Everything ties




18




「おし、夜までにはホテルに戻らねェとな。まずは…保護者二人組か」
「では私は先回りし、準備を進めます。風間は…野宮神社に先回りしてください。くれぐれも見つからないように」

警戒されては、元もこうもないですからね。と天霧が念を押した。

「貴様に言われなくてもわかっている。が・・・しかしこのような回りくどいやり方をしなくとも、やはりそのまま我が妻を…」
「わかってねェよな?そのまま連れて行くのは不可能だ不可能!!あいつらまで付いて来て台無しだぞ!?」
「・・・下手すれば誘拐と言われかねませんよ。彼女にあなたがきちんと話をすることが重要なのです」
「・・・む・・・」

強行に事を進めるよりも、時には柔軟に。
それはいろんなことに通じることではあるが…

「天霧は作戦変えるのか?」
「いえ、人力車も使える、ということで…変更ではなく追加です」
「了解。風間、おまえ目立つからさっさと行っとけ」
「ふん、目立つのは仕方がない。高貴なオーラを常に繞っているからな」
「・・・・・いいから、行け」

そんなこと言うなら、自力で千鶴を嫁にしてみろよ。と言いそうになった言葉を何とかぐっと飲み込んで。
いろいろ残念な気持ちで風間を送り出した。
最初からうまくいきそうにない雰囲気がビシビシ漂っている。

「じゃあ、まずは先生に退いてもらうとするか…んじゃな、天霧。首尾よくやれよ」
「ええ、不知火。そちらも気を抜かないように」

こうして、3人はその場にて一端別れたのである。


一方天龍寺に到着した千鶴達。
その後ろには土方、原田もずっと付いて歩いていたのだが…

「しかしよ、他の生徒は大丈夫なのか?ずっと千鶴らの後歩くってのもなあ」
「・・・原田、おまえ…問題起こしてばかりの班はどこだよ。こいつら大人しいのは今だけだぞ」

何かにつけて、いつ千鶴巡って問題が勃発するか…
神経を尖らせる土方に、左之はう〜ん、と腕組をした。

・・・新八がいないのも気がついてねえからな。まともな判断出来てんのか?

「・・・それならいっそ千鶴を、俺らと一緒に行動させるか。それがもう手っ取り早くていいんじゃねえか」
「何適当に言ってんだ。それが出来てたら最初から苦労なんざしねえんだよ」
「じゃあ横でイライラすんなって。頼むからもうちっと楽しく過ごさせてくれよ」
「生まれつきこういう顔なんだ。(んなことあるか!と左之さん呆れてます)――大体…教師が楽しんでどうする!引率だろ!・・・・・ん?何だ?」

後ろからバタバタと走ってくる気配に、一瞬風間達かと警戒して身構えながら振り向くと。
関係あるようにはとても見えない、一般の観光客と思われる男が「あの!」と走り寄って来た。

「あの、あちらの生徒さん達の引率の方ですよね?」
「ああ、そうですが。・・うちの生徒が何か・・・?」

ちらっと後ろを見ると、千鶴達も振り返って止まっている。
千鶴達がのんびり歩いていた為、、いつの間にか生徒たちの最後尾になっていたと思っていたが・・・まだ、後ろに残っている生徒たちがいたのだろうか?
それとも勝手に行動でも・・・?

瞬時に頭を巡らせる土方に、その男が興奮おさまらない様子で、噎せかえりながら口を開いた。

「大変です!渡月橋から、同じ制服を着た少年が一人、落ちたみたいで――」
「橋から落ちた・・・?」

心配な気持ち、というよりも、おいおい何であんなところから落ちる?と原田が呆れたように溜息を吐いた。

「・・はい。あの高さですし、…急いで上から声をかけてはみたんですよ、手をあげて大丈夫とは言っていましたが・・」

心配で、と男が後ろを振り向いている間に、土方と左之は顔を見合わせて頷く。

「・・親切にありがとうございます。すぐに向かいます」
「はい、それでは―」

その男が安心したように、ゆっくり橋の方へ戻るのを見ながら、土方は原田に行くぞ、と声をかけた。

「ったく、どこのクラスの馬鹿だ!総司以上の馬鹿がいたとはな」
「――骨でも折れてたら厄介だな、病院行く手配はまだだろうな、俺がしとくわ」
「おお、頼む。・・・それと着替えもだな。ったく―」

行き駆けにちらっと千鶴達の方へ振り向いて、まだ足を止めて心配そうに見ている少女の姿が視界に映る。
手をあげて、大丈夫だから先に進めと手をヒラヒラさせると、その足を早めた。

「・・・・さっきの男、俺らが引率ってすぐにわかったみたいだな」

走りながら、今、追い越した男の顔をちらっと見て、左之が少し顔を顰めた。
後ろ姿で、生徒と話していた訳でもないのに―
何故だか、大丈夫だろうと思っていた千鶴の周辺が急に不安に思われて来る。
大人しく教師の役をしているのだ。千鶴が楽しく過ごせなければ意味がない。

そんな左之と同じことを考えていたのか、土方も少し言葉を詰まらせてから、自分も説き伏せるように声を出した。

「・・・荷物も持たねえで、フラフラ歩いてたからだろ?とにかくその馬鹿に説教だ」
「説教かよ」

見えて来た渡月橋には、一つの場所に人が集まっていた。
多分あそこだろう―

走り去る二人の背中が小さくなっていくのを見送り、千鶴の傍から土方、原田の二人が離れたことを遠目に確認した天霧は「さて」と腰を上げる。

不知火はうまくやったようだ。
少々強引な作戦ではあるけれど、あの二人を一気に引き離すには・・・
もう岸には上がっただろうか?その後処理も大丈夫だとは言っていたが―ここは信じて自分の行動に移すのみ。

では私はまず、藤堂さんと山崎さんを…この二人はまだ、大丈夫だとは思いますが――

問題はその後だろうか。沖田と斎藤。

・・・それでもやるしかないですね。
風間グループの為です。

ふぅと深く息を吐き出すと、不知火は天龍寺の奥へと向かった。


「・・・土方先生と原田先生。大丈夫でしょうか?何か橋から落ちた、とか言っていたような・・・」

千鶴が誰かもわからないその生徒や、その為に戻った二人がよほど心配だったのか、
もう姿は見えないのに何度も後ろを振り返っては、顔を曇らせていた。

「大丈夫だよ。大丈夫なように、あの二人が向かったんだから。ほら、土方さんだって、先行けって手を振ってたじゃない」

自分や他の3人無視して、千鶴にだけ向けられていた視線が鼻についたが―

「そうだな、ここで待っていても・・本当に橋から落ちたなら暫くは戻って来れないだろう。予定通り嵐山を回って、他の教師の引率に従うべきだ」
「・・・・しかし、あそこから落ちるとは・・・落ちようと思って落ちた、としか思えませんね」

山崎が、全くとんでもないことだ、と眉間に皺を寄せる。
突き落とされたとかではないなら自業自得。
自分たち以上の問題を起こす生徒に、土方先生はさぞ、頭を痛めていることだろう・・と同情を寄せる。
そんな山崎に、平助も、そうだよなあと頷いて。

「この学校にオレら以上に問題起こす奴がいたんだなあ」
「「「・・・・・・・・・」」」

それにしても、そいつ・・体何ともないといいけど、と言う平助の言葉に、千鶴はそうだね、と一緒に心配している様だった。が、
総司、斎藤、山崎の三人は同じ人物を連想していた。

・・・・・・・生徒会長、風間千景――

何かと問題を起こす、生徒会長である。
殊、千鶴が絡むと事は比例して迷惑極まりなくなる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、まさか・・・それに千鶴に被害があった訳ではないし・・・

三人は頭に浮かんだ不安要素を振り切って、何でもない表情を装った。
何も杞憂せずに、千鶴と笑いあっている平助が羨ましい。

「そうそう、何があろうとなかろうと。まずは千鶴ちゃんを僕のものにするのが大前提だし」
「・・・・・・総司、声に出ているぞ」
「旅行中にものにする、とか・・・本当に考えが単純ですね」

いちいち突っかかる山崎に、総司は笑顔でさらっと返した。

「旅行中に、なんて言ってないけど・・・?考えてるのは山崎君なんじゃないの?」
「・・・っ!?い、いや、そんなことは・・・っ」
「千鶴は千鶴自身のものだ。そんな話を道すがらするんじゃない・・・もう法堂に入る。口を慎め」

他の生徒に追いついてきたのか、ちらほら、班行動をしている薄桜鬼学園の生徒が周囲に増えてきた。
銘々に寛いで楽しんでいる様子である。
その人並みの中に、斎藤はふと、目の端にここにいてはならない人影を見た気がした。

すぐには確認せずに、そこを敢えて見ずに、注意だけ向けてみる……

「――斎藤さん、どうしたんですか?」

言葉だけでなく、掌を目の前でちらつかせて、千鶴が覗きこんでいて我に返る。
いや、取り乱したと言った方が正しい。

「っいや、何でも――」
「本当ですか?何かあったらちゃんと言ってくださいね」

私じゃ頼りにならないかもしれないけど、と言う千鶴に、そんなことないと笑顔を返して。
そんな二人を横目で見ながら、総司がふうん、それなら・・・と口を挟む。

「何かあったら、かあ…今なら、言ったら聞いてくれるのかな」
「え、それは・・私に出来る事なら!」
「いや、千鶴!早まるなよ!総司には・・何言われるかわかんねーぞ!」

いつも通りの騒ぎになっていく一同。

ほんの少し、気を緩めた隙に消えた人影に、気付くことは出来なかった。






続く