろう。
千鶴はそ〜っと、足音をたてないように…勝手場に向かったのだった。



「あ〜腹減った〜…ったく、夜中の巡察なんか寒いし、腹は減るし、眠いしでいいことないよな〜」

ブツブツ呟きながら土方の部屋から淡く洩れる明かりを確認して、平助は一応外から声をかけた。

「土方さ〜ん、巡察の報告に来たんですけど」

・・・・・・・・・・・・し〜ん・・・・・・・・・・・・

「何だ?寝てるのか?明かりも付けっぱなしで…」
言いながら戸をそっと開けてみると、中には誰もいない。
「何だ、いないじゃんか・・・「平助」
「どわっ!!!」

いきなり声をかけられて、振り向けば総司が何やら機嫌悪そうにこちらを見ている。

「な、何だよ、総司か。気配絶って後ろに立つの止めろよな!」
「ああ、ごめん。癖なんだ。それより・・・何してるの?」
「何って…巡察の報告だけど。あ、総司、土方さんどこにいるかわかるか?」

もしや、平助が千鶴をかくまっているのでは?と、思っていた総司だけど、平助は隠し事がうまくない。
この様子だと本当に知らないのだろう。それならわざわざ教えることもない。
そう判断して・・・

「厠にでも行ったんじゃない?」
にっこり微笑みながら、適当に言葉を返すとそのまますぐに立ち去ってしまった。

「・・・はあ、早く寝たいのに・・・どこ行ったんだよ土方さん・・・」
ブツブツ言いながら、平助は言われた通り素直に厠の方へ向かってみた。すると、「平助!」となんだか切羽詰まった声で呼ばれた。

「左之さん?何かあったのか?」
「はあ・・・いや、おまえ・・・おまえは何してんだ?こんなところで」

走って上がった息を元に戻そうと落ち着いて左之が平助に尋ねると、

「何って、巡察の報告。土方さんいないんだよな〜」

いつも通りで何ら変わりない。
千鶴を見たとは思えない・・・・・なら、いいか・・・

「そうか・・・土方さんなら玄関の方にいたぜ?」
「玄関?帰った時はいなかったのに…何でそんなところに?んじゃ行ってくる!」

ようやく休めると思ったのか、ご機嫌に玄関の方へ向かう平助に左之は心の中で「悪いな」と謝っていた。
千鶴を巡る好敵手がこれ以上増えて事態が悪化するのはごめんだし・・・
ふう、と息をつくとそのまま、また千鶴を探し歩くのだった。


「土方さん、外で何かあったのか?」
「何だ、平助。おまえこんな時間に何してる」
「何って・・・巡察の報告だろ!?ひで〜!!」
「あ・・・・そ、そうだったな。悪かったな・・・変わりは?」
「いや、特に何も・・・・」

平助と話しながらも、何だかしきりに外を気にしてキョロキョロしてる土方が、おかしいと言えばおかしいけど。

「・・・土方さんは何してんだよ。こんな時間に・・・外では何もなかったって言っただろ?」
「あ?ああ、いや・・・・・・」

千鶴が外に出ちまったんじゃねえ〜かと思って…とか言ったら、こいつ飛び出しそうだな…
じっと土方の答えを待つ平助に、土方は何と言おうか頭を悩ませて。
その時、ぐ〜と平助のお腹の音が鳴った。

「あああ、ねみ〜けど、腹も減った〜…朝まで長いな〜」
「・・・・平助、勝手場に菓子が残っていたから、それでも食っておけ」
「え!いいのか!?」

本当は千鶴と二人で食べようかと思っていたけど、この場で平助を追い返すいい口実になる。
そう考えた土方は、ああ、食ったら寝ろよ?と言うとそれまで、と会話を打ち切るように平助に背を向けた。

平助はと言うと、土方さんもたまには優しいよなあ〜♪と思いながらウキウキ勝手場に向かって。
菓子〜菓子〜と探しまわったところ、棚の置側の方から、何やら寝息のようなものが聞こえる。

・・・・・・・・・・・な、何だ?

恐る恐るそ〜っと奥に近づくと、そこにはこんなところに何故!?と思うけれど、
千鶴が隙間からはみ出ないように体を小さく丸めて、眠っていた。

千鶴?な、何でこんなところに・・・・・

皆が探していた千鶴を平助が無事に発見!!
無欲の勝利となった。