12/25





「・・・・・・・・・・・・・」

不思議なものだと思う。
いつも平日の朝、時間ギリギリまで寝てる自分が。
休日の朝、朝という時間にはまず起きない自分が・・・

千鶴より早く目を覚まして、寝顔を見つめられている―

「・・・・・・・・・・・・・・」

髪が隠す千鶴の顔を、少しでも見れるように…そおっと指を動かして髪を梳けば、ほんの少し身じろぎする千鶴の仕草がまた可愛い。

千鶴がいれば、いつでも早起きできる・・・というわけではないだろう。
今日、早く起きられたのは…ちゃんと、ここに、千鶴の傍に自分がいるのか―それを確認したかった、ということもある。
昨夜、眠りについたのは遅かったけれど、掌からこぼれ落ちても落ちても・・尽きない幸せをそのままに抱き締めたまま意識がなくなった。

「・・自分に都合のいい夢、とかじゃなくてよかった・・」

あれが夢オチなら・・僕は今頃発狂してるよ、と心の中で呟きながら、千鶴の顔に自分の顔を寄せた。

「何の夢見てるの・・」

ほんのり口を緩ませて寝ている千鶴。
僕と同じように、今を幸せに思ってくれているのだろうか――

「・・・・好きな人だあれ?」
「・・・・・?お・・きた・・・先輩


ぼそぼその声を普通にして、耳に問いかけてみると、目を瞑りながら答えてくれる。
寝てるのか、寝てないのか・・・まだまどろんだ状態なのかはっきりとは言わないけど、どちらでもいい――
一番聞きたい答えなのだから――

「その先輩が横にいるよ?君が好きだって言ってるよ」
「はい・・・嬉しい、です・・」
「・・・・・・しっかり会話になってるよね。起きてる?起きてるの?」
「は、い・・・・・・」

・・嘘ばっかり。
起きていたら、君は・・僕のこんな言葉には真っ赤になって反応する癖に――

「嘘つきには・・・お仕置きするよ?」

くすぐるような声色が、千鶴の耳を撫でて。
意識をだんだんと、夢の世界から現実にいざないでいった。




「今日は・・どうしますか?先輩、今日は何時ごろ・・・家に戻りますか?」

ダイニングで、薫のいない二人きりの朝食。
いつか、そんな日が日常となればいいのに、とお互いが思っているのは、二人の笑顔が物語っている。

「・・・・・・早く、帰ってほしい?」
「・・・・・・長く、いてほしいです」

自分がいたい、じゃなくて、千鶴にいてほしいと言ってもらえる様に、そんな感じで言い回すのが総司は好きだった。
恥ずかしがる千鶴を見られるという・・可愛く言えば悪戯心、もあるのだが・・そうでもしないと中々・・千鶴からはそういう言葉は出ない。

「じゃあ・・夜まで。いつも通りでいい?一緒に見たいものがあるんだ」
「見たいもの?」
「うん、せっかくクリスマスなのに・・デートも出来てないからね。今日はデート」
「はいっ・・・・・・先輩着替え、あるんですか?」

昨夜サンタで家に来た総司。
今日の着替えまでちゃんと用意してきたのだろうか・・・?

「んー・・・ない。平助のでも薫のでも小さいから困るよね」
「じゃあ、一度家に戻らないとですよね」

薫と平助がいたら、否定しない千鶴に泣きそうになっていたかもしれない。

「いいよ、サンタで行く」
「・・・・えっ!?」
「この格好でちょっと・・・近藤さんの道場にも寄りたいし・・その後・・店で買おうかな。君が上から下までコーディネートしてくれる?」
「私が・・ですか?あの、道場に寄るなら、素直に家に戻ったほうがいいんじゃ・・」

そして、そこまで選ぶのに自信がない。
コーヒーを口にする総司におずおずとそう答えれば、しれっと・・体温を上昇させるようなことを言うから困る――

「だって家に戻る時間も、離れていたくないから」
「・・・・・・・・・・・」

慌てて顔を隠すように、カフェオレの入ったマグカップを口にすれば、そのカップを持つ手に光る指輪に総司の顔が優しいものに変わる。

「それ、つけてくれてるんだね。さっき朝食の支度してる時はしてなかったから・・気に入ってないのかと思った」
「そんなことある筈ないじゃないですか!・・・大事だから・・水で濡らしたりとか、汚したりとかしたくなくて・・・」
「そんなのいいから・・・いつもしてて。千鶴ちゃんだって、僕が時計・・すぐに汚れるって外してたらどう思う?」

総司は指輪。やっぱり定番だから、と言いながら、左の薬指にちゃっかりはめたのは昨晩のこと。
千鶴は時計。いつも着ている服に似合うように、と・・総司の好きなオリジナルブランドの店で選んだもの。

互いにプレゼントを身に着けて、向かいあっているのは何となく、照れくさく嬉しいものである。

「・・・そう、ですね。そんなのいいのにって・・思います」
「それなら、君もいつもしててよ?あ、自慢はしていいよ。平助とか、斎藤君とか、土方さんとか左之先生とか・・いくらでも」
「・・・・な、何で自慢を・・?」
「見せつけたいから。・・・君って言わすよね、そういう恥ずかしいこと」
「・・・沖田先輩には言われたくありません」

何でもない会話が、どんどん砂糖色に。
そんなひと時を過ごす二人のいるダイニングに、あからさまに嫌な表情を向けて入ってきたのは薫。

「・・・・・・・・ただいま」
「あ、おかえり。薫・・・井吹君大丈夫だった?みんなもう帰ったの?」
「・・・井吹君?千鶴ちゃんってあの子と知り合い?そんな話、聞いてない」

朝っぱらから、しかもこんな疲れた朝には痴話喧嘩は聞きたくない。
そう思った薫は苦めのコーヒーを求めつつ、乱暴に言葉を放った。

「別に、千鶴はあいつと関係ない。よくお前らがこき使うから・・・俺にもとばっちりが来ただけだ。さっき解散だよ・・何なんだあいつら・・教師まで寄ってたかって…」
「そう・・お疲れ様。でも・・楽しかったんじゃない?」

呆れたような眼差しを向ける薫に、千鶴は気にならないのかニコニコ笑顔を浮かべたまま、総司に顔を向けた。

「井吹君って…薫の会話に最近結構出てくるので・・何だか私も知ったような気になっているんです」
「・・・・・・へえ・・・意外なところで繋がりが・・・・井吹君って僕たちもよく可愛がっている後輩なんだよ」

総司の今の言葉を聞いたら、「どこがだ!」と叫ぶに違いない・・

「そんなことはいいんだよ、お前食べたら帰るんだろうな」
「出るけど、帰りはしない。千鶴ちゃんと出かけるよ」
「・・・まだ、これ以上一緒にいる気か?千鶴もよく付き合ってられるな・・」
「・・可愛い妹さんに、まだ一緒にいたいって言われたんだけど?」

フっと千鶴に向けるのとは別の笑顔を薫に向けて、薫も負けじと半眼で睨んできて・・・

「お、落ち着いて、薫・・ご飯は?食べる?」
「・・・いや、いい・・・・・・・?」

薫がちらっと目にした和室。
沖田総司が泊まる筈だった部屋・・・だったと思うのだが・・・
昨晩出したままの雑誌がそのまま・・・あれだと布団を敷く時に邪魔に・・・

薫の疲れきった脳が警鐘を鳴らす。

そういえば、自分がいるということにしておけと言っていたのに、二人は自然に自分の「ただいま」を受け入れていた。
いないことを・・・知っていたのだ・・・千鶴だけでなく、沖田も・・・!!

「沖田・・・お前・・昨夜どこで寝た?」
「・・・千鶴ちゃんと寝たよ」

薫の問いかけに、雷の予感っと千鶴が肩をすくめたのに、総司は平常心でゆっくり答えた、楽しそうに。
どこで、と聞かれたのに、わざわざ「千鶴ちゃんと」と…

サーッと見る間に顔色を変える薫にあははと笑い声を落としながら、千鶴ちゃん逃げとこ、うるさそうだし。と手を引っ張られ、そのまま外へと駆けたのだった。



あのまま、近藤さんの道場に向かって暫しの時間を過ごして、二人で洋服を見て。
軽くランチにして、またブラブラと街並みを歩いて、目に付いたお店に入って・・・いつもの様なデート。

夕凪が引いて、すでに暗くイルミネーションが目の中を彩る中・・総司が見せたいものがあると言って千鶴を連れて来た場所は羽田空港だった。
普通に歩いていればそこまで見る機会のない飛行機が・・頓に離着陸をしてその姿を見せてくれる。

今までの2倍の大きさになった空港には、旅行客だけではないように見えた。

「第2旅客ターミナルの展望デッキ、そこクリスマスモードなんだ。それに滑走路もイルミネーションになっているらしいよ」
「そうなんですか?先輩、よく知っていますね」
「君に少しでも喜んで欲しいから・・・そりゃ調べるよね。・・・千鶴ちゃんって、飛行機だけでも喜びそうだけど」
「はいっ飛び立ところ・・見てるだけでも楽しいですよね」

人が多い中、千鶴が人にぶつからないようにうまく先導して歩いてくれる。
少しもたつけば、それに何も言わずに優しく手を引っ張ってくれる。
そんなことが嬉しくて、こんなに人がいる中で、当たり前のように手を繋いで傍にいれることが幸せだと改めて思っていた千鶴の前に、広がった景色――

「・・・・・・・・・・キレイ・・・」
「空港って空が他のところより高く見える気がしない?・・・寒いし・・余計に空気が澄んでキレイに見えるのかもね」
「そうですね・・星の中に自分がいるみたい・・」
「うん。イルミネーションより、キラキラしてる・・・って言ってほしい?」

もう!と繋いだ手を少しの抗議で下に引っ張ると、嬉しそうに上に引っ張られた。
バランスを崩した体を・・他の人がいるのに軽く寄せられて、背中から抱き締められる。

「・・・・・・あ、ほら、飛行機・・また来たよ。・・・どこまで行くんだろうね」
「どこ、でしょうね?いいなあ・・・滑走路のイルミネーション。空の上からも見えるんでしょうか・・また違って見えるんでしょうね」

はあっとお互いに吐く息が白いけど、背中からの温もりが温かくて。
ぼうっとその飛行機が離陸するまで、目で追っていた千鶴に、「今は無理だけど」と総司が小さく切り出した。

「来年も・・・まだ無理かな・・・再来年、僕はいいけど君が受験生。だからその次。その次の年からなら・・一緒に空の上から見れるかも」
「・・・・・・・え?・・・」
「お互い高校は卒業してるし、一緒に遠出したって大丈夫だよね?」
「・・・・・それは・・・」

出来るものならそうしたいと思った。
だから、こくっと頷いて、抱き締めてくれる手に顔を寄せる。

「一緒に空の上から見よう・・・その頃にはまた、違う約束して・・そうしてずっと・・」

ひとしきり強く抱き締められて、頬に軽く、優しい温もりが伝わる――
吐息のような、唇のような――
不確かな温もりに、心は確かに温められて。

「一緒に、いよう――」



12/25

クリスマス。

聖夜の言霊は二人を温かく、優しく…結びつける――








END





xmastop







全部読んでくださった方、ありがとうございます!
沖千でクリスマス。サイト開設してから一番頑張った気がします。

まじめに書いたり描いたり・・・もしましたが、遊んで書いたり描けたりもしていて。
自分でもとっても楽しく書くことが出来ました。

12/25のSSは少し聖夜っぽく・・・思ってくださるといいなあと。

沖田さんと千鶴が、空の上からイルミネーション眺めるってことを考えたりして。
いつまでも幸せでいてほしいなと思います。
SSLには…そういう当たり前の未来への希望を強く持てるのがいいなあと実感です。