Everything ties




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ようやく到着しました京都駅ですが、奈良へ行くために今は素通りです。
薄桜学園一同は、ひとまず奈良へ向かいます。

「バスに乗り換えなんて面倒くさい…」

乗換る為にひとまず新幹線を下りて、バス停留所まで歩く最中、
どこからともなく誰が言っているのやら、不平の声が先生達の元に届いてきます。が…

「ようやく京都だな!千鶴っ!奈良では何が楽しみなんだ?」
「え〜と…やっぱり大仏?」
「千鶴。何故疑問形になっている?まあ、大体予想はつくが…」

千鶴のことをわかっているかの様にふっと口元を緩める斎藤に、千鶴は照れくさそうに本音を漏らした。

「…鹿に触れてみたいです」

教科書に載っているような建造物、歴史遺産を見る事はもちろん、感動するのだろうけど。
動物好きな千鶴は、鹿がいっぱいいるのが楽しみ、というのが一番かもしれない。
そんな千鶴の頬をつん、と押しながら、総司が含み笑いを浮かべた。

「千鶴ちゃんが鹿に遊ばれないようにね」
「そんなことっ…大丈夫です。…多分」
「まあ、その可能性は大いにあると思うが、俺達が傍にいるから心配はいらないだろう」
「山崎さん…フォローじゃないです」

千鶴が傍にいれば、いつでもご機嫌班は問題ではないようです。


それに比べて先生陣はかなりお疲れ…


「おい新八、難しい顔して…また予想か?止めとけよ!また借金頼まれてもも俺は知らねえからな?」
「わ、わ〜かってるって!任せろ!俺にぴったりの馬がいてな…それを…」
「・・・・・駄目だこりゃ…ったく、馬はいいから自分の受け持ちくらいちゃんと見ておけよ?ほら、さっさと行け」

ドンっと肘で押して、新八をさっさと退けたのには深い深い理由がある。
横に並ぶ人物を、これ以上苛々させてはならない・・・

「・・・お〜い、土方さんよ。んな顔してたら生徒が怯えて旅行どころじゃなくなるぜ?」
「・・・原田、おまえ…俺にあれで怒るなって言えるのか?ああ?」
「…いや、そうだな。気持ちはよくわかる」


新幹線で京都に向かう。
これだけのことですでに騒動は起きてしまった。

総司と平助、斎藤と山崎。
どうやら4人が二組に分かれて千鶴を争っているのが原因のようで。
今は何とか収ってはいるが、昼食時にはそりゃまあ色々大変だったのだ。

「こんなこと今更言うのも…なんだけどよ」
「何だ」
「…別に、斎藤や山崎をつける必要なかったんじゃねえのか?だから余計こじれてんだろ?」

特に、総司がうるさく言うのはわかっていただろうに。

「本当に今更な話だな。仕方ねえだろ?大体、これを強く希望したのは斎藤なんだ」
「斎藤が…?そりゃまた…」

土方は特例というのをあまり認めたがらない。
その土方を説得させたのだ。
斎藤は普段あまり見せないが、その根底には熱い芯のある意思がある。
その説得には、それだけ熱がこもっていたのだろう。

「まあ、一班四人は必要だと思ったからいいとは言ったが…のっけからこんなんだとな…」
「じゃあゆっくり休ませてやろうか?」

名案だ、とばかり左之が指を立てる。
何を言い出すのかと思えば…聞いた言葉は余計に皺を深くするものだった。

「バスは、千鶴だけこっそり俺の方に乗せるのがいいんじゃねえか?」

まともに聞こうと思った自分が嫌になる・・・

「何がいいのか、さっっっっっぱりわかんねえな…バスの中であいつらが余計騒いで、俺が相手しなきゃいけなくなるだろうが!!」
「いや、でも千鶴の平和が一番だと思うんだけどな?あいつら、バスの席でも揉めそうだし」
「・・・バスは俺の横だ。問題ねえだろう」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・何だよ」

結局、土方が苦労するのは自業自得な気がした左之だった。

大体元々…土方さんが俺のクラスで千鶴をって譲らなかった為に、こんな問題に発展しているんじゃ…

そんなことを心で呟き、やれやれ、と言いながら。
奈良でまた顔を見た時には、皺が深く刻まれているのだろう…
それを俺はまたたしなめるのか?と自分の役割にうんざりしながら、自分のクラスのバスへと向かったのだった。

その頃。

「あっバスガイド発見〜そういや中学の頃なんかは…きれいなバスガイドが自分のバスに来ると嬉しかったよなあ」

なあ!と残り男三人に向けた、平助の爽やかな笑顔はことごとく裏切られた。

「へえ〜平助はそうだったの。僕はあんなの興味ないけど。人それぞれだし、いいんじゃない?」
「嬉しいと思うのは平助の自由だ。だが、俺には同意を求めないで欲しい。考えたこともないからな」
「そうですね、そうやって騒いでいる友人はいましたが…藤堂さんもその一人だったんですか」

なっ!!おまえらだって絶対そうだったろ!?
千鶴か!?千鶴がいるから…そんなの知らない振り!?くそっ!!

平然と俺(僕)たちは知りません。な顔をする三人に、平助は悔しがっていると、いつの間にかくすくすっと小さく笑いながら千鶴が横に立つ。

「平助君…中学の頃、じゃなくて今もでしょう?」
「ち、違うっ!オレ今は別にっ!!」
「隠さなくてもいいよ。平助君のタイプってどんな人?あの中にいる?」

先ほどの平助の視線の先を千鶴が辿る。
確かに、かわいい人、きれいな人が仕事前の確認か団らんか、輪になって話している。

「…本当にいないし!お、オレ…オレの好きなのは…」
「うん」

いい雰囲気が…どこからともなく盛り上がっているような…
そんな雰囲気を放置して傍観する、などという選択肢は、周りの三人にはなかったようで。

「平助の好きなタイプはほら、あの…髪を一括りにしている人じゃないの?ああいう感じが好きなんだよね」
「え?ち、違うっ総司何言って…」
「そうだな。確かにそんなことを言っていた」
「一君っ!?そこで総司に乗る!?」
「…そうですね、今何か落とした人ですよね。ああいうドジな人が好みな筈」
「それはっ!!(千鶴のことであって!)」

悲しいかな。後半の叫びを言う訳にはいきません。

「そっかあ。平助君の好みはああいう人。何かすごくわかるな。」
「そーかよ…(涙)」
「ちなみに、千鶴ちゃん。僕の好きなタイプはど〜れだ?」

千鶴にバレないように、こっそり泣きそうな平助を余所に、総司がそんなことを言い出して。

「えっ…沖田さんのタイプは…あ、あの大人っぽい人ですか?」
「残念外れ」
「え〜…・じゃあ…「雪村君。そろそろバスに乗りますよ。荷物を預けるのでこちらに」
「あっはい!あ、沖田さん。お目当ての方が乗るといいですね!」
「え、ちょっ…」

残された三人は山崎の早業に暫しぽかんとしていた。

「・・・・・・・・・総司の自業自得っつうことで。オレと同じだな〜」
「うるさいよ平助」
「なかなかやるな山崎…それで、総司は『千鶴だ』と言おうとしたのか?」

相変わらず、こういうことには頭が回る、とばかりに斎藤が呆れた視線を送って来る。

「違うよ…千鶴ちゃんってそう言っても、何故か本気で取らなくて。ありがとうございますとか言いそうだし」
「それか、お世辞か付き合いでって考えそうだな」
「なるほど…直接言うのは…それではどうやって伝えれば…ブツブツ

声が漏れてるよ斎藤(一)君…と二人が黙って見ているのに気が付かず、斎藤は一人、考えに更けりだしたようだった。

「じゃあ何て言うつもりだったんだよ」
「別に、婉曲的に言うつもりだったんだけど…」
「…それじゃわかんねーよ!」
「わかんなくてもいいよ。僕は少しずつ少しずつ伝えて…わかってもらえればいいし」

・・・まあ、直接的にも言うし、するけど。

そんな心の声は出すとうるさいので、ここは押さえておく総司さん。

こうして五人はバスに乗り込んだのだが…


「何で千鶴ちゃんが土方さんの横!?この○○教師!!」
「てめえ!言うにことかいて・・○○教師とは何だ!!大体てめえらが新幹線内で揉めるからだろうが!文句は言わせねえぞ」

バスは二人で並ぶのが基本です。
当然千鶴は余る訳で、先生の横に…というのはそれほど横暴なことではないのですが…大騒動です。

「しかし、修学旅行とは生徒同士の親睦を深めるというのもあります。千鶴だけを離すというのは…」
「そうですね。俺か斎藤さんが補助席に座ればいいだけです」

斎藤さん山崎さんは対抗カードで補助席まで出してきました。
これには千鶴が慌てます。

「いえ、私…バスには酔いやすいから…先生の横で・・その一番前がいいですから」
「・・千鶴もこう言ってんだ。てめえら、大人しく座れ」

それで引きさがるようなメンツじゃありません。

「酔いやすい、というのなら…尚更俺が傍にいるべきかと…失礼ですが先生よりは役に立ちます」
「…あ?お、お前な…」
「千鶴、心配ない。俺は先生から頂いた万能薬を、常備している。先生はお持ちですか?持っていないなら俺が傍にいる方が…」
「斎藤、いや、あの薬はな?」
「車酔いには梅干しだろ!!千鶴、大丈夫。オレ持ってるし。オレの横の方が休みやすいって!」
「平助、そりゃどういう意味だ」
「・・・・ううっ気持ち悪い…僕も酔ったみたい…千鶴ちゃん、僕も一番前に一緒に座っていい?ということで土方さん僕と代わって・・・」
「どんだけわかりやすい嘘吐いてんだよ!!」

すでに他のクラスのバスは出立しています。
不運なことにこのクラスの生徒諸君はもう、諦めたように知らぬふりをして…

「あ、あの…もう出発しないと…席にお着きください」

バスガイドの声もむなしく。
騒ぎ続ける一同を止める事など誰も出来ず。
仕方なく、バスはそのまま、出立したのでした。

行く先は奈良。

早く旅行らしくなりますように…







続く