嫁取り物語
10
「…で、あんな体勢で何してたのかな?」
「え、え〜と・・・」
すごく優しく、声を掛けられて反って怖い。
「何って、総司と同じことだろ?おまえら・・・人が大人しくしてりゃ・・・」
「・・・同じことしてたの?」
左之の言葉は無視して、総司は千鶴から一切視線を逸らさずに、千鶴の答えを求める。
「・・・おい、もうそれはまた今度にしろ。千鶴、することあるだろ?俺の部屋に・・・」
「あ、はい「「行かせるわけねえだろ!!(ないでしょ)」」
・・・・・ちっ、こいつらそういえば、まだ誤解したままだったな・・・
鬱陶しそうに二人を見る土方の視線は、二人からみれば邪魔者をなんとかしようとたくらむ視線にしか見えず(←ひどい)
「というより、僕の話終わっていないんですよ、千鶴ちゃん」
「はいっ何でしょう!?」
きっと視線を向けられて、思わず背筋を伸ばせば、
「・・・なんで斎藤君の時は、拒否してないの?」
「へ?」
な、何故って…
「僕の時は、やめろってうるさかったのに」
「あ、それは・・・」
「どうして、頭撫でてるかなあ」
・・・ど、どうして責められるんでしょうか!?
「だ、だって、沖田さんはその・・・あの・・・」
「全くわからないんだけど」
「さ、斎藤さん酔ってて、どうしたらいいのかわからなくて…そ、それに、拒む間もなくあっという間にっ!・・・あ・・・」
・・・・・・・・シ〜ン・・・・・・・・・
「ちょっと待て、千鶴、俺も聞きたいことがある」
「な、なんでしょう、原田さん」
「何された?」
左之が質問したのに、何故か土方が問いてくる。
表情が一層・・・・こ、怖い・・・・・・・
「いえ、何も。何もされてません・・・って沖田さん!!斎藤さん眠っているんですよ!!」
視線を横に外して答えれば、斎藤に手を出そうとする総司の姿が・・・
慌てて駆け寄りその手を掴まえると、お、落ち着いて、とそれだけが口をついた。
「何もされてませんっていうのは・・・無理があるぞ?千鶴・・・」
「だな、あの状態だったし・・・」
ま、全く信じてもらえない!
確かにされてないことはないけど、でも、斎藤さんきっと覚えてないし・・・どうすれば・・・
千鶴は無意識に総司の手を離すと、そっと自分の唇に手をおいて、斎藤を見つめる。
その仕草に三人はピンときてしまった。
「・・・取り敢えず、斎藤君を部屋に運んであげましょうか、二人とも」
「そうだな、部屋でゆっくり寝かせてやらねえとな」
「おし、運ぶぞ」
・・・・・・・危険な感じがする・・・・・・
「あの、私も手伝います・・・」
「「「いい」」」(きっぱり)
「だ、だめです!!皆さんからすごく怖い感じがします!」
斎藤をかばって、千鶴が両手を広げて三人を通さないようにしようとした時、その手をぐいっと引っ張られた。
ぎゅっと抱きしめられて、そのまま耳許で声が響く。
「そんなに、斎藤ばかりかばうなよ・・・好きなのか?」
「は、原田さん、好きというか、その・・・」
甘い声、少し早い心音が、千鶴の心音も狂わせていくように。
口ごもる千鶴の耳に、甘い言葉よりも甘い口付けが優しく落とされた。
「てめえ!何が大人しくだ!本性現しやがって!」
「なんだ?土方さんには言われたくねえな〜」
ぎゅうっと抱き締める力が強まって、ますます密着する体に、顔から火が出そうになる。
・・・どうしてこんな事態に!?
土方が原田の腕を外そうとして、悪戦苦闘している中、締めつけが強くて千鶴はなんとか顔を横に向けようとした。
ひやっと空気にようやく鼻や口がさらされて、原田に抱きしめられたままほっとしたのもつかの間。
唇にすっと柔らかい感触。
少し遠ざかって、全体がぼやっと見えたのは・・・・沖田さん!?
抱きしめられたままの千鶴は抵抗も出来ずに、総司はふっと顔を微笑ませると、もう一度、今度は強めに押しつけてきて…
「だ〜!?総司!!何してんだ!!」
「何って、左之さんが千鶴ちゃんをうまい具合に拘束したから、つい」
「ついじゃねえ!てめえ〜!!」
総司のしたことに気を取られて、腕を緩めた左之から、千鶴をようやく土方が引き離す。
「千鶴、もう部屋に戻るぞ、こいつらに付き合ってられねえだろ?」
「それはさせないって言ってんだろうが!」
・・・・・・・・修羅場!!収まるどころか、ひどくなる一方・・・・
しかもなんだかやたら自分を取り合おうとしている気がする(←遅い)
・・・・・・ここにいるのは危険?
ちらっと眠っている斎藤を見て、千鶴は心の中で、すみません!置いていきます!と謝りつつ、
三人の手を逃れて、部屋を飛び出したのだった。