Everything ties




13





荷物を簡単にまとめる手が先ほどから何度も止まる。

急がないと…待たせたらいけないし。でも…

旅行には頼まれて来た訳じゃない。
自分が行きたいと思って来た旅行で、そのせいで…予定が変わって。

…平助君と山崎さん、あの後気にするなとは言ってくれたけど…

笑顔を浮かべて、楽しめと言ってくれた二人の顔を思い出す。
事の展開に、最初は嫌で仕方ないとばかりに顔をひきつらせていたのに…
千鶴に行って来いと優しく送り出そうとした二人の顔はそんなこと微塵もわからないものだった。

…うん。やっぱりみんなが一緒の方がいいし。

囮など無理して作る必要性がよくわからない千鶴は、バッグを持つ手に力を込めると、そのまま部屋を勢い飛び出した。


最初に、平助君を誘いに行こう!

最初に、山崎さんを誘いに行こう!

































最初に、平助君を誘いに行こう!

「平助君、すごく行きたがっていたし。きっと強く誘えば行くって…」

言うよね、と自分の言葉に頷きながら、千鶴は平助の部屋へと向かった。
総司と同室の筈の部屋の前に立つと、コンコンと軽くノックしてみる。

「あ〜山崎君?支度出来たのか?」

まさか千鶴が立っているとは思わずに、ふわあと大口開けて眠そうにしながら出て来た平助は、千鶴を目にして目を丸くした。
その大きな瞳に驚きを滲ませ、その後困惑した色を浮かべる。

「・・千鶴?どうしたんだよ。総司の奴もう下に…」
「平助君と山崎さんを誘いに来たの。やっぱり…別々っていうのがおかしいと思って」

先生には私からも頼むから、と。
一緒に行こうと声を絞り出す千鶴に、平助は思わず苦笑いした。

「気にすんなって言っても気にするのが…千鶴だよなあ」
「…こんなの、気にしない方がおかしいよ。私が特別な訳じゃないと思うけど…」
「ん〜…ああ駄目だ!オレ顔が笑ってる!千鶴嬉しいこと言ってくれるし!」

ははっと照れ笑いする平助の様子に、千鶴はほっと胸を撫で下ろした。
この様子なら、行くと言ってくれると思ったのである。が…

「でも今回はさ、オレもまあ仕方ないけど・・つうか、すっげえ納得できないけど、山崎君と残るからさ」
「・・・・え・・・でも・・・」

千鶴を見つめる平助はいつもと変わらない筈なのに、どこか大人びた表情。
あんなに行きたがっていたのに。と言葉が続かないのは、こういう表情をした時、平助はこうする、と決めているのを知っているから。

「オレはさ、そこまで吉野に行きたいって訳じゃないから。大丈夫だって」
「嘘、すっごくはしゃいでて…」
「オレにとって、行く場所はど〜でもいいんだって。肝心なのは行く相手っつうか…」
「・・・・・・?」

言葉尻の口調が何故かもごもごしだして、そっぽ向く平助に千鶴は首を傾げた。
少しの沈黙で、平助が何かを言おうとした時、「雪村君!」と山崎の切羽詰まった声が廊下に響いた。

「雪村君っ!まだこんなところに…急いでください。もう他の御三方は準備出来てますよ」
「・・・・・・・・・・は、はいっ!」

ちなみに平助は…伝えきれずに少しへこんでいるような気もします。

声の方向に目を向けた千鶴はそのまま、目を見開いたまま、返事をした後の言葉が続かない。
山崎のその格好を目にするのは初めてではないが…

「へえ〜千鶴とは似てねえけど、別に違和感ないよな」

千鶴の気持ちを平助が代弁してくれる。
おかしくはないし、気にすんなよ〜と軽く言ってのける平助とは反対に、山崎の声のトーンはどん底に下がった。

「・・・・・・・言わないでください」
「でもさ、その制服どうしたんだよ。も、もしかして千鶴の??」
「え?私のは部屋に…「これは、土方先生から渡されたんです」

土方に制服を渡していたのは誰か、というのは容易に想像がつく。
学園内の厄介事がなくなる、と喜んでいた保健室の主に違いない…
あの先生にはこうなることも、お見通しであったのだろう…と思わざるを得ない何か見えない力を感じる。
山崎は逆らえない山南先生の笑を思い出して、気分を滅入らせてしまった。

「ところで、何かあったのか?」
「・・あ、そうでした。生徒会の近況ですが…ものすごく目立つ移動のようで…向こうの情報が筒抜けなんです。これは…生徒会側の策でしょうか」
「・・・策って言うより、風間が考えなしに動いてんだろ」

きっと天霧や不知火はその隣で苦労しているのだろう。
それより目立つ移動とは一体何なのか…

「それで頃合い的にはもう奈良市内に入っているのでは…と」
「っ!?それを早く言えって!千鶴、今日のうちにオレらがあいつらどうにかするから・・・」
「・・風間さん達を、どうしてそこまで警戒するの?」

千鶴を引っ張って、下に向かおうとする平助に千鶴は精一杯逆らってみた。
平助には何てことない抵抗だけど、それでも足を止めてくれる。

「・・・あのな?風間は〜…千鶴みたいに修学旅行をしたいって訳じゃねえんだよ」
「・・・?そうなの?」
「ああ。何つうか…オレらを困らせたいだけなんだよ、あいつ」

本気で千鶴を嫁にしようと思っていて、旅行中の千鶴を攫おうとしてると・・真実を告げたところで千鶴は信じきれないだろう。
このくらいの物言いの方がいい。

「・・・風間に・・おまえを渡す訳にゃいかねえしな…」
「え?平助君・・何て・・?」
「オレらの旅行、潰されちゃたまんねえし!って言ったんだよ。よし、千鶴!早く土方先生達の所に「了解〜連れて行くよ」

平助の言葉に被せるように、総司の声がかかる。
いつの間に来ていたのか、斎藤までも千鶴の脇に置いていた荷物をすでに抱えて千鶴を促す。

「千鶴、部屋にいないから心配した。支度は?」
「え?あ、これです…」
「では行くぞ。ここで見つかれば山崎のしたことが無意味になる」

斎藤の言葉に、総司は山崎に目を向けて噴き出している。
それほど笑うならいっそ沖田さんが囮になればいい、と思ったところで山崎は首を振った。
想像してはいけなかったと後悔したのだろう。

「・・はい・・・平助君、山崎さん・・あの・・」
「我々のことは気にしなくていい。」
「何か土産、よろしく!!」

二人に慌ただしいながらも、こくっと頷いた途端、「行くよ」「行くぞ」とかかる声。
下に降りれば土方がもう車の傍で立っていた。

「よし、んじゃ行くぞ…千鶴、ナビ頼む」
「はあ?土方さん、そんなもの音声案内で行ってくださいよ、ずうずうしい」
「土方、先生。だろうが!ちゃんとわきまえろ!ったく…」

ブツブツ土方と総司の二人が言い争う間に、斎藤が「千鶴、前へ座れ」と促した。

「で、でもあの・・私ナビはちょっと自信ないかも・・なんですけど・・」

不安そうな千鶴に、斎藤がふっと顔を和らげた。

「吉野までは遠い。後部より助手席の方が寛げる・・先生もそういう意図で仰っしゃられたのだろう。ナビなどは気にしなくていい」
「あ・・そうなんですか」

安心して肩の力を抜く千鶴に「さあ」と一声かけて座らせる斎藤。
言い争いながらも、その光景をしっかりと見聞きしていた二人は…

「・・・・・・土方さん、斎藤君の言ったこと、本当ですか?」
「・・・・・・どういう意味だ・・・それに、土方『先生』だって言ってんだろうが」
「土方、先生。はそこまで考えていなかったんじゃないですか?」

ただ、千鶴ちゃんの横に座りたかっただけじゃないんですか。と疑わしそうな視線が遠慮なく向けられる。
1日目の朝のことを考えると・・総司がそう考えても不思議ではない。

「・・・・・・・んなこたねえよ。俺だっていろいろ考えてんだ」
「その間が語ってますよね。それに声、動揺してますよ」
「うるせえな!てめえはイチイチイチイチ…!!・・・ちっ・・選択間違えたか?」
「今更言っても遅いですよ。ほら、早く運転してくださいよ」
「てめえが遅らせてんだよ!!」



兎にも角にも、四人は風間一行に見つかることなく、ホテルを出発することに成功したのである。


































最初に、山崎さんを誘いに行こう!

…前は学校内だったけど、今は校内でも何でもない。
なのに私の囮になるためにまたあの格好…そんなの…

今はきっと準備中で部屋かな…?
させる訳には、と千鶴は山崎の部屋に向かったのである。

コンコン

・・・・・・・・・・・

部屋をノックすれば返事も何もない。
けれど、何となく…中にはいるような気がするけど…

「あの、山崎さん?私です、雪村ですけど…いらっしゃらないですか?」

・・・・ドタッ

中で何かが倒れたような…

「山崎さん?大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だ。ただ蹉いただけで…」
「・・・あの、ドアを開けてもらっても・・かまいませんか?」

山崎が支度してからでは遅いと思い、千鶴がそう頼んでみると。
少しばかりの間の後、そ〜っとドアが開けられた。
まだ、普段の格好と変わらない山崎を目にして千鶴はほっとする。

けれど…蹉いた原因はあれだろうか。
明らかに女子用と思われる制服が…床に…

「…あ、もしかして着替えようとしていたんでしょうか」
「・・・・・ああ」
「それ、制服は…」
「土方先生に渡されたんだ。以前身につけたものと…同じものだろう…」

何故、持って来ているのか。
そこら辺は渡された時の微妙な顔色に出ていたような気がした。
多分…土方先生も渋々持たされていたのだろう…

『ふふっ学園で久しぶりに羽を伸ばすとしましょうか』

いつも伸ばしているように思える保健医の笑顔が、自然に浮かんでくる…

「山崎さん、着る事ないです」
「そうだな。囮になることに意味はある。君が旅行を楽しめるなら…って…?着る事ない…?」

空耳だろうか、と一瞬考えに更ける山崎に、そうです。と迷うことなく言葉が届く。

「あの…私にはそもそも…何故囮とかまでしなければならないのか…よくわからなくて…」
「…雪村君らしいな」

そこまでする意味を千鶴が理解していたなら、きっと千鶴を巡る恋模様ももっと動いている筈だろう。
驚くほど無垢で、純粋な彼女だからこそ、…今直面している問題がよくわからない。
千鶴の疑問は当然だと思う。

「わからないまま…こんな風に皆さんが動いて。私一人がぼんやりしてるのなんて嫌です」
「雪村君の気持ちは…ありがたく受け取っておく。…俺のことまで気にかけて…君は人のことよりもっと、自分のことを考えた方がいい」

だから、気にせずに…そう言おうとした山崎は言葉が続かなかった。
千鶴が、ぎゅっと手を…自分の手を強く握っているから――

「私は…自分のこと考えてます。山崎さんが思うような…人のことばかり考えているような…いい子じゃないんです」
「・・そ、そんなことは・・・」
「私が、楽しめないんです。山崎さんがこんなことしてまで残って…そんなの、私嬉しくない。だから囮なんていいです」

だから一緒に行こうと、…そう言うように手が握り締められる。

かける言葉が見つからない。
どう答えればいいのか。
決まってる、それでも…行けと…土方先生も待っておられる…なのに…

千鶴の手のぬくもりが嬉しくて、引き留めようとするその握りしめる力が嬉しくて。

「…山崎さん?囮になること、考え直してくれます?」
「それは…「無意味なことです。止めた方がいい」

二人の会話に第三者が割って入る。
この声は…

「天霧さんっもう奈良に…?」
「はい、私は一足先に。まだ風間はここには到着していませんが…」

それでももう間もなく、といったところなのだろう。
ここで見つかってはまるで意味がない。
迷っていた自分に腹が立ちながら、山崎は千鶴をどう土方達の許に連れて行こうか考えを必死に巡らせていた。

そんな中、天霧は千鶴をどうこうするでもなく、ふと二人の手元に視線を落とし、ふむ・・と呟いた。

「・・・今までの様子だと・・誰かが抜きんでているとは感じなかったのですが・・・」
「・・え?」
「・・・・・・・」

千鶴は天霧の言うことがよくわからず、困惑した表情を浮かべているが。
何となくわかった山崎は・・一瞬離そうとした手を、いや・・と握りしめた。
ここで離してはならない。

「いつもなら…見逃そうとも思うのですが…今日はそういう訳にはいかないようですね」

固く繋がれた手に、放って、見逃しておけるレベルではない・・二人がまとまる前に、と天霧が一歩近付く。

・・・逃げ・・切れるのか?

山崎は辺りを見渡し頭の中で策を巡らせる。
時間はない…これでいく―
千鶴を背中の後ろに隠すように自分の腕を引っ張った。

「雪村君、俺が手を離したら・・向こうの階段へと走るんだ」
「・・山崎さんっあの、風間さんも一緒に行動できるようにしたら・・」
「彼は君を・・連れ出してここには戻さないつもりだろう。修学旅行がしたいんじゃない」
「・・・え?」

連れ出す・・?だから・・皆がこうまで必死に・・・?
でもそこまでする理由はどこにあるのだろうか、そんな疑問が千鶴の表情にありありと浮かんでいる。
山崎は空いていた手でブレザーのボタンに手をかけながら、結んだ手をグっと握りこんだ。

「信じてくれ。だからここまで・・しているんだ」
「・・・・山崎さん・・はい」

千鶴が頷くのを確認すると、山崎は合図のように千鶴の手を強く握りしめた直後、千鶴の手を離した。
千鶴がすぐに後方に飜して行く。
天霧が追おうとする前に、山崎は自分の着ていたブレザーを天霧の視界を覆い隠すように投げつけた。
それは簡単に振り払われる。そんなことはわかっているが・・

その一瞬の隙が欲しかった。

山崎は壁に備え付けられていた消火器に手を伸ばし、瞬時にセットすると、天霧に向かって躇うことなく噴射したのである。
ブレザーに視界を隠されていなければ、その動きも簡単に察知され避けられたことだろうが…

・・よし、後は雪村君を追って・・・

くっと漏れる天霧の声を耳に流し、山崎は一転足を飜すとそのまま、千鶴が駆けた方向に向かう。
千鶴には・・・すぐに追いつくことが出来たが、このままでは天霧にも追いつかれる。
山崎はそのまま、千鶴の手を掴み、千鶴を追い抜いて引っ張っていく。

「・・・わっ・・・キャッ・・・っ!・・山崎さん、どこまで・・走るんですか!」
「消火器を使った。すぐに騒ぎになる。ここは土方先生達に任せて、君は原田先生にでも・・いや・・君は・・」
「・・・・私は?」

千鶴はこんな時なのに、どこかゲームのような感覚で楽しい気がする、と思っていた。
不謹慎にも、たまに止まって周りを確認する山崎を見ては、ふふっと顔が緩んでしまう。
階段を駆け下りて、そのまま正面には出ずに裏口を抜けて。
裏の狭い道を進み、塀をよじ登る。


よじ登った塀を降りようとして、千鶴は一瞬怯んでしまった。
意外に…高い…
躊躇する千鶴に、山崎は手を伸ばして千鶴を抱えると・・下ろすと同時に自分の肩に千鶴を乗せて、そのまま背中を包みこんだ。

こうして、千鶴が自分の腕の中にいることが信じられない、けれど・・・

夢じゃない――

「君は・・俺が守る。」
「・・・・・はいっ」

お互い、抱えて、抱えられて・・赤くなった表情を見る事はできないけれど。
そのままずっと、時が止まったかのように動かずに相手の背中を包みあい。

そんな状態に漸く気が付いて、恥ずかしがりながら・・千鶴の足が地について、視線を交わした時。

二人の繞う空気にはきっと、誰も入り込めない密なもの―







END








「・・・・・・・風紀委員。あれ取り締まってよ。大体…千鶴ちゃんの警護とかぬかしてたやつが何しちゃってんの?」
「俺は言われた通り・・千鶴君を守ったつもりです」
「うわっ!山崎君何いきなり千鶴君とか名前で呼んでんだよ!?つうかさ、ED迎えた本人がここに出て来んなよ!!」
「山崎・・あの後、廊下の後始末をしたのは誰だと思っている・・土方先生にまでご迷惑を・・・今後の警護からは外してもらうように依願書を提出しておこう」
「・・なっ!そ、そんなことを言われても・・・その件は申し訳ないですが・・千鶴君の傍からは離れませんので」

「あああ〜無理、もう無理!!僕も早くこうやって自慢したいよ…後どれだけコメントさせる気?」
「同感だな…千鶴…早く俺のところに…」
「・・・・・・そろそろ〜・・オレでもいいと思うんだけどな」

「天霧…貴様・・・我が妻を見失うとはどういうことだ」
「申し訳ございません・・ですが、発見時にはすでに手を・・・」
「手くらい誰でも握るんじゃねえの?大体・・天霧一人先行させることになった事態を作ったのは誰だと思ってんだよ」
「不知火、貴様か」
「んな訳あるか!!過剰に装飾した自家用車なんて乗りやがって!おまけにそのせいで故障したら世話ねえわ!」




はい。another EDです。
山崎さんEDです。
今回、平助君もEDになるんじゃ・・?と思われた方・・まだですよ(笑)
いつもよりコメント・・多いですね。
このコメント・・楽しいんですよ(←)
早く教師陣のコメントも書きたい…!

ええと後…土方さん、左之さん、平助君、風間さん、沖田さん、斎藤さん…あとBADも(←)ですね!
本命の人のED見るまで…読んでくださると嬉しいです。