Everything ties




varietyルート




【沖田 総司】





基本ほのぼのなSSLですが、沖田さんのは途中少し狂愛なタッチがあります。
あと、途中選択肢によってEDの雰囲気がガラっと変わります。
でも最後はどっちも甘いと思います。





千鶴のいるホテルはそう遠くはない。
全国で名の通るホテルだったので、場所もすぐにわかった。

・・・間に合う、間に合わせる――

風間が何を企んでいるかはわからないけれど、ロクなことではない。

「パーティ…ねえ…こんな誘拐まがいのことまでして、あの馬鹿が強行するっていうなら…」

まあ、千鶴との仲を無理やりにでも宣言して、高校を卒業して、事業をひきついで…というところだろうが。

「…ま、千鶴ちゃんが好きになったのは・・・僕だったし――」

電話が自分にかかったことで、ここまで自信満々に思っている総司。
一人でにやける顔を周囲に見止められないように、手で覆いながら走って、却ってみんなに見られていたが。
ここに他のメンバーがいたら、呆れてツッコミを入れただろうが。
幸か不幸か、千鶴の許へ向かうのは総司一人しかおらず。

結論、このまま総司が千鶴に押し切ることになるのは…考えずともわかることだった――


***


「・・・・・・っええっと・・・」
「帰ろう、千鶴ちゃん」

ホテルの部屋に到着した総司を出迎えた千鶴は、目を白黒させていた。
幸い、ホテルの部屋一面に吊るされているパーティドレスに着替えることもなく、千鶴は制服のままだった。
中途半端に開いたドアに、千鶴がゆっくり手をかけて、身体を外に出す。

「沖田さん…迎えに来て、くれたんですか…?」
「うん。一人で帰れるって言ってたけど…声が全然、そうは聞こえなかったから」

嬉しい?と尋ねれば、期待していなかったとはいえ、わざわざここまで迎えに来てくれたことを、千鶴が嬉しくなく思う筈もなく。
ぺこっと頭を下げて、小さく「はい」と答えてくれる。

「私…結局…心配させて、迷惑、かけてしまって…すみません」
「・・・それだけ?」
「あの、ありがとうございます。嬉しいです」
「・・・・・・・・それだけ?」
「・・・・?あの、あ、まだ風間さんが戻って来なくて、…その、一緒に待って頂けますか?」

・・・・・・ここは、告白されるところではなかったのだろうか――

肩透かしをくらったように、総司が肩を落として、風間を待つなどとまだ言う千鶴の、向こう側に見える衣装に目を向けた。
何でも似合いそうだけど、他の男の為に着るなど、冗談ではない。

「あのさ、何の返事なの?電話で教えてくれなかったよね」
「あ…私もよくわからないんです。名目は婚約パーティらしいんですが、その婚約者の振りをしろって話「さ、帰ろう」

千鶴の言葉を皆まで聞かず、総司が千鶴の腕を強引に掴み引っ張った。

「え…?あの、でも」
「婚約者の振りの返事?そんなのその場で『嫌です』、で終了でしょう?何考えんの?どうして此処に留まる理由があるわけ?」
「私もそれは断ろうと思ったんですけど、それじゃないって風間さんが…」
「それじゃないなら、どれだって?」

皮肉めいた視線を突きつけられた。
自分が悪いことをしているような気分になってくる。
千鶴は弱々しくなりそうな声を振り絞るように声を出した。

「わ、たしもわからなくて…だから待っていたんです。大事な話だっていうから…ちゃんと聞かなきゃって…」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから、あの、部屋に…戻りませんか?」

返事はなかった。
けど、ギリっと手を掴む力が強くなって、腕が、痛い――

「・・・・・・・じゃあ、僕も大事な話がある。風間にも負けないくらい大事な話が君にある――だから、帰って…話、聞いてよ」
「・・・・え・・・?」
「帰るよね?」
「・・・・・・・あ――」

千鶴に振り返ることなく、背中越しに告げられた声が、怖い。
言葉では、千鶴の気持ちを聞こうとしているけれど、声は…拒否を許さないような雰囲気だった。

・・・・・せっかく迎えに来てくれたのに・・・怒らせた――
どう、答えたらいいのだろう?
どうして、沖田さんはこんなに怒るのだろう・・?

「・・沖田さんの・・話、も聞きます。でも、風間さんの話も・・・」
「わかってるの?そんなの、振りじゃない、本当の気持ちだとか、そんなことだよ――それで、何て答えるつもり?」
「何てって…」
「君が答えて変わることは、馬鹿の生徒会長が喜ぶか、喜ばないか――それだけだよ。君が断ったって…婚約者の振りは決定事項だ」
「・・・決定?」

・・無理は言わないような気がした。
だから、出来ること、出来ないことをしっかり決めておけばいいのだと思っていたけど・・・

「振りなんて一度でもしたら、本当に婚約者にされるよ?ここまで、大規模な用意して、君の支度させておいて…何もなしで君を解放するわけない」
「・・・・・・・」
「迷惑をかけるのが嫌だっていうなら、これ以上事を大きくしないで…帰ろう」

千鶴がそんな返事を真剣に考えるのすら、吐き気がする――

何でわからないのだろう――
どれだけ、周りの男に平等に接する気だろう――
何にでも真面目な態度、好きだけど…これは少し違う。

頭が痛いのに―それを和らげて欲しいのに…千鶴は余計頭が痛くなるようなことを口にした。

「これで、また逃げたら…また同じことになると思うんです。やっぱり、私はちゃんと…風間さんから話を・・」

聞かなきゃ――と言おうとした口は、そう動かせなかった。
何が何だかわからないまま、塞がれていて――
勢い繋がった唇は、歯に当たって、痛さと衝撃と、自分の腕を掴む総司の力の加減のなさと、頭に添えるのではなく、髪を掴むような仕草に何も考えられない。

キス――?

そう思えたのは、どれほど時間が経った時だろう――

「おいおいおい…ここは廊下だろ。そういうことは人目につかねェところでしとけ」
「不知火。この場合…場所ではなく、行為に目を向けるべきではないですか?」

不意に背後から届いた声に、千鶴は意識を取り戻したように体を揺らすけど、総司は離してくれない。
それどころか、余計に乱暴に絡めてくる。
驚きに見開いた目に映る総司の目は、とても冷えた眼差しだった。
いつも自分に向けてくれていた温かさが、欠片もなかった――

「・・・・・ねえ、何でここに…僕がいるのか、わかる?」

キスを止めないまま、唇をほんの僅かずらす合間に、総司は挑発するように天霧と不知火に視線だけを向ける。

「はあ?そんなの知るわけねェだろ?・・・つうか、おい、風間が今来たらヤバいんじゃねェか?」
「・・・そう、ですね。ここまで来て邪魔されるのは困ります。雪村君を放してもらいますよ」

そんな二人の言葉を嘲るかのように、総司は目を細めた。
千鶴の唇は決して離さないように捕らえたまま――

「彼女が、僕を呼んだんだよ。迎えに来てってね」
「・・・・・・そうなのか?」「・・・・・・・・」
「そうだよね、千鶴ちゃん・・・そうじゃなかったら、僕だけここにいる理由がないし」

確かに、千鶴の居場所が学校側にバレたのなら、土方あたりがいる筈だった。
総司だけがここにいる、という事態がその言葉に信用性を増す。

「・・・・・・この子は僕のものだよ?どこぞの会長なんかには絶対渡さない」
「・・・・・・・おい、お前な・・とりあえず、そいつから引いとけ」
「うるさいな。・・・パーティ、僕と千鶴ちゃんの婚約披露パーティにでもしてみる?」
「・・・・・・・・・・・・沖田、あなたは妙なところで本気になるのが・・厄介ですね」

風間の婚約を発表、会社の株主・役員の意思の統合どころか、このまま強行すれば…必ず総司が邪魔をする。
今以上に風当たりが強くなるのは明白だった。

「・・・別に、私達は雪村君に無理強いさせる気はありませんが・・」
「今は、無理強いさせなくても・・形だけ作っておけば・・・・そのうちそれが真実になる――そう思ってないって言えるの?」
「・・・・・・・へえ、こいつ、わかってんじゃねェか」

風間と同じく、千鶴馬鹿なだけかと思えば、思った以上に冷静なところもあるらしい。

「・・・・・・仕方、ないですね。不知火。風間に報告しなければ」
「・・何て報告すんだよ・・・不機嫌になった風間の面倒みんのはごめんだぞ」
「・・・・それは、お互い様ですよ・・・ひとつ、聞いておきたいのですが・・・雪村千鶴君」
「・・・・・・っう・・・」

返事をしようとすれば、急に深く繋がる口付けに、息も絶え絶えになって。
苦しい、と涙交じりの目を総司に一心に向ければ、ようやくその視線が目に入ったのか・・
今までずっと怖かった瞳が、弱く鈍くなった。
かき抱かれた身体が、少しだけ自由になる。

「・・・・はい」
「・・・・あなたの意思は・・・沖田の言う通りなのですか?私達は、あなたの口から聞いたことを・・風間に伝えたいのですが・・」
「・・・・・・私、は・・・」

さっきまで、乱暴なキスで攻めて、責められて。
なのに、今は・・豹変したように大人しく、千鶴の答えをじっと待ってる。
苦しかったのは千鶴なのに、総司のほうが苦しそうな目をして、まるで――

「・・・本当、です。私が・・・電話して・・・迎えに来てもらったんです」
「あなたが・・・それは・・彼の言う様に、彼に来て欲しかったからですか?」

誰かに連絡しようって考えた時、誰かなんて頭の中には浮かばなかった。
先生に連絡しなきゃ・・と思った。けど、いなくて・・・
生徒を考えた時に、誰って思うより先に、沖田さんの顔を思い浮かべてた。

沖田さんが電話に出てくるまで、ずっと考えてた。
何をしてるのかな。
心配してるかな。

他の誰かなんて、考えなかった。

一人で大丈夫だと思っていたけど・・・受話器を置いて、部屋に戻りながら・・何だか急に気が抜けて。

部屋に迎えに来てくれて、私を見たときの嬉しそうな顔を見て・・あの時、私は――
知らずに、手が伸びてた。
沖田さんの服を掴みそうになっていた自分に気がついて、その手を無理やりドアに導いて。
何でもない振りをした、だって、来なくていいって言ったのに、縋りつくなんて・・・矛盾してるって思ったから。

嬉しい?って聞かれて…その時の笑顔見て、
本当に嬉しさが募って、だから単純な自分に恥ずかしくなって、一気に熱が集まる顔を隠すように、頭を下げた。

好き、とかよくわからない。
だけど――

「・・・一番、傍にいてくれたら・・・嬉しい人だって思います――」

小さく、紡いだ言葉に背中からは諦めのような、深いため息。
目の前の人からは、息を呑むような気配の後、先ほどとは別人のように優しく指を絡められた。
優しいこそばゆいその指先の感覚は、心にも同じような感覚を落として、急速に恋を促していく――


***


「・・・・・・ごめんね」
「謝るは私です・・・やっぱり考えが甘いんですね、私」

総司の言葉に二人は否定しなかった。
自分ひとりでは…きっと、そのまま此処に残ることになっていたのだろう――
余計に迷惑をかけていたかもしれない、そう思うと本当に申し訳ない。

「・・・・千鶴ちゃんの考えが甘いのは元からだし、知ってて好きになってるのに・・・ごめん、焦った・・んだと思う・・」

告白を期待したのに、何もないし・・・君が風間風間言うから――と反省してるのか、責めているのかわからない言葉に千鶴は小さく笑った。

「沖田さんらしい・・・ですよね、そういう言い方。最初は戸惑うことが多かったけど・・・でも・・」
「でも・・?」
「ないと、何か・・さみしいような気もします」
「何それ、もっと甘い答え期待したのに」

ぶすっと表情を作るのが子供っぽい。
そういうところは、幼馴染の同級生を思い浮かべた中でも、一番幼いような気がする。

「・・・・・・・あのさ・・・」
「はい?」
「さっきの、千鶴ちゃん・・初めて、だよね?」

さっきの、とは・・・・あの、すごい・・キス・・のことだろうか・・・・?

「えっと…」




「・・・そうに、決まっているじゃないですか・・・」

…沖田さん、さっきの・・気にしているのかな?それなら・・




千鶴「ええっと…私はよかれと思って、とんでもないことを言って怒らせそうな気がします。気をつけてください」










































・・・そうに、決まってるじゃないですか・・・






「そ、そうに決まっているじゃないですか・・・」

恥ずかしい・・・
こんな事を真っ直ぐ覗き込んで聞いてこないで欲しい。
少しじと目で総司を見つめ返せば、意外な反応が返って来る。

珍しく顔を赤くして、バツの悪そうな顔――


「・・・あ〜・・ごめん、ほら、女の子はそういうの・・色々気にするよね?」
「・・え?あ・・で、でも・・・大丈夫です。大丈夫」

何が大丈夫なのか自分でもわからないけど、とにかくこの恥ずかしい会話を終わらせたいと思ったのに、総司は話を変えるどころかそのまま続ける。

「言い訳がましいけど、・・・君に言葉で伝えてみてもわかってくれないし、僕に電話しといて、態度素っ気無いし、だからどうすればこの事態をわかってもらえるのか、わからなくなってさ・・」
「・・・す、すみません」

謝られている、気がしない――けど、でも総司の表情は珍しく困ってる。
すごく、困ってる――

「何を言っても、君が意思を変える気はなさそうで、全然好転してくれなくて・・・だから行動に移すしかないって思ったんだ。その方が君にはきっと伝わるって思ったんだけど…その前に…君がまた風間って言うから…いけないんだよ…」
「・・・すみません」

やっぱり、謝られている気がしないけど・・一生懸命言葉を連ねる姿は思わず、こちらが謝ってしまう。

「・・・・さっき、思ったんだよね。あれが最初だったら・・・好きなのに、ひどいことしたと思って・・・最初じゃなかったら、なんて考えたくないんだけどね」
「・・・沖田さんとのが、最初です。・・もう」
「・・・・・なら、いい・・・いや、よくはないんだけど・・・ごめん」
「ふふっそこに戻るんですか?」

いつもからかってばかりなのに、さっきは怖いとも思ったのに。
同一人物なのだろうか?
アンバランスな精神が魅力に思えるあたり、結構自分も好きなんだと自覚する。

「・・・・だからね?」
「はい」
「あれ、帳消しにするくらいのキスを・・・これからいっぱいするから」
「・・・・・・・ええっと・・・」

はいって素直に言えないのは、何故だか程度というものを考えずに・・されそうな気がしたからだろうか。
もちろん、嬉しい。
けど、はいって言うのもどうなのかな・・

答えに窮して黙る千鶴にお構いなしに、本当に言葉通りに甘い、優しいキスがひとつ。

「・・・・・・・いっぱいする、数え切れないくらいする。君がそのたびに・・・」

身を屈めて、もうひとつ。なぞらせてから、もうひとつ。
重ねる度に胸がジンと甘く疼く――

「そのキスが一番好きだって・・思ってくれるように――」

優しく囁かれた言葉の後、もうひとつ――


総司の言葉通りに、千鶴の唇にスキが何度も降り注いだ――



***


「・・・沖田さん、おはようございます」
「おはよう千鶴ちゃん。今日は自由行動だね、二人でどこ回る?」
「あ、あの・・・自由行動でも・・班行動ですか――…っ」

またいつもの総司のからかいが始まった、千鶴を助けねば…と皆が思った矢先のキスだった。
そのまま、嬉しそうに抱きついた総司に、千鶴は真っ赤になって押し返そうとしているのだが…

「も、もうっ!!ほら、みんな見てますよー!!」
「・・・今のは、一番好きにはならなかったんだ。ふうん・・・嬉しそうじゃないしね、そう・・・」
「・・・・・・・・・嬉しい、です・・・好き、ですよ?でも…」
「そう。そういえば、僕、君に舞妓さんになって欲しくってさ、ここに行きたいんだよね」
「だ、だから、もう少し離れてくださいっ」

・・・・・・・何と、言うか・・・・・・・

「そういえば、総司のやつ昨夜すっげえご機嫌で帰って来たけど・・・」
「・・・・・・・・・・・・一晩で・・・こうなったのか・・・」
「やられ、ましたね」


修学旅行はまだ続く。
たとえ、千鶴が総司のものになろうとも。








END







「千鶴ちゃん…こっちおいで?ほら、キス・・・もう慣れた?・・・ぷっ慣れないよね、君って。そういうところがいつまで経っても可愛いね、大好きだよ」
「・・・・・・・・・・・・・サムッ、千鶴いねえし!何芝居してんだよ!!」
「あれ?いなかった?ああ、好き過ぎて幻覚でも見たのかも・・・」
「・・・鬱陶しいこと・・この上ないですね。何故・・・雪村君は沖田さんに電話を・・・」
「そんなの僕が好きだからに決まっているでしょう〜電話がかかってこなかった・・斉藤君、平助君、山崎君vざ〜んね〜ん〜♪」
「・・・・・・・・・・・・・総司」
「何、斎藤君。羨ましい?旅行中死んでたように元気なかったもんね」
「・・・・・・お前、覚えておけ・・・・・(俺にもEDはある筈なのだ)」


「・・・・・いいのか〜千鶴ちゃんよ。彼氏あんなんだぜ?」
「え、ええっと…そうです、ね・・・ええと・・」
「いつでも俺のとこへ来ていいからな?学生の間は・・まあ総司の相手しといてやれ・・・」
「原田、人のもんに手出そうとすんじゃねえよ・・・はあ・・・・」
「土方先生、元気ないですね?」
「そりゃあな・・・あれだけ旅行中目の前でいちゃつかれたら・・・疲れんだろ」
「・・・・・・す、すみませんっ///」


「大体、貴様らが千鶴を逃がすから・・・」
「何言ってんだよ。むしろ感謝しろ。てめェ・・あの現場見たかったのかよ」
「そう、ですね。我々が見ても・・・不愉快でしたからね・・」



ということで、沖千variety happyEDへようこそ〜☆
本編のほうも負けないように、甘くしていきたいと思います!
ここまで読んでくださり、ありがとうございました^^










































・・・沖田さん、さっきの・・気にしているのかな?それなら・・








少し…どころじゃない、かなり怖かったけど・・・でも、あれは私の所為で。
本当は、今みたいに優しい視線を向けてくれる――

気にしないように…それなら・・・――

「あの、初めてじゃないから大丈夫ですよ。気にしないでください」

とってもすごい発言をしているとは気づかぬまま、千鶴は言葉を連ねていく。

「小さい頃なんかは・・・ママゴトとかで・・薫とかと、してた気がするし・・・あ、平助君も!」
「・・・・・・・・・・・・・」
「そういうのは、その、キス・・とは・・ちょっと違う気がするけど、・・でも、だから・・その・・気にしないでください」

ニコっと、安心させるような笑顔を向けたつもりだった。
恥ずかしいけど、精一杯、目を合わせて言ったつもりだった。

けど、千鶴の表情はそのまま、凍りつくように固まってしまった。

一見、微笑みを湛えた総司の表情。
唇はかろうじて笑を浮かべてはいるけれど――目は暗くこもって、
どこか、正気のものじゃない――
先ほど、愛しさをこめられていた瞳は、どうして今、凶暴性を漂わせているのか――

愛と憎しみは背中合わせだと…
そんな言葉をふと思い浮かべ、言葉を飲み込むように、コクっと喉を鳴らせた。

「・・・君って、馬鹿なの?」

そろっと近づく。
乱暴じゃない、ひどく優しく、肌に触れる指はとても冷たい――

「さっき、どうして僕があんなキスしたか、わかってる?」

囁くように向けられた言葉。
何かを抑えているような――声、でも抑えきれずに憎悪のようなものを・・感じてしまう――

「わかってて…言ってる?…君はああいうのが好きなのかな」

にっと象る口元が、ひどく歪められて。
目は怖いほど、千鶴を捉えて離さない。

「他の男の名前を出して、僕がそれで罪悪感から開放されて、喜ぶとでも思うの?・・・・本当に君って・・・・考えが甘いよ」

くっと笑う、こんな人は知らない。
声が次第に苛立ちにまみれて、それを隠せなくなってきている。

「・・・・・・甘いって・・・・思い知らせたくなる――」

顎をつ・・・となぞって、顔を上げさせれば、わかりやすく身体が強張って。
これ以上ない警戒心を露にされて。

「・・・他の男には警戒しないのに、僕にはするの・・・?それ、おかしいと思うよ・・・?千鶴ちゃん――」

千鶴は声も出ない。ただ、ただ震えているだけで…

「今、君とこのまま離れたら・・・君はもう、僕のところには来ないのかな・・・離れる気もないけどね」

黒く、滲んだ感情をそのままに、笑顔を浮かべた。
そのまま、声にならない叫びを聞いた気がしたけど、そんなの知ったことではなかった。
手近に路地裏に引きずって、自分のものだと、刻みつける。

震える唇に、憎しみとも愛情ともわからない感情をこめて。

深く深く伝える。

「…ねえ、こういうキスは…さすがに…僕が最初でしょう?」
「・・・・・・・っ」

…っはぁ…と息付く合間に、ぼそっと耳元で囁かれて。
思わず、眼前にある胸を押しのけようとした腕は、いとも簡単に攫われてしまう。

「僕以外とは、してないよね?」

千鶴を覗き込む瞳は、楽しそうで――
怒っているのか、楽しんでいるのか・・・よくわからない。

答えようとすれば、口を塞がれて。
今日だけで、どれほどキスを交わしたのだろう――?

聞かれる度に、頷こうとすれば、それを拒否してキスを楽しむように何度も何度も。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

言葉がなくなって、ふと月明かりの下見つめあう形になった。
唇だけが、艶をまとってそれが、自分が何をしていたのかをお互いに自覚させて。

「・・・・・・・キス、誰が初めて?」
「・・・・・・・沖田さんです・・・」

ようやく、言わせてもらえた。
満足そうに微笑む総司に、先ほど感じていた恐怖を少し覚えた。
笑顔なのに、ピクっと肩がつい、震える――

「いい子だね――」

見つめる翡翠の目が細められて。

重なった熱に、愛しさと、それ以外の感情がお互いに交じるのを感じながら――


***




ピルルルル・・・・・新幹線のドアが閉まって、東京へと帰る日。

千鶴の隣には当然、総司が座っていた。
行きとは違って、約束せずとも隣にいる――

「千鶴〜これ、食う?菓子、これ好きだろ?」
「あ、ありがとう平助君・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」

横から、ムっとした空気がすぐに伝わった。
後ろの座席からお菓子をくれようとする幼馴染には申し訳ないけれど・・・

「・・・ごめんね、やっぱりお腹いっぱいだから・・・」
「そっかー千鶴少食だしな」

平助がわかったと、ひょいっと頭を引っ込めたすぐ後、袖を引っ張られた。

「お菓子、覚えてる?行きにお菓子あげたの・・・あれ、東京着いたら・・食べに行こう」
「・・・・・着いたらって荷物持ったままですか?」

一度帰ったほうがいいんじゃ・・・と思いはしたけど、総司がそうやって拗ねてるというか、怒った理由を考えれば・・・だめとは言えない。

「うん。そのまま・・・着いたら起こして」
「はい」
「・・・・・・肩、貸してくれる?」
「もう借りてるじゃないですか」


薫や平助には過剰に反応する総司の頭を、そっと撫でながら。

旅行は終着へと向かうが、総司の執着は終わりそうになく――






END









総司「ねえ、平助と薫に話があるんだけど」
薫「お前の話を聞く気は俺にはない。というか、俺の妹に何てことするんだ!!」
平助「話見るとひで〜・・・どんだけ心狭いんだよ」
総司「失礼な。愛してるから・・・こそだよ」
薫・平助「「・・・・・・・・・・・」」
総司「その間は何?」
薫「・・・千鶴が・・・不憫すぎる・・・俺は認めない・・・こんな結末認めないからな!!」
平助「それ、どっかのEDで総司が言ってたよな。薫と総司って案外似たもの同士?」
薫・総司「「そんなわけないだろ!(でしょう!)」」

総司「話ずれたし…千鶴ちゃんと…本当にキス、してたの?」
薫「・・・・・・・答える義理はない」
総司「うわっ嫌な感じ。どうせ兄妹でもう出来ないくせに。これからは僕がおいしく頂きますので」
平助「・・・総司のほうが・・・嫌な感じだろ?」






はい〜沖千variety anotherEDへようこそ!
こっちの方が好きって方、いますか?
最初はこんなに甘くなかったです。
黒くて黒くて黒まみれで終わる展開でしたが…変えました。
何か、幸せな気分にまったくなれなかったので(滝汗)

ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!