心のままに象れば

「ねえ、ラギって木彫り細工を作るのが好きなのよね?」

裏山でいつものように動物たちから供物をもらい、木の実を口に入れていたところ、突然ルルが近寄ってきて顔を覗き込んでくる。
その顔の近さに、大きく開いた瞳に自分の赤くなった顔を映すまいと、ラギはふいっと顔をよけようとするけれど・・・

「もうラギ!お話中はちゃんと顔をみるの!」

避けようとした顔を押さえられて再びじっと覗きこんでくるルルに、ラギはどうにか話を終わらそうとばかりに適当に返事をする。

「あー好きだけど・・・」
「好き・・・」
「い、言っとくけど、今のはおまえのことじゃねーぞ!・・・で、でも好きじゃないとかそーいうんでもなくて・・・」

『好き』と言う言葉に思わず反応して、頬を染めたルルに・・・一生懸命説明するラギの様子はルル異常に顔が真っ赤になっている。
そんなラギを見て思わずルルはふふっと小さく笑って。

「わかってる、ラギ。好きって言ったのは木彫り細工を作ること、よね?」
「あ、あー・・・でも・・」
「それで、私のこともちゃんと好き、なのよね!」

ぱっと嬉しそうに花が咲くような笑顔を見せるルルに、ラギはうっと一瞬つらそうな顔をしながら頷く。
二人きりの時にこんな笑顔をされたらたまらない。
早めに話を進めてほしいとばかりに、それで?と言葉を繫げた。

「うん、彫ってみてほしいなって」
「はあ?木彫り細工を?」
「うん!見たことないし・・・ラギが好きだから私もしてみようと思ったんだけど・・・でも・・・」

そこまで言うとルルはむうっと口を尖らせてそっとポケットに手を入れた。

「・・・なんだよ、菓子でも入れてんのか?」

あくまで食い意地満開なラギに、さすがにルルも呆れ顔になった。

「もう~どうしてここでお菓子になるの?おかしいでしょ!」
「じゃー何だよ」
「・・・・絶対笑わない?」
「・・・・多分」

多分という言葉に悩みつつも、ルルがラギの前に差し出した掌の上には・・・・丸っこい木の固まり。
・・・・いや、違う。何やらいっぱい傷が付いている。何かの形なのか??

???と考え込んでいるのがよくわかるラギに、ルルは少しだけ俯きながら小さい声で呟いた。

「・・・天使」
「は?」
「だ~か~ら~天使!!ほら見て!!羽がついてるでしょう!」
「は、羽・・・?ひげじゃなくて?」
「それにほら!顔もかわいいでしょう!ね!ね!」
「か、顔?…あ、あー・・・そーだな、これが目だろ?」
「・・・それ口だもの・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」

とても天使には見えない。
そもそも、丸い固まりにしか見えないのに・・・羽なんか波模様の線が付けられているだけだし。
どこがかわいいんだ?

そんなことを思いつつ、ちらっとルルに目を向ければ・・・

うおっ!?んな顔・・・勘弁してくれ・・・・

泣きそうな表情を必死に耐えて、唇をぎゅっと噛み締めているルルの姿が目に入る。
そんな顔をされたら・・・作るしかねーじゃねーか・・・とラギは溜息一つ吐き出して、ルルの木彫り細工を自分のポケットに入れた。

「・・・・・・・・ラギ?それ・・・」
「どーせおまえのことだから、オレに作ったんだろ?つか、作る前に言え!・・・オレもおまえに作ればいーんだろーが」
「・・・・うん!」

泣きそうな顔から一変幸せそうに微笑むルルの笑顔は、たまには人のために・・・いや、ルルの為なら作ってやってもいーかと思わせられてしまうような、ラギにとって特別な笑顔。
なんだかうまく事が運ばれたような気もするけど・・・

「それで?何を彫って欲しいんだよ」
「天使!」
「・・・・・・・オレは天使とか、わからねーんだよ!見たことあるわけねーし」
「私だってないよ!かわいい女の子に、羽つけて、ふわふわした服着させて・・・」
「無理」
「え~何で・・・・」
「おまえ注文多いだろ!動物とか、そんなのにしてくれ」
「ぶ~・・・じゃあ、うさぎかリス!」


そんなやり取りがあって、二人は寮に戻った。
寮に戻って早速ラギはルルの為に久しぶりに木彫り細工を始めていく。
なるたけルルが好きそうな感じの、かわいらしい感じに・・・丸っこく彫ればいいのか?
自問自答しながら、案外時間もかからず出来てしまった2体のウサギとリス。

ふわ~っとばかりに大あくびをして、腕をぐ~っと伸ばして立ち上がる。
その時机の隅に置かれた予備の木が目に入る。

『天使!』

そういえば・・・一番の希望は・・・・
眉を寄せて困ったような笑顔を浮かべながら、隅に置かれた木を手に取る。
ちらっと時計に目を向ければ・・・まだ、間に合うかなと思えるような時間。

・・・・しゃーねーな・・・作ってみるか。
何だっけ?かわいい女に羽つけてふわふわした服?
かわいい女ってどんなんだよ・・・

ブツブツ言いながらラギは黙々と作業を進めていく。
細かな作業に目が疲れて、つい瞼を閉じそうになったり、誤って違うところを削りそうになったり。
そんなことを繰り返しながら、深夜には出来上がったそれは・・・・・

・・・・・・・・・・・・これは・・・・渡すのやめよう・・・・うん、それしかねー・・・・

出来あがった天使は会心の出来だと思うけれど、いかんせん見た目が・・・・・

「お~出来たデスか?見せてクダさい」
「どわっ!?ビラール!起きてたのか!?」
「はいずっと」

にこにこしながらビラールの目はじっとラギの手元に寄せられる。
ラギはその視線にはっとしてすぐに後ろに隠したけれど・・・・

「うさぎとリス、上手デスね」
「・・・・おー・・・」
「でも・・・そのルルが一番うまく出来てますね」

にこにこ微笑みを湛えながら、どこか楽しそうにラギを見つめてくるその居心地の悪さったらない。

「ち、ちがっ!?こ、これはルルじゃなくて・・・・ててて天使だ」

自分で言うのも恥ずかしいけど・・・天使がいいと言われたのだ。しょうがない。
慌てるラギにビラールはさらに笑顔を深めて、にっと顔を近づけてきた。

「・・・・かわいい女で羽ツケて、フワフワした服。の天使がルルになったんデスね」
「な!?どーしてそれを!?」
「・・・・ラギは独り言も大きいデスから、丸聞こえデスよ?」
「~~~~~~~」
「ラギにとって、ルルは天使なんデスね~仲のよろしいことデ」

楽しそうにラギをからかうビラールに、夜中にラギの怒号が響き渡った。


次の朝、二人で登校中にラギはルルに木彫り細工を・・・うさぎとリスのみをあげたのだけど。
心なしかルルがえ?と不思議そうな表情をしてから、ありがとう、と受け取った。
その一瞬の間が気になり、問い詰めたラギの目の前にルルが差し出したのは・・・・・

「これ、天使!ラギが作ってくれたんでしょう?」
「!!!!!!!どどどどーしてそれがここに!?」
「どどどどーしてって・・・・ラギがビラールに言伝したんじゃないの?」
「・・・・・・・・・・・ビラール?」
「うん!ありがとうラギ!恥ずかしいから礼はいらないって言ってたんでしょう?でもやっぱり言いたかったし、言えてよかった!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうしたのラギ?」
「いいいや、何でもない」


ルルが手に持つルルの像・・・ではなく天使の像を見れば見るほど、自分の気持ちの大きさを指摘されているようで、こそばゆい気持ちでいっぱいになる。
喜ぶだけで、自分に似てるなど気が付いていないルルに安堵しながらも、恥ずかしさで顔は髪の色同様に緋色に染まっていく。

一方ルルは、その天使が自分に似てるなど気づかずに、幸せいっぱいで安穏とした時間を送るのだけど、それも自室でアミィに似ていると言われるまで。
その時今のラギと同じくらいに真っ赤になって慌てふためくことになる。
けれど、ラギの気持ちを見るたびに感じて、心を温かくしてくれるその像は、その後ずっとルルの机に飾られることとなった。

ラギの机に置かれた丸っこい固まりの天使と、ルルの机に置かれたルルの天使が、二つ揃って机の上に並ぶようになるのはまだ先の話。






END





天使のルル像(笑)
ありがちなネタだと思いますけど、作り終わってからこれはルルだ!と驚愕するラギを考えてかわいくて仕方なかったです^/^
ビラールさんはルームメイトでいい仕事してくれます!
ビラールは人と絡ませるのが楽しいですV