Everything ties




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「あっ!!テレビであれ見たことあるっ!!ね、平助君!!」
「お〜本当だ、あれだろ?奈良県の新しいキャラクターで…」
「本物だ〜…うう、一緒に写真撮りたい・・けど無理だね」

只今、奈良県の県庁前。
バスを少し前に下りて、必要なものだけ持って徒歩で移動中です。
皆さんもきっとニュースで見た筈、あのキャラを目にした千鶴は興奮中です。

「千鶴ちゃん、写真なら僕と撮ればいいのに…そういえば…まだ一枚も撮ってない!!」

僕としたことが・・と頭を抱える総司に、平助は放っておけよ?絡むと面倒だぞ、と千鶴の肩を叩いた。
千鶴は未だ、あのなかなか強烈なキャラに見入りつつも…優しいので返事をした。

「・・沖田さんまだどこも回っていないじゃないですか。写真を撮るのはこれからですよ」
「うん、そうだけど・・・二人で、撮ろうね」
「はい」
「・・・・・・・・・」

千鶴がはい、と返事をしたのに。
総司が不機嫌そうな理由は…千鶴が諦めきれないように、カメラ片手に奈良県キャラばかり見ているからです。

「千鶴はああいうものが好きなのか?・・意外だな」

そんな千鶴の姿に、あれのどこがそんなにいいのだろう。
一緒に写真を…とそこまで思うのだろうか?
と首を傾げつつ、斎藤が千鶴の横に並んで語りかけた。

「意外ですか?・・・とってもかわいいと思うんですけど・・・あのぱっちりした目とか!!」
「・・・・・・かわいい、か。なるほど、千鶴はああいうのが…」
「斎藤さんもそう思いませんか?」
「ああ、かわいいな」

意外って言っていた斎藤さんはどこへ…と皆がツッコミたくなるような笑顔で、千鶴に返事をする斎藤の後ろで、
山崎が不審な行動をする総司に眉を顰めた。

「沖田さん…一体何を・・?」
「こっそり写真撮ってる。うん、うまく斎藤君は除外出来たっと・・・」
「何?あのキャラも画面に入れたの?」

平助が手元のデジカメを覗き込みながら、口を挟むと、「うん、何とか」と総司が画面を確認して。

「・・雪村君の為ですか。意外に優しいところがあるんですね」
「僕は千鶴ちゃん限定でいつでも優しいよ・・よし、これで、夜に・・・・・・・」

ふふっと笑を浮かべる総司の姿は…とても微笑ましいものではなかった。

「魚心あれば水心あり、とでも思っていそうだな…危険だ。夜は目を離さないようにしなければ・・」
「オレも賛成…つか、写真くらい・・今言えば喜んでこっち来そうなのに・・」

そんなこんなやり取りをしながらでようやく・・というか、簡単に辿り着いたのは興福寺です。
そこではもう鹿がお出迎えしてくれて、千鶴は今度は鹿にも目を移しつつ・・・ですが、

「千鶴ちゃん、遅れるよ〜」
「あっすみません…つい…はぐれたら大変ですよね」
「・・まあ、一人ではぐれたらね。それはないから大丈夫。はぐれるなら僕と二人だし」

?沖田さんもはぐれるって?何でだろう・・?

鈍い千鶴は頭に疑問を浮かべながら総司が浮かべる笑顔に、つられて笑顔を浮かべる。
そんな様子に、また千鶴がよくわかっていないのをいいことに変なことを吹き込む、と眉間に皺を寄せながら、斎藤が口を開いた。

「・・千鶴、はぐれなどさせないから大丈夫だ」
「あ、はい。付いていきますねっ!」

斎藤さんの皺は消えました。

「・・・・鹿とは、後で班行動の時に触れ合えばいい」
「そうですね・・おせんべい・・買ってもいいんでしょうか?」
「うん、僕が買ってあげる」

他愛ないおしゃべりを楽しみつつ…ゆっくり歩いていれば、目の前には五重塔。

「う〜…教科書に載ってたようないないような…、古い寺だな〜ってくらいにしか感想が・・」
「平助君らしいね」

後ろから洩れる幼馴染の言葉に、千鶴がくすくす反応して振り向いた。
まさかそんな言葉を聞かれているとは思っていなくて、もっとマシなことを言えばよかったと恥ずかしく思いながら…
それでも振り返った千鶴が嬉しくて、つい、声が弾む。

「じゃあ、千鶴は?オレのこと笑うなら千鶴だって感想言えよな!」
「え?う〜ん・・・やっぱり古い建物で・・昔に再建されているとはいえ、力強いっていうか、何か感じるものがあるなあ・・」
「何だよそれ、オレと似たようなもの・・「さすがは千鶴ちゃん」「さすがは千鶴」

両脇からお褒めの言葉を頂いて千鶴は少し照れているようです。
そのまま、なしくずしに二人に話しかけられて、また前を向いてしまった千鶴に…平助はガクッとわかりやすく肩を落とした。

「・・・なんか、理不尽だ」
「ちなみに…あれは寺ではなく、塔ですよ。五重塔の日本では二番目の高塔です。ちなみに仏塔とは…」
「ああっ!もういいから!・・何か授業しているみたいな気になってくんじゃん!」
「・・・これは授業の一環だと思いますが」

楽しそうな前三人とは、どうしてこう空気が違うのか…
平助はその後も山崎の講義をたびたび受けることになる(ちなみに全て平助の失言絡み)

一方。

「阿修羅像…ってこんな顔でしたっけ?もっと怖いような気がしてました」

6本の腕で有名な阿修羅像を前に、千鶴はじっとその顔を見入っている。

「いや、こういうものだ。他のものと勘違いしているのではないか?・・ここではこれが一番有名だな」
「そうでしたか…何だか優しいような、悲しそうな…感じがしますね」
「う〜ん、優しいっていうのはどうかなあ。土方さんみたいな恐ろしい顔が・・教化によって君みたいな純粋な表情になる過程の顔ってことだからね」

・・・・・・・総司の説明はわかりやすいんだか、わかりにくいんだか…

それでも、沖田さんって物知りだなあと、千鶴がちょっとだけ、尊敬するような目で総司を見た。
自分も説明しようと思っていた斎藤は、少し不満そうで、総司さんは満足そうで。
ちなみに、二人ともこうして千鶴に説明したくて、旅行前に色々資料を見て勉強していたのは・・・千鶴には内緒の話。

「どうしてそこでおまえは・・土方先生を例えに出すんだ・・」
「あれだけ元が恐ろしい顔なんだよって・・わかりやすいでしょう?」
「確かに難しい言葉よりは…でも、あの…土方先生は別に恐ろしくなんか…それに私もそんな、純粋とか・・・」
「いや、千鶴の例えはいい」「うん。僕もいい例えだと思う」

こんな時は息ぴったりで。
何かにつけて、千鶴を絡めるのが大好きな二人です。
この時も後ろにいた山崎さんと平助君は、土方先生が傍にいないか、ひやひやしながら気配を思わず探してしまい。
いないのにほっとしていたとか…


お次はいよいよ、東大寺です。大仏殿です。
大仏殿がもう視界に入り、急ぎたくはなりますが、その前に南大門をくぐりましょう。

収納された二体の像が向かいあうように左右の柱に。
昼間だというのに、少し薄暗くて、その表情ははっきりとは見えないけれど・・

「あっ!!これは有名ですよね!金剛力士像…私、阿修羅像もこんな顔かと思っていたんじゃないかな・・」
「なるほど、これと勘違いを・・・・」
「・・・斎藤さん、口が笑っています・・」

むぅっと口を千鶴が尖らせても、かわいいだけで余計に口が緩む。

「すまない。いや、これは確かに怖い表情をしているな」
「・・・はい」
「そうだよ、ひどいな斎藤君。千鶴ちゃんんをからかうのは僕の特権なのに」
「…そんな特権ないですよ」

千鶴がもう、と今度は頬を膨らませれば、その頬を軽く押して、笑いながら元に戻して。

「この像の顔有名だからね…像とか言葉が出たら、この顔。みたいに刷りこまれていたのかもね。それに身近にも・・こんなのいるしねえ」
「・・・・いないですよ、こんな人」
「いるじゃない、すぐそこに。ほら・・」

ね?と総司が指さした先を見れば、やっぱりいた。
山崎と平助が必死に視界に入らないようにしてはいるけれど…隙間からちらっと見える人。
鬼の形相した先生様が一名。

「・・・総司、てめえ・・・こんなとこでも喧嘩売る気か?いい度胸だな・・・」
「嫌だな土方、先生(先生を強調)。僕は売ってるだけですよ。先生が買ったら駄目だと思いますけど」
「やかましいっ!!そんな言葉が通ると思ってんのか!てめえはっ!!」
「ああもう、土方さん勘弁してくれよ・・総司も煽るなって」

拳に血管を浮かべて、苛々する土方に・・奈良に着いてから何故かずっと不機嫌だった土方の守状態だった左之が頭を抱えて。
そんな殺伐としてきたこの場を、一瞬にして和やかに変えたのは…

「土方先生の負けです」
「・・・・?負け?」

突然かけられた声は、ただ一人、そんな土方を怖がらずに微笑みかけてくる。
何だ?と土方が千鶴に向き合えば、千鶴が金剛力士像の阿形の方を向いて。

「ほら、じゃんけん…土方先生が・・拳を握って…グーで負けです」
「じゃ、じゃんけん?」

何言ってんだ、と阿形を見れば…開いた手が…パーだとでも言いたいのだろうか?
一瞬シンとなった後、噴き出した左之の笑い声をはじめに、途端に笑い声があちこちから漏れた。

「ぷっ!なるほどな。確かに土方さんの負けだな。あれにゃ勝てねえよな。つうことで…ほら移動移動!金堂の前で写真だろ!」

左之に背中を押されて無理やり出させられそうになった土方は、一度総司の方をキっと睨んだ後。
一転、千鶴に柔らかな視線を移し、軽く前髪をくしゃっと掴んだ。

「・・ったく。そういや、写真は・・一緒には撮れねえ。わかってるよな?」
「・・はい・・集合写真はクラスで、ですから…」
「…まあだけど、おまえも一枚くらい写ってもいいと俺は思ってる。今は俺のクラスの生徒だ。…そうだろ?」
「・・・っはい!」

嬉しさに、千鶴が手を合わせてほわん、とした空気を漂わせる中。

「結局土方さんおいしいところ持っていくよな・・・千鶴、俺のクラスでも一緒に撮るか?」
「・・・え、ええっ!?それは…でも…2クラスでなんて…いいんでしょうか…?他の方もどう思われるか…」
「そうか?・・・まあ千鶴がそう言うんなら…あ、斎藤、山崎。おまえらも写真は自分のクラスで、だからな?」
「「・・・・・・」」

当然の言葉ですが、斎藤と山崎は暫し無言で、え?と言うような表情をしています。
まあ、こればっかりは仕方ねえよな、と左之はそのまま土方と門を抜けて行ってしまいました。

「千鶴ちゃん、さっきはありがとね、助かったよ。・・ところでさ、写真は僕の隣だよ?・・学年違うけど、何か一緒って感じがしていいよね」
「そうですね・・一緒みたいです」
「あ、千鶴っ!写真オレも隣な!・・・あ、あのさっところでさっきのじゃんけんのやつさ…」

平助が少し、自信がないような。はっきり口に出しきれない様子に、その意図がわかっているのか、千鶴がゆっくりと答えた。

「うん、平助君が昔してたよね…写真に向かって…平助君はチョキだして勝った!ってはしゃいでいたけど」
「おうっ!いや、さっきそれちょっと思い出して…千鶴は覚えてんのかなあと思ったらさ・・」
「覚えてるよ。私もそれが浮かんだから・・・ああ言ったの。何か懐かしいね」

やっと、千鶴と平助の持つ、時間に。
そんな気がするような、ほんのり優しい時間は…あっという間に終わりを告げてしまった。

「ふうん・・・いい話だね・・・二人だけの思い出って羨ましいなあ」
「平助君は本当に楽しくて、思い出たくさんあるんですよ、ねえ?」
「お、おお・・・た、たくさんある!」

千鶴が目を、総司から外した途端に、黒い気を飛ばされる。けど、負けてたまるか!と踏ん張って、平助は言い切ってみたが…

「まあ過去は大事だけど、未来も大事だよね?」
「そうですね」
「未来は…僕と思い出たくさん作ろうね」
「はい、まずは写真ですよね」

ものの見事に、自分の方へとうまく軌道修正されてしまった。
うう…総司の口車は何とかならないのか・・と平助が思っていた中。
それ以上にずっと押し黙ったままの二人が…もちろん、斎藤さんと山崎さんです。

せっかくだから一緒に…写真を撮りたい二人は…??

集合写真はどうなるでしょうか。
記念の一枚になりますように。







続く