Everything ties




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「「問題ありません(よ)」」

風間がこちらへ向かっている、そのことを土方が簡単に告げた後。
ええっ!?と驚く平助、何故あの人がうちの会長なのだろう…?と目を伏せる山崎を余所に。
総司と斎藤は千鶴を挟むように立ち、土方にはっきりと迷うことなく返事をした。

「・・・問題ない?お前ら、本気で言ってんのか?問題だらけだろうが」

何を根拠にそう言い放つのかわからない。
生徒の立場だからだろうか?
何か面倒が起こっても…具体的には器物破損や、千鶴誘拐などだろうが…責任は彼らにはない。
責任ある立場だからこそ、色々考えてしまう自分に、何を迷うのか?と問うような真っ直ぐな視線が向けられる。

「そうですよね。風間さんが問題なら…私だって問題ですし」
「いや、千鶴。そうじゃねえ…根本的に目的が違うからな」
「・・?修学旅行じゃないんですか?」

きっと、自分のように学年が違うのに参加しようとしたのが…問題なのだろう、と。
一人違う思考の千鶴に、総司と斎藤は合わせるように言葉を続ける。

「まあ…(君と)一緒に旅行したいってとこだろうね」
「ああ。それ以上でもそれ以下でもない。俺達は変わらずこの旅行を楽しめばいい」
「そうですよね。それなら風間さんも一緒に・・ですか?」
「いや、それはもう僕らの班はいっぱいだから無理だよね、斎藤君」
「そうだな。遠慮させてもらおう」

優しい千鶴はここではっきり否定しておかないと、本当に遭遇した時に一緒に…と言い出しかねない。
そこは感じているのか、笑顔で千鶴の言葉を流す二人。

イマイチわかっていない千鶴に、土方は、こいつがこんなに鈍くちゃ問題あんだろうが、と改めて総司と斎藤に目を向けたのだが…
そんな土方の視線に気がつくと、総司は、はあ、と溜息を吐いた。

「相変わらず心配性ですよね。大丈夫ですよ、大事な所を押さえておけば済む話ですから」
「大事な所って…お前…」

千鶴を奪取されなければ、いいと…言うのは簡単だろう。
風間の執着度合いを見誤っているのではないだろうか?

そのことに振り回されて、行動を制限される方が問題かと思います。むざむざ渡すようなことはしません。信用してくださると…」

口を止めた土方に、斎藤が総司に同感するように言葉を連ねる。

総司と斎藤にとって、下手な邪魔をされることを危惧して、千鶴が旅行を楽しむことができなくなることの方が問題だということらしい。
確かにそれはそうだ。
わかってはいる。けど、だが…いくつもの否定の言葉が頭に浮かんだが、土方は言葉にすることなく飲み込んだ。

膠着状態の三人に、このままでは話が進まないと思ったのか、顔を曇らせている土方に山崎が切り出した。

「ところで、土方先生。先生はどうなさるおつもりだったのでしょうか?自分はその考えに従うことに異存ありませんが…」
「ん〜まあ、そうだよなあ。風間達と会うことになったりしたら…ゆっくり出来そうにないもんなあ。オレも聞いときたい!」

むしろ町をブラブラするより、面白そうならオレはそっちがいい!と言わんばかりに、
尻尾があるなら振り振りさせそうなにこやかな顔で平助も土方に詰め寄ってくる。
総司や斎藤は乗り気ではないようだけど、土方にしたらこのまま放っておくのは、胃が痛くなるだけである。
どう転ぶかはわからないが、取り敢えず自分の考えを、と千鶴に誘いかけるように声を和らげた。

「吉野にでもな。連れ出そうと思ったんだがな」
「吉野?吉野ってどこだっけ」
「…たまには自分で調べて覚えてください、藤堂さん」
「吉野って…私も場所は詳しくはわからないけど・・・桜で有名な所だよ、平助君!」

パっと千鶴の顔が期待に満ちた色に染まっていくが…

「・・・千鶴ちゃん。今は桜はもう咲いてないと思うよ?」
「・・・・・・わ、わかってます。」

総司の言葉に、明らかにはっと気まずそうにする千鶴に、皆がくすっと笑みを漏らして。
どんな時でも千鶴の態度一つで空気が柔らかくなる。

「・・・まあ、でも桜だけじゃねえよ。今は・・・紫陽花が咲いてるはずだ。あれも結構いいもんだと思うが」
「紫陽花・・わあっ見たいです!」

きっと千鶴ならそう答えてくれる、そう思った通りに言葉を返してくれる千鶴。
風間が来る、そんな事態でもなければ・・・教師としても、一個人としても、こんなことは言えなかった。
土方はこの時初めて、ほんの少しだけ風間に感謝したかもしれない。

そんな千鶴の様子に、千鶴がそれを望むのならば・・と総司と斎藤も吉野行きには乗る気になったようで。

「しかし・・土方先生。吉野は遠いのでは・・?我々だけがそう遠出して構わないのでしょうか?」
「一君は頭固いよな〜大丈夫だって!!土方さんの意見なんだからさ!」
「そうだね、旅行の責任者ですしね。何があっても土方先生が責任取ってくれるんですよね」

総司の言い回しに、土方は思わず一瞬ムっと顔を顰めるも・・何とか耐えて、ああ、とだけ返事すると、ついでのように言葉を付け足した。

「俺が連れて行くんだ。問題あれば俺が責任持つ…文句はないな?遠いし、早めに支度頼む」
「……?ちょっと待ってくださいよ。その言い方…土方先生も一緒に行くつもりですか?」

先生と行動なんて冗談じゃない、と総司が顔を歪めるのを全くものともせずに、そうだ、と言い放つ土方。

「大体、吉野に行く為の金なんざ学校からは出ねえし。俺が連れて行くしかねえだろ?」
「でも…それだとこの人数分でかなりの金額に…」

そんなことさせる訳には…と千鶴が頭の中で、お小遣いいくら持って来てたかな?と考えていると…

「レンタカーで行く。お前はそんな心配しなくていい」
「マジ!?やった!!ドライブじゃん〜!!千鶴、楽しみだな!!」
「うんっ!」

キャッキャッとはしゃぐ二人。
そんな二人を見ながら、どうやら二日目は吉野で決定したようだ。それではこれから…と頭の中で考えていた山崎の肩に、土方の手がぽん、と乗った。
こういう時、何か頼まれる…それは自分にとって喜ばしいことだが…とても嫌な予感がした。

「・・・山崎。んで申し訳ないんだが…あいつら…生徒会の目くらましを頼む」
「・・・め、目くらまし・・・とは?」

頭の中で聞き返しては駄目だ!と警鐘が鳴ったのに…土方の懇願するような視線に負けてしまった。

「お前、前に千鶴の真似して撹乱させたことあっただろう?それを…」
「それを奈良でしろ、と…?」

私の真似?と千鶴が首を傾げている中、山崎の背後で笑いを堪えて震えてる総司の気配が、余計に気分をイライラさせる。

「ああ。背格好似てたから大丈夫だろ」

・・・・・・・大丈夫ではないです!!何故俺が!!!!!

土方でなければ・・・言えたのだろうか・・・・・・

「でも土方先生、偽とは言え・・千鶴ちゃんが一人で行動するのは不自然ですよ。誰かもう一人くらいつけないと…」

総司は…明らかに誰かを遠ざけて吉野に行きたいようです。
総司の目は『犠牲になるもう一人』を土方に誘導するようにか、斎藤に向けられていますが…

「そうだな、二人で行動してた方が・・・あいつらも慌てる・・か・・じゃあ…斎藤頼まれてくれるか」

斎藤の名前が出た途端に、総司はにんまり笑顔になったのですが。
斎藤はうろたえることなど全くなく…

「土方先生のご命令ならば…」
「そうか、じゃあ頼「ですが、俺にはすでにもう一つの大事なことを引き受けています。それを置いて・・この件は引き受けかねます」

そう言うと、大事なことはこれだ、とばかりに千鶴に目を向ける。
じっと見つめられた千鶴は、事の展開についていけてないのか、戸惑った様子だったのだが…斎藤のその真摯な眼差しから目を逸らせずに。
自然に斎藤と同じように見つめ返したのだったが…突然目が合ったことに斎藤が動揺して目を逸らして、千鶴はあれ?と首を捻る。

斎藤を除く全員が、面白くありません。

「千鶴ちゃんの警護って言いたいなら、これもその一環でしょう?大人しく山崎君と頑張ったら?」
「千鶴を守る、と決めたのに・・俺達二人が千鶴の傍を離れるなど本末転倒だ。どちらか一人は傍にいなければ…」

そして、もう一度土方に顔をしっかりと向けると斎藤は言い切った。

「俺は千鶴と共に」

ずるいです、斎藤さん!!と山崎の心の泣き叫びなど、今の斎藤には届くはずもなかった。

「・・・わ、わかった・・じゃあもう一人は・・・」

斎藤の気迫に押されるように頷いた土方は、どうしようかと総司と平助に目を向ける。
斎藤に決まるとばかり思っていた二人は冗談じゃない、と内心焦り出していた。

・・・・平助を連れて行く方が…平和か?

思えば、問題を起こすのは総司も同レベル…そう思った土方は総司に目を向けて口を開いた。
その瞬間、安心した平助…だが、総司の方が一枚上手だった。

「千鶴ちゃんと一緒にいて、納得できるのは平助だよね。幼馴染だし、何かにつけて話が弾んで見せつけてくれるし、千鶴ちゃんも平助には気を許してるところあるし」
「な、何急に!!」
「それに僕とだと…二人でのんびり歩く筈ないって思われそうですよ…ほら、他の者が黙ってないって気がしません?」

自分で言っていて悲しくなることばかり。
言ったことは全部真実だと思う。だけどめげない。もっと近い居場所に僕がなるんだし、と自分を言い聞かせて。
こんな時くらい、幼馴染という立場で犠牲になってしまえ、と総司は黒い笑みを前面に押し出した。

「だから、平助だよ」
「ふざけんなよ!!こんな時ばっかり…総司てめえ〜!!」

二人で押し付けあう様子を見ながら。土方はその光景に山崎と総司を重ねてしまった。
…そういや、総司と山崎二人にしたら…囮にもならねえかもしれねえな…険悪になりそうな気も…
そんなことを考えた時点で土方の気持ちは固まった。

「んじゃ・・山崎、平助。頼むな」
「お、オレかよ〜〜〜!!!!???」
「・・・・・・藤堂さん、その気持ち、…すごくわかります」

落ち込む二人は置いて、一方吉野同行組二人。

「…総司は本当に口が回るな…平助も気の毒に…」
「あれ?もとはと言えば斎藤君が大人しく残らないから・・・だよね?僕が同行で何か不都合でも?」
「不都合だらけだ」
「へえ…気が合うね。僕もだよ」

こちら二人は争いが熾烈化しそうな予感。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「どうした、千鶴」

ぼうっとした千鶴の頭に、土方の手が優しく置かれた。

「あ、…何かあっという間に事が決まっちゃって…ちょっとぼうっと…」

平助や山崎は一緒には行かずに、ここで囮がどうとか…
そんなことを耳にしてしまうと、いいのだろうか?という思いがどうしても離れない。
つい、俯きがちになる千鶴の、そんな気持ちを知っているのか…

「してんな。だから声かけたんだよ」

車の中で寝るなよ?と。
俯いた顔をあげさせられるように、おでこを弾かれて。

千鶴は遠慮がちにだけど、笑顔を浮かべた。









続く