発売まであと3日!



ラギルルSS



『瞬間沸騰!』




「・・・だから、何でこいつはこんなところで一人で・・・」

寝ているんだ?という言葉をぐっと飲み込んで、ラギは眠っているらしいルルの横に座る。
何とはなしにうろうろして、ぼうっと座っているうちに眠くなって、気が付いたら寝ていて。
少しの睡眠を楽しんだ後、学院へ戻れば・・・いろんな意味ですぐに目に入ってくるルルの姿は見えず。

こういう時は大体、ルルはどこかで寝ている。
わかってはいても、しょうがねーやつとは思っていても、探す足が急いてしまう理由なんか決まっているけど。

そんな心配を、遠回しに言っても・・・気付くルルではない、ということもよくわかっているけれど、
直接的にも言えないというのが何とも…

いつものように案外簡単に見つかるルルに、ラギは軽く溜息を吐いた。
これなら、オレ以外のやつらにだって見つかるってことなのに、こいつわかってんのか?

ラギは気持ち良さそうに顔を緩めて眠っているルルの顔をじ〜っと見つめた。
こんな時でもないと、こんなことはできない。

『おまえな、もう少し考えろよ、こんなところで一人で寝るか?ふつー!』
『ラギだって寝ているのに、私はダメなの?』
『お、オレはいーんだよ!おまえは…そんなでも一応女なんだからもっと…何かあったらどーすんだよ』
『そんなでもって何〜!?一応じゃないもん!』
『ツッコむところはそこか!?つーか、もっと自分を理解しろ!』

・・・・この間も似たようなやり取りをしたばかりなのに、それでまた繰り返すルルに頭が痛くなる。
ルルに言わせると、自分を探してうろうろしている内に、いい場所をみつけて、気持ちよくなってつい・・ということなので、
ラギにも原因があるとは言えるのだけど。
ラギにすれば、そこでつい、となってしまうのがよくわからない。
そりゃ昼寝癖は自分が植え付けたようなものかもしれないけど・・・・


そこまで考えて、ラギは困ったように顔を赤らめた。
ルルが自分を探すのは、自分がいなくなるから。
一人で寝てほしくないなら、傍にいればいいのだけど…
前のように二人で昼寝をしたらいいじゃないか、そう言われるかもしれないけど…

出来ない理由は、こちらにだってあるわけで。
それを言え、と言われれば…そんなもの、ルルに言える筈もなく。

寮部屋の相方であるビラールなどは、そんなラギの態度を見てルルのことを可哀想デス、とか言うけれど。
可哀想なのは、自分の方だ・・漠然とそんなことを思いながら、ルルの目にかかる柔らかい一筋の髪をそっと梳けば、

「・・・・・・・ラギ・・・・・」

にこっと笑って・・・寝ているのに頬を赤らめて、一体何の夢を見ているんだっていう・・・(いや、オレの夢だろーけど・・・)

ラギは無言ですくっと立ち上がると足早に近くの泉まで走った。
泉について、冷たい水を手に取りバシャっと顔を洗うように・・・それでも覗いた顔は真っ赤。

「・・・・あんなの、無理だろー!?・・・・勘弁してくれ・・・」

未だに熱を持つ頬をぐいっと自分でつねりながら、ああもう!と顔を振って。

少し素っ気なくなったと思っているかもしれない。
・・・でもそれは、ルルの一挙一動に、日に日に過剰に意識してしまうから。
一緒に昼寝も、寝てしまえば問題なかったのだけど、一度、寝返りを打って何かに当たったと思い目を開けて、
目の前にルルが・・・本当に目の前にいて、自分にすり寄ってきた時にはどれだけ変身するのを堪えただろう・・・

そんな事情、ルルが知っている筈もない。
知られても困るけど…

ルルのところへ戻る途中、気を引き締めるように頬をパンっと叩いて、もう起きているだろうか?と遠目に様子を覗えば、
未だそこだけが春を感じるような空気に満たされて、すうっと寝入っているルル。

無邪気に愛情表現を出されて、嬉しくない男なんていない。
嬉しいから、嬉しすぎて困って、つい、逃げ腰になる自分を情けないとは思うけど。

ルルが、自分にも…ルルのような素直な愛情表現を求める時だってある。
それもわかるけれど・・・
日に日に増すルルへの想いは、その言葉を簡単には言えないほどに膨らんで――

「・・・・おまえ、オレがこんなことで悩んでるとか、わかってねーだろー・・・気楽な、幸せそうな顔してどんな夢見てんだよ」

夢の中では、ルルの望むような言葉を、もっと、伝えられているのだろうか?

・・・こいつ、寝てるよな?起きねーよな?

ルルのほっぺをツンとしても、す〜っと寝息を立てるルルを、じいいっと確認して、寝ているのを確信すると・・・
先ほど指でツンとした場所を軽く撫でて、目を細め優しい表情を浮かべると、ルルの頬にそっと唇を落とした。



・・・・・・・・・・ん・・・・ラギ?

大好きな優しい気配を感じて、開きかけた目にその姿が映る前に、ピンとおでこをはじかれた。

「起きるのおせーよ、一人で寝るなって言ってんだろーが!」

漸く寝ぼけ眼にラギの姿が映る。

「・・・ラギ?いつからそこにいたの?」
「・・・わからないなら、おまえが気持ちよさそーに寝てる頃からだろ?」

慌てて跳ね起きるルルとは対照的に、落ち着いて横に座っているラギ。

「おまえなー1人で寝るなっていくら言ったら聞くんだよ」
「だって、ポカポカしてて…それに…」
「それに?」
「一人で寝てたら、ラギが必ず起きた時傍にいてくれるから・・・つい期待しちゃうのかなあ」
「だ、だからっ!そーいうことを・・・っ!!」

ルルの最後の発言に、せっかく元に戻った頬の色は瞬時に赤に、落ち着かせた心は瞬時に沸いて・・・

ラギの人知れず精神修行はまだまだ続く。








『最近私ラギの寝顔見れてないな…』
『見なくていーそんなもん』
『寝言とか…聞いてみたいんだけど・・・ラギはどんな夢見るの?』
『どんなって・・・肉を腹いっぱいとか・・おまえの夢とか…』
『・・え?』
『あ・・・な、何でもない!聞くな!聞き返すなよ!』