Everything ties




10




食事も終わり、千鶴は一人になって。
部屋の静けさに居心地が悪くなり、見たいテレビもないけれど、パチっとテレビをつけた。
無音の部屋に、急にいろんなサウンドや笑い声が響く。

静かじゃなくなったことで、少しだけ落ち着くなんて変なのかも知れない。
家にいた頃は静かな家で、薫とも会話がない時でもこんな風には思わなかったのに…

そう思いながら千鶴は1日目を振り返って、あれだけ賑やかだったからかな、と口元を緩めた。
早く朝になればいいのに、と思いながらお風呂に入っていったのだった。

「ふぅ…疲れ、たのかな?」

楽しかった分、たくさん動いてやっぱり体に疲れは出ているようで。
お風呂を上がった途端、緩やかに眠気が襲ってくる。

「・・・今頃、みんな何してるかな?」

他の人は皆、2人部屋だったり3人部屋だったり。
きっと、今日あった出来事とか、明日の事とか、まだ寝ずに話しているのだろう。

「さみしくなったら・・・先生が・・って言ってくれてたっけ・・・」

そうは言っても本当に相手してもらおうなんて、そんな無理は思っていない。
だけど、寝る前に誰かにおやすみなさい、くらい伝えられたらいいな、と思った。

「・・外、出たら誰かいるかな?あんまりうろつくのはまずいけど…」

そう思い立ったら、絶えず音を生み出していたテレビを消して、千鶴は簡単に身なりを整えて。
ドアの外の様子を覗うために、そろ~っと・・顔だけ出してみる。
修学旅行生など本当にこのホテルにいるのだろうか?と思われるくらい・・・静かで。

「・・・誰もいない。先生はまだ・・お仕事かも・・・どうしよう」


やっぱり部屋に戻ろう。

喉も渇いたし、何か買いに…


































やっぱり部屋に戻ろう。

あれだけ先生達が気を回してくれているのに、当の本人がうろついちゃダメだよね。

千鶴はそのままドアを閉めて部屋に戻ると、またテレビをつけた。
寝ようにも、あまりにシン…としていて眠れないのである。
テレビをつけて、適当に耳に入る音を聞きながら、うつらうつらしかけた時。

チャララ~チャララ~♪

メールの受信音がすぐ耳元で響き、慌てて跳ね起きた。

・・・あっ薫にメールしてない!薫かな・・

受信履歴を見れば…メールをくれたのは。

『千鶴ちゃんもう寝た?起こしちゃったならゴメンね。もしよかったら・・・ちょっとドアの外出てくれないかな?』

「沖田さんからだ。ドアの外?・・・何かあったのかな?」

千鶴は眠りかけてた目を擦りながら、先ほどと同じように少しだけドアを開けて、顔だけを外に出して廊下の先を見渡してみた。
総司の姿を目にした途端、エレベーター乗り場付近から、足音も立てずに駆け寄ってくる――

「見~つけた」
「・・・どうしてこの階がわかったんですか?」
「ああ、土方さんにね。ちょっとね教えてもらって…」

そうなんですか、と土方が教えたのなら・・と簡単に頷く千鶴に、総司は少しだけ視線を逸らした。
真実はそんなにあっさりした話ではない。

「あの、それで・・どうしたんですか?何か・・・あっ班の集まりでも?」
「ん?そんなのないけど・・・ど~しても千鶴ちゃんに見せたいものがあって・・・」

これなんだけど、とデジカメを構える総司に、千鶴も何だろう?と思い、デジカメを覗きこもうとした。
その時、総司の髪からぽたっと落ちる雫に気がついた。

「・・・沖田さん、お風呂さっき入ったんですか?」
「うん。ちょっとこれいじってたら遅くなって・・千鶴ちゃんが寝る前に・・と思って急いでたから・・」
「あの、中に入ってください。タオル…」
「・・・いいの?中に入って・・・」

簡単に部屋の中に入れようとする千鶴には、総司も少し戸惑うほどだった。

「はい、だって風邪をひいたらいけないし・・」

男一人だけを中に入れるのに、危機感も何もない千鶴。

・・・僕はこの子が大好きな訳だし、変な気が全くないって言ったら嘘になるけど・・・今は、多分・・我慢するけど・・・これ、問題だよね・・うん、大アリだ・・・

あっさり入れた部屋に、総司が口を歪ませる。
土方にキツく言われているだろうから、適当にどこか二人になれそうなところで・・と思ってはいたのだけど、まさか部屋に入れるとは。
嬉しいけれど、それは・・・他の者にもそういう機会がある、ということだ。

「・・・・・・・決めた、決めた、決~めた」
「?何を決めたんですか?」
「ん?明日からの夜の予定」

にっこり笑を浮かべる総司に、千鶴も?を頭に浮かべつつも、にっこり笑顔を返した。

タオルを取りだした千鶴は、触れるか触れないかくらいの力加減で、そっと水滴を含ませていく。
タオルからは何となく、千鶴のような甘いにおいがほんのりするような気がして。
髪を優しく拭いてくれる指が、とても気持ちいい――

「・・・・・・いいなあ、こういうの」
「?沖田さん、ところで・・カメラがどうしたんですか?」
「ん?カメラ・・ああ、これこれ・・・これ見て?」

自分の髪をまだ優しく拭う千鶴に見せるようにカメラを掲げる。
覗きこんだ千鶴と、すごく顔の距離が近付いたことに気が付いて。
一瞬、こんなことでカメラを持つ手が揺れた。

「あっ!これ・・・県庁前での!!すごい!ちゃんとあのキャラクターと一緒に写真撮っているみたいです!」

写真に夢中になる千鶴には、総司のそんな動揺には全く気が付いていなくて。
その温度差が、やっぱり少し、いや、かなり寂しい。

「・・・うん、他にもこっそりいっぱい撮ってるよ、どれも可愛く写ってるよ」
「・・・か、可愛いくはないですけど・・・でも本当にたくさん・・カメラマンさんみたい」

零れる笑をそのままに、画面にじっと見入る千鶴に、総司はそれでね、と声をかけた。

「僕がカメラマン、ということは…どういうことでしょう」
「・・・・・・沖田さんの写真がないってことでしょうか」

というか、よくよく見てみれば、自分一人が写っていることが多い気がする・・・

「僕のはどうでもいいんだけど、君との写真が欲しいなってことで・・・・はい、そのままね」
「・・・・・え?い、今写真撮るんですか!?でも私あのこんな格好・・・」
「それがいいの。制服じゃない・・・お風呂上がりの千鶴ちゃん。撮れるのなんて僕だけだし、だから・・・はい、カメラ見てね」
「・・・・え、は、はいっ」

変な顔をしないように、なるたけ自然に自然に…と笑顔を作ろうとする千鶴の姿に、総司が小さく笑った。

「いつも通りでいいんだよ」
「だって・・・そう言われても・・・」
「・・・・・はい、撮れたよ」
「えっ!?もう!?・・そうですか・・あの、一応見せて・・」

カシャッ

千鶴がほっとしたのか油断して、いつも通りの表情になったところで、シャッター音が・・・

「・・・・・・沖田さん・・・」
「だってすごく顔がこわばってたから」
「仕方ないんですっ!・・・うう・・・それ消して・・「消すわけないでしょう。僕は・・千鶴ちゃんと、二人で撮れて嬉しいのに」

何気なく、本音を込めて告げた言葉だった。
いつもみたいに、さらっとは言えなかった。
けれど千鶴は…

「・・私も、沖田さんと撮れて嬉しいですよ」

はにかみながら言う千鶴は可愛くて。
だけど、自分みたいに緊張してない。
好きが違うからこその、この態度なのだと実感して。

傍にいるのに、心が遠い――

「・・・千鶴ちゃん、覚悟しててね」
「何をですか?」
「そういう言葉、簡単に言えなくするから・・きっと、するから」
「・・・・・・・??」

1日目の夜は鈍感で僕を困らせる君に、宣言しよう。






続く








































喉も渇いたし、何か買いに…

「ホテルの外に出なければ大丈夫だよね、うん。」

それに誰かに会えるかも知れない、と千鶴は部屋に戻り、財布や携帯などを一応手にとってから部屋を出る。

部屋を知られるのは駄目だけど、偶然会えたなら…それは大丈夫だよね?

そう思いつつ、音を立てない程度に小走りをして、エレベーターの前で立ち止まった。
今のフロアは・・と目にすれば、1階から上りのエレベータが上がってくるのを見て、ふと考えた。

・・・・この階っていうのも秘密なのかな?土方先生はわざわざ変えたみたいだし・・・

それなら、エレベーターは止めた方がいいのかも知れない。
生徒が誤って上がってきて、ということもあるかもしれないし…

「ううん…どうしよう…」

階段で行こう!

まあ、このままでいいかな?気にしすぎかも。



































階段で行こう!

念には念を…階段で下りてみようかな。

売店までささっと行って帰れば問題ないだろう、と千鶴が突き当たりの階段へと足を伸ばした。
普通に歩けば、タンタン、と足音が響いたので、少し押さえ目に歩いて下りていると・・

不意に下から、「何をしている?」と足音と同じように押さえられた声が届く。

「え・・・あ、斎藤さん」
「千鶴、階段でどうした?何かあったのか?」

部屋は知らないが、千鶴はもっと上の階の筈で。
見たところ携帯や財布も持っているから売店にでも向かうつもりなのだろう、とは思うものの…

わざわざエレベーターではなく、階段を利用する点が気にかかる。
それに・・・・・・・・・・斎藤は視線をゆっくり逸らした。

「いえ、何も・・・ただ、喉が渇いたなあって・・・飲み物でも、と思ったんです」
「・・・何故、階段で?」

千鶴に問いかけながら、斎藤は背中を向け、周囲を警戒するように見渡している。

「あ・・・先生が、その・・部屋を秘密に、と言っていたので、エレベーターで誰かに会うのは・・どうかなと思って・・」
「・・だが、階段で誰かに会うこともあるだろう」

咎めるような声に、千鶴は思わずすみません、と下を向く。
やっぱり軽率だったのかな、と、依然背中を向けたままの斎藤に、「あの、じゃあ戻りますね」とだけ声をかけた。

戻りかけた千鶴の背中に、「千鶴」と今度は打って変わって優しい声が届く。

「・・喉が渇いたのだろう?何か俺が買って来よう。ここで待っていてくれるか?」
「え、それなら私が自分で行きます。頼むようなことじゃ…」

慌てて振り向けば、斎藤が一度目を合わせた後、困ったように視線を横に逸らす。

「いや・・その格好で歩くのはどうか、と思うのだが・・・」
「・・・変、ですか?でも部屋着を着ている訳じゃないし・・・体育の時も似たような格好ですけど・・」

修学旅行って…夜、こんな格好しないですか?と尋ね返せば、ああ、格好は・・・だが、そうじゃない、と何だかはっきりしない。

「・・・?ええと、髪がボサボサですか?」
「そうじゃない。綺麗だと思う。・・・・いや、・・・湯上りだとわかるから・・・」
「・・・・・・・斎藤さんも、そうですよね?わかりますけど・・・」

わからない。何が問題なのだろうか。
首を捻る千鶴に、斎藤は周囲を用心深く探りながら、コホンと間を置いて。

「とにかく、俺が行く・・・何がいい?」

有無を言わせないような雰囲気だった。
千鶴はまだ疑問に思いながらも・・それじゃあ・・柑橘系のものを・・と伝えながらお金を斎藤に手渡した。

斎藤はその場を離れる前に、もう一度周りを見渡した後、千鶴にその陰にでも隠れて待っておけ、とそう伝えると、静かに階段を駆け下りてしまった。

・・・何をあんなに用心してるんだろう?
生徒の抜け出しチェック、とかかな・・・そっか、斎藤さん風紀委員だし・・・夜も忙しいのかも・・・

毎日続けるのかな、大変そう…

そんなことを考えていると、斎藤が手にジュースを持って階段を掛けあがってきた。
千鶴の正面に立った時には、さすがに息があがっていて。

「・・・あ、ありがとうございます・・そんなに急がなくても…大丈夫ですか?」
「ああ、・・何か問題は・・?」
「問題?いえ、ないです・・・あの、そんなに問題が起きそうなんですか?何かあったんでしょうか?」

千鶴がジュースを受け取りながら、斎藤の顔を心配そうに見上げた。

「・・・いや、特に何かがあった訳ではない…いや、あったのか?千鶴がここにいることが既に想定外で・・・」
「・・・あ、私の・・せい・・なんですか?」
「違う。どちらかと言えば・・・おまえに近づこうとする輩を見張・・いや、・・ホテルを抜け出そうとする生徒を見張っている」

これは委員の任務ではなく、斎藤が勝手にしていることで。
総司や平助など、特にこういう抜け道を見ておかなければ・・・千鶴の許へ向かおうとするだろう。
それの見張り、とはさすがに言いにくく、生徒の見張り、とえらく範囲を拡大して話してしまった。

そんな斎藤に、千鶴が先ほど受け取ったジュースをおずおずと差し出した。

「・・・・・・?何だ?」
「いえ、私より斎藤さんの方が息も切らしているし。…その、ちょっと…とにかく…斎藤さんお疲れ様です。ということで」

買って来てもらったものを渡すのはどうかとも思うけど。
でも、今渡せるものはこれしかなくて…それに自分が買いに行くのは止められるから、と。
どうぞ、と渡そうとする千鶴に、斎藤はそれをやんわりと押し返した。

「いや・・それは千鶴の分だ・・気を遣わなくてもいい。部屋に戻ってゆっくり休め。送って・・・いや・・」

部屋を知るのはまずいのだろうか?
けれど、千鶴を一人で部屋に戻すのはいささか不安だ、という気持ちにかられて、言葉を濁す斎藤に、

「あの・・私お手伝い出来る事があれば…します!」
「・・・・・・手伝い?いや、それは・・・」

千鶴の為の見張りなのに、自分が傍に置いていては何の意味もない気も…

「・・・あの・・・お邪魔でなければ・・手伝わせてもらう方が嬉しいんです」
「?体は疲れているだろう?」
「・・それは・・でも、一人でいるのが少しさみしくて・・出て来たんです。誰かとお話出来たらなあってそんな思いもあって」

・・・一人でいるのが・・・
人を遠ざけることばかりを考えていたけれど、千鶴がそう思うのなら・・・自分が傍にいていいと言うのなら・・

…それを断る理由など――

「・・そうだな・・見張り、という点ではこれが一番いいのかもしれない」
「?そうなんですか?」
「あ・・・い、いや・・・」

誰も来ない階段の隅に、二人で並んで座る。
こんなところ、なかなか人は通らずに、二人きりだということを急に意識する。

「・・・斎藤さんの飲み物も・・・買えばよかったですね・・オレンジジュースとかは嫌いですか?」
「いや、それは千鶴のものだ。気にせず飲めばいい」
「・・・う~ん・・でも・・じゃあ、部屋に戻った後・・ゆっくり飲みます。斎藤さんがせっかく選んでくれたものだし」

・・言葉に深い意味などないと、わかってはいても。
そんな些細な言葉に、心が浮き立つ。

「じゃあ、明日は・・・斎藤さんの分の飲み物を用意して一緒に・・・」
「・・・・・明日?」

千鶴には何とも面白くもない、このただ座っているだけの時間。
それなのに、明日も、と約束してくれるのだろうか?と斎藤が千鶴に問いかけるような視線を向ければ。

「あ、明日はお仕事ないんでしょうか?」
「い、いや・・出来れば毎日と…」

視線の意味を違えた千鶴に、慌てて斎藤が首を振れば、千鶴は微笑をふくんだ。

「ここに来る前に、誰かにおやすみなさい、くらい・・伝えられたらなあって思っていたんです。こうして・・一緒にいて・・もちろんお邪魔でなければなんですけど」

千鶴が一端言葉を区切り、少し子供っぽいんですけど、と説明の言葉を足して。

「部屋に戻る前に、おやすみなさいって…言いたいというか・・言って欲しい、というか・・その・・」

きっと、毎日薫とそうして過ごしているのだろう、と千鶴の言葉を聞いて納得する。
可愛い願いに、思わず声もなく、斎藤は抱えた自分の膝に顔を埋めてしまった。

今の自分の顔は、見られたくない――

「斎藤さん?」
「・・・・・わかった。必ず・・・それは俺の願いにもなる」


1日目は明日に繫る約束を。







続く
































まあ、このままでいいかな?気にしすぎかも。

そこまで神経過敏になることはないよね、と千鶴はそのままエレベーターが来るのを待てば、上りのエレベーターは千鶴の階で止まった。

・・・あっ、もしかして土方先生や原田先生だったりして…

それならそれでいいな、と千鶴は少しの期待を込めて、開くドアの向こうへと視線を向ければ・・・

「・・・・・・・・・えっ!?」「・・・・・っ!?」

エレベーターの中にいた人物と向かい合って同時に、驚いた顔を浮かべて続く言葉が出ない。
しかし、向こうは驚きよりも喜びが増していたようで、すぐにパっと笑顔を向けた。

「千鶴ちゃん!よかった!探していたのよ!」
「・・・・お、お千ちゃん!どうしてここにっ!?」

そういえば、島原女子高も…修学旅行とは聞いていたけれど…同じホテルだったのだろうか?

「あなたを探していたって言ったでしょう?それよりっ!話しは後よ!さ、部屋に戻りましょう?」
「え、う、うんっ」

思いもかけず、友達のお千ちゃんに会うことが出来て。
千鶴にもようやく喜びが出るようになってきた。

一緒にいられるのかな。どこの部屋に泊っているんだろう?

今日あった話を聞いてもらおう、そんなことを考えていた千鶴に、部屋に戻るなり千姫は千鶴の肩をグっと掴んだ。

「・・?お千ちゃん?」
「千鶴ちゃん、すぐに支度して。今からうちの旅行に合流しましょう?うちは明日からもう京都なの。千鶴ちゃんは・・まだ奈良でしょう?今日しかチャンスが…」
「???ちょ、ちょっと待って!一緒に行くって・・・そんな、無理だよ・・私は薄桜学園の生徒だし・・」

冗談ではないような千姫に、千鶴は慌てて口を挟んだ。
このまま聞いていれば、強制的に連れて行かれそうな雰囲気だ。

「大丈夫。君菊がちゃんと校長伝で話を進めてくれたわ」
「えっ!?で、でも・・・色々してくれた・・みんなにも悪いし・・」

手続きさえしていれば、ということではない。
今まで自分の為に一生懸命してくれたみんなを置いて・・一人でいなくなるなんて・・

千鶴が難色を示すと、千姫は気にすることないわ、とあっさり言葉を続ける。

「土方先生が・・今回の責任者になっていたから、話をつけてきたの。いいって言ってくださったし」
「・・・・・先生がっ!?そんなの・・今初めて聞いたよ・・」

夕方にもそれ以降も、そんなこと一言も言っていなかったのに・・やっぱり迷惑だったのだろうか?

千鶴が泣きそうに顔を歪めると、千姫が途端に慌てたような表情を見せ、ううっと困ったように千鶴を覗きこんだ。

「あのね・・時間がないから・・言うんだけど・・・」
「…うん」
「話をつけて来たのは今。普通なら・・・あの先生もこんな申し込み却下だ!!って言い放ったと思うのよ」
「・・・うん」

普通なら――では何か問題でも起きたのだろうか?

「でもね、色々あって・・・一つ目は・・・あなたの学校の生徒会長がね、こちらに向かっているらしいの」
「・・風間さんが?どうしたんだろう?」
「どうしたんだろう?じゃないわ!あいつの考えることなんて一つよ一つ!この機会にあなたをどうにかするに決まってるじゃない!」
「ええっ!?」

口では嫁に~とかは聞くことはあるけど、そんな強引な手段には出ないで・・何だかんだと優しい人なのだと思っていた。
どうにかする、という考えは千鶴には信じ難いが・・千姫に寄れば土方はすごく納得したらしい。

「二つ目はね…まあ、千鶴ちゃんに罪はないのよ?悪いのは男どもで・・」
「・・何かあったの?」
「あなたの部屋に忍び込もうと・・頑張ろうとする馬鹿が多くて眠れないって・・先生が言ってたわ、だから・・気付かれない内に連れて行けって・・」
「・・・・・・・・・・そ、そう・・・」

忍び込むような人など・・千鶴には思い当らないけれど。
実際千姫は疲れ切って、誰かとやり取りした後のような土方と話をしてきたのだ。

・・・あの先生も、よっぽど・・・大変なのね・・・

深く同情して、千鶴を自分と共に行動させることに、何の遠慮もなくなったと言えた。

「・・だからね、私と行きましょう?たまには・・女同士の旅っていうのも楽しいと思うわ」
「・・・うん、そうだね。そういう事情があるなら仕方ないし・・・先生がそうおっしゃっているなら・・」

千姫の柔らかい笑顔に諭されるように、千鶴は頷いて荷物の支度を始めた。
こんなことになるとは思っていなかったけど・・・これも楽しいと思う。

「楽しみだわ!いつも千鶴ちゃんの周りって誰か群がっているから・・いっぱい楽しんで、話もしなきゃね」
「うんっ!本当は・・ちょっと一人でさみしいなって思って・・うろうろしてたんだ・・」
「そう・・私と同じ部屋にしてもらうから、気兼ねしないでね?ホテルはこの近くなの・・ところで・・今日は本音で話してもらうからね?」
「本音で?・・・何を?」

逃がさないわよ~とばかりに腕を捕える千姫に、千鶴は思わずたじっとなる。
いつも嘘などついていないのに・・・??

「もちろん、こういう時女同士でするのは・・・恋の話・・が定番でしょう?好きな人、白状しなさいよ?」
「・・・・え、ええっ!?そ、そういう特別な人・・そ、そんなの・・・」
「いるでしょう?私も話すんだから、一人だけ内緒はなしね」
「・・・・・・・・わかった・・・・・ふふっ楽しみだね」


二人でホテルの下へと急いで下りて、下で待つ君菊と合流して。
その日の夜から千鶴は島原女子高での修学旅行を過ごすことになった。
1週間、女の友情を深めつ、旅行を満喫したのであった。






END





「この展開、次の日から僕は生きる屍だと思うけど・・・(チッ土方さんって本当に余計なことを…)それよりっ!!千鶴ちゃんの好きな人、この時点でいたんだ」
「・・・そうだな・・千鶴がいなくなって・・・どれだけむなしい旅行だったか・・・・・それに、千鶴に想い人が・・この時点で有望なのは……」
「この前の9話のくだりだとオレじゃないかな~って思うんだけど!それより、風間の奴・・こっち来ようとしてるんだな…」
「・・・土方先生が雪村君を送り出した気持ちも・・わかりますね…」


は~い!anotherEDの3つ目です!

お千ちゃんとの友情EDですね。
女の子同士で楽しむ…千鶴には学校生活においては皆無な時間ですから。
たまにはいいじゃない…とばかりに。

ちなみに、土方さんを疲れ果てさせていたのは…沖田さんだと思います(笑)

千鶴の好きな人は誰、でしょうね…上では4人、あんな風に言っていますが…
私は○○だと思っています(←みんな当てはまる笑)

まだまだEDあるので…たまにははまってみてくださいv