とりあえず、1階のロビーに向かおう




ここにいたら連絡する前に誰かに気が付かれて、部屋に戻されるかもしれない。
ここにいる、とだけ伝えられれば―と千鶴は1階のロビーに向かう。

手っ取り早く連絡を取るためには電話・メール…つまり携帯の復旧なのだけど。

充電器を買って充電する時間も惜しい。
かといって電話番号なんてさらでは覚えていないし…


・・・・・・・・・・・・・・・・・

…そうだ、宿泊先のホテルに――














































・・・・・・・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・番号・・・携帯の・・・

一人だけ、自然にかけられるような気がした。
ずっと一緒に過ごしてきて、電話もメールも、もう何度しただろう?

『困ったことがあったら、ちゃんとオレに言えよ?』

昔も今も、変わらず・・いつだって私の頼もしい味方で。
電話番号を―と思った時、真っ先に顔が浮かんだ。
・・・今頃携帯とにらめっこして、私からの連絡待っているかも――

そんなことを想像して、少しだけ気が緩んだのか・・
受付の電話を借りて、落ち着いて番号を押していけた。
履歴からの発信、アドレスからの発信に慣れているせいか、そんなことも久しぶりの気もするけど・・・

間違えてないと確信できた。
きっと、いつもの元気な明るい声が出迎えてくれる――



「…やっぱり繋らねえなあ…千鶴~…」

携帯を握り締めて、祈るように額に押し付けた。
何度、同じ番号を発信しただろう――
こんな時、何も出来ない自分がもどかしくてしょうがない。

総司もそう思ったのだろう。
部屋に戻るなり、いつもの飄々とした態度はどこへやら。
こちらをからかうこともせずに部屋の外へ向かおうとして…山崎君と言い合いになっているようだった。

いつもなら、止めにも入ろうと思うのだが、そんな気にもならない。
今頃、何をしているのだろう・・・風間にひどいことされてないだろうか。

「困った時は・・・オレに言えよって・・昔から、ずっと言ってんのに――」

オレじゃあもう無理なのかな。
千鶴はこういう時、他に頼りたいってやつが出て来たんじゃないかな―
そんな約束なんて、とうに途切れてしまったのではないだろうか――

心配と不安が重なりあって何層にも心にのしかかる。

「あ~駄目だ…っこんな事してたって、千鶴が帰ってくるかわからねえし…やっぱオレらしく行動に移して・・・」

心の靄を振り払うように勢い起き上がった拍子に、柔らかくたしなめるような千鶴の言葉が聞こえた。

『平助君ったら、先生の言うことはちゃんと聞かなきゃだめだよ?』

「・・・・・でも、千鶴がピンチかもしれねえのに・・・じっとなんて無理だって…っ」

『・・困ったことがあったら、平助君に言うよ・・・約束――』

笑顔で、そうオレに告げる千鶴の声を思い出したと同時に、手に握っていた携帯がブブブ…と振動する。

・・・千鶴かっ!?
そう思って液晶画面を見るも――知らない番号だった。
何だこれ、こんな時に――
もし、この電話の時に千鶴からかかってきたら、どうしてくれんだよ・・・

ブツブツ思いながら、電話に出た声は多少やさぐれていた。

「もしもし~」
「・・・?平助君?どうしたの・・声が――」

てっきり明るく元気な声でお出迎えだと思っていた千鶴は、自分の携帯からかけるような感覚だった為に不思議そうな声を出していたのだが。
まさか千鶴だとは思わなかった平助は、へ・・?と呆けた声を出した後――

「・・・千鶴・・千鶴か?」
「うん、ごめんね・・心配かけちゃって・・」
「・・・・・・・っはあ・・・よかった…千鶴が無事で…あ、一気に力抜けたあ!――ったく!今どこにいるんだよ」

いつもの調子に戻った声に、千鶴も慌てて返事をした。

「今ね、ホテルの受付から電話かけてるの。携帯電池切れで…」
「あ~そっか、それで繫らなかったのか――」

受付からかけてきている辺り、閉じ込められているとかではないらしい。
あの生徒会長のすることだと思うと、どうしても事を大袈裟に考えて不安になってしまう。

「・・何度もかけてくれてたの?ごめんね。心配かけて・・・」
「いいって!それで?ホテルってどこの?何してんだよ」
「えっとね、○○ホテル、そこで風間さんの家のパーティがあるらしくて・・」
「パーティ・・?何の?」
「う~ん、一言では説明できないんだけど、色々…それで私…」

言葉を続けようとする千鶴に、平助はちょっと待った!と話の続きを遮った。

「話は、そっちで聞くから!」
「こっちでって…もう外出出来ないでしょう?私一人でも大丈夫。ちゃんと帰るから・・」
「だって今説明出来ないんだろ?それならオレがそっち行く方が早いし…それに…」
「うん?」
「千鶴が大丈夫でも、オレが大丈夫じゃないからな」

情けないけどさ、とへへっと軽く本音を浮かべて頬をかいた。
小さいころからずっと、見守って来たつもりだったけど…傍にいてくれなきゃ困って、動けなくなるのは・・・自分の方だと―改めて実感させられた。
そんな平助の言葉に、少しの沈黙の後、情けなくなんてない、とくぐもった声が聞こえた。

「あのね、これ・・・受付の電話だから・・あんまり言えないんだけど…」
「?何を?」
「電話、誰かに伝えなきゃって思った時に・・平助君の番号だけ浮かんで出て来たの」
「・・・・・オレのだけ?」
「うん。アドレスとか履歴とか…全部見えないから困ったけど…平助君のだけ、出て来た。…え、えっと、だからね?何が言いたいのかと言うと・・・あ、何か人が増えてきてるから…ごめんね、もう切らなきゃ…」

千鶴の気配が遠のくような気がして、千鶴と声をかけると、まだ「なあに?」と返してくれた。

「・・急いで行くから、ちゃんと待ってろよ」
「・・・うんっ」

電話で、顔は見えないのに・・・お互い赤くなって照れているのが、声の調子でわかる。
単純だけど、千鶴が自分の番号だけ思い出してくれたのが…平助にはかなり効いたみたいだった。

緩む顔をピシっと叩いて、よっしゃと声を出しながら・・ふと、そういえば総司と山崎君は―と入口のドアを開けると…

「・・・・いない?一君も一緒か?いつの間に・・・もしかしてみんなも千鶴の居場所がわかったのか?」

それなら丁度いい、オレも向かおう――

そう急いで飛び出した平助だったが、斎藤は部屋の中、総司と山崎は階段付近でもつれ合うように揉めていたことが後で発覚し。
千鶴を連れ帰った際には皆に抜け駆けだと、盛大に文句を言われるハメになる。






23へ続く



















































…そうだ、宿泊先のホテルに――




携帯の番号がわからなくても、宿泊先のホテル名くらいは覚えているし…
そこにかけてもらって誰かに取り次いでもらえれば…

うん、そうしよう…っ

千鶴は受け付けの方へ向かい、ホテル名を告げ電話をかけてもらった。

薄桜鬼学園の者ですが、と名乗り…土方先生を―とお願いしたのだが…

「土方様はまだ外出からお戻りではないようで…」

暫く待てば、申し訳なさそうにそう伝えられた。

…まだ戻ってない?でも…もうとっくに戻っている頃の筈なのに――

「…あの、それなら言伝を…」

言いかけて、ホテルの人に頼むより誰か…知り合いに頼んだ方が早く伝わると思い、言い直した。



沖田 総司さんを呼んでもらえますか?

斎藤 一さんを呼んでもらえますか?







































沖田 総司さんを呼んでもらえますか?




「あの、沖田総司さんを呼んでもらえますか?すぐに…話は終わりますので」
「はい。少々お待ちくださいませ。」

千鶴の耳に待機メロディが流れる少し前――


「…何でそこに突っ立っているかな」
「見張っていないと、沖田さんが外へ抜け出すような気がしますから」

ホテルに戻って部屋に入って。
平助が「…やっぱり繫らねえなあ…千鶴~…」と携帯を握り締めながらぼそぼそ呟いているのを横目に部屋を出ようとすれば。

何故か山崎が部屋の前に立っていたのである。

「別にホテル内をうろうろしようと、僕の勝手でしょう。放っておいてよ」
「では俺も一緒に」

そう言って付いて来ようとする山崎に、総司は辟易したように顔を顰めた。

「あのさ、僕を見張るより先に…することがあるんじゃないの?他の生徒の…健康管理とか?保健委員でしょう」
「それもありますが、俺は今こちらの方が優先だと思っています。これ以上問題を起こさないように動くべきだと…」
「斎藤君は…?僕のこと見張っておきながら抜け駆けしているんじゃないの?」

こういうことでは自分より抜け駆けしそうなのは、むしろそっちだと総司が睨みを利かすも、山崎は何とも堪えないようにさらっと言い退けた。

「斎藤さんは今土方先生と連絡を取り合っていますので…」
「・・・土方先生と?それでわかった情報は自分たちだけで把握して、僕らには教えない気でしょう」
「そういう訳では――」

そうだろう―と心の中で言い返しながら、ドアに背を預けた。

部屋の中には戻らない、一応ホテルの部屋には戻ったのだ。
これからの行動をブツクサ言われる筋合いはないと思っている。

・・・・・あんな馬鹿に連れられたままで、大人しく部屋になんていられる筈がない――

全く部屋に戻ろうとしないで、むしろそれが何かとばかりに態度を増長していく総司に、山崎も手に負えないように眉を寄せたのだが…

「総司、電話。なんか受付から回されて来たんだけど…」

急に開いたドアに姿勢を崩して振り向けば、平助がまだ落ち込んだまま元気のない様子でそんなことを伝えて来て―

「電話?誰から?」

携帯を持っているのに、わざわざ部屋にかけてくるなんて…と総司が首を傾げるも。

「さあ、オレも誰からとは…沖田様にお電話がかかっております~としか聞いてねえし」
「ふうん…もしかして、近藤さんとかかな」

少しだけ、声が上向き、電話を取る総司に平助は「それこそ、何で携帯にかけねえんだよ」と訳のわからないといった表情になっていた。

「もしもし?」
『あ…っ沖田さん!よかった…私、千鶴です。あの…』
「…っちっ!?・・・・あ、うん。何かな」

思わず千鶴の名を叫びそうになって慌ててつぐんだ。
平助は気付きもしないで、ぼうっと寝転んで天井を見上げている・・・気付かれてない――

どうして黙ったままにしているのか、と言われれば明確にこう、とは言えない。
けれど、他に知っている者がいる中で、自分を名指ししてくれた。
それには、それなりの理由があるんだ―と思いたい…そう思っていたいからなのかもしれない。

『あの、私今○○ホテルにいるんです。そこで風間さんのパーティがあるみたいで…』
「そう…それ、誰か他に知っているの?」
『いえ、多分…ホテルの場所までは知らないんじゃないかと…』

風間さん達と一緒なのはご存じだと思うんですけど…という千鶴の言葉に思わず口元が緩む――
まだ、土方さんや左之先生まで知らないことだ…と理解して。

『だから、あの返事をしたら戻りますので…心配しないで待っててくださいって…先生達にも伝えてください』
「・・・・・?ちょ・・ちょっと待って?返事って…」
『あの…心配しないで…沖田さんも…一人で帰られますから――』


少し躊躇しながら最後の言葉が耳に届くと共に、受話器を置く音、通信が繋がらなくなった音が響いた。

・・・・・・・一人で帰る?あの風間が千鶴ちゃんを離す訳なんてない――それに…
返事って…風間に付き合えとかそういうことじゃなくて?それだったら言われた時に返事をする筈。違うのなら、そういう申し込みじゃなくて別の――

「…総司?電話誰からだった?」

考え込むように俯く総司に、平助がその様子に気が付いて声をかけると、総司は「別に」と、わざわざ言う程の事でもないというように呟いた。
平助も千鶴のことで頭がいっぱいなのか、それ以上聞いてくることはなかったのだが…

「・・・・・・・」

総司は自分の携帯から、自分の今いるこのホテルにと電話をかけた。
すぐに受付が出て、応対してくれる。

「…家族のものですけど、山崎丞をお願いします」
「・・へっ!?」

総司の突然の行動に、平助が目を丸くして、ぽかんとこちらを見上げた。
まあ、当然の反応である。
けれど、このホテルの外に一人で出るのに、あそこに立たれたままでは邪魔だったのだ。

「…平助、適当に話してて。僕行くから」
「はあっ!?な、何…どこに行くんだよ…っ」

うろたえる平助にそのまま自分の携帯を投げ渡して、ドアの外に出る。
山崎は電話の為に部屋に戻ったのだろう、今は姿がない。
ほんの1分程度、数十秒でよかった。
これで抜けられる――


財布だけを持って総司はそのまま廊下を走りぬけて、ホテルを飛び出し、一路千鶴のいるホテルへと向かう。


「・・大体、一人で帰られますって何さ…馬鹿じゃないの――」

待つ方の時間がどれだけ長く感じるのか、あの子はわかっていない――

「心配するなって…?…どう、教えようか――…」

そんなの無理だって、どれだけ好きか、どうやってあの子に刻みつければわかるのだろう――

「それに、最後の言葉は…普通、男は素直に捉えないものだよ、千鶴ちゃん――」

ふっと焦れた表情を一端優しいものに変えた。
千鶴に言えば、本当にそう思っていますって口を尖らせそうだけど…

最後躇ったように小さく紡がれた言葉は、本人すら気付いていない気持ちを滲ませていたんだと思う。

『沖田さん、迎えに来てください――』


・・・そう、僕には聞こえたから、迎えに行くよ――








23へ続く













































斎藤 一さんを呼んでもらえますか?





斎藤さんvarietyルートは、本編とは違いギャグ甘な方に走っていきます。
それでも大丈夫な方は続きをどうぞv




「あの、斎藤 一さんを呼んでもらえますか?すぐに…話は終わりますので」
「はい。少々お待ちくださいませ。」

千鶴の耳に待機メロディが流れる少し前――


「はい―こちらは異常ありません。皆ホテルに戻って――はい、解りました。ご心配なく」

斎藤は土方と連絡を取っていた。

土方に、ホテルに到着したという連絡を…と思い、邪魔にならないようにと簡単にメールを送った。
その直後、折り返し電話があったのだった。

その電話で、ここで自分たち生徒が勝手に動いては、事が大きくなるということ。
特に…総司や平助を外に出さぬようにと、念を押され告げられた。

総司や平助は帰る際にも不満が押さえられないように、顔に出ていた。
きっと、同じように探したいのだろうとはわかるが…

それでこれ以上問題を起こしては、元もこうもない。
先生を困らせる訳にはいかない――

今電話を終えた時点で、すでに、部屋の外で山崎と総司の喧騒が聞こえる。
山崎一人では対応しかねるだろう、と立ち上がった足取りがやけに重い。

自分が立ち上がったのが、千鶴を探そうとする総司を止める為だからだろう――

土方先生は自分を信用してくれている。
だから頼まれたのに、そして、頼まれたことをしようとしているのに――

何故俺はここに・・いるのだろう――

千鶴を警護するように言われていたのに――
今、千鶴がここにいないのに――

足が重くて、その場に張り付いたように。


プルルルルッ

ふいに、部屋に添え付けられた電話が鳴ったのにピクッと肩を揺らせて。

何故ここに電話がかかる…?

訝し気に受話器を取れば、受付の簡素な物言いで、「斎藤 一様にお電話がかかっておりますので、お繋ぎいたします」と言われた。
受話器をそのままに、繫げられた回線の先から聞こえた声は――

『・・もしもし?斎藤さん・・ですか?』
「・・・・っ千鶴・・どうしてここに電話を・・?先生達と…」

合流出来たのだろうか?
それなら先生からの連絡がある筈だが――

『今、○○ホテルなんです。先生、探してくださっているんですよね・・私はここですってお伝えして頂けますか?』
「それは構わないが・・帰りは…」
『風間さんに、返事をしてから帰ろうと思います。きちんとしないと・・多分また皆さんに迷惑かけてしまうと思うし・・』

返事・・?返事とは何のことだろうか――

「千鶴―― 一体…」
『本当に心配おかけしてすみませんでした。一人で帰られますから、先生にもよろしくお伝え…あっすみません。人が立て込んで来たみたいで…それじゃあお願いします―』

ツーツー…と途切れた回線を耳にしたまま、先生に連絡を取らなければとは思うのだが…
頭がうまく働かない。
とにかくわかったのは、千鶴がいる場所だけだ。
それだけでも、伝えるのが役目だと携帯を手にした時、バンッとドアが開き、よろよろと山崎が部屋に戻って来た。

「・・どうした?」
「いえ、沖田さんが中々…諦めないので・・・」

奥の手を少しばかり…施してきましたと言う山崎に、斎藤は少しだけ総司に同情した。
山崎はたまに土方さん張りの冷静さと、山南さん直伝の交渉術をしれっと出す時がある。
それをされた生徒は大抵…諦めて言うことを聞くのだ――

「・・・それで総司は部屋に・・」
「戻りました。藤堂君も一緒です。抜け出すことはないかと思われますが…」
「そうか」
「・・・?斎藤さん?何かあったのですか?」

携帯を握ったまま、事態の収束を喜ぶことなく上の空の斎藤に、山崎が怪訝な表情を浮かべた。

「・・いや、千鶴の居場所がわかった」
「・・っ!?先生達が見つけられたのですか・・?」
「いや、この部屋に電話が・・」
「この部屋に・・・?」

斎藤は事情を山崎に話した。
早く先生に連絡するべきだとは思っているのだが・・・ボタンを押そうとしない手は、本当は自分が迎えに行きたいと主張しているのだとわかっていた。
それでも、動けない・・先生の言いつけに忠実でなければ―とどうにもできない斎藤の姿に、山崎が喝を入れた。

「しっかりしてくださいっ斎藤さん――早く迎えに行ってあげなければ大変な事になります!!」
「大変な事とは――」
「雪村君は・・・返事をしなければ―と言ったのでしょう?恐らく、あの男にいつもの如く嫁になれ―と言われたのだと思いますが・・・」
「それは・・俺もそう思う」

風間が千鶴に申し込むことなど、それ以外思いつかない。
千鶴がそれに、頷くとは思えないが――

「ここで重要なのは、雪村君が『きちんとしないと、皆さんに迷惑をかける』と言ったことです」
「何故、それが重要に?」
「雪村君は責任を感じやすい子です…きっと今日のことで胸を痛めつつ・・明日からも迷惑をかけるかもしれない。それなら――」

山崎がそっと、涙を滲ませて話を続けた。

「風間の申し出を受けるつもりなのでは――」
「・・・っな!?それは――」
「昨日…風間は雪村君と京都で結婚を―などとのたまわっていましたが、この事だったんですね―」
「・・・結婚っ!?」

千鶴が・・・結婚――

「あなたが止めに行かなければ…誰が行くのです」
「俺が…?いいのだろうか―先生の命に逆らうことに…」
「斎藤さん―雪村君が何故、これだけ慕うものが周りにいるのに・・あなたに連絡をしたかを考えてあげてください――っ」

・・・・そう言われれば――
何故、この部屋に電話をしたのだろう(電話番号がわからなかったから)
先生の連絡なら、回りくどく自分に連絡せずに・・直接かければよかったのに―(携帯が電池切れで無理だから)

どうして自分を…言伝の相手に選んだのか――それは、すなわち――…

もしや…と期待を持ち始める斎藤に、山崎が止めとばかりに言葉を突きつけた。

「・・・このまま放っておけば、戻る頃にはもう・・未成年ですので婚姻届は無理としても、婚約披露などは済ませてしまうのでは?(当たらずも遠からずな山崎君)」
「・・・・・千鶴・・・っそうはさせない――俺は行く―後は頼むぞ、山崎」
「はい―斎藤さん――雪村君を頼みました――」

結局、この二人で盛り上がりすぎて、土方や原田には連絡が届かなかったのだが――

千鶴はこの時、くしゅんと小さなくしゃみをしていた。
まさかこの後、自分が映画のワンシーンのような場面に遭遇するとは、夢にも思っていなかったのである。








23へ続く