ワンドオブフォーチュン〜未来へのプロローグ〜ポータブル発売記念SS




『いつでもどこでもルルと一緒!』




オールです。
エドガーも出てきますので、FD未プレイの方はプレイ後にどうぞv





授業でもない限り、生徒達は寄りつこうとしない学長室。
そのすぐ外側の廊下、授業もないのにわざわざその場所で、外を眺めながら話をする二人の人影があった。
話に夢中になっているのか、うんうん!と頷く声がすぐ傍の窓から、真っ青な空へと吹き抜けていっていた。

「もちろん!その会話をしているのは…ボク、エドガーとルルだよ!」
「・・・エドガ?一体誰に話しているの?」
「いや!何でもないんだ。・・・え〜と何だったけ・・?」

張り切ってメモとペンを持ち出したエドガーに、さあ、とルルは首を捻った。

「エドガーが…キミにお願いしたいことがあるんだけど、時間もらえるかなって言って…」
「うん。その後ボクはここに君を連れて来て…ああ、そうだ。キミと話しているとつい話に花が咲いちゃって…本題本題っ!」

・・・どうしてこの場所に連れて来たの?
イヴァン先生に怒られるんじゃ――とも思ったのだが、その理由はすぐに判明した。

「この頃新聞部ではめだったスクープをあげられなくって…ボクも頑張ってはいるんだけど成果が出なくて」
「そうなの?この間の記事とっても面白かったわ!ミス・ミルククレアを決めるなんて…何故かヴァニア先生が張り切っていたけど…」
「・・・う``…そうなんだ。生徒達の中で決めるって書き忘れてね。みんなが楽しめたのならいいんだけどさ、やっぱりボクはスクープを取りたくてさ」
「うんうんっ頑張って!…それで…話って?」

本題は何だろうか?
ルルが熱心に耳を傾けようとすれば、それ以上の熱い期待に満ちた眼差しを向けられた。

「ルルっ!スクープが欲しいならキミに聞けばいいって言われたんだ。ボクは張り込んでその情報を掴もうとしたけど、聞くのが早いって勧められて…」
「ちょ、ちょっと待って!私何にもしらないわ?誰がそんなこと言ったの?」
「イヴァン先生だよ。先生のスクープでも面白いかなと思って、張り込んでいたら見つかって…それでこう言われたんだ」

・・・・・イヴァン先生を尾け回すなんて、エドガーってすごい…じゃなくて!

「・・・で、でも私何にも知らないわ」
「・・?おっかしいなあ…イヴァン先生に、ここで聞けって場所まで指定されたんだ。どういう意味だったんだろう?」
「場所まで?・・・本当、どういう意味だろう?」

???
二人で首を傾げ、ようやく静かになった廊下に・・カツカツと軽快に近づく足音が――

「やあ、ルルちゃんにエドガーくん。こんなところで何をしているのかな」
「あ、アルバロ。」
「こんなところで雑談なんて、ちょっと普通じゃないよね?気になるなあ。何か面白いこと考えているなら是非、仲間にして欲しいところだね」

ちらっと学長室を横目で見た後、うすら笑いを浮かべるアルバロに、ルルとエドガーは困ったように顔を見合わせた。

「ボクがルルにスクープのネタを教えてもらおうと思って、ここに連れて来たんだ」
「・・へえ、何でまたこんなところに・・?」
「イヴァン先生にそう言われたらしいの。私もよくわからないんだけど…」

何のことかしら?とうう〜んと悩むルルに、エドガーが申し訳なさそうに口にした。

「ルル。ごめん、勘違いみたいだね。でもキミと話せたのはとっても楽しかったよ!また…」

誘ってもいいかな?とエドガーが口にしようとしたのを、邪魔するような絶好のタイミングで、「あ、ユリウス君と殿下」とアルバロが口を挟んだ。
・・・・・ううっ邪魔された!とエドガーがちらっとアルバロを見ると、愉悦を込めた目でにこにこ笑顔を浮かべてる。

・・・・・・・こ、怖い・・・・・・・・

「ユリウス!ビラール!どうしたの?こんなところに…」
「ああルル…」

泣きそうな顔をするユリウスに、ルルが思わずどうしたの?と駆け寄った。
返事をしたのはユリウスではなく、ビラールである。

「それが…ユリウスがイヴァン先生の授業ばかり受けるものデスから…ヴァニア先生がお怒りになられて…」
「ユリウスは知識に長けていますから、これくらい平気でしょう?って…これ、課題こんなに…これじゃあイヴァン先生のまで手が回らない。困る…」
「そっか…ユリウスは魔法知識の勉強が好きだものね」
「うん。単位これ以上貰えないってくらい、授業受けてる。ものすごく興味深いことが必ずあるんだ!どうしてもそれで知りたくなって…それにばかり集中してたら…」
「魔力の勉強がおろそかになった…という訳デス」

・・・容易に想像できるかも…

「それで、どうして学長室に・・?今日は授業もうない筈じゃ・・」
「うん。ヴァニア先生に絞られる前に図書館に借りた本を返そうと思ったんだけど、何故かパルーが受け付けてくれなくて・・・新しいのも借りられないし」

その報告をね、とユリウスが口にした時に、アルバロとビラールが何故か一瞬表情を曇らせた。
その変化を見逃すような新聞部員エドガーではないのである。

・・・・・・・もしや、スクープの種・・・?

へえ、そうなんだ。それは困るね、と相槌を打ちながら皆の様子を見ていたのだが…
廊下の隅にこちらを覗うような金髪の髪が、ちらちらと見え隠れしている。

・・・・・・・あれは・・・?

「ねえ、ルル。あれってノエルじゃないかな?」
「え?ノエル?・・本当だっノエル!ノエルもイヴァン先生に用事なのー!?」

廊下の端に向かってブンブン手を振るルルに、何故かノエルは気まずそうに姿を現した。

「や、やあルル!奇遇だなあこんなところで出会うなんて…ゆ、ユリウスにビラールにアルバロまでいるじゃないかーあっはっはっはー」

ものすごい棒読みである。

「本当ね!私とエドガーはお話していただけで…アルバロもたまたま…ユリウスとビラールはイヴァン先生に用事があったみたいだけど…」
「ユリウスとビラールだけ・・?アルバロは用があったんじゃないのか?」
「うん?俺?俺は…外を歩いていたらルルちゃんの楽しそうな声が聞こえたから、つられてここに来ただけだよ」

そのアルバロの返答に、何故かノエルがほっとしたように肩を下ろした。
・・・・・・ますます怪しいっ
エドガーはキラッっと眼鏡を光らせた(つもり)

「ノエルも俺達と同じ用事かな。図書館の機能がまったくなされていないから…本が貸りられなくて困ってるんだ。早く言わないと、と思って」
「・・ふっ貴様もようやく、パルーが検索してくれない不便を理解したか!僕なんていつだってそうなんだぞーー!!」
「お、落ち着いて、ノエル」
「ノエル君が落ち着くなんて、無理だよルルちゃん」
「ど、どういう意味だ!アルバロ貴様ああああ!!」

まあまあ、ととりなすビラールは笑顔だけど、時折ちらっと学長室を気にしている。
・・・・・もしかして、いつものメンバーで何かをしたのか?
それで、イヴァン先生を気にして…とか…

そうだっそうに違いないっ!!
それなら、あとは…

「何だかんだで賑やかになってきたね!キミの周りはいつも人が集まる!これってすごいことだよ!」
「・・そ、そうなのかな?でも今日は偶然…」
「ううん、俺もエドガーの言う通りだと思う。ルルが来た後の方が…こうしてみんなと話す時間が増えてる。とってもいいことだと思う、ただ…」
「ただ…?」

ああ、また無自覚アタックが始まったかな、と年長者二人は傍観していたのだが。
ノエルはハッ!とした顔でわーわー騒ぎだした。

「こらこら、ユリウスっ!何を言おうとしたんだ!何を!」
「何って、ルルと二人で過ごせる時間も、もっと増えたらいいのにって。正直な気持ちなんだけど、どうしてそう思うんだろう?君にだけこういうのいっぱい思うんだ」
「だ〜か〜ら〜!!場所をわきまえ…たらいいわけでもないが!こんなところで堂々と〜!!」

キーキー騒ぐノエルとマイペースのユリウスに、アルバロとビラールがふっと笑いを零した。

「あ〜あ〜ノエル君、期待を裏切らない自爆だね」
「そうデスね。ノエルがああして騒がなければ、ルルもさらっと流すところでしょうが…見事に真っ赤デス」
「赤いのもいいけど、青く染まったところもかわいいものだと俺は思うんだけど」
「・・・アルバロ・・・?」
「冗談だよ冗談。俺が言いたいのは、どのルルちゃんでも可愛いよねってこと」

・・・・・・な、何か怖い会話だな…
思わずゴクッと喉を鳴らしたエドガーは、遠慮がちに口を挟んだ。

「・・ラギとエストは…さすがに来ないかな。いつもみんな揃うってことは無理、なのかな?」
「いや…そうでもないと思うよ?ほら…」

ね?とアルバロが指をさした先、ルルが何かに気がついたような表情。
たちまちダッシュ!!
向かった先は…

「どうして逃げるのー!!エストー!!」
「・・・っあなたが追ってくるからです!!・・・っ!?」

肉食系ルルに、ガッツリ掴まって、捕獲されたエストが溜息をつきながらもルルの相手をしているのがよくわかる。

「ほら、一人増えた」
「・・・ほ、本当だ!何がすごいって捕まえた後のエストを逃がさず会話が成立してるのがすごい…」

ボクなんて一睨みで終わったり、とかしょっちゅうなんだけどな。

「何か、俺の杞憂だと思いたいけど、エストの時だけ見つけた時のルルの態度が違う気がする…」
「そこは…同感だユリウス。ま、まあでもそうでもしなければエストはぷいっと行ってしまうことも多いし、だ、だからだろう?」
「そうかな、それだけじゃないかもよ・・?俺達も自分から話しかけずにエスト君みたいに、ツンってしてみれば…ルルちゃんが同じことしてくれるかもね」

アルバロの言葉に想像したのか、ユリウスとノエルから全く違うような、同じような反論が返って来た。

「・・それは、そうかもしれないけど。でもルルを見て話しかけずにいるのなんて、意味がわからない!無理だよ!見たら勝手に話しかけている時が多いし、というか全部そうなのかな…ブツブツ…」
「・・・っ!?だ、だだだ抱き締められる為に、そ、そんなことするなんて不純だ!僕はそんな姑息な手段は使わないぞ!せ、正々堂々…」
「うん、正々堂々…何をするのかな?ノエル君?」

とてもアルバロは楽しそうである。

「・・ははっいつもこんな感じ…なんだねきっと!」
「そうデスね。そうだと思いマス」

にこにこ笑を浮かべるビラールを見上げた後、まだ廊下の端で話しこむエストとルルに目を向けた。

「・・・ラギ・・・は来ないみたいだね・・」
「もうすぐ、来ますよ?王道デス、大丈夫大丈夫」

ほら、とビラールが指さした先…
何やら話が終わったのか、エストとこちらに向かおうとしたルルが立ち上がった拍子に、丁度誰かが角を曲がり込んで来てぶつかって…

…あ、変身した。ラギだ――

「・・・ほ、本当にラギも来たっ!・・・あれが・・・あれがラギのパターンなんだね!」
「ハイ。一番羨ましいポジションデス。・・・本人には言えまセンけど」

ふふっと笑うビラールに、うんうん、と頷いてエドガーは感心したように「6人揃った!すごい!」と口にした。
その途端…

ガチャッ

学長室のドアが開き、ふふふっと不気味な笑みを浮かべるイヴァン先生が立っていたのである。

「・・エドガーとやら、よくやった。こやつらはパピヨンメサージュ送ってもまともに呼び出されることがないからな。・・うむ、皆揃っているな」

丁度、ラギを抱えたルルとエストもこの場にやって来て。
何故か腹が減ったーと怒っていないラギと、仕方ないとばかりに溜息をつくエストの二人も、イヴァン先生のお小言を待っているように大人しかった。

「おぬしら…図書館の異変の原因を知っておろうな。責任を取ってもらうぞ・・?」

ゴゴゴゴ…と静かなお怒りが廊下に満ちるようである。
ルルとエドガーも巻き込まれる形で顔を青ざめていたのだけど…

「・・・え?図書館の異変は俺達が原因だったんだ・・俺は知らないけど、何だろう?」
「・・ユリウス。貴様魔法以外のことにも、少しは脳を使え!一週間前、図書館で・・・・ぁぁ・・ほらっ」

もどかしそうにノエルがユリウスを肘でついた。
・・・・え〜と、と考え込んでいたユリウスに、エストが顔を顰めた。

「・・・何だか、すばらしく嫌な予感がします。ユリウスの口を封じた方がいいと思うのですが」
「オレもだ…ダメだ…腹減って何も言う気になんねー…」
「大丈夫?ラギ…ところで、一週間前、図書館で何があったの?」

不思議そうな顔をするルルに、何故か黙りこむメンバー。

・・・・・・これは・・・きっとこれこそが・・・っスクープのネタだ!とエドガーはメモの準備をした。
さっとお馴染みのルーペも構えたのだが…すっとそれを取り上げられた。

「・・・っあ!ボクのルーペ!!」
「悪いんだけど、これは記事にはならないと思うよ?イヴァン先生も意地悪だなあ」
「・・・な、何を・・アルバロ、それはボクのだぞ!」
「後で返しマス、エドガー。あなたの為を思って、言っているのデスよ?」

嘘だ!と思いつつも、エストが本当ですよ、記事にしたら、あなたにも不幸が降りかかります――と冷たい視線を寄せてきた。

「ルル、おぬしには関係のないこと――戻っておるがいい」
「・・え?でも――」
「この者達にはみっちり説教をくれてやらねばいかぬのでな」
「はい・・・「ああっ!思い出した!そうだ!確かミス・ミルスクレア・・っ!?うわっ・・わっ・・・!?、もがもが・・・」

会話の流れなどお構いなしに、ユリウスがピーンときたままに発言したのを、傍にいたノエルが口を塞げばいいのに慌てたのかおろおろしただけ。
なので、ラギがたまらずその小さいドラゴン姿で体当たりをした後、
エストがすぐに魔法を発動してユリウスの口を封じようとしたのだが、勘がいいのかユリウスが避けてしまい――
我に返ったノエルが口を手で塞いだのである。

「・・・・・・・・あぶねー・・・おいルルっ!てめーはもう戻ってろ!!」
「でも・・・」
「これは、あなたには関わりのないことです。それより、ラギのお腹の心配をしたらどうですか?食堂にでも行って準備した方がいいと思いますが…」
「それはそうね!待ってて、ラギ!ご飯の支度してもらうっ・・いいですか?イヴァン先生?」

一人で抜けるのもいいのだろうか?とルルが確認をとると、かまわんと短い返事が返って来た。
は〜いとその場を去っていくルルの姿を見ながら、何故かエストとラギがGJ!とお互いを湛え合うように視線を交わしている。

・・・・どういう状況なんだろう・・・?ユリウスに教えてもらおうか・・・
エドガーがユリウスをちらっと見ると…ルルが去ったことでノエルも一息ついたのか、口も自由になっている。

チャンスだ!!

だが、エドガーがこっそりユリウスに近づき口を割らせる前に…意外と簡単に判明することになる。


「さて、問題児どもを一気に集める手間が省けたのう。おぬしらには今から働いてもらうが異存あるまいな?」
「・・・・・やっぱりそういうことか――エドガーくんを使って、俺たちを集めたって訳ですよね?」
「そうは言ってはおらぬ。わしはルルを連れてここで話せと言っただけじゃ――集まるかどうかはおぬしら次第であろう?」
「一週間前の事を考えると…集まる可能性が高いと思いマスが」

敵いまセンね、と困ったように笑うビラールに、当然じゃとばかりにイヴァンはふんぞり反った。

「愚妹とあのような愚かな争いをしでかしおって…何もこそこそせずとも、堂々と入れるつもりはないとはっきり申せばいいものを――」
「言えるかー!!言ったが最後、蛇みたいにネチネチしつこく追って来そうじゃねーか!!」
「ラギ、ごまかしたのがよくなかったデス。はっきり、ルルに入れるーと言えば、ヴァニア先生もわかって・・」
「バッ!!ビラール!!オレは別にルルに入れるなんて言ってねー!!つーか、そいつに誤解されるような物の言いかたすんな!!」

エドガーを見ながら、真っ赤になって否定するラギ(チビドラなので元々赤いけど、余計に赤い)。
そんなラギの態度や、今までの会話で、そういえば…と先ほどルルと話した『ミス・ミルスクレア』のことを思い出して――

「ああ!なるほど!ミス・ミルスクレアになると張り切るヴァニア先生に、誰に入れるのかと聞かれて断ったとか、そんな話しだね!」
「ううん、惜しい。正確には…『もちろんあたくしに入れますわよね〜』と脅迫してきたヴァニア先生に、ラギ君が『オレはルルに入れるって決めてんだ』ってはっきり言っちゃったから――」
「てめーアルバロー!!さも真実みたいにデマ言うんじゃねー!!!・・・・・・・・だめだ・・・腹、減った――」

はははっと笑って体当たりを交わすアルバロに、ラギは体力が尽きたのかその場に倒れた。
そんなラギを哀れな眼差しで見つめながら、エストがはあ、と溜息をもらした。

「まったく…少しは反省してくださいアルバロ。あなたがあの投票用紙を図書館に持ち込んで、皆に書かせようとしたから…問題になったのでしょう?」
「だって、学園一を決めるんだから、参加しそうにない人を参加させなきゃという使命感を感じてね」
「アルバロ・・新聞部として御礼を言うよ!ありがとう!」
「いやいや、感謝してもらえて嬉しいよ」

エストが胡散臭そうな視線を、アルバロに向けていたが――

「・・でも、それで何で図書館が機能しなくなるのかな?争いって…そんなにすごかったんだね――」

エドガーの言葉に、銘々があの時を思い返した。
そう、あれはいつものように、図書館にいたルルの周りに、自然に6人が集まって一時を終えた後――


***

ひらひらと舞いこんだパピヨンメサージュに、ルルが慌てて図書館を後にしたのはつい先ほど。

「ルルはどうしたのかな?」
「あいつのことだから、きっと・・・課題忘れてたーとか、食堂の期間限定デザートがでたーとか、そんなんだろ」
「ラギはよくルルのことをわかっているのデスね」
「本当だねえ」
「・・・・馬鹿にしてんのか、てめーら・・」

そんな穏やかな会話をしていた時に、不意にアルバロがある用紙を取り出した。
本を読むユリウスとエスト、レポートに励むノエル、会話に花を咲かせていたビラール・ラギにそれぞれに渡して。

「・・・いりません」
「まあまあエスト君。これが何か聞いてから、書いてくれたんでいいよ」
「あなたが何をさせようとしているのか、わかっているから不愉快なんです。いりません」
「?エストはわかっているの?これ何?」
「・・・・・・・・・・・こ、これは・・っまさかっ!!」

ひらひらと用紙をかざしながら、アルバロが満面の笑みを浮かべた。

「そう、お察しの通り・・ミス・ミルスクレアの投票用紙。せっかくだから参加しないと、面白そうだしね」
「興味ねーし」
「またまた、ラギ君そう思いながら・・・誰か頭に浮かばなかった?」
「浮かべてねー!!だ、誰が・・あいつのことなんて・・・」
「ラギ、誘導されてます。・・・こんな、決めても何にもならないことに参加する意味なんてありません。僕はそんなに暇じゃありませんので」

すっと立ち上がろうとしたエストに、まあまあとビラールが押しとどめて席に座らせた。
ある意味、アルバロよりも逆らえない気がする。

「名前を書くのはそんなに手間なことではありまセンよ、エスト。大丈夫デス、中身は秘密厳守デスから」
「・・・っそんなことを心配している訳ではありません」

それでもにこにこ笑顔にそれ以上口を立て付く気になれず・・・エストは諦めて用紙を見ながら頭を悩ませていたのだが。
何ともほがらかな会話をしている二人がすぐ横にいた。

「ミス・ミルスクレアって・・ようするに一番いいなって思う子に一票入れるってことだよね?う〜ん・・たくさん票が入ったら嬉しいような複雑なような・・・」
「・・そ、その言い方・・・ユリウスはもう誰にするか決まっているのか?」
「うん、俺はルルかな。もう書いたよ」
「み、見せるな!!そんなに堂々と宣言するな!!まるで僕が二番煎じで書いたみたいじゃないかああ!!」
「・・・・・てめーら・・・すげーな・・・」

こんな感じで、何だかんだと皆が用紙に書き終わった様なので、それをアルバロが集めようとしたら皆拒んだのだが(当然である)
ラギが書き終わった用紙を折りたたみつつ・・・何票入るのだろう・・まー一票じゃないことはもう確定してるけどな…などとぼんやりしていたら、
悪口を言った途端、すぐ背後に現れる気配が・・・悪口を言っていないのに現れた。
ヴァニア先生である。

「・・・・・ぬあっ!!な、何だ!今日は何も言ってねー!!」
「・・・・・・今日、は?」
「い、いや・・今日、も・・・」

にこにこ微笑む顔には、逆らえないオーラが漂っている。

「それ・・コンテストの投票用紙ですわね?誰に入れるおつもりなのかしら?」

何となく皆が無言で、用紙を片付けようとしたのだが…

「あら、こそこそするところをみると…もうすでに誰かの名前を書いているのかしら?」

ふふふっと詰め寄る先生。
図書館にいる他の生徒までがこの事態に注目し始めていた。

ヴァニア先生とのやりとりに・・ももちろんあるだろうが、大半は・・・

『あいつら、誰に入れたんだ?』

といった好奇心のような視線である。
冗談ではない、人にバレるなんてとんでもない――
そう思ったのはメンバーの一応常識派、ノエル・ラギ・エストである。

このままじゃ・・さらされるっ!そう思ったラギは――

「これは、コンテストの投票用紙なんかじゃねーよ」
「そうですの、では何とおっしゃるおつもりかしら?」
「・・・・うっ・・・・」

標的にされてんのはオレか・・?なら・・・

「の、ノエル・・・これ頼んだ。提出しといてくれ」
「なっ!!僕に押し付けるのか!?」
「あら、あなたのも拝見させてもらえるのかしら?」

ふふふっと笑うヴァニアは・・・とっても楽しそうだった。
どこか、いつも自分をからかうアルバロと通じるものがある――ノエルは泣きそうな顔で・・・

「エスト、パスだ!!」
「・・・・・・・っ!!迷惑です。いりません・・・・ああ・・・」

投げられた用紙を放っておけばよかったのに、受け取ってしまえば・・・簡単に渡すことも出来ない。
自分のもそうなったらと考えると恐ろしいからだ――

「・・・こうなったら・・・書き直すということで・・・隠滅します。レーナ・アンブ…」

魔法を発動しようとした手に、カシャンと光の鎖のようなものがまかれて・・・発動できない――

「アルバロ、邪魔しないでください」
「だめだよ、エスト君。せっかく書いたんだから・・これは俺が出しておくから安心しておいてよ」
「一番不安ですから、止めてください」
「そうデスよ、アルバロ。真剣にルルに投票してくれた3人の気持ちを・・考えてあげなければいけまセン」
「「「ルルとは言ってねー!!(ないぞ!!)(ません!!)」」」

用紙を取り合い、魔法まで飛び出して…
ここは一体、どこだったでしょう…?

「コケーーーー!!!!(てめえら静かにしやがれ!!」)


いきなり、パルーの鳴き声が、図書館に耳を突き破るようにガンガン響いた。
それと同時に手当たり次第に本が落ちて来る。

「ほ、本の・・・乱雑召喚だっすごいっ1階の本ばかりを適当に検索して俺たちに落としてるっ!!パルーはこんなこともできるんだっははっ!」
「ははっじゃないユリウス!!ったっ!!い、いだだ…っや、やめろおおお!!」
「・・・あらあら、・・・あんな力の使い方をしてはパルーの検索に影響が・・・」

こうして、図書館の中は荒れ、パルーも力尽きたのである。



***


思い出にふけって、ふっと自嘲した6人にイヴァンが喝を入れた。

「何をしておるっ!!はよう図書館を元に戻さぬか!!」
「本は出来るけど、パルーはどうしたらいいんだろう。元に戻ってもらうためには…」

イヴァン先生なら、とっくに治せている筈なのに――とユリウスが目を向けると…

「心配するでない。お主たちにはパルーを戻す為の魔法薬も作ってもらうぞ。ちと貴重な薬草が必要でな。裏山に取りに行ってもらおう・・何、2日で戻ってこれるじゃろうて」
「・・・何で裏山程度で2日かかんだよ!!」
「・・仕方ない・・デスね。頑張りまショウ・・・ところで・・明日は・・」
「ミスコンの発表じゃなかった?残念、結果は帰ってからのお楽しみだね」
「・・・そういえば・・・あの時の投票用紙は・・・どこに・・・?僕はあの騒乱の後、そういえば見ていない気が・・・」
「・・・・・・・・僕も・・・です・・・・」

嫌な予感にノエルとエストが顔を合わせてアルバロを見たのだが、知らないよとかぶりを入れられた。

「ああ、大丈夫だよ!キミ達の清き一票は新聞部がすでに受け取っているから!」
「そ、そうなのか・・よかった・・・「ちょっと待ってください!ノエル・・・おかしいとは思いませんか。何故、僕たちの票だとわかるのです」
「・・・・・・っ!?そういえば・・・」
「さあ・・無記名投票じゃなかったから・・すごいねって言っていたから覚えていたんだけど・・自分で書いたんじゃなかったんだね」
「「・・・・・っ!?」」

この件が、自分の名前を書いていない生徒の投票用紙を見て、微笑みながら彼らの名前を書いた女教師の仕業であることは伏せておく。
ショックで言葉をなくす二人は置いといて、エドガーは張り切っていた。

・・・・・面白い記事が書ける・・・っ!!

だが、それは叶うことはなかった。
必死でメモをまとめていた最中、背後に黒く微笑んだ女性が現れたから――

エドガーは皆の助言が嘘ではなかったことを身をもって知ることとなった。





終わり。



「ちょっと待てー!!オレを・・・廊下に放置したままにすんなー!!・・・うう・・・動けねー・・・」






END








ワンドFDポータブル発売おめでとー!!
またしてもくだらないSSを…でもこんなのが楽しいワンドw

ここまでお読みくださりありがとうございましたv
ちなみに…ラギのところには、そのうちルルが食糧用意して駆けつけてくると思います。

さあ今からプレイ…っ!!