発売まであと1日!!
エスルルSS
『花霞』
「・・・でね!結局魔法が暴発して…」
「・・・またですか?」
ルルの日常は慌ただしい。
よくそんなに毎日毎日、話題に事欠かないものだと違う意味で感心すらしてしまうこともあるけど。
話半分に聞きながら、繫れた左手に意識がいってしまう。
「属性も身につけて・・・落ち着いたと思ったのに。どうして暴発するのかなあ?」
「どこが落ち着いたのか、僕には全くわかりませんが」
自分を見つけるなり、嬉しそうに駆け寄って、そのまま見せたいものがあるの!と手を引っ張られて。
こちらの返事は聞かずに、にこにこしながら誘導するルルに、なんだかんだ付いていってしまう。
「ちゃんと手順も確認したのになあ…あ、エスト、ここ!」
ルルが唐突に自分の足元を指さした。
視線の先には何やら一輪だけやたら見事に咲く花がある。
「・・・これは・・・自然にこうなった訳じゃないですよね。あなたがしたんですか?」
「うん!この間思い切りここで転んで・・・お花の上に転んじゃって・・・」
・・・ああ、ほら、やっぱり落ち着いてなんかいないじゃないですか。
怪我でもしたらどうするんですか?と、つい口を挟みたくなる。
「見るからに、くたってなってたから・・・どうにかしたくて・・・」
「それで魔法を・・?」
「うん!ものすごく慎重にしたんだよ!私だって、やればできるでしょう?」
満面の笑顔でそう返されて、エストは少しだけ顔を逸らす。
頬にともる熱を自覚したからだ。
「・・・そんなことは、もうわかっています。これを見せる為に?」
「うん!景色もいいし、ここでちょっとお休みしよう?…実は外でお菓子食べたくて持って来てるんだ」
えへへと笑うルルに、これが一番の目的ではないだろうか、と思う。
お菓子、という言葉につい甘いものを想像して、一瞬眉を寄せてしまったのは、わざとではなくもう反射のようなものだと思う。
そんなエストの反応を予想していたのか、ルルはエストが逃げないようにしっかり腕を掴むと…
「ね!ここに座って!」
花を間に挟むように、座れと言われた場所を目に入れて。
次いでルルが座るであろう場所に目を向ける。
「・・・僕はこっちへ座ります。あなたがこちらに・・・」
「え、ダメだよ!エストがこっち!こっちの方がでこぼこしてないし、汚れないよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
だから、あなたにこちらに、と言っているのに・・・
そういうことをたまには感じとって、察して、汲み取って欲しいと思う。
言ってて、恥ずかしくなるようなことを、この人は必ず言わすのはどうしてだろう・・・
「…尚更、僕がこちらです。座ってください」
引っ張られるままだった手を、初めて優しく引っ張ってルルと場所を入れ替えると、きょとんとしたルルが徐々に頬を染めて。
「同じこと考えてたんだね!エスト!」
「・・・だから、いちいちそういうことを口にしないでください」
「いいじゃない!あ、お菓子お菓子…」
ぱっと手を離してマントの下に隠していたのか、袋を取り出して。
その中から取り出したものは、一目で手作りだとわかるような・・・
「・・・あ、大丈夫!アミィに教えてもらいながら・・・慎重に慎重に作ったし!」
エストの視線に、ルルが慌てて弁解をする。
料理がイマイチなのは周知のことだけど、あからさまに困ったような顔を向けられると、
自分の腕はよっぽどなんだろうか?と知らされてしまう…
「エストも食べやすいように全然甘くないの!スコーンだし・・・」
「ほら!実は紅茶まで用意していました~・・・・エ、エスト?」
はあ、と溜息を小さく漏らしたエストに、やっぱりお菓子は無理があったか?とルルが覗きこむと・・・
「いえ、スコーンなら大丈夫です」
「そう!よかった・・・はい、どうぞ!」
嬉しそうに差し出された物に手を伸ばして、そんなにお腹は空いていないけどそれでも口にすれば・・・
その様子をじっと見ていたルルもほっとして一口ぱくっと食べだして。
――ずるいと思う。
普通のお菓子なら、苦手です、と言えるのに。
わざわざ自分の為に作ったのだと、笑顔で言われれば断れる筈がないのに。
そういうところをわかっているのかいないのか・・・
自分が弱いと思う笑顔と共に差し出されれば受け取るという選択肢しか浮かばない。
そう思いながら、この人は全く・・・と思いながらも、知らず心が温かくなる自分に、喜んでいるのを自覚して。
「あ・・・う~ん…」
「?どうかしましたか?」
ルルが何かに気付いたように顔をこちらに向けて。
つられて視線を合わすと、ルルの右手が伸びて来る。
自分の左手を、掬って、先ほど引っ張る為に繋いだ手が、何の意味もなく繫れて。
「今日は花があるから」
「・・・・・・?」
「エストとの間に隙間があって、何かさみしかったの!でもこれで大丈夫!」
ぱくっと、空いている方の左手でスコーンを食べるルルに、
『食べ終わるまで待てばいいのに。』
そんな言葉が頭に浮かぶけど、口には出ない。
言葉にならないのは、自分がそれを望んでいないから。
そんな感情を、中々表に出せないと思っていた。けれど、ルルと一緒にいると、自然に表に出ようとする。
今までの自分とは違う、そんな変化に戸惑いながら・・・愛しいという気持ちは自然に溢れ出る。
頭に浮かんだ言葉とは裏腹に、口に出た言葉は。
「ええ、僕も一緒です。ルル・・・」
向けられたのは、傍の花が霞むようなルルの笑顔――
『ええ、僕も一緒です。ルル・・・』
繋がった右手に、珍しく僅かに力が込められて、キュッと握られて。
そんなのずるいっって思うような、優しい笑顔がそこにあって。
ねえ、エスト。その笑顔を・・・私、一人占めしたい。
私だけに、向けていて、って言ったら・・・どう思うかな・・・