Everything ties




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「・・・?今、何時?」

いつもなら携帯のアラームが目を覚ませてくれるのに、今日はまだ鳴っていないのだろうか?
それにしてよく寝た気が…

千鶴はもぞもぞと頭だけ動かして、ベッドのすぐ脇にあるホテルの時計に目を向ければ。

「・・・・・・・・・!!!7時前!!そんな!もう…朝食…!!」

慌てて跳ね起きた千鶴はそのまま急いで身支度をして、食堂へと走った。
最低限の身なりはそれでも、整えられた筈、だった。

「おはようございます!すみません・・遅れました!!」
「おお、寝坊か」

食堂の入口付近に立っていた土方は千鶴を待っていたのだろうか。
千鶴を通すとそのまま、後ろをついて来る。

「…はい、寝坊・・です。こんなことあんまりないんですよ?普段はもっと…」
「寝坊くらいでそんなに慌てるこたあねえよ」

必死で言い訳しようとする千鶴に、思わず笑みを浮かべて。
珍しく結わえられていない髪に指を添える。

「今朝は髪を下ろしたのかと思ったが…寝坊のせいだな。ここ、はねてるぞ」
「え?・・・・・・あ、・・もう梳くだけで精一杯だったので」

後でちゃんと直します、と恥ずかしそうにはねた個所を押さえる千鶴を見て、土方は「そのままでもいい」と言おうとしたのだが。
すぐに眉を寄せた。原因は…

「・・・朝っぱらから鬱陶しいオーラ放ってるやがる・・」
「??」
「千鶴ちゃんおはよう〜」

鬱陶しいラブオーラを放っていたらしい総司が、千鶴の姿をようやく見つけ駆け寄ってきました。

「・・・・今日は髪、下ろしてるんだね。僕はそれ、すっごくいいと思うよ」
「あ、これは…寝坊して時間が…それにはねてて…」

ほら、見てください。と千鶴が押さえこんでいた手をのければ、ぴょこん、と一筋の髪だけが重力に逆らって弧を描いた。

「いいんじゃない?何だかお揃いみたいだよ…ほら、僕のもここに」
「よくないです。沖田さんのは…はねさせているんですよね?私のは寝癖で。しかもほら、こんな中途半端に…これじゃ…」
「だから、それが…」

総司は言いかけた言葉をぐっと飲み込むと、しばし押し黙って。
ひょいっと跳ねた髪だけをすっと掬って、ゆっくりと千鶴を覗きこんだ。

「ね、僕の言葉を否定して…何て言って欲しいの?」

楽しそうに笑う。そんな総司の言葉の意味を掴みかねて、え?え?と髪を捉われたまま、どうすることも出来ずに顔を赤くしていると…

「・・・総司〜待たせんなよ〜!!腹減ったんだって!!」
「・・・・平助、今のタイミング絶対わざとだよね?」
「べ、別に…そんなんじゃ…千鶴、飯!飯食おう!今朝はご飯なんだよな〜朝からボリュームあるし!食うぞ!」

明らかに何かをごまかすように、ははは、とから笑いしながら拳を突き上げる平助に、千鶴も小さく拳を作ってあげる。

「うん、食べよう!」
「席、あっちな」
「・・・平助、そんなんだといつまで経っても抜け出せないからね?わかってるの」
「う、うるさいっ!オレにはオレのペースが!!」
「何の話?」

ようやく、3人席に着くところまでを見守った土方は(途中、かなり我慢していたそうです)、適当に近くにあった椅子を乱暴に引いて座る。
黙っていてもわかる、不機嫌なオーラが周囲から人を遠ざけていく中(近くの生徒も離れた場所に移動つつある)、
総司の暴走にどうして何も口を挟まなかったのか、そこらへんの事情を知っているのか、不機嫌そうな土方に左之が頬をかきながら寄って来た。

「・・・おーおー…また今朝も不機嫌か?全く飽きもせずにカリカリと…」
「うるせえな!今朝は…別に怒っちゃいねえだろうが」
「それは怒ってないのか…?俺は別に無理するこたねえと思うがな。…つうか、その態度、俺の言ったことが的を得てるってことじゃねえか」
「・・・・・・・違う」

土方にしては珍しく、歯切れの悪いいい方。
けれど、譲れないものがあるのか、違う、とそれだけを言い放つ土方に左之はそれ以上の追及を止めた。

「・・・ま、そう言い張るなら・・・それでも構わねえけどよ」

・・どうやら、1日目の夜に、教師陣の中で何かがあった模様ですが…??


「土方先生。異常なしです」
「健康チェックも各班完了です。あとは雪村君だけですが…」

皆が食事を取る中、斎藤と山崎はまだ食べていなかったようで。
率先して皆が嫌がる仕事を引き受けるせいなのでもあるが…土方の役に立つことは二人には喜ばしいことなので仕方ない。

「・・・お〜ご苦労さんだったな。お前らも早く飯食え」
「はい」「では雪村君のチェックは食後にしておきますので…」

土方の言葉に頷きながら二人は目下、ご飯の確保、よりも…誰かを探すように食堂に視線を巡らせた。
だけど、それはすぐに固定された。

こんなに大勢の人の中、女子は一人とは言え、さすがの早さである。

「では、失礼します」

土方の許を去ろうとした二人に、土方はあ〜ちょっと待て、と呼びかけて。
振り向いた二人に、ちょっとした確認ついでに言葉を向けた。

「お前ら、今日の自由行動…何すんだ?」
「今日は…特に。奈良の町を散策しようかと…雰囲気のある家並みもあるようですし」
「それに、昨日巡りきれなかった場所もありますしね」

何とも適当な計画だけど。
生徒の足だけではそう遠出はできない。
それなら、近場で・・・楽しむべきだとの班全員の合意で決められたものだった。

土方はそうか、と頷いて。

この時、旅行は計画通りになると思われた、が。
2日目の旅行は、全く違ったものに変わることになる。


斎藤と山崎が千鶴の許へと向かい…土方と左之と、残された二人に再び何とも言えない空気が漏れだした頃。
そんな空気など知ったことかとばかりに、新八がもごもご、口を食べ物でいっぱいにしながら二人の許に向かって来た。

「何だ新八、食いながらうろうろすんじゃねえよ」
「もがもがもが〜!!(俺だって好きでそうしてんじゃねえ〜!!)もごほがもがもが!?(つか土方さん大変だぜ!?)」
「・・・歩くか、食うか、話すか。どれかにしろ…で何があった?」
「・・・もぐもがもがほが〜…(…通じんならこれでいいじゃねえか〜…)」

新八の最後の言葉の意味まで知られたのか、土方はピシっと口を歪めて固まった後、新八の頭と顎を押さえつけて無理やり咀嚼させようとする。
もがががが〜!!(悪かったよ〜〜!!)と叫ぶ新八に、左之は本当に馬鹿だな、と頬杖つきながらのんびり見守っていたそうな。

「・・・で?」
「ああ、うちの生徒会長が何でもこっち向かってるってよ…生徒会長って誰だっけなあ」
「・・・・・・・・・ば、馬鹿か新八!おまえそれもっと早く言えよ!・・・ぁあ〜…面倒なことになりそうだな」

これ以上、厄介の火種どころか、爆弾抱えてきそうな男に、左之は眉間を押さえこんだ。

「つか、何で来るんだ?旅行目当て・・「な訳ねえだろうが!あいつの単細胞な頭にはな、単純な答えしかないんだよ!!」

嫁嫁うるさい馬鹿が、この機会を逃がす筈はないのだ。
土方はチっと舌打ちを漏らした後、躊躇なく立ち上がり千鶴の許に向かった。

奈良の町をのんびり歩いてなどいたら・・・間違いなく鉢合わせになるだろう。
認めたくはないが、嫁嫁言うだけあって、千鶴を感知して発見するのはお手の物。そんな感じも見受けられる。
それは避けたい。

千鶴の許へ辿り着けば…

「では脈を…」
「ちょっと待ってよ、僕らには脈なんか測ってないよね?何で千鶴ちゃんだけ」
「雪村君は女子一人、という特殊な状況下です。特別に配慮するのは当然のことかと…」
「本当にそれだけかなあ…とか言いながら、脈を測る側の山崎君の方が異常に早くなってそうだけど…」
「そ、そんな筈は!!」
「・・あ、千鶴ちゃん問題ないね。脈普通。はい、じゃそう書いといて」
「・・・・沖田さんの今の計測の仕方には問題がありすぎます。ここは俺がしっかりと…」

総司と山崎はまたやり合って…
確かに健康チェックは大事だが、こんなことで朝から揉めていては話が進まない。
一言物言いそうになった土方だが、その前に…

「今日は髪を下ろすのだな・・」
「あ、違うんです。寝癖つけたままでしょう?ね、寝坊しちゃって…」
「なんだよ千鶴、オレのこと言えないじゃん!よし!明日からオレが起こしてやるよ!」
「・・・寝ぼすけが千鶴を起こすなど、無理なことを軽々しく言うものではない」
「・・・別に無理じゃないって!千鶴起こすってんなら・・・」
「俺が起こそう。どうせ・・朝早くにはもう見回りで動いている」


・・・見回り??斎藤の奴何の見回りしてるんだ?
班の…いや、そんな仕事ねえよな?風紀委員の…いや、でもそういうのは教師の仕事であって、生徒にはさせていない。
真面目な斎藤だからやましいことではないのだろう、とは思うものの…

「千鶴、髪の寝癖に話を戻すが、…その程度なら、気にすることはない」
「・・・斎藤さんも、下ろした方がいいですか?」
「どちらでも、千鶴なら」
「・・・・・・・」

斎藤はたまに、こういうことをするんだな・・・千鶴のあの反応・・・ってことは・・・

土方がチラっと残り三人に目を向ければ、予想通りの顔を揃えて、今まで以上の言い争いの気配が一気に漂ってくる。
そうなると面倒だとばかりに、ようやく声をかけた。
というか、教師が後ろで会話を聞いているのに、気付かないのはどうなのだ(一人は気付いても敢えて無視を決め込みそうだが)

「お前らに話がある」

唐突に切り込まれた言葉に、5人が一斉に振り向いて。

雪村千鶴含む5人の班行動は、大幅に変えられることとなった。







続く