Valentine SS




『Approved triangle』





・アルルラギです
誰ともEDを迎えていない頃のお話だと思ってください。
・ほのぼのしつつ、最後はルルのいない所で火花バチバチです。
・ほんわかしたお話が好きな方はお戻りください!





甘いにおいが漂ってくる。
別にそのにおいに釣られて、という訳じゃねーと本人は言い張るのだろうが、とにかくラギはそのにおいを辿ったようで。
着いた先は暖炉のある談話室だった。

そこには「ふぅ」と額に浮かぶ汗をふき取りながら暖炉の中を見るルルと、そのルルを生温い目で見守るアルバロがいた。
その二人しかいない談話室に足を踏み入れたことを多少後悔しながら、ラギはふと、暖炉がにおいの発生源であることに気付いて――

「おい、なんかその暖炉から甘ったるいにおいがすんぞ、何してんだてめーら」
「ラギ!わかる?すご〜い!!鼻も利くのね!」
「…そーか、ルル。ケンカ売ってんだな?やんのかてめー!!」
「まあまあ、ラギ君」

にこにこと、表面だけの笑顔を浮かべながらアルバロが間に入ってきた。

「ルルちゃんはこっそり進めたかったのに、こうして俺とラギ君にバレちゃったから、慌てているんだと思うよ」

それがわかってても、なお、ルルが何かやらかすだろうという期待を込めて傍にいるアルバロはやはり性質が悪い―
白々しく笑顔を浮かべたままのアルバロに、ラギは一瞥するとルルの傍に立った。

「こっそり…?おい、今度は何企んでんだよ」

ルルが張り切る=自分がとばっちりに合う―そんな方程式が着々と根付いてきているラギは気が気でなく。
ルルが話ながらもごそごそと様子を見ている暖炉の中に、ラギも目を向けた。

「あのね、もうすぐバレンタインでしょう?だから…」
「バレン、タイン?何だそりゃ」
「知らない?好きな人に気持ちを込めてチョコを渡すことなの!」
「…っす、好きってお前…っ」

そりゃもうあっさり、バレンタインのシステムを話すルルには『躊躇い』というものがなく。
力強く見つめられながらそんなことを言われ、ラギの方が何故か動悸を無駄に増やしていた。

「…あれ〜?ラギ君、なんだか顔が赤いね」
「だ、暖炉が熱いんだよ!」
「そう?俺はてっきり…ラギ君が何か期待したんじゃないかって思ったんだけど」
「期待って何を?」

ああやっぱり、ここに入るんじゃなかった――
そんな後悔すらゆっくりさせてくれないくらい、ルルがじっとラギを見上げてくる。

「熱いだけだって言ってんだろーが!…ったく、てめーよくそんなところにずっといてられるな…って…なんだこのにおい――」
「…ん?本当だ…焦げてるにおいだね」

ラギとアルバロの言葉に、ルルは慌てて暖炉の中に顔を近づける。
そして、急いで中で焼いていたらしいものを取り出そうと、身を乗り出した。
躊躇なく火の中に顔を近づけたせいか、ルルの柔らかなピンクの前髪がチリチリッ…と焦げ付いて…
中のものを取り出すことに成功し、そのことに気を取られる当の本人よりも、ラギとアルバロの方が目をむいて驚いた。
一瞬にしてラギがルルを暖炉から離して、アルバロがバランスを崩したルルを受け止めて。

ガンッ…カラン――

火かき棒が傍に転がる中、暫し沈黙が漂って、その後開口一番怒鳴り声が響いた。

「っばっ…!!てめー危ねーだろ!」
「う、うんっごめんね、慌ててて…二人ともありがとう。失敗したくなくて、焦っちゃって…」
「ルルちゃんが無事ならよかったよ。それに、俺はおいしいポジションだしね」

アルバロの声がルルの背中越し伝わって。
指を彩るマニキュアちらつかせながら、後ろから伸ばされた手がルルの焦げた前髪を優しく撫でてくれる。
ルルに大事なくて、ほぅっと肩を撫でおろしていたラギだったが…

「ルルちゃん火傷してない?俺が診てあげようか―」

アルバロがその距離を詰めて、耳打ちするように囁くのを目にして思わず剣を取った。
それと同時にルルもその状況に気が付いたのか、「平気!」と顔を赤くして、慌てて離れて立ち上がろうとして…勢いよすぎたのかバランスを崩してよたよたしていたのだが。

「てめーアルバロ!話をややこしくすんじゃねーよ!」
「ええ?火傷してないか診るのはそんなにいけないことかな」

ほら、女の子だし。気にかけてあげないと―
ニコっとウインク一つよこすアルバロにラギは見るからにうんざりな顔になって。

「てめーの言葉をその通りに受け取る奴がいたら、見てみてーよ」
「う〜ん、ひどい言われ様だけど、ここにいるみたいだよ」

アルバロが指差した先、ルルが身なりを整えながら自分の額を確認していた。

「火傷してないみたいだし、大丈夫!2人とも心配してくれてありがとう!」
「ほらね?」
「・・・・・・」

何でこんなにアルバロの変な行動に疎いんだ。
いや、こいつは変なところに鋭くて勘が働く癖に…(そういうところは嫌いじゃねー)、こういう男のし、下心?みたいなもんに鈍い。
どーにかなんねーのか。
いや、オレはどーにかしたいのか――?

「ところで、俺はラギ君になんで剣を向けられたままなのか、教えて欲しいんだけどね」
「…本当、どうしたの?ラギ。アルバロにお肉でも取られたの?」
「んなことで剣を向けるか!!!オレはそんな食い意地張ってねー!!」

それはどうかな〜とばかりに向けられた二人の罪のない笑顔に、ムカムカしつつ剣を納める。

「ラギっ!落ち着いて!・・・そうだ、私が作ってるチョコ、出来たらラギにあげる!そうしたらお腹も膨れるでしょう?」
「オレは腹が減ってイライラしてるんじゃねーってのに…ま、まあ…くれるってんなら貰ってやってもいー」
「ねえ、ルルちゃん。それって…」

さっきまでのルルよりも顔を赤くしてる癖に、そ知らぬふりして会話を続けるラギと、無意識のルルに、アルバロは含みを込めた声をかけた。

「ラギ君にだけチョコをあげるんだよね?それって、本命ってことになるけど」

え?と顔を傾けるルルに反して、ラギは、な、なっと挙動不審になってきていた。

「てめーはイチイチ絡んでくるんじゃ―「本命って何のこと?」
「「「・・・・・・・・・?・・・・・・・・・」」」

何のこと?はこっちのセリフです、ルルさん――
そんな感じの視線を二人に注がれて、ルルはえ、え?と慌てながらも先ほど取り出した塊をふぅふぅと冷やしていた。

「ちょっといいかな、ルルちゃん。それ、一応チョコなんだよね。そのチョコらしき物体を誰にあげるつもりだったのかな」
「チョコらしき物体じゃなくて、チョコなの!!」
「ああそれはわかった。わかったから…で、誰に渡すつもりだったんだよ」

じっと2人に見つめられて、ルルは何でもない事のように名前を口にした。

「え〜と、ユリウスとノエルとビラールとラギとアルバロとエストと…アミィとエルバート先生と…あとエドガーにもあげて、それから――」
「…もういいよ、ルルちゃん。何となくわかったから。つまり、君が作ってるのは義理で、本命じゃないってことだね」
「それにしても多すぎだろ、いくつ作る気だ、てめー」

張り切ってチョコ!!などと目をメラメラ燃やしていたものだから、てっきり本命なのかと思い込んでいたが。
そういうところはマイペースというか、振り回されないというか…
とりあえず、今好きな人全員!と笑顔で渡すつもりなのだろう――

「義理じゃないもの!みんな大好きよ?」
「うんうん、俺もルルちゃんが大好きだよ。でも俺と君の好きには違いがあるみたいだね」

残念、と掌を上にかざすアルバロ。
ここにビラールでもいたらきっと、そうデスか?と疑いに満ちた目をアルバロに向けそうだが…
ラギは純粋なので、怪しみつつもその言葉の裏までは読もうとはしていなかった。
むしろ、女はこーいう言葉を喜ぶものなのか―?とルルに気を向けていた。

「よくわからないけど、アルバロの言う義理だと…貰っても嬉しくないものなの?」
「そんな事はないと思うよ。俺は嬉しいけどね。君に他に本命が現れない限りは」
「ラギは…?嬉しくないと思う?」

だから、そんなことをこいつの前で普通に聞いてくるんじゃねー!!

アルバロの生温い視線が今度はラギに降り注ぐ。

くそっ面白がってんな…でも、ここで誤魔化すのは…嘘なんて言いたくねーし…
ああっ!くそ…結局言わされるんだ――

「だから、さっきから言ってんだろ!…く、くれるっつーんなら…貰ってやる。迷惑とか、そんなことはねー」

恥ずかしいこと言ってんなオレ――

『大丈夫、大丈夫。問題ありまセン』と、励ますルームメイトに言われそうな状態である。

「そう!それならよかった…でもこれは焦げたみたい…う〜ん、どうしよう」
「…焦げたみたいっつーか、黒い塊だろ?消し炭みたいな…」
「すごいね。何をどうしたら…たったあれだけ時間、暖炉の中でこんな変貌を遂げるんだろうね」

ルルの掌の上には『チョコ』とは形容しがたいものが乗っている。
理解できない事態を起こす才能があるとしか思えないルルを、アルバロは愉悦と親しみを込めて見つめた。

「君といると本当、飽きないよ」
「むっ…アルバロが言うと、それはあんまりいい事じゃないと思うの!普通のチョコ作るんだから!」
「はいはい、頑張って。また作るなら見てようかな」

塊を諦めきれずに、何とかならないか思案していたルルだが、アルバロの挑発に乗るように新たな材料を取り出し始めた。

「よかったね、ラギ君?どうやら君の為にもう一度張り切ってくれるみたいだよ」
「別にオレは――おい、ルル。それ、何してんだ」
「え?何って…チョコを…」

チョコは溶かすものでしょう?
至極当然のように、ルルが新しいチョコレートをそのまま、暖炉にくべようとしていた。
その光景に、ラギは口を開いたまま。アルバロは堪えきれずに笑い出した。

「あっははは!最高だよ!いいね、ルルちゃん。やっぱり君は規格外ってことだね」
「な、何がおかしいの!?」
「ルル、頼むから…みんなにやるっつーんなら、まず本を見るなり、アミィに習うなりしろ。てめーそのままじゃ話になんねーだろ」

どうりで、あんな塊が出来るはずだ――
考えたらすぐにわかることだと思うのに、変なところで抜けている少女である。

「む〜!ふ、二人して〜!!わかったわ!絶対美味しいチョコ作ってみせるんだから!!」
「うんうん。期待してるよ?ルルちゃん」
「アルバロの期待通りにはならないんだから!!」

もう!と顔を怒りで真っ赤にして、プン!と頬を膨らませてその場を片付け始めるルル。
塊にも手を伸ばして、それをしまって部屋に戻ろうとしたのだが――

その前にラギがその塊を手に取った。

「・・・・ラギ?」
「これは、オレにやるって言ったもんだろ。何てめーが持って帰ろうとしてんだ」
「でも、それ焦げてて…」

自分でもどうにかならないか、と思案はしていたものの。
チョコの甘いにおいよりも焦げたにおいが鼻につく、その元チョコレートはどうにも出来そうにない。
それでも、ラギは一瞬顔を顰めた後、それを口にした。

「「あ」」

ルルだけではなく、アルバロも珍しく驚いた顔を見せて。

「にげー…けど、甘いところもある。最初からうまくいく奴なんていねーんだから、焦んなよ」
「ラギ――」

元チョコレートを取り返そうとした手を引っ込めて、ルルが笑顔を浮かべる。
今日一番の笑顔だと、言い切れるような――

「うん、ありがとう。頑張って、ラギに作るね」
「・・・おー無理すんなよ」

うん!と頷いて、ルルは二人の様子を傍観してるアルバロの横を通り過ぎ様―

「今度は、美味しいって言わせてみせるんだから!」

いつもの笑顔を浮かべて、挑戦的な視線を最後に向けて言葉に乗せる。
苦笑いで返すことしか出来なかったアルバロだったが――

軽い足取りで鼻歌歌いながら戻っていったルルの背中が消えたのを見て、ラギもチョコの塊を手にしたまま部屋を出ようとした。
そのラギに、「ラギ君」とアルバロに静かな口調で言われる。

「なんだよ」
「いや、さっきのラギ君のルルちゃんに対する態度。紳士的だなって感心してたんだよ」

さっきの、とはこのチョコを食べたことだろう。
そりゃ一瞬勇気はいったものの――あのまま帰すのは気が引けた。

「やる時はやるね。見直したよ――…先手を打たれちゃったかな」
「先手、だ〜?何言ってんだ」

アルバロの言いたい事が、本当にわからない訳じゃない。
自分がそれほどの事をしたとは思えないものの、あの笑顔は…見れてよかったと素直に思える。

もし、他の誰かが引き出したなら、きっと―アルバロと同じような事を思ったのかもしれない。
オレが笑わせたかった、と――

…まあ、アルバロがそんな事を考えるとか、想像できねーけど。
心の中で考えた事に頷くラギに、アルバロが柔らかい表情を浮かべ、いつもの冗談の如くの口調で続ける。

「ルルちゃんって余所では見つからないような…俺にとっても面白い子だから――黙って渡すのは癪だな」
「・・・・はあ?渡すって誰もんな事――」

バカバカしーとアルバロに背中を向けて、もう一度チョコの塊に口を寄せて。
苦いチョコを口に含みつつ、退室しようとしたラギに、後ろから切り込むような口調がかけられる。

「渡さないよ、ラギ君にもね――」

アルバロとは思えない声に、思わず振り返る。
薄い口唇に微笑みを浮かべて、いつもの佇まい、だけど瞳はいつも以上に笑っていない。
笑えて、いない――




こちらを振り返って、返す言葉も浮かんでいないラギの態度。

ああ、らしくない顔になっているんだろう――
予想外なルルの行動、ラギの行動に付け加えて、俺までこんな行動に出るとは――

自分が信じられなくて、嘲笑を浮かべてしまう。

それでも、手放すに惜しいと思わせるルルを――
興味尽きないルルを、笑って差し出すのはごめんだ、と黒い感情が表情を埋めていく。

対峙することで知りたくもない感情が、お互いの心にまざまざと浮かぶ。
それはきっと、自身の行動を今よりも縛るものだろうけど――





「――Approved triangle」

焦りもせずに悠々と告げたアルバロの言葉に、ラギが眉を寄せる。

「…バカなこと言ってんじゃねーよ。オレはもう行くからな」

今度こそ、振り向かまいと決めて、いつもの調子で切り返して。
きっと今もこちらを見ているのだろう、アルバロの視線を感じながら、苦さしか感じないチョコに甘さを求める。

・・・・・・三角関係成立――

「三角どころか、もっと増えるんじゃねーのか――」

すでに成立したと告げたアルバロの言葉に否定する気になれず。
それどころか四角、五角、六角と増えていきそうな角を考えて思わず漏れる息。

そんなラギを慰めるように、甘いチョコが一瞬口の中に広がった。

くだらねーと投げ出さずに、来年もちゃんと、同じ味を口に含めるように――

そんな気持ちになるには、十分な甘さだった――







END







ち、中途半端だなあと自分でも思いますが^^;
アルバロとラギの三角関係を書きたくって書きたくって…
イベントに乗じて書いてしまいました。。。

個人的にはこれ、続きを書きたいです。
にしてもラギとアルバロがもう…らしくなさすぎるんですけど(汗)
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!!