Everything ties




15




夜、ホテルのロビーでは疲れきっているのか、無言で男二人がぼうっと正面の扉を見つめていた。
いつもの元気一杯の様子、落ち着き払った様子とはまるで違う二人。
修学旅行中の生徒とは一見思えない様子である。

「・・・なんだなんだ、お前ら見てるとこっちが疲れてくんぞ!シャキっとしろよ!シャキっと!!」
「まあまあ、新八。こいつらも頑張ったんだ。見逃してやれよ」

平助と山崎のそのあまりの辛気臭さに、つい新八が声をかけても、ちらっとすら視線を向けてくれず。
その様子にまたいきり立つ前に、左之がまあまあ、とフォローをしていたのだが…
平助はその辛さを伝えて吐き出すかのように、声を絞りだした。

「・・だってさ…風間の奴しつこいんだよ!!とにかく早く帰ってくれって言っても聞かねえし!!」
「言って聞く相手ではないのはわかってはいましたが…あの様子じゃ帰っていそうにないですしね」
「まあ、帰らねえだろうな…山崎の囮は通用したのかよ」

左之がそう言えば、山崎はうっと顔を顰めた。当然である。

「…火に油、な感じがしました。そこまでするなら絶対見つけてやる、という執念が増したような…」
「・・・・ああ・・・・(山南さん、平和な時間が増えたって、この結果に喜びそうな気がすんな・・これが狙いか?)」
「千鶴はいないって言ってんのにさ、俺をみくびるなとか言って…」
「挙句一人で雪村君との京旅行プランを俺たちに説明して、どうだ、わかったか。では渡せ・・と言われた時は言葉が出ませんでした」

うんうん、と平助と山崎が頷きあって。
そんな会話を繰り広げてきっと…足止めしていたのだろう…
左之は心底同情した。

ほらよ、と缶ジュースを二人に投げる左之に、新八が俺のは?と手を出して振り払われている。

「何で俺にはないんだよ!ケチだな左之!そんなんじゃモテねえぞ!!」
「てめえに言われたかねえよ。どうせ部屋に戻ってまた酒でも飲むんだろ」
「・・・また?付添の先生が旅行中に酒は…」

二人の会話に、どうしてもツッコまずにいることが出来ず、山崎がようやく顔をあげると・・・

「・・さ、さあ!俺は部屋に戻るか!っと…」
「・・・・新八っつぁん・・それじゃ全くごまかせてねえから。むしろ肯定したようなもんじゃん」
「教師の風上にも置けませんね」
「お、それ土方さんにもよく言われてるな」

生真面目は一緒だな、山崎。と背中を叩かれて、思わず前のめりになった体を起こす気力もない。

「んで、風間達はどこ行ったんだよ」
「知らねえよ・・追い返すって思ってたのにさ・・あ〜あ・・千鶴、明日から大丈夫かな」
「そうですね、明日は午後には京都に移動。あの人の妄想プランは京都からでしたから…」
「京都で何するって言ってんだよ」

あまりに突飛なことでなければ、もう無視しとけばいいだろ・・と二人を見ているとそう思う。
けれど本当に突飛なプランだった。

「「結婚(です)」」
「・・・・・・そうか、救えない馬鹿だな」

千鶴も…えらいのに目をつけられたと実感する――

「だろ!?結婚とかまだ未成年だっての!!意味わかんねえよって言ったら・・・小馬鹿にするように笑われてさ」
「・・・?その態度何か引っかかるな・・明日そういや京都で・・何かあったような・・」

ずっと前に何かちらっと聞いていたことがあったような…気のせいか?

「何だよ、風間が何考えてんのか関係ある話か?」
「いや、思い出せねえし・・違うと思うけど・・ところでお前ら、言うの忘れてたけど・・」
「「?」」

二人がまだ、これ以上あるのか?と顔を曇らせた。

「千鶴ならもう帰ってんぞ。地下の駐車場エレベーターからそのまま、部屋に上がったんじゃねえか?」
「「そ、それを早く言えよな(言ってください)!!!!」」

玄関ロビーに待つ二人の涙まじりの叫びは、親切に教えに来た左之に向けられたらしい。


一方千鶴は…

部屋の中で荷物の整理をしていた。
バッグに入れずに、そのまま脇に置いたままの包みを手に取る。

「・・・吉野のお土産・・どうしようかな。平助君と山崎さんに渡すのは…」

早く・・渡した方がいいかな?

今日は疲れているよね、明日にしよう。


































早く・・渡した方がいいかな?





「喜んでくれるかわからないけど、早く渡したいし・・うん、行こうっ」

この時間ならまだ…消灯時間でもないし起きている筈。
さっと渡して帰るなら…問題ないよね。

千鶴はお土産を抱えるとそのまま部屋を出て、駆けだしたのだった。
走ってはいけないと思いつつ、見つかったら部屋に戻れ、と言われそうで…
先生にごめんなさい、と思いつつ、千鶴はエレベーターに無事に乗り、みんなが泊まるフロアに降りるとそおっと周りの様子を覗った。

よし、今――

誰も廊下にいないのを確認して、一気に向かう。
コンコンと部屋のドアを遠慮がちに叩くと…そっとドアが開いて…

「やっぱり千鶴ちゃん!!」

笑顔いっぱいの総司のお出迎え。
平助にさっと渡して帰ろうと思ったのに、千鶴はそのまま・・何故か部屋に引きずりこまれてしまった。

「千鶴!大丈夫なのかよ、こんなとこ来て!いやオレは嬉しいけどさ・・後で怒られるんじゃ…」
「うわ、平助最低だね…せっかく遊びに来てくれたのに。見つかってもその時は僕が呼んだんです〜って代わりに怒られてやろうくらいに思わないと」
「い、いえ・・遊びに来たわけじゃなくって・・」

千鶴の反論は小さいのか聞こえないのか。
二人の会話がどんどん進んで…

「そんなことオレだってわかってんだよ!だけど、千鶴はそういうの気にする奴だから・・・オレはそっちを心配して・・」
「今更付け加えたように取り繕っても遅いよ。…ということで千鶴ちゃん、何しようか。今平助とDSで対戦してたんだけど・・」
「千鶴に出来るゲームがいいよな。あ、マリオカートは?」

そうそう。マリオカートなら私も少しは…って!違くて!

「ええ・・せっかく千鶴ちゃん来たのに・・DS??そんなのゲーム画面ばっかでせっかくの千鶴ちゃんが見えないよ」

…沖田さんいつもそういうことさらっと…って恥ずかしがってる場合じゃなくて!

「あ、あのね、平助君。私吉野のお土産を・・・」
「じゃあ総司はしなくていいよ。オレと千鶴で対戦するから。ってことで総司のDS千鶴に・・」
「だから、何で僕が平助と千鶴ちゃんが仲良くゲームしてるのを、指咥えて見てなきゃいけないのさ。そうじゃなくて、千鶴ちゃんと向かい合ったまま何かしたいなって…」

向かい合ったまま何かって…お話くらいしか…あ、カードゲーム…じゃなくて!

「でも今はDSくらいしか手元にないじゃん。千鶴、総司は放ってやろうぜ!50ccがいいんだよな、プレイヤー何にする?」
「え、うん。私はピーチ姫がいい・・じゃなくて、あの・・」
「ええ・・千鶴ちゃんもやる気なの?それなら僕もしようっと…じゃあ僕はマリオ。千鶴ちゃんがピーチ姫だしね」
「ってそれオレのDS!!お前しないんだろ!?」

3・2・1…あっという間にスタンバイ画面になり、何故か当然のようにDSを持っている千鶴。
総司に奪われた自分のDSを諦めたかのように放置して、千鶴!オレがコツ教えてやる!と援護に回ろうとする平助を、総司が自由な足で妨害してる。

・・・お土産持ってきただけなんて…今更・・言いにくい…

それなら二人と一度ずつして、お土産を渡そう。
山崎さんにも渡さなきゃ・・と千鶴はそのままゲームを始めてしまった―――

「・・・千鶴ちゃんがピーチ姫にしたのがわかる気がするよ」
「アイテム攻勢すごかったな…へえ、総司が負けた…よし!んじゃ次オレ!」
「ちょっ待ってまだ!何で1レースで交代しなきゃいけないの。これ終わるまで・・・」
「ええ〜!?相当時間かかるじゃん」
「仕方ないでしょ、それに平助の得意キャラってキノピオだよね」
「違うから!!オレだってマリオがバランスよくて好きなんだぞ!」

部屋でこんなに騒げば…誰かには気付かれる、というものです。
ドンドンッっと非難するようにドアが叩かれました。
平助が慌てて、シ〜ッ!と指を示したままドアを開ければ、怒った斎藤と山崎の姿が…

「総司!うるさいぞ…消灯時間も近づいているのに何を・・っ!?千鶴!?どうしてここに…」
「沖田さんと藤堂さんに呼ばれたんですか?こんなことして一体・・」
「え、えっとあの・・・あっ待っててください!あのお土産・・」

ピーっと音がなり、スタートが告げられて、あわあわしながらまたレースを始める千鶴。
斎藤と山崎はその様子を呆然と見ていたのだが…

「すげー!!千鶴の勝ち!!んじゃ次オレ!!よ〜しオレは…「キノピオでしょ、早くしなよ」
「負けたからと言って平助に当たるな」
「うるさいな、どうしてここにいるかな。早く部屋に戻りなよ」
「・・・俺はルイージがいい」
「・・何する気になってるの?DSは貸さないよ」
「ここにある」
「俺も持ってます。これで4人でできますね。では俺はクッパを・・」
「ええ!?オレと千鶴の一騎打ちがいいのに!!」
「…あの、でも…平助君、4人でする方が楽しいよ…(このまま一人ずつだと・・部屋に戻れない・・)」

お土産を渡すのは明日にした方がよかったかな、と千鶴は再びDSに目を戻したのだが…

「…・・・・・負けたぁ」
「・・・・・・・強い」
「・・・・・・・意外な才能です」

いいところを見せたかった面々は崩れ落ち、総司が自分が勝てないのに君たちが勝てる訳ないよと笑っています。

「ええと、じゃあ私そういうことで戻ります!」
「え、まだいいじゃない・・ところで千鶴ちゃん強いよね。家でよくするの?」
「あ、はい。マリオカートだけ・・薫がたまに相手してくれて・・でも薫には負けるんですよ」
「「「「・・・・・・・・・」」」」

「負けちゃうとつい・・・もう一回ってせがんでしまって、あっという間に時間が・・だから今勝ててよかったです」
「「「「・・・・(勝ちたかった――)」」」」

「あ、平助君。山崎さん・・これ吉野のお土産・・受け取ってください!それじゃ・・」

千鶴がいなくなり、男4人はベッドに力なく、腰を落とした。
負けたのはそこまで悔しいとは思わない。
楽しい時間を過ごせたとは思うが・・

『もう一回ってせがんでしまって、あっという間に時間が・・・』

・・・・・・・・せがまれてみたかった、と同じことを思った4人がこの後特訓しようとしたのだが。
千鶴が部屋に戻るところを発見し、事情を全て聞いた土方によって、DSを没収されるまでの時間は1レース分もなかったとか。
これ以降、皆さんに迷惑をかけてしまった・・と落ち込んだ千鶴は、ガードが固くなってしまい。

旅行中に距離を縮められた者はいなかったらしい。






END




「旅行中には縮められなかった距離ですが、旅行後、千鶴ちゃんと僕は晴れて恋人になりましたとさ」
「何嘘言ってんだよ。大体あの時千鶴のお土産をちゃんと受け取っていたらさ、続きがきっと・・・くそ〜」
「DSに誘導したのは藤堂さんですよ。ところで・・・その後雪村君に勝てた人は・・?」
「俺は・・・勝てるようになった(←照れてる斎藤 一)」
「「「っ!?」」」




はい〜BADEDです。BADというか、ゲームEDというか…
何というか、夜の分岐はかなり遊んでいるなあと思います。何これ、と思われた方は気をつけてくださいね(汗)
ゲームくらいで済んだ今回はかわいいものです。
そのうち・・土方先生の大説教があるようなEDもあると思います。
その時はきっと千鶴も一緒に怒られます^/^


みんなその後ものすごくゲームやりこんだと思います(笑)
ちなみに千鶴が勝てるのは50ccのみです(←)




























今日は疲れているよね、明日にしよう。





千鶴はそのままお土産を潰れないようにバッグの横側に置いて、お風呂に入る準備を始めた。
今日はたくさん歩いたせいか、少し足が重い。
ゆっくりお風呂に入ろうと、お湯を溜め、体を沈めていく――

お風呂を出て、ひと段落した後に、ふと、今何時だろうと時計に目を向けて…

もう、こんな時間!!

そういえば…








































もう、こんな時間!!




『・・・・・わかった。必ず・・・それは俺の願いにもなる』

膝を抱えたまま、おやすみの言葉を約束してくれた斎藤。
自分の子供のような願いを、笑わずに聞いて、自分の願いにもなる、と言ってくれた。
思い出せば自然に顔が緩んで…動きが止まってる。

…ハッ!いけない、いけない…
今日は飲み物も用意して行こうと思っていたのに…間に合うかな?

そういえば、何時くらいから見張りをしているのだろう?
昨日と同じくらいに…と思っていたけど…もしかしたらもっと早くに来ているのかもしれない―

今日時間を聞いておこうかな。

そこまで考えて、ふるふる、と首を振った。
とにかく早く下に行こうと、お財布と携帯だけを持って、昨夜のように階段へと向かったのだった。



・・・今、何時だ?
昨日、千鶴が来たのは何時だっただろう?

偶然にも取れた二人の時間。
今夜も、と…約束はしたつもりだが…

今日、それを千鶴に確かめることはしなかった。
確かめて、え?と戸惑われたら…
夜のことを、誰かに聞かれて…この二人の時間がなくなったら…と。
千鶴はきっと、覚えてる。約束を守るーと決めつけてしまったのは、自分の浅ましさに通じているのかもしれない。

何度も上を仰いでは、まだ現れない姿に肩を落として。
傍に置いたジュースに手をあてる。
少し早く買いすぎたせいか、すでひやっと感じない程度にぬるくなってきている。
買い直そうか―けれど、その間に千鶴が来たら…

「斎藤さん、お待たせしました」
「千鶴、いや、待ってなど…」

とはいえ、このジュースを出せばわかってしまうだろうか。
千鶴に見えないところにジュースをこそっと移していると、差し出された2本のジュース。

「はい、約束です。今日は私が準備しました」

そんな約束しただろうか・・・

「忘れてました?明日は私が用意しますって…言ったんですけど」
「ああ、それは…」

『明日』という言葉に反応してしまったのはすごく覚えている。
忘れていた訳ではないけれど、それを言うのは…自分の気持ちが筒抜けになる気がして。
けれど千鶴はあまり気にした風もなく。

「どうぞ!・・あの、今日は誰もこっそり外出していませんか?」
「・・??・・あ、ああ誰も・・・」

一瞬、何のことかと考えて、そういえばホテルから抜け出す生徒を見張っている、という話だったと思い出した。

「みんな出かけてどこに行きたいんでしょうね」
「・・・さあ、俺にはわからない」
「私は・・外に出られなくてもこういう時間があるから、抜け出そうなんて思わないですけど」
「そうだな、俺もそう思う」

千鶴の言葉に、今この時間が楽しいと思ってくれてることがわかって。

「平助君とか…一回くらいは抜け出しそう・・その時はあんまり怒らないであげてください」
「・・・抜け出すのはいい事とは言えない。怒らない、というのは難しいが・・最終的な判断は先生達に任せる他ないだろう」
「・・・・・・・ふふっ」
「・・?千鶴?」

笑うところではなかった筈だ、と斎藤が千鶴に目を向ければ、だって、と千鶴が言葉を続けた。

「もしも・・の話でも、すごく真剣に答えてくれるから・・・」
「仮定の話も結果を想定しておいて損はないと思うが・・」
「そうですけど・・あんまり考えすぎると、ほら、土方先生みたいです」

眉間にいつの間にか触れた、ジュースで少し冷えた千鶴の指先が。
作っていた皺を伸ばすように、ほぐすように、優しく触れる。

「・・・・・・・・・・・・・」
「私がもし、抜け出そうとしてるのを発見したら・・どうしますか?」

きっと、また・・そんなことをしてはいけない。と皺を寄せるだろうと・・千鶴が人差し指をそのまま待機して斎藤に聞いてみると。

「千鶴は・・理由もなくそんなことをしない」
「もしも、ですよ。想定しておいて損はないと思います」

先ほど自分が言った言葉を面白そうに返して、くるくる指先を回している千鶴。
まだ待機させている人差し指に、斎藤がふと、小さく笑いながら返した言葉は・・

「それなら、お前が何と言おうと付いて行く」
「・・・・・・・え?」

想像していた言葉と、違う言葉に千鶴の指はピクリとも動かなくなった。
お返しとばかりに、斎藤が千鶴の眉間に指を添える。
千鶴のかわいい顔に、皺などひとつもないけれど・・・

「・・千鶴はもっと、自分の行動の先を想定しなくてはな」
「私の?」
「ああ、色々、その…嬉しいが、困る――」

困ると言うのに、優しい目を細めた斎藤の表情に。
私の方が、困る―と・・急に恥ずかしくなり、顔を俯かせ膝に顔を埋めた千鶴。


2日目の夜、その顔が見たいと、あげさせることが出来たなら―






続く
































そういえば…




昨日は沖田さんが来て…写真を一緒に…

今日も吉野で写真を撮っている。
もしかしたら来るかもしれない、と千鶴はぱぱっと身だしなみを確認した。

・・・部屋着も着替えた方がいいのかな、でも・・・待ってたのかなって思われそうだし…

来ないかもしれないのに、そんなことで部屋を右往左往してる自分は・・かなり怪しいかもしれない。
落ち着こう、とポスっとベッドに腰を下ろして、ぼんやり天井を眺めていた時。

チャララ〜チャララ〜♪

「あ、きっと・・沖田さんから」

携帯を手に、受信画面を開きながらすぐにドアの方に向かう。
まだ本文も見ないまま・・そっとドアを開ければ・・・・

「やっぱり」
「・・メール見た?もしかして出かけようとしてた?」

少しだけ、目を見開いているのが新鮮で。
千鶴はちょっと勝ち誇ったような笑顔を向ける。

「だって、昨日も同じくらいの時間に来たから・・写真見せに来るかもって」

予想通りです、とふわりと笑った後、総司のメールを確認してみると・・

『今から行ってもいい?お土産持ってく』

「?今から…って沖田さんそこにいましたよね?」
「うん、だから・・・驚かせようと思ったんだけど…僕の方が驚かされたね。それより千鶴ちゃん、入れてくれる?」

このまま立っていればすぐに見つかる、キョロっと周囲に目を向けて暗に訴える総司に・・千鶴はまた何なく、部屋に入れてしまった。
前には驚いたこの千鶴の行動だけど、今日は…入れてくれるのを期待して来ているので、総司はにこにこ笑顔を浮かべていた。

「ところでさ、千鶴ちゃん・・やっぱり・・って・・僕のこと、待ってた?」
「待ってる…そうですね、来るかもって思ってバタバタしてたから・・・」
「僕が来るかもって思ってたから・・身だしなみでも整えようとしてた?」
「・・そうです・・・沖田さんそんなに笑うことないじゃないですか」

総司はただ、嬉しくて・・つい顔が綻んでいたのだけど。
千鶴にとっては可笑しいと思われたのかと・・勘違いをして・・拗ねているようだった。

・・・う〜ん、嬉しい気持ちが素直に伝わりにくいのかな、僕は。
でも、拗ねてる顔も好きだから、・・今は、いっか。

「でもさ、どんな格好でも可愛いって僕は思うのに…気にしてる君が可愛くてついね、ごめんね」
「ち、ちっとも謝っているように見えません!むしろからかわれてる気がします」
「じゃあ、これで機嫌直して」

ピトっとほっぺにあてられて、思わずヒャッ!と声を出してしまった。
一気に冷える頬、はすぐに離されて、はい、と渡されたアイス。

「わ〜アイス!…沖田さんにはよくお菓子をもらって・・ありがとうございます」
「どういたしまして。・・・機嫌直ったね。千鶴ちゃんにはまだ甘いものが有効かな」
「そうですね、甘いもの大好きです」
「・・でも、そのうち・・それより機嫌直してくれる甘いもの、増えると思うよ?」
「??アイスより?」

謎かけみたい、と笑う千鶴に総司は悪戯に笑顔を振りまく。

「うん。僕にしかあげられないものだからね。ちゃんと見つけなきゃお仕置きかな」
「・・・み、見つけます」

笑顔なのに、逆らえない雰囲気を感じて、千鶴がはい、と頷けばうんうん、と満足そうに頷き返して「これ、見よう」とカメラを取り出した。

「写真、無理しなくても後で見せてもらえれば私は十分ですよ」
「それだと、僕が十分じゃないんだよね」
「??」
「ほら、綺麗に取れてる。車内でも撮ったもんね・・ほら、土方さんなんか角、生えてそうじゃない?これ」

頂きます、とパクっと貰ったアイスを口にしながら、千鶴は写真を眺めて、本当だ、とくすくす笑う。

「この後さ、土方さんが急ブレーキして…斎藤君が頭ぶつけてて面白かったよね」
「いえ、沖田さんそれは…笑っちゃだめですよ」

もう、とそれでもその軽口につい、笑ってしまうのが不思議なくらい。
自然に笑顔になる。

「・・・あの時さ、千鶴ちゃんはびっくりして目を瞑ってたからわからないだろうけど…」

総司が急に真面目な顔になって、千鶴を覗きこむように後ろから顔を出してきた。
まるで車の中の再現のような格好で。

気配を感じる程度なんてもんじゃない、総司の柔らかな髪がふわっと撫いでいくように・・千鶴の髪や、頬、鼻を掠めて。
吐息の熱を感じるほどに、唇までもが近い――

「・・・これくらい、近づいたんだよ?危うくキスしちゃうところだったね」
「・・っそ、そうだったんですか・・思わずキュっと瞑っちゃって・・」

いつまでこの状態なのだろう、自分から顔を遠ざけるのは・・失礼かな?
というか、体が人形みたいに動かない・・

「瞑っててよかったよ。今みたいにじっと見られてたら勘違いしてたかも」
「・・勘違い??」
「うん、今もしてるかも。どうしようかな?」

三日月みたいに目も口も象って。
どうしようもこうしようも…話の流れがよく…と困惑する千鶴の手にツー・・と流れるものが・・・

「・・・あ、アイス!アイスが溶けてるっ」

千鶴は少しだけ、『よかった』と・・このアイスの溶けるタイミングに感謝していた。
けれど、勝手に速まる心臓に頬は急上昇で加熱していくけど。

「拭いてあげようか」
「・・い、いいっいいですっ!!」
「・・・・・・・ふうん」

近くにあったハンドタオルで簡単に手を拭う千鶴の様子に、総司は何故かまた笑っていて。

・・・さっきのと同じ笑顔だ・・からかわれているのかな…

千鶴の思いなんか関係なく、総司が急にカメラを構えて・・2人を写真に収めようとする。

「はい、撮るよ」
「え・・ええっ!?」

もっときちんと座りなおしてから、と訴えが届く前に、カシャっとシャッター音が鳴る。

「沖田さんひどいです!昨日もタイミングずらして…また絶対変な顔してる・・」
「またって何。昨日も今日のも可愛いく映ってるよ…僕は、今日の方が好きかな」
「また、そんな風に・・・」

拭いてあげようか、の一言であんなに反応しちゃって。
昨日の君なら、きっと…ここまで動揺してくれてない。

・・・何を考えてたのって聞いたら、またきっと慌てるよね。

もっと見たくて、からかいたいのに。
その動揺が・・嬉しいんだって言ったら、君はもっと…いじけそうだけど――

「毎日近づいてく証を収めなきゃね」
「??」
「明日は…どんなのが撮れるかな」

わざと含んだ顔してしまうのは性だと思う。
そんな僕に、君は笑顔で嬉しい言葉をくれるんだ。

「明日はタイミング外さないですよ!」




2日目の夜、君の笑顔につられて、キスしなかった僕を褒めてよ――







続く