Everything ties




6




土方率いるクラスがきちんと並んで、カメラが皆を捉える中。
今か今かとシャッターを切るのを待っているのに、一人、千鶴の方を向いて、小さく手を振っている。
土方がそれに気付いて怒っている声が、千鶴のいるところまで何なく聞こえてくる。
その間に、ちゃっかりもう一人、元気よくブンブン千鶴に向かって手を振って…

「あ〜…平助君まで怒られちゃいましたね」
「…最初に総司が手など振るからだ…全く」
「・・・・・そう、ですね(しかし、斎藤さんも…しそうだな、と思ったのは俺だけだろうか)」

先に千鶴なしで、クラスで一枚撮るとのことで、千鶴は斎藤や山崎と待っていたのだが。
傍にいる二人は、心なしか表情が暗い。

「・・・あの、お二人ともどうかされたんですか?何か…あったんですか?」
「いや、何もない・・・何も・・」

千鶴と一緒に、写真を撮りたい。などと、この二人は正直に中々言えません。
そうこうしている内に、写真撮影がようやく再開されたようで…

「…私も入れるんですね…何か不思議ですっ」
「そうだな。…千鶴とこうしていられる、ということがそもそも…そうだ、欲を出しては…」
「斎藤さん、漏れてます。でもああして欲を出す人達がいますからね、抑えるのは大変ですね」

千鶴〜!と平助の大きな陽気な声が響いてくる。
もうこっちへ来い!ということなのか、小さい体で大きく手をおいでおいでしていて。
気持ちに素直なあの行動は、ちょっと今の二人には眩しいくらいだったが…
斎藤は先ほどの山崎の言葉に違和感を覚えた。

「…?山崎も抑えている、のか?」
「いえ、俺は違います」

即座に否定するが、目が泳いでいる。
撮影は半ば諦めかけて、そんな不毛な会話をしている二人に、千鶴があの、と声をかけてきた。

「お二人とも、行きましょう?」
「「・・・・・・・・??」」
「ほら、平助君達もあんなに手を振って…」

当然のように、二人を誘いかける千鶴に。
斎藤と山崎は目をぱちぱちっと瞬かせて。

「いや、あれは…」
「雪村君だけを…」

どうしていいものか、戸惑う二人。中々動かない二人の背中に、千鶴が手をあてた。

「行きますよ?私が…今日だけ土方さんのクラスだとおっしゃって下さるんですから・・・お二人も・・・そうですよ、ね?」

最後に微笑みながら、背中を押す腕に少しだけ力が加わって。
けれどそれは、渋っていた二人の足を踏み出すには十分すぎるほどの力だった。
仲良さ気に三人で写真撮影の為に、土方達の許へ近づいて来る。
その様子に、笑顔で、イライラをまき散らす人が一人。

「・・・・・なんで、二人も一緒に来てるのかな」
「まあ、千鶴がそうしたみたいな感じに見えたけど…相変わらず優しいよな〜」
「…僕だけに優しければいいのに…あ〜あ…ちょっと土方さん、あれ、いいんですか?」

いっそ、教師の権限でおまえらは駄目だ、と言え。
そう仕掛けるような目つきで、土方をじとっと見る総司に、すました顔で一言だけ。

「俺は別に構わねえよ」

ふん、少しは困りやがれ。とばかりに楽しそうに、総司がますます苛々するような視線をよこして。
土方らしからぬ笑顔で、三人を迎えたのだったが…

「千鶴は俺の横だろ。そうじゃねえとおかしいだろうが」
「千鶴ちゃんは僕の横って決めたんですよ、大体おっさんの横になんて…「誰がおっさんだ!!」
「オレも千鶴の横!決めてたもんな〜」
「平助、こういうのは身長のバランスということもある。おまえは土方先生の横で…」
「そうですね。バランス的には俺と斎藤さんで…」

こんな不毛な会話が繰り広げられ、蚊帳の外で待たされていたカメラマンに、すまねえな…と謝るのは左之の役目だった。
不憫な役目である。

ようやく落ち着いて写真を一枚。
土方の後ろに、ちょこっと立つ千鶴。
その横には…総司と斎藤の二人で落ち着きました。
平助はいつも傍にいすぎだ、と却下されたようで…ぶすっとしつつ、土方さんの横、前列で。
山崎は平助と対の場所に。

納得いった人も、いかない人も・・千鶴の思い出に残る一枚の為に、撮る瞬間は笑顔で、と思ってはいるようですが…

「ねえ、千鶴ちゃん」

こそっと総司が声をかける。

「はい?何ですか?」
「手、繋いでいい?」
「・・え?え・・・ええっ!?」

つい、ひそひそ声を忘れて、普通の…よりも大きめに反応してしまい、総司はまた何かしてんのか、と土方や斎藤に睨まれたのだが気にしない。

「だってさ、そういうことしてる方が特別って気がしない?普通しないよね」
「そうですね…しないです」
「だからさ、手。…それだと、後で見るたびに…思い出してくれそうだし。こんな会話の一つ一つも、だからさ」

無理強いして繋ごうとはしない。
手だけを広げて、千鶴がそこに手を置くのを待っている。

「・・総司、聞こえているぞ。こんな時に何を…」
「思い出作りの一環でしょう、これくらい。相変わらず頭固いよね」
「何を…「斎藤さんも、そう思いますか?」

突然千鶴が斎藤に意見を求めて。

「いや、俺は…」

そのまま、口ごもる斎藤。
けれど千鶴が視線を落とせば、手は…

千鶴が少し、ためらったのは恥ずかしいからで、それだけ。
もう少しで、シャッターがきられる――そんな時、千鶴の手は重ねられた。

総司と、斎藤と二人の手と。

カシャっと撮られた一枚。
見返せばその時のことは確かにすぐに思い出せる一枚となった。
嬉しそうに自然に顔を緩ませる総司と、恥ずかしそうに顔を赤らめる千鶴と、突然のことでびっくりして千鶴を見ている斎藤と。

大事な、記念写真となりました。が…

「結局、斎藤君まで繋いでさ…邪魔なんだよね、本当に」
「総司の提案に、千鶴が純粋に応えただけだ。そうなったのも元はと言えばおまえが…」
「嬉しい癖に。あ〜…面白くない。全然面白くない…頑張ってるのは僕なのにさ。」
「それは…嬉しくない、と言えば嘘にはなるが…」

写真撮影の後、二人が言い争っているのを誰かが見たとか…
ちなみに千鶴は平助が引っ張って大仏殿に連れていった模様です。


「お〜っしゃ!ようやく自由行動!遅すぎ!とりあえず大仏だけど…これ、何だ?」
「それ、大仏の鼻の大きさと一緒みたい。通れたらいいことあるって」

千鶴の手を毎朝恒例の慣れた手つきで引っ張って、連れて行く様はさすがでした。
まだ、三人は追いついていません。

「へ〜…んじゃさ!千鶴くぐってみろよ!いいことあるなら尚更さ!」
「え…でも…ほら、人多いし…」

くぐろうとしているのは子供ばかりな気も…
それにもし、もしも通り抜けられなかったらかなり、恥ずかしい。
それに…

「私はいいよ、平助君…試してみたら?」
「え?じゃあオレは千鶴の後で…ほらっ!」

ぐいっと手を引っ張る平助に、千鶴が慌ててちょっと待ってと踏みとどまろうとしたその時。

「平助〜何考えてんの?馬鹿じゃないの?っていうかその手、手!気に入らないな…さっき僕が繋いだのに…」
「って〜!!!総司!腕折れるっ!!や〜め…っ!!」
「止めるのはおまえだ。…千鶴がここを通れる筈がないだろう。少しは考えて物を言え」

その斎藤の言葉に、何故か千鶴がガーンとショックを受けたように俯きました。
お腹辺りをじっと見ている様子だと、太っているからだ、と勘違いしたようで…

「雪村君、斎藤さんの言いたいことはそういうことではない。むしろ君は痩せている」
「じゃあ、斎藤君の言いたいことは何だったのかな?是非、はっきり聞きたいなあ」
「…おまえが言え、総司もわかっているだろう?」
「わかんないなあ…斎藤君みたいにムッツリじゃないし」
「わかっているじゃないですか、沖田さん」

恥ずかしい、会話です。
高校生なのですが…さすがの平助もこれにはピンと来たようでした。

「わ、悪ぃ…千鶴…」
「う、ううんっ!そういうとこ気付かないの。平助君らしいし…ね、平助君くぐってみる?」
「…あ〜・・そうだな!いいことあるかもだし!っていうか…あってほしいし…」

ちらっと千鶴を見る目は、いいことをすっごく期待しているようですが…

「じゃあ早く通れば?この後まだ行きたいところあるんだから」
「足を伸ばして春日大社にでも…というところか。その前に鹿だったな」
「はいっ楽しみですね」
「雪村君、喉は渇かないか?あとお土産も…何かめぼしいものがあれば…」
「ちょっと!オレのこと放置すんなって!!」

何故か、通り抜けようとする平助を放ろうとしているのか、足の向きを変えた三人。
平助は慌てて、千鶴の前で通り抜けようと柱に体を突っ込ませて…

「・・・・・・やべえ、引っかかった」
「・・・じゃあね、平助、頑張って」
「そ、総司!目が本気だぞ!引っ張ってくれたって…っ!!」

バンバンと助けを求める平助君は目立っています。
とても目立っていますが…

そんな周囲の視線を気にせず、優しく手を差し出した人は一人だけ。

「平助君、大丈夫?引っかかったって何が…?痛い?」
「いや、その…かばん・・・だと思う」
「・・・普通、かばんは持たずに通り抜けますよね」
「急いでたんだよ!!」

山崎のツッコミに、他人事だと思いやがってと、恨めしげに睨んでやりたいところですが…見えないところに立っているようで…

「とにかく、つかまって」
「・・・千鶴、ありがとな「千鶴ちゃん僕が…」「千鶴、それは俺が…」

総司と斎藤の二人は千鶴を押しのける、という荒技は出来ず。
言葉で制するも、千鶴は大丈夫、と一言。幼馴染に手を伸ばして。

細い手で、何とか引っ張る千鶴に、平助も抜け出すことが出来て。

「…よかった!怪我とかない?」
「全然!ありがとな千鶴」
「ううんっ…平助君に…これできっといいことあるね」

ふわり、と向けられた笑顔だけでも、いいことはあったと…小さな幸せに包まれた平助でした。

「・・・・・僕も通り抜けてみようかな」
「止めておけ」
「…これで、手を繋いでいないのは俺だけですね」

背中は押されたけど、と最後にぽつっと漏らした山崎の一言に。
総司がとげとげしい視線を、斎藤がきょとんとした視線を送ったのは言うまでもなく。

自由行動。一波乱ふた波乱どころではなさそうです。

千鶴が穏やかに過ごせますように…








続く