発売まであと4日!



ビラルルSS



『その目を満たすもの』




「ルル、何をしている?」

背後からの声に、カメラ片手に振り向けば…
いや、振り向く前に視界いっぱいに広がった、という方が正しいだろう、ビラールの顔。

「ビラール!あのね、写真を撮ろうと思っていたんだけど・・・」
「写真?何の写真を?」
「学校の様子をね!ちょっと家に・・・送ろうと思って」

えへっと照れくさそうに笑うルルに、なるほど、と頷いたビラールはさり気なくルルを腕に閉じ込めた。

「ちょ、ちょっと!ビラール何を・・・」
「どんな写真を送るのだ?」

慌てるルルとは対で、ビラールは漸く愛する妃の温もりを感じて満足気。
いや、本当はこれじゃ足りないのだけど…

「もう!・・・学校の写真とか、友達とか、先生とか!」
「・・・将来を誓い合った・・・私の写真は?」

不意に真顔で、覗きこまれる瞳にルルはたじたじになる。

「えっと、ビラールの写真は・・・」
「いずれもちろん、我が妃の家族にもきちんと挨拶はするつもりだが…
 それでも、私のことを言わないということはないだろう?」

顔の距離がどんどん縮まり、頬にそっと気持ちを告げるような感触。
ルルの顔が真っ赤になっていうのと同時に、周囲にいた学生が二人から離れるように立ち去っていく・・・

「それはもちろん!そうだけど!でも、あまり話すと反って心配するような・・・しないような・・・」
「?どういうことだ?私ではおまえに不足だという意味だろ「違う!そうじゃなくって・・・むしろ逆で・・・う〜・・・」

どう言えばいいのか、困り果てたルルは・・そうだ!と何かを考えついた。

「ねえ、ビラールの家族の写真はないの?」
「私の・・?」
「うん!寮には…持ってきてないかなあ…小さい頃のとか、見てみたい!」

可愛い妃にそう言われれば、断れる筈もなく。

「僅かな時も離れがたいが…おまえが望むのなら、今持ってこよう。」
「わ〜!ありがとうビラール!」

ここで本音を言えば、頬にキスの一つや二つして欲しいのだけど、幼い妃はそんなこと頭にないらしく。
こちらを煽るような笑顔だけが向けられて…

寮の部屋に戻り、家族撮った写真を手に取りながら「忍ぶという事は辛いものだな・・」と呟けば、
たまたま部屋に戻ってゴロっとしていたラギと、一部始終を見ていたリアンに「「どこが!?」」とツッコまれていたのだけど。

「ルル…これでいいだろうか?私の家族と・・・友の・・・」
「あ!十分だよ!わっ!この馬かわいい!虎さんはかっこいい!」
「・・・・わ〜ファランバルドってこんな感じなんだ…それに、みんなとっても優しそう!」

ビラールが手渡した写真を、繁々と見つめるルルはとても嬉しそうで、ビラールの心にも温かい気持ちでいっぱいになる。

「私も…おまえの家族の写真を見てみたい。いずれ会うのはわかってはいるが・・・」
「そうね!私の故郷にも遊びに来てほしいな」
「・・・遊びに行くのではない。ルルを我が元に頂きたい、と挨拶をしに行かねば」

話を逸らしていた筈が、何故か本題に戻っていきそうな、そんな気配が…
そんなルルの予想はもちろん大当たりで。

「私とのことを、秘密にすることは何もない。私の写真も、送る一枚に加えてくれるのだろう?」
「・・・それは、うん・・送るけど・・・」

まさか将来を誓い合った恋人です、と赤裸々に話すつもりはない、とは言えないけど…
そんなルルの気持ちを見抜いてかそうでないのか、ビラールはにっこり微笑んで。

ルルから離れると姿勢を正した。
ルルに向けた表情は一転真面目なもの。

「・・・どうしたの?」
「写真を撮るのだろう?正装ではないが・・・やはり失礼だろうか?」
「う、ううん!そんなこと思わないよ!一緒に撮らないの?」

てっきり、二人で撮って、それを送るのかと思っていたルルは肩透かしを食らったようで。
不思議そうに首を傾げるルルに、ビラールはああ、と目を細めると、

「・・・ルルと一緒に撮って、不誠実な男に見られては困るからな」
「不誠実なんて思わないわ!大丈夫!」
「ありがとう。だが…『・・・一緒に撮ると、不誠実に見えることを、してしまいそうなのよね』

言葉を遮って響くリアンの声。
一瞬の沈黙の後、ふふっと小さく笑うルルに、ビラールも表情を和らげて…
その自然な表情がとてもよくて、ルルはパシャっと一枚撮った。

「出来あがったら、送るね!私も・・・机に飾ろうかな」

先ほど、レンズ越しに見たビラールを思い出して、それだけでドキドキする。
そういえば写真の一枚もなかったし、とにこにこするルル。
それならば私も、愛しいおまえの写真をと距離を縮める王子様。

いつものことだ、と二人を無視して未だに周囲に残っていた少数の学生が、
無視できないほど、退散するほどにビラール殿下の溺愛っぷりが始まった。

「ビラール!ほら、みんなまたいなくなっちゃった!もう〜」
「気にしなければいい。ルルは周りの目を気にしすぎだと思うのだが…」
「ビラールが気にしなさ過ぎなの!」

取り敢えず、これ以上の被害者を出さないように、とルルがその腕から逃れようとすれば、
顔に添えられる手がそれを拒んで、ルルの視線を自分だけに固定させるように。

「愛しい妃、気にならないのは・・私の目におまえだけしか映らないから」

じっと見つめられば落ち着かない、と言ったのはどこの誰だったか。
他の者にも、物にも一切目をくれず、自分だけを見つめる瞳。

視界いっぱいがビラールで満たされて、あまりの近さに耐えきれず、視界を閉ざせば、


唇に伝わる熱に浮かされて何も考えられなくなる――








『写真撮るよ〜…はい!』
・・・・・・一緒にも撮ってみたいけど・・・でも今はこれだけでドキドキするっ!
ビラールもそう思ってくれているかな?