Everything ties




24




沖田さんルート

斎藤さんルート









































沖田さんルート



4日目、5日目、6日目。
薄桜学園は完全な班の自由行動になります。
とはいえ、定められた場所には必ず回る事。それさえ守れば自由。

「…それもこれも、寛大な近藤さん、校長先生のおかげってね」

とても楽しみにしていたのは、今日からだ。
教師や、他の生徒の干渉のない時間。なのに――

「何ブツブツ言ってんだよ、総司」

自由行動だろうとなかろうと、いつもは千鶴の傍にビタと張り付く総司が、今日はそうしていない。
千鶴と前を歩いていた平助は、激しい攻防のない穏やかな会話の一時が何故か落ち着かず、こうして総司を気にかけていた。

「珍しいのな、千鶴と歩かなくていいのかよ」
「平助こそ、僕に構わないで行った方がいいんじゃないの?…ほら、斎藤君と山崎君がもう張り付いてる」
「…今日は雨かな」

いつものように不機嫌になるのではなく、どこか無気力な総司に平助は心配しつつ。
珍しい事態に思わず空を見上げた。
平助のそんな態度に、総司も無表情にようやく凄みを帯びた笑みを浮かべた。

「どういう意味かな」
「…っじょ、冗談だって!…まあ、その方がいつもの総司らしいけどな!腹の調子でも悪いのか?」
「平助じゃあるまいし…」

総司と平助がそんな会話を繰り広げていた一方、千鶴は――

「・・・沖田先輩、今日はあんまり元気ないですね」
「そう、ですね。無駄に雪村君に張り付く人だとは思えないですね。・・・・」
「千鶴、総司と昨夜…何かあったのか?」

昨夜、千鶴を部屋まで連れて行ったのは総司だ。
その時まで、二人は普通だった。
いや、むしろ…平常よりも近づいたように見えた。

だが今朝、二人の間に流れる空気が微妙に変わったことには斎藤も山崎もぼんやり気付いていた。
口を挟まない方がいいと思ったのだが、当事者の千鶴は何が原因かわからないような態度をしている。

「・・・昨夜・・いえ、何も・・・」

ほんの少しだけ目を落とす千鶴に、斎藤と山崎は目を合わせた。

・・・・もしかしたら、総司が送った際、とうとう告白をして。
あまりよい結果ではなく、千鶴が気に病んでいるのかもしれない――

それならば、深く掘り下げないほうがいいとばかりに、二人は違う話題を向ける。

「しかし…6日目に完全自由行動にする為とはいえ、今日明日でまた寺社を巡るな」
「そうですね。今日は銀閣寺と、金閣寺…戻ってからも体験学習があります。時間に間に合うように見ておかないと…」

二人の言葉に、そうですね、と頷きながら。
千鶴は意識を背中の方にばかり向けていた。

どうして、元気がないのだろう。
もしかして…昨夜の写真を撮る時に言った言葉だろうか――

…怒ってる、と思われてるのかな…

昨夜は総司が部屋を出る際にも、いつものように見送りはしたけど…目をあわすことができなかった。
自分自身の不可解な気持ちで手一杯で。
総司のことを見る事が出来なかったのだが…

失礼、だったかな。

もしかして、怒ってる…のかな――

「南禅寺ってあんまり聞いたことないや。千鶴ちゃん、知ってる?」

突然向けられた声に、肩を揺らしてから振り向く。
傍にいた斎藤と山崎が、何故かすっとその場を離れていく。
総司はいつもと同じような笑顔を浮かべて、水路閣に目を向けていた。

…怒っている訳じゃないみたい――

ホっとしながら、いえ、私もあんまり。と言葉を返す。
怒っていないならいないで、元気がないのが気にかかる。

「でも、この水路閣はテレビとかで見た事があるような…」
「テレビで?ふうん…古いよねえこれ。まだ役割果たしてるんだよね」
「そうですね。でもレトロな感じがいいと思いませんか?」

同意を求めるように総司の顔を見上げれば、デジカメをこちらに向けている。

パシャッ

「・・・・・っ」
「千鶴ちゃんが楽しそうに話してると、そうかもって思うよ」
「また、不意打ちです」
「ごめん。でも君一人だけ写すのはいいよね」

苦笑いを一瞬浮かべて、曖昧に濁したあと、スっと傍を離れていく。
そのまま、斎藤や山崎の頭を軽く小突き、入り口の方へ一人足を進めていくようだった。

「・・・・・」
「千鶴、どしたー?なんか千鶴も元気ないよな」
「平助君…」

千鶴、も――

平助君にも、やっぱり沖田さんは元気がないように見えるんだ…

怒ってるんじゃなくて、元気がない――

昨夜は、沖田さんのすることがわからないと思った。
でも、沖田さんが誰を好きでも、友達に対する態度が変わらないのは当たり前で――
そんなことを私が勝手に気にして、追い返すような形になれば…優しいあの人は、気にするに決まってる。

ようやく繋がったと思えた途端、自分のした事が情けなくなる――

ふと、隣で千鶴が口を開けるのをじっと待つ平助に、何かを言いかけて止める。

どう説明したらいいのだろう。
昨夜のことを、話して…でも、自分でも自分の気持ちに、よくわからない部分がある。
うまく、言えそうにない。

「…ううん、何でもない。えっと…門の方に行こうか。庭園とか障壁画も見ておかないとね」
「・・そうだな。って言われてもオレ庭園なんか見ても、良し悪しわからるか不安だけどな」
「ふふっ私も同じだよ。見て、きれい、とかすごい。しか言葉がないもの」

二人は三人を追って境内へと向かった。


せっかくの自由行動なのに、僕は何してるんだか――

南禅寺を見て回った後、今は銀閣寺へと向かう為に「哲学の道」を通っている。
自然のアーチをのんびり歩く散歩道が、昨日千鶴と歩いた竹林の道とはえらく違って退屈で。
横に、いない――
それだけで気持ちが乗らない。

後ろをきっと付いて歩いて来ているのだろう、皆の声の中に千鶴の声を探す。
ふと漏れる笑いが聞こえると、もっと僕を気にかけて欲しいと、つい本音が漏れる。

手にしたデジカメのデータを画面に出して、先ほど撮ったばかりの千鶴と、昨夜二人で撮った千鶴の顔を見比べて。
はっきりと拒否の答えを出されたのを実感して、デジカメを乱暴にしまい込んだ。
自然に早足になって、後ろを引き離して。
皆の気配もなくなったと思ったのに、いつ追いついたのか、静かに声をかけられる。

「総司」

・・・おせっかい斎藤君だ、平助といい、放っておいてよ

「単独行動は止せ。班行動だ。自由行動とはいえ、勝手に動いて乱すな」
「ご正論どうも」
「・・・・・千鶴と、何かあったのか?」

わかってるなら、聞かないでよ。
イライラする。

「別に何も――ずっと一緒の団体行動で疲れただけだよ」
「・・・・・・・」
「僕はこれでも、…普通にしようと心がけているつもりだから。これ以上踏み込まないでくれるかな」
「それで…普通に出来ていると言えるのか?千鶴がずっと朝から心あらずで…お前のことを気にかけている」
「・・・・・・・」

そんなこと、わかってる。
でも、気にはかけてくれるけど、話しかけてきてはくれない――
離れてしまったと思えば、余計傍にいて欲しい気持ちが強くなって、身動きできない――

「一緒に、楽しむ為に来たのだろう。何があったかは知らないが、このまま――」
「だって、傍にいたらもっと傍に行きたくなるんだよ!!でも、それは千鶴ちゃんは望んでない――っ嫌がられているの、わかってるから――…」

このままでいるなんて嫌だ。
でもはっきりした言葉を、突きつけられるのも嫌だ――
昨夜の千鶴を思い出す。
いつもの「やめて」とは、全然違って――
何が原因でそうなったかも、よくわからないのが余計にどうにも、この状況を呑みこめなくて

苛立ちをぶつけるように、堰切った思いをそのまま声にした。

――泣きそうだ――…

「…僕だって、好きだから…そうなったら堪えるんだよ」

千鶴ちゃんが好きだから。
今の自分に、それ以上の辛いことなんてない――

「・・・総司・・・」

総司の言葉に、答えに、斎藤が息を呑んだ。
いつも茶化してばかりの総司の、こちらに突き刺さるように思える程の真剣な空気に。
かける言葉も見つからず、ただ沈黙だけを返す。

「・・・ごめん、八つ当たりだね。あ〜あ…」
「・・・・・・」
「そんな神妙な顔しないでよ。余計落ち込むし。・・普通、普通にするよ」
「・・・・・・・・」

飄々とした表情に声。
いつも通りに、きっと僕は今なれてる。

斎藤の背後にみんなの姿を見止めると、腕を振った。
何事もなかったように。

「…総司」
「何、もう千鶴ちゃん達、追いついてくるよ?」
「千鶴は、そんな事で人を嫌がったりはしない…そんな気がする」
「・・・・・・・・」

実際、どんな人と出会っても、何を言われても。
千鶴が人を拒否したことなど、あっただろうか。
たとえ、その好意が受け付けられないとしても、嫌がるのとは違う。

「お前の想いは、確かめずに、自分の中でケリを着けられるような…そんなものなのか――」」

怯えずに、真意を導けと言わんばかりの斎藤に、総司は目を後方の千鶴に向けながらハハっと呆れた笑を零す。
千鶴は昨日とは違って、遠目ではあるけれど自分を見てくれている。
気遣わし気に、見てくれているけれど――

・・・何かを、見過ごしているのだろうか。
嫌われた、とかでは…ないのだろうか――

斎藤の言葉と、遠目に合った視線に、少しだけ…いつもの強気な気持ちを思い出せた。
自分が悪い方へと…思い込んでいるだけだ。
傍にいて、意識されるようになっただけだ、と――


「…何それ、僕が頑張って千鶴ちゃん貰ってもいいって事?」
「・・・そうは言ってはいない。ただ、そうも落ち込まれると目障りだ」
「うわ、ひど」

小走りをしだし、こちらに向かってくる千鶴の方へ、総司も一歩足を踏み出しながら、斎藤にじゃあ、と告げる。

「目障りにならないように、恋人になってみせるから」





25へ続く












































斎藤さんルート




4日目、5日目、6日目。
薄桜学園は完全な班の自由行動になります。
とはいえ、定められた場所には必ず回る事。それさえ守れば自由。

「普通、この場合行くべき所を3日に振り分けるものだと思うのだが――」

普通ならば、一つ一つゆっくり回るべきなのに。
総司と平助が組んだ自由行動の内訳は、4日目と5日目に振り分けられていて、6日目は完全な真っ白状態だった。

「だって、予定通りにばかり動くのしんどいし。最後くらいパ〜っと遊びたいでしょう?」
「お前だけだ」
「オレも総司の意見に賛成だな。寺詰め込みすぎて、何見たかきっと忘れそうだしさ〜」
「…ゆっくり見て回らないから、忘れるんだ」

改めて予定を見ながら顔をしかめる斎藤に、山崎がまあまあ、と二人の言葉に付け加える。

「予定の詳細を組む時に、我々が参加していなかったのがいけなかったかと――」
「・・・・それも、わかってはいるが――」

風紀委員と保健委員に属する彼らは、旅行前に何かとすることが多く。
総司と平助に任せきりになっていたのだ。

二人に任せたのがそもそも間違いだった。
そうだ、せめて千鶴にも加わってもらっていれば――

「この予定じゃダメですか?最後真っ白なスケジュールがあってもいいんじゃないかと思って…私も賛成したんですけど」
「・・・・千鶴が?」
「はい。京都をこの目で見て、感じてから…最後に行きたいと思える場所を決めたくて」
「・・・なるほど。そうだな、その通りだ」

先ほどの不平はどこへやら。
穏やかな笑顔を浮かべて、千鶴に頷く斎藤に、総司と平助が一斉に抗議する(山崎は呆れていた)

「さっきまではブツブツ土方さんみたいに文句言ってた癖に」
「そうだそうだ!土方先生なみにしかめっ面だったじゃんか!!」
「・・・土方先生も、この案に渋い顔していましたもんね。ふふっ」

予定表を出した後の土方を思い出したのか、千鶴が可笑しそうに顔を緩めた。

「そうでしょうね、ゆとり、というものがありません。修学旅行は遊びじゃねえ、と言ったお声が聞こえてきそうです」
「いや、山崎君…そんな抑揚のない土方さんの真似・・・やめてくれよっ!ツボだ!ツボに入った!!」
「平助うるさい。それで、千鶴ちゃんの意見を聞いて、納得するところもそっくりだよ」
「…ヤケに突っかかるな、総司」

ねちこい含み顔をする総司に、思わずキツい視線を向ければ、それをガンと跳ね返されただけでなく…

「…夜…階段…密会…」

ボソっと呟かれる。

千鶴と平助と山崎は、何故か山崎の土方の物真似リクエストになっていて、盛り上がっているせいかこちらの様子には気付いていないが――

「耳まで真っ赤とはこのことだね。うわあ…ムカつく」
「・・・っど、どうしてその事を――」
「どうしてって…土方さんにお呼び出しをくらって、千鶴ちゃんもいるかも〜って教師フロアに向かったら…」

階段脇に二人の姿が見えた、という訳で。

・・・・・どこから、見られて…いや…

「見ちゃったもんね。今日からは絶対二人きりにはさせてやらない」
「・・・・・見てないだろう」
「・・・・・見たよ?」
「いや、見ていたらお前はその場で邪魔しただろう」

それに、もっとツッコんだことを聞いてくる筈だ。
そう考えて、少しだけ安堵の息を吐く。
総司は面白くなさそうに、不満の色を押し出す。

「まあ、階段の傍から出てくるのを見かけただけだけど…付き合ったり…してないよね?」
「・・・・っし、していないっ」

これまでだとばかりに話を切り上げて、このままじゃ回れないから行くぞと…
3人にも声をかけようとして振り向けば真後ろに…

「そろそろ行きませんか?」
「っ・・・・ああ」
「・・?斎藤さん、顔が赤い…熱でも?」
「いや、問題ない」

少し暑いだけだ、と返事をすれば、顔色の良さにすぐに信じてくれたのか、確かに今日は暖かいですね。と顔を仰ぐ素振りをする。

「・・・まず、南禅寺に、銀閣寺。だな」
「はい。金閣寺に夕方に着くといいなあと思ってるんです」
「夕方?」

金閣寺は今日最後の行き先になっているから、多分夕方くらいになるだろうが…

「何故?」
「あ、斎藤さんはいなかったんですよね。沖田さんと平助君と予定決める時に…金閣寺が夕日に染まるととってもきれいだって聞いて…」
「なるほど…」

出鱈目に決めた訳ではなく、千鶴の気持ちを尊重して決めたようだ。
それなら、文句を口にした自分が悪いと納得する。

「夕佳亭から見るといい。とてもキレイだそうだ」
「はいっ」

楽しみですね、と言いながら自然に肩を並べて。
まずは南禅寺へと向かう二人。

「・・・・・なんかさ、オレらが奪い合うっつーより…」
「雪村君が、自然に斎藤さんの傍にいくようになった気がしますね」
「でも、付き合ってはないって言ってたよ?」

二人を追うように、足を早めて。

「でもバカだよねえ。僕なら、付き合ってるよって言って黙らせるけど」
「一君はそんな嘘、吐けねえだろ」
「やはり、真面目な人柄に惹かれたのでしょうか…」

「「いやいや、まだ惹かれたって決まったわけじゃないし!!!」」

山崎の言葉に、二人が突っかかる。
山崎の、真面目な人柄なら、まだ俺にもチャンスはある…と言いたそうな目にケチをつけた。

「真面目君に真面目なところで勝とうとするなら、もう面白みのない、まったく惹かれない人間になるよ」
「同感同感!やっぱ違うところでアピールだろ!!」
「不真面目よりマシです」

3人が不毛な争いに、身をやつす中。
斎藤と千鶴は二人で三門を見上げていた。

「大きいですね〜柱も大きいっ!!ふふっ腕を回したら、腕が全然足りないでしょうね」
「・・・・・」
「あ、笑いましたね?斎藤さんだって…足りないですよ」
「いや、そういうことを考える千鶴が…」
「私が?」
「いや…」

コホンとわざとらしく咳払いをした後、あの3人はまだか、と話を逸らして。

「あ、来てますよ、走って来てる。…楼上に上るんですか?」
「ああ、そのつもりだ。・・・遅いぞ、何をしてる。団体行動を乱すなと何度言ったら――」

ようやく追いついたと思えば、3人は斎藤の言葉を無視して千鶴の許へ。

「じゃあ、乱さない為にも…千鶴ちゃん傍にいてね」
「オレも!あ、ここ上るんだろ?急だな〜じゃあ千鶴一緒に…」
「いいから、後がつかえますよ、藤堂さん」
「・・・・・・・・・・・・」

揃ったら揃ったで…こうなるとわかってはいたものの、斎藤はまた仏頂面に戻っていった。

それでも、急な階段で少し怖がった千鶴、果たして短いスカートで大丈夫だったのかとか、
そういう問題は全て斎藤がうろたえながらも解決したらしい。

「うわあっ絶景ですね!」
「・・・そうだな」
「一周できるし…どれも素敵ですけど…やっぱり法堂の方を見るのが一番・・・壮大な感じがします」
「そうだな」
「あ、あそこにうちの生徒さん達がいますよ?きっとここにも来ますね。同じ制服が見えるの、ちょっと嬉しくないですか?」
「そうだな」
「…抹茶プリンが食べたいな」
「・・・・?腹が空いたのか?ならば銀閣寺に向かう途中で何かを――」

確か店があった筈だ、とわざわざ調べようとする斎藤に、千鶴は違うんです、と笑いながら地図を閉じた。

「斎藤さん、ずっと『そうだな』ってそればかりだから…聞いてるのかな?って思って」
「・・・・そうか、すまない」
「いえ、景色に見とれているんだろうなって思ったのに…抹茶プリンに反応するから可笑しくて・・」

変なところで気遣い人一倍で、しっかりしているのに抜けてるところがあって。

「・・・一緒にいれて、楽しいですね」
「・・・・・・・・そうだな」
「・・・・あ、沖田さんっ写真撮りました?」

ほんの一時、見つめ合った後。
赤らめた顔を、パっと総司の方に向けて駆け寄る。
暑くなってきました…と顔を手で仰ぐ様子に、つい先ほどのやり取りと重なって。

同じように、想ってくれたら――

そんな想いが、願いが、手の届くところに近づいてきたような気がして。


「撮ったけど…見る?」
「はい、…あ、キレイに撮れてますよ…でも、私が必ず…」
「だって、千鶴ちゃんいないと、景色だけだと寂しいし」

そ、そういうものでしょうか、と慌てる千鶴と、楽しそうな総司。

願ったものが、努力もせずに手が届くなんて、思っていない――

「そろそろ、下に降りない?結構人増えてきたし」
「そうですね。境内見学して、銀閣寺にも向かわなきゃ」
「じゃあ…」

急な階段。
怖がっていた千鶴に、手を差し出すのなんて当然で――
総司がこの次することなんて、言葉にすることなんてわかっている。

だから、名前を呼んだ――

振り向いて欲しくて

「――千鶴」
「?はい」
「急だから…降りるなら手を――」
「・・・・・はいっ」


張り合うとか、そういうのじゃなく。

この手のように、想いが届くようにと…精一杯の気持ちで差し出した手に、千鶴が嬉しそうに小さな手を預けてくれた。







25へ続く