Everything ties




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薄桜鬼御一行は奈良での日程を終え、バスに荷物ともども乗り込むと一路京都へ―

数ある観光地を楽しみにする一同様。ですが、
修学旅行中に、二人の絆に変化を…と思う心は個人の自由。

様々な思惑が絡み合う中、ようやく、京都です。
宿に荷物を置いて、3日目午後の日程は嵐山。

「京都はいいんだけどさ、せっかくだから全部自由行動ならいいのにね」
「そうだよなあ…でも今日はさ、場所は決められてるけど・・結構自由に動ける方じゃないか?後は好きなように、だろ?」
「好きなように、ではないぞ。平助。回る場所も決められている。順番を好きなように…だ」

とりあえず、同じ嵐山駅で降車して。
観光スポットでもある渡月橋や、天龍寺などを好きな順番で回ることになっていた。
けれど、自然皆が効率よく回るように、同じ道を選んで歩くことになる。
今は最寄りの渡月橋をのんびり渡っているのだが・・

周囲は薄桜鬼学園の生徒ばかり。

「…一君、ごめん。意味わかんねえんだけど。」
「ですから、斎藤さんが言いたいのは…嵐山ならどこでも好きに歩いていい、という訳ではない。ということですよ」
「ああ、そういうこと・・・ってえええっ!?そうなのか!?」
「藤堂さん、しおり、読まれていますか?」

呆れた眼差しをあちらこちらから受ける中、平助は「そんなの見すぎたら楽しみがなくなるじゃん!」とごまかしふてくされていますが。
平助に向けられた皆の注意は、千鶴の言葉であっという間に方向転換。

「でも、歩いているだけですっごく楽しいですね!やっぱり景色が綺麗…橋の上を渡るのもいいけど、少し離れた場所から見るのもいいですよね」
「そうだな、秋だと紅葉がまた綺麗なのだろうが、空と川の青に挟まれた樹木の緑が映えてまたいい」
「本当に。川の水・・冷たくて気持ち良さそう・・暑いと水遊びまでしたくなりませんか?」

川を眼下に眺めつつ、斎藤とのんびり歩きながら、皆に振り返り同意を求める千鶴の笑顔。
つられて総司や平助、山崎も千鶴の傍に集まっていくのだが…

「あいつら暑くるしいな・・・もっと離れて歩きゃいいのによ」
「まあ、問題起こしてる訳じゃねえからいいんじゃねえか?土方さんもあんまり大茶盛の時みたいに怒鳴るなよ?」

あれはあれで…注目を浴びて恥ずかしいものだった、と左之が思い出し小さく頷けば、土方はあいつらが悪いんだ、と煙草を口にくわえて火をつけた。

「・・ったく、千鶴は強力な磁石だな・・あいつらどんどん引き寄せて―」

キリがねえ、と深く煙草を吸いこむ土方に、苛々してんなあと左之は苦笑いを浮かべた。

「ま、一理あるな。総司達だけじゃなくて、俺達も、風間の野郎も引き寄せてるしな」
「・・あ〜風間・・そういやまだ変わったことはねえな。元々の予定があったんなら・・今日のところはもう大丈夫とは思いたいんだが」
「・・・・・・・へえ」
「・・・・・・・何だよ、その顔は」

含んだ笑いを浮かべて、妙に楽しげな左之から逃げるように土方は足を早めた。
千鶴達の何やら賑やかな声が聞こえて来る。

「俺達も、ってところは否定しないんだな」
「・・・・・・・・・・・・・いちいち否定する方が・・余計気にしてるみてえだろ」
「・・なるほど、一理、だな。あと土方さん、俺達、『達』だからな?俺も忘れんなよ?」
「何が言いたいんだよ、てめえは・・」

教師であるが故に千鶴と一定の距離を保つ二人。
大人には大人の苦労がありそうです。

一方千鶴達の賑やかそうと土方が思ったらしい、会話の内容は…

「あ、あれ人力車ですね。・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・千鶴ちゃん、じ〜っと見過ぎ。見つめる相手が違うよ。不用意に熱視線送らない。これ以上増えたら厄介なんだから」
「え?あ、そうですよね。あんまり見たら・・変に思いますよね」

お客だと思われても困るし、と人力車から慌てて視線を逸らす千鶴。
似たようなことを何度も言っているのに、伝わらないなあと口を尖らせる総司に、男性陣は激しく同意している様子。

「何だよ、千鶴・・人力車に乗りたいのか?」
「え?そ、そういう訳じゃ…ほら、ここに詳しいから色々教えてもらえるんだろうなあって」
「・・・つまり、乗りたいっていうことですよね、斎藤さん、人力車には・・乗ることは・・?」

千鶴の言葉を受けて、山崎が確認するように斎藤に尋ねると、斎藤は後方を歩いている土方と左之を振り返り・・・
更に周りに視線を巡らし、いや、と首を振った。

「無理だろうな。人力車は有料だ。自分で調べ歩くのも大事なことだ。・・・」

口にはしないが、千鶴が人力車に乗れば当然今より目立つことになる。
風間達がもし千鶴奪還に来た時に、瞬く間に目につくことになるのは――

「乗せられるものなら・・・乗せてやりたいのだが、すまない」

くっと、本当に申し訳なさそうに顔を歪める斎藤に、千鶴の方が慌てる。

「いえっ乗りたいだなんて!あの・・重くないのかなあとか、目線の高さが変わったらまた違うのかなあとか、どんな感じなのかなあって思っただけで・・・っ」
「・・・・・・つまり、本当に乗りたかったのだな。今は難しいが・・別の機会に千鶴を乗せてやりたい」

慌てて連ねる言葉は、乗りたいんです、と言われているような素直な言葉ばかり。
素直で、斎藤の言葉に益々慌てる千鶴に、申し訳なさより、かわいさが勝ったのか、斎藤の顔がふっと柔らかいものになる。

「・・ケチくさいこと言わないで、乗せてあげればいいじゃない。けど、車夫は僕ね」
「・・総司が?何をまたふざけたことを・・・」
「ほら、こうしたらいい・・・」

そのまま、総司は身を屈め、きょとんとした顔で総司を見上げる千鶴の腰とひざの裏に手を添えて・・一気に抱えあげようと思ったのだが・・・

ガッ!!

その両腕は千鶴を抱えあげる前に、斎藤に止められてしまった。

「一君っさすがっ!!ったく総司!!大茶盛で怒られたばっかだろ!!土方先生も今、後ろにいるんだからさあ〜」
「土方さんが怖くて、千鶴ちゃん攻めを止められる訳ないじゃない」
「おまえは真性の阿呆だ。それに先生と呼べ。…第一、千鶴が人力車に求めるものと、それは全く違うだろう」
「そんなことないよ、目線の高さは同じくらい高くなる・・筈」

僕が一番背が高いし、ねえ千鶴ちゃん。と名前を呼び掛けながら、両手をひらひらさせて構える総司。

そんな一同のやり取りに、何が行われようとしていたの?とおろおろする千鶴に、落ち着くんだ、雪村君と声がかかる。

「沖田さん、今の状況が見えていますか?強行すれば間違いなく・・彼女の悲鳴があがると思いますが」
「山崎君の言う通りだぞ。そうなったらどうなると思ってんだよ。オレは・・・もう怒られて正座とかごめんだからな!」
「怒られる、という括りではなく…その行動自体が非常識だ。少しは節度というものを知れ」

斬り捨てるような言葉が総司に集中した後、はいはい、と身を飜し、歩調を緩めた総司は、千鶴の横に体を落ち着けると、そっと耳打ちした。

「今度、こっそりね―」
「・・・え?」

ぼそっと呟かれた言葉は、千鶴には正確に伝わらなかったのか。
千鶴は耳を押さえてぱっと顔をあげたのだけど、総司はにっこりと微笑みを向けるばかりでそれ以上の言葉はない。
千鶴の表情には僅かに赤みが差して―

二人の少し後方で、総司のその一瞬の行動に眉を寄せたのは斎藤。
少し、後ろ姿に緊張を思わせる雰囲気を出した千鶴に、何故か胸がざわついて・・視線を送る。
それに千鶴が気が付いたのか、ふと、視線が絡み合った。
どうすればいいのか、時間が止まったように思えた一瞬。いつもなら・・すぐに目を逸らしていたかもしれない。

「・・・・・千鶴」

逸らすことなく、早めた足。千鶴の隣に並んで。

「車夫とまでは言わないが、多少なりとは知っているつもりだ。俺でよければ聞いてくれ」
「はいっじゃあ…何が見どころなんですか?」
「そうだな、だるまの土産だろうか」
「・・・・総司、それは俺の真似か?口を挟むな」

むっとした斎藤だったが、対して千鶴は総司と斎藤の会話に思わず、ふふっと耐えきれずに口を押さえて笑い出した。

「沖田さん、斎藤さんの真似、上手ですっ」
「――俺はあんなことは言わない」
「言うよ、言うから千鶴ちゃんが上手って褒めてくれたんだよね」
「そうですね・・・っあ、斎藤さん拗ねないでくださいっ」

笑い声が響く中、橋を渡り終えて天龍寺に向かう5人。
楽し気な様子は周囲に伝わるものである。
土方も然り。それと…

じっと物陰から覗く人影。
どうしたものか、と頭をかいてな悩んでいる様子である。

「まあ、予想通りにびったり張り付いてんな。ま、計画通り・・少しずつ・・お姫様のお守をはがしていくか。」
「そうですね・・それに雪村君は人力車に反応していました。これは使えそうです」
「・・どうでもいいが、さっさとしろ。俺は黙ってあのような茶番を見るなどごめんだ」

京都初日、これから修学旅行で一番の大騒動の予感です――




続く