12/24




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薫と千鶴は同じ家に住んでいます。





12/24 クリスマス・イブ

その日にどんな意味があるのか、は関係なく。
恋人達にとっては、特別な日というものに彩なされた、自分達の愛を綴る日としての意味を持つ。

「・・・・・・なのに、練習試合とか、本当信じられないよね」
「総司、まだそんな事を言っているのか」

いくらでも言うに決まってる、斎藤の言葉には直接返事をせずに総司は口を尖らせた。
この日は剣道部の交流試合があった。
本当なら、放課後すぐにでも千鶴の傍に行きたかったのだ。
わかっていても…それでもいざ相手高校に向かう途中、幸せそうに歩く恋人達の姿を目にするとむくれたくもなる。

「だから〜…何で千鶴連れて来なかったんだよ〜オレ、今日も応援してもらえると思ってたのにさ」
「・・・・・・・・・・・」

数日前にも似た様な会話をした。
斎藤も平助と同じように…千鶴が来るものだと思っていたらしかった。
大体、人の彼女が来るのを期待するって、どうなんだと言いたい。

「あのさ、みんながそんな風に言うのわかってるから・・来ないでいいって言ったんだよ。いくら平助でも、今日が何の日かくらいはわかるでしょう」
「それくらいオレでもわかるっての!!つうか、千鶴にわざわざ来るなって言ったのかよ…可哀相に…」
「何で可哀相になるの?」

これから試合だから、今のように闘志を纏うのはいい事なのかもしれないが…残念ながらその闘志は相手にではなく、完全に平助に向かっている。
その気迫に言い澱む平助に代わって、斎藤が答えた。

「…いつも、お前の試合を心配そうに見ながらも…終わった後は笑顔で迎えてくれていただろう?」
「そりゃあ…」
「多分、今回も来たがっていたのではないのか。お前のことだ、理由も言わずに今回はいいと言ったのだろう」
「・・・・・・・だって、言えないことだったし」

今回は、見に来なくていいよ―とそう伝えた時の千鶴の顔が頭に浮かぶ。
え?と一瞬止まって、戸惑っていたように見えた。

でも、それでも…千鶴が試合に見に来るということは、自分が考えていた計画が実行できないと、そういうことになってしまっただろう。

「言えないことって何だ?」
「平助には関係ないことだし」
「ええ〜一君は知ってんだろ?オレだけ仲間外れかよ〜」
「いや、俺も詳しくは知らないが…子供じみたことだ、ということは何となくわかる」
「子供じみてようが、千鶴ちゃんは喜んでくれるから」

総司は答えながら、ああ、やっぱり…連れて来なくてよかったと思った。
二人の、千鶴が可哀相・・・という思いも本当なのだろうが、その実、自分の応援もして欲しかったという気持ちが嫌でも伝わって来る。
試合が終わっても、そのまま…打ち上げのような感じで連れて行かれただろう。
千鶴はそういうのを断れる子ではないし、斎藤や平助の誘いを嫌がることもない――

「こんな風に口挟んでくるのわかってるから、嫌だったんだよ。イブくらい二人きりにさせてよね」
「うわ・・・うわっ!彼氏面してるし!!」
「いや、彼氏だし」

『彼氏』という言葉につい、仏頂面も緩くなる。
今頃、家で待っていてくれてるだろうか…試合の心配をしているかも。
ああ、それより、料理に奮闘してくれているのかな。何作っているんだろう…?

一気に脳内が春になっていく。

「…?二人きりにはなれないのでは?薫も家にいると言っていただろう?」
「えっ?今日は千鶴の家でするのか?」

二人の問いには何も答えず、知らん振りする。
これ以上千鶴の話を長引かせると・・・一緒に行くとか言い出しかねない。

「・・・・・今日の為に、耐えていたんだから・・・台無しにされたくないし・・・」
「・・・・・?何て言った?総司」
「別に何も。さ、パッパと倒してさっさと解散しよう。平助もたつかせないでよ」
「練習ロクに出てねえ奴が何言ってんだよ!」
「同感だな」

呆れた声を背に受けながら、総司は試合のことでもなく千鶴のことを考えて竹刀を握り締めた。

終わったら、着替えて…すぐに向かって…そしたら最初に――

気温が低いのに、強く吹き付ける風が余計に温度を下げていく。
いつもなら傍で、温もりを分け与えてくれる千鶴がいない分余計に寒い。

「暖めて、もらおうっと」

俄然やる気になって、竹刀を握った総司は言葉通り苦戦することなどなかったのである。








「ええと、あとこれと、これと…ああでも今オーブン使ってる!どうしよう…じゃあこれ後回しで…」
「落ち着けよ。どうせあいつが来るの20時前くらいだろ?」

キッチンで一人奮闘しつつ、くるくる動く千鶴に、「手伝う」という類の言葉は一切かけずに傍観していた薫は、ちらっとリビングの時計に目を向けた。
まだ19時にもなっていない。
大体、沖田は家に入れないと自分が言い張っていても、千鶴がこうも奮闘して準備をされると…言い切れなくなる。
結局家に入れることになる…『むなしさ』ったらない。

「そうだと思うけど、早くなるかもしれないし…それに自分の支度も終わってないし…」
「それでいいだろ」
「よくないっ!…今日はクリスマス・イブだし…す、少しはがんばって…よく思われたいもん…」

言いながら照れてる千鶴を見て、薫は心底今、総司がここにいなくてよかったと思った。
いたら過剰に反応していただろう。

・・・・・兄妹の関係でも、普通に可愛いと思ったのだから。

コホッと咳払いをして何でもなかったように、会話を続けた。

「で、自分の支度以外、後何が残ってるって?」
「ええっと、盛り付けとか…パスタは先輩が来てから茹でるし、ソースも作ったし、サラダは出来たし、チーズフォンデュもあとは温めるだけ…」

オーブンで焼いてるローストチキンもいいにおいを漂わせてきている。

「・・・・もう今することないじゃないか。さっさと自分の支度したら?」
「でももう2品くらい…」
「どれだけ食べるつもりなんだよ・・・あいつ、沖田はそんなに食べる奴じゃないだろ」
「うん。でも、・・・見た目豪華にしておきたいじゃない?」
「自分がみすぼらしい格好でいいなら、これ以上何も言わないけど」

あれもこれもと欲張りな妹に、とりあえず今日はこれを着る!と準備していた服を思い出してそう伝えた。
また意地悪な言い方・・・と言いつつ、千鶴も納得したのかエプロンを外す。

「ところで、千鶴は料理よりケーキだろ?ないようにみえるけど」
「あ、ケーキはね・・先輩が買って来るからいいよって」

普段から、ほわほわした千鶴だけど。
総司のことを口に出す時は、殊更ぽわっと幸せそうに顔を緩ませる。
いつもギャーギャー口を出してしまうけど、そういう笑顔を見ると敵わないと認めてしまう。

「・・・・・ま、後は勝手にしろよ。俺は部屋にいるから」
「え?薫も一緒に食べるんじゃないの?」
「いいよ。一緒だと…せっかくの千鶴のご飯が不味くなる」
「またそんな…一緒だから美味しいの逆でしょう?同じ家にいるのに…別々だとかおかしいと思うんだけど」

部屋に向かいかけた足を止めて、不思議そうに首を傾げる千鶴に…薫は苦笑いを浮かべた。
どれだけあの男が、千鶴と二人きりになりたがっているのか。
冗談っぽく自分に「邪魔だよ」と言う総司の言葉は、まったく冗談ではなくいつも本気だ。

千鶴の今の言葉を聞いたら、どんな顔をするだろう――?

この時薫は総司に少しだけ、ほんとにごく僅かの同情を…したのだが。
この同情を悔いて、彼が激怒するまであと1時間もない――







携帯を開いては、パっと光るディスプレイに着信も、メールもなくて。
小さいため息とともに、閉じた携帯をポンとベッドに置いたまま、今度は窓に向かって…
暗闇の中にポツポツと各家が飾るイルミネーションを彩った道の中、総司の姿が見えないか目を凝らすものの――

「・・・・・いない・・・」

そっと閉じたカーテン。
何度繰り返しただろうか…繰り返すごとにソワソワした気持ちよりも、寂しさが募っていく。

今は20時半。
予定していた時間より少し遅れている程度だったのだが、待っているというのはその少しの時間が倍にも、それ以上にも感じるものである。

「・・・・メール、していいかな。でもこれくらいでするのって・・どう思うのかな」

う〜ん、とまたベッドに逆戻りして携帯を握って。
その足でスタンドミラーの前に立ってみる。

「・・・・変、じゃないよね?薫って何にも言ってくれないから、わからないけど…」
「お前が聞きたいのは、俺の感想じゃなくて、沖田のだろ」

はあ、といつの間にか部屋の入り口で突っ立っている薫。
携帯片手に何故か不機嫌そうに眉間に皺を寄せて…どこかの古文教師を何となく思い出して、千鶴は小さく笑った。

「・・・何がおかしいんだよ」
「ううん、何でも。・・薫こそ、どうしたの?」
「・・・・・・・・・」

薫は千鶴の言葉にさらに口をつぐんで、しかめっ面をした後、覚悟を決めたように深く息を吐いた。

「部屋でウジウジしてないで…リビングでテレビでも見てろよ。見てるこっちが鬱陶しい」
「・・・・・じゃあ見なきゃいいのに」
「うるさいな。お前最近生意気になってきてるよな、沖田の影響だろ、絶対」

ブツブツ言いながら、何故か部屋に入って来て…窓を開けられた。
とたんに暖かくした部屋に冷気が舞い込んで来て足元からヒヤっと風に撫でられる。

「・・・・っ寒いよ!どうして窓開けるの」
「千鶴、お前料理してただろ」
「うん」
「そういうにおいが・・・部屋についてる。換気したほうがいいと思うけど、お前がいいなら閉めようか」
「そ、そうなの?…じゃあ開けとく。教えてくれてありがとう」

ふるっと寒くなった部屋に肩を震わせながらそう答えれば、何故か薫はいっそう面白くないように千鶴にストールを投げつけると、そのまま行くぞと暖かいリビングへと腕を引っ張った。
千鶴も素直に、うん、と付いて行った。

カツっという小さな物音に気が付くこともなく――


「・・・ねえ、何でそんなに不機嫌になってるの?」
「別に、なってない」

一緒にリビングに戻った薫は、変わらず無愛想でテレビなんて見ているようで見ていなかった。
それは時計を気にする千鶴も一緒だったのだけど…

「・・・さっき、ぽつぽつ雪が降り出していたみたい。ホワイトクリスマスだね」
「雪が降ろうが降らまいが、どうでもいいよ」
「・・・・薫の彼女になる人は、大変だと思うんだけど」
「うるさいな。余計な心配しなくていい。…大体、誰のせいでこんなに…」

ガリガリと苛立って頭をかく薫に、本当にどうしたの?と声をかけようとして…


ザザザザ…ッドンッ


「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

急な物音に、ビクっとした千鶴に対して、薫は何故かふっと嘲笑を浮かべている。
落ち着き払っている薫とは対照的に、千鶴は若干パニックになっていた。

「ね、ねえっ今の…庭からじゃない?…そういえば2階の私の部屋…窓開いてて…」
「・・・気になるなら見て来れば」
「だって、泥棒だったら…一緒に来てよ」
「大丈夫だから一人で行けって。俺にとっては…ある意味、泥棒だけどな」

・・・・薫は何を言ってるの?

ビクビクしながら薄情な兄をリビングに残して、千鶴は一人自分の部屋に向かうためにそ〜っと階段を上る。
物音は落ちたような音だったから…もし、泥棒だとしても…2階にはいない筈だけど…

・・・部屋が荒らされていたら、どうしよう――

――怖い…
震える手でそっとドアノブを握って、ゆっくり中を見ながら開けてみると…

「・・・・・あれ?何ともなってない――」

開けられたままの窓。
風に揺れるカーテン。
机もベッドも荒らされた様子なんてなかった。

たった一つの変化以外は――

「・・・・・・・?これ・・・・」

机の上に置かれた小さな箱のプレゼント。
こんなのは部屋を出る時にはなかった。
先ほどまで怖がっていた気持ちは一気になくなって、添えられたメッセージカードに気が付いて。

ドキドキ、ひとつの期待に胸を高鳴らせて、ゆっくり目を通す――

バンッ!

珍しく千鶴が乱暴にドアを開けたようだった。

タタタタタ…

続いて慌てて階段を下りる音。
リビングにいる自分も目に入らないのか、わき目も振らず一目散に玄関に向かう千鶴。
この後の展開がどうみても丸わかりで、はあ、とどうしようもなく続くため息を漏らしながら、どうせ窓も開けっ放しだろうと薫は上に向かった。

千鶴が慌てて向かった先、千鶴の部屋の窓の下の庭、そこには――


「いっ・・・痛・・・くそ、かっこ悪・・・」

こんな筈じゃなかったのに、と自分の失態に思わず顔を歪ませてしまう。
夢見がちで、こんなことで、と思うような事で喜びをいっぱいに押し出す千鶴に―

サンタのようにプレゼントを送ろう――

でも寝ている間に、というのはさすがに難しい。
というか、イブに会うのに…会う時にプレゼントを渡さずにいるというのは憚られた。
だから、会う前に、あるはずのないところにプレゼントを――

そう思って、無理やり薫にまで頭を下げて(実際下げてないけど)、協力をお願いしたのに…

「下りる時に足滑らせるとか・・・サンタの格好じゃなかったら本当に泥棒に見えるかも」

派手な音を立てて茂みに落ちてしまった。
サンタブーツを履いたままなのがいけなかった。
いや、茂みに落ちたからこそ、この程度でいられるのだろうけど…

よろっと体を引きずって、家の壁に背中をもたれて。
どうしよう、早く会いたいけど・・・最初から躓いた計画がかっこ悪くて・・・出て行きにくい・・・
はあ、と白い吐息を闇に浮かべながら、持ったまま行動しなかったおかげで無事だったケーキの箱を手に取った。
静かに降り落ちる雪は、積もることなくただ体を冷やしてばかりいく。

ガチャッとドアを開ける音がした。
迷うことなく、こちらに向かう足音。

誰が来たのかなんて、考えなくてもわかる――

リビングから漏れた光で薄闇となった夜景色の中、思わず息を呑むくらい可愛く着飾った千鶴がいた。

・・・・・・・可愛い・・・なのに僕はこんなところで・・・かっこ悪い――

抱き締めて、ぎゅうっとして、どんなスキンシップでもいいから、とにかく触れたい――

そう思うのに、体裁を気にして…動けないでいた総司に、千鶴がゆっくり近づいた。
すぐ傍に身を屈めて、心配そうに覗き込む。

「・・・落ちたんですか?…大丈夫、ですか?立てます?」
「・・・・・うん、立てる。大丈夫・・・ごめん、驚かせるつもりが、変な風になっちゃったね」

ああ〜と思わず顔を手で覆う総司が、何だか、らしくなくて。
千鶴は思い切り首を横に振った。

「・・・っそんなこと・・・最初はびっくりしたけど・・カード、読んで・・・すごく、嬉しかったです・・・・・あのっ」
「何?」

何か思いつめたように、肩を固くする千鶴。
薄着で寒くないのだろうかとか、僕のすることに呆れたのかもとか、そんなこと思う暇もなかった。
顔を真っ赤にして、小さく、とんでもないことを言ってるって思ってるのか、羞恥に震える声――

「ぎゅって、してください」
「・・・・・・・・」

続けられた言葉に、かっこ悪いとか、そんなこともどうでもよくなるくらい、嬉しくて――
うん、もちろんって返事も忘れて千鶴のように顔を染める総司に、千鶴の方から腕を伸ばして――

久しぶりに重なった体温。
それ以上に温かいのは気のせいじゃない――

「・・・・・・・先輩――」

甘い言葉を言われた訳じゃないのに、掠れた声で名前を呼んで、すりよってくる千鶴が愛しくて。
加減なんて出来ずに、ぎゅっと胸に閉じ込めた。

一番、欲しかったもの――

君といる時だけ、こんな気持ちになれる。
君の行動、表情、声、全部に照れて、いつもの自分を保てなくて、君だけでいっぱいで、優しくしたいって思う自分がまた照れくさくて――

「・・・サンタさん、プレゼントありがとうございました」
「どういたしまして。もう中身見た?」

普通に会話してるけど、お互い気恥ずかしくて、顔を体に埋めてる。
それがすごく、幸せで――

「まだです…ごめんなさい・・あの、カード見て、先輩だって思ったら・・・部屋飛び出しちゃって・・その、心配もしたんですけど、会いたくてたまらなくなって…」
「・・・・っ・・・・・僕も、会いたいってずっと思ってたよ。学校だけだと、もう、足りない――」

普段恥ずかしがりの千鶴が言う言葉とは思えない。
思わず声に詰まって、抱き締める腕に今以上に力をこめてしまう。
首筋に唇を寄せて、鼻でくすぐって。
少しだけ身じろぐ千鶴に、また可愛さが募って。

「…そういえば、慌てて来たみたいだったしね。可愛いね、その格好」
「先輩も可愛いです。・・ふふっサンタさんで来るとは思いませんでした。自分で用意したんですか?」
「ん?これは〜…バイト先に頼み込んでもらった」
「・・・・・・?バイト?」

顔を胸に貼り付けたまま、千鶴が総司を見上げるような仕草をした。
うん、と口唇からわざとずれたところに口唇を寄せる。
冷たくなった肌にずっと寄せたまま。

「サンタの格好して、ケーキ売り。結構評判のいい店だから・・美味しいと思うよ?ケーキもそこでもらってきた」
「・・知ってたら、買いに行ったのに・・・でも、バイトなんていつ・・・」

口端に触れたままの口唇がしゃべるたびにこそばゆいのか、千鶴がふっと顔を逸らした。
総司は面白そうに反対側の口端に口唇を寄せる。

「放課後しか、ないよね。大丈夫。ちゃんと斎藤君とか土方さんには言ってたし」
「・・・・・そうだったんですか!?じゃあ、練習じゃなくて・・・」
「バイト。黙っててごめんね?」

言いながら、じゃれるように額や頬、鼻や口を寄せて、どこかで触れ合おうとする総司に、千鶴の顔はいつまで経っても赤いままで戻らない。

それに、もしかして、もしかしてではなく…自分のプレゼントの為なのだろうか、と…
申し訳なさと…それ以上の嬉しさがこみ上げてくる。

「あの、・・・バイトってその・・・」
「そういうのはいいよ。でも、僕からのプレゼント…多分びっくりすると思うな」

楽しみと呟く総司に、そんなに意外性のあるものなのだろうか・・と思いながら・・・少し顔を俯ける。

「すみません、私のはいたって普通で・・考えたんですけど、何を送ればいいか難しくって・・・」
「そういえば、・・・薫に偵察頼んでたおばかさんがいたよね」
「・・・・・・・知っていたんですか・・うううっ」

結局薫からは有益な情報はなく、困ったのだけど。
そんな千鶴に、ねえ、と優しく吐息がかかる。

「プレゼント、頂戴」
「あ・・・じゃあ家の中に入りましょう。・・寒くないですか?すみませんこんなところで私――」
「そうじゃなくって」

額と額をくっつけたまま、覗き込む翡翠は柔らかくて。
見惚れている間にそのまま、額で顔を上げさせられる。

「ずっと、お預けだったんだよ?・・・いい?」

さっきまで、口唇だけには触れずに、顔のいたるところで触れ合ってきたのは――キスがとても大切なことだから。
今の自分に、一番の贈り物になる――
細められた瞳に、同じように微笑を浮かべて、千鶴は返事の変わりに瞼を閉じた。

優しく、そっと重なった唇は、幸せな気持ちを一層強くして。
幸せで頭のネジが飛んでしまって、寒い外だというのを認識できないくらい、気持ちをふわふわさせてくれる。

離れた口唇を追いすがるように、「…もっと」と囁かれた総司の声。
それだけが今の千鶴の行動を纏めていく――


「…メリークリスマス、千鶴ちゃん」
「メリークリスマス、沖田先輩…」

離れ難くていつまでもそこでぎゅうっと抱き締めあう二人。

静かに舞い振る雪の中、たった一人の彼女のために頑張ったサンタに最高のご褒美を――







「じゃなあああい!!何がご褒美だ!お前ら、人目っていう言葉を知っているのか!?」
「っ!!ご、ごめんなさいっすぐに家に戻・・」
「ああ〜千鶴ちゃん、離れたら寒いよ・・・このまま、ね?こんばんは、お義兄さん。さっきは協力してくれてありがとう」
「お義兄さんとか、言うな!!・・・・・・千鶴から離れろ、すぐにっ」

全く、と憎憎しげに視線を送る薫に、千鶴からとんでもない一言が。

「先輩を怒らないで、私が・・・その・・・してくださいって言ったの・・・」
「・・・・・っなっ!?お、お・・お前・・・」
「・・・・・・・・・(その言い方、いいなあ…)」

未だ総司の腕の中で、総司をかばう千鶴の姿に、やっぱり協力なんてするんじゃなかったと薫は思う。
夢見がちな千鶴は、喜ぶだろうなと…妹思いのスキルを発動させたのが間違っていたのだ。

「・・・・・・何でこんな奴に・・・人に協力頼んでおいて、無様に失敗する奴だぞ!?」
「うわ・・・それ傷口えぐるよね。でももう…千鶴ちゃんとの睦みの時間で完全修復してるけど」
「何が睦みだ!・・・それに、あのメッセージカード…あんなセンスの欠片もない文を見て何で嫌にならないんだ」
「え…わ、私は嬉しかったんだけど…」

このカップルには世間の常識が通じない――
妹は、千鶴は・・・もう少しまともだったのに――

泣きたくなりそうな気持ちをグっと堪えて、薫は弱弱しく言葉を発した。

「…頼むから、とりあえず家に入れ。・・・・お前、今日何時に家に戻るんだよ」

立ち上がってもなお、べったり千鶴にくっついている総司に心底うんざりする。
千鶴は何でこれで平気なのだと思う(同じようにべったりくっついていたいからです)

「今日?今日はね〜・・・ふふふ」
「・・・・・?そういえば先輩の門限って何時なんですか?」
「ニヤニヤ気持ち悪く笑わないで、さっさと言えよ」

そうですね、もう結構遅いから急いでご飯の支度しなきゃ!お腹空いてますよね?と可愛く尋ねる千鶴に、うん、空いてるとキュッと手を絡ませて。

「・・・でも、今日泊まるから、急がなくてもいいよ?」

この一言で、二人が同時に固まった。
一人は純粋に驚いて、もう一人はあまりの純粋な悪に衝撃を受けて。

「と、泊まるって・・おうちの方にそうおっしゃって来たんですか?」
「うん」
「・・そうじゃないだろ!千鶴!・・・沖田、お前最低だな・・・親がいない間に泊まるなんて・・・千鶴だって了承しないぞ」
「え、ええっと・・・」

確かにずっといられるのは嬉しいけど、さすがに親に内緒で泊めるのはどうかと思い。
二人の間で悩む千鶴が視線を右往左往してると、総司がピっと携帯のメール画面を開いて二人に見えるように向けた。
受信された本文は…

【はい。泊まるの構いません。24日は私達がいない分、あの子達と楽しく過ごしてあげて下さい。こちらからもお願いしますね】

「・・・・・・・な、何だこれ・・・」
「・・・・あっこれ、お母さんからだよ、薫!ほら・・・お母さんの名前が差出人・・」
「そんなこと見ればわかるっ!!どうせ・・・違うアドレスでその名前を登録してるって小細工・・・」
「まだ疑うの?アドレス詳細見てもいいよ?」

ほら、とピッと画面を変え、そこには紛れもなくふざけたアドレス(つまり、両親のアドレス)が表示されていて…

「ねー?ご両親お墨付き。千鶴ちゃん、今日はずっと一緒だね、嬉しい?」
「はいっすごくっ!・・・でも、いつの間に…?あ、だからこの間メールで沖田君と仲良くって・・・」
「そんなメール入ってたの。じゃあ…そう言ってもらえたことだし…仲良く、しようか。え?薫はどこかに出かけるって?そう、残念だけどいってらっしゃい」
「・・・・・・・・・・・・・・」

満面の総司の言葉に、もはや反論する気力を失くした・・・訳でもなく。
薫はあまりの怒りで言葉にならないようだ。

「・・・・・・・か、薫怒ってる…?でも、これってすごく嬉しいことだと思わない?みんなが認めてくれて・・・」
「俺は・・・認めてないって、いつも言ってるよな・・・・・・・っ大体!!よく見てみろよこのメール!どうせ俺とも友達面して、それで親に連絡取ったんだろう!?」
「嫌だな、お義兄さん。お義兄さんなんだからそりゃ仲良くしなきゃとは思ってるよ?で、出かけるんだよね?いってらっしゃい」
「だ、誰が千鶴とお前を二人きりにさせて、行くものか!!!」

そんな薫の悲壮な叫びを無視して、総司は千鶴ににこにこ笑顔を浮かべた。

「君へのプレゼント、驚くって言ってたのこれなんだ。もう一つのは普通だからね」
「・・すごく、驚きました!でも・・・うちの親東京にいないこと多いのに、どうやって・・」

メルアドなんかも教えてないし、メールだけでそこまで信用されるとも思えない。
千鶴のみならず、それは薫も思っていたようで…総司の言葉を二人で待つ。

「うん…やっぱり信用されるには、認めてもらうには直接会わないとね・・ってことで君のご両親のところにね」
「い、行ったんですか!?」

バイトは…その旅費もあったのではないだろうか。

「そう、気に入られ・・じゃない、認めてもらう為にっていう手ほどきはちゃんと受けて、その通りにしたから・・・その成果かな」
「・・・・・・・その手ほどきって・・誰に受けたんだよ」
「近藤さん、土方さん、左之先生・・・あと斎藤君にもだね。近藤さんはみんなから慕われるし、斎藤君も大人受けするし、土方さん左之先生は…」

女受けするから、という言葉はさすがに伏せたようだが、薫には伝わったようだ。
千鶴はすご〜いと見当違いに目をキラキラさせているが…薫には怖いとしか思えない。

というか斎藤…そんなこと一言も言っていなかったぞ!
それに教師が何教えてんだ!!

ツッコミたいところは数え切れない。

間違ってた、やっぱり間違ってた。
沖田総司の執着したものに対する行動力をなめていた、と今更どうにもならないことを考えつつ。
あっさり認めた両親にも、激しい憤怒を覚える。




・・・
12/24
恋人達が甘い時間を過ごす中。
ひときわ賑やかな雪村家。

戸惑いつつも一緒にいれることを素直に喜びつつ、嬉しそうに笑う千鶴。
そろそろ家に入ろうか、家の中でもずっと傍にいてね、と甘え全開な総司。
どうしていいかわからず、頭を抱えて泣きそうな薫。


兎にも角にも、時間は立ち止まってなどくれず。

終わることなく、総司と千鶴には甘い時間を刻んでくれる――







END






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