Everything ties




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「よし。各自部屋割確認して、間違えないように。適当に荷物まとめて、飯の時間になったら出て来い」

1日目、ようやく一息終えて今は宿泊先のホテルロビー。
土方の言葉を聞き終わると、皆が一斉にざわめき立つが、千鶴は一人困っていた。
部屋を知らないのである。

貰ったしおりにも、部屋割は追加されていない。

「・・・千鶴ちゃんはどこだろうね。うん、じゃあ僕の部屋においで」
「あっ!それいい!オレも一緒だし!!」
「お二人とも、馬鹿言わないでください。そんなことまかり通る訳ないですよ」
「千鶴、俺と山崎の部屋なら・・「安全~とかぬかすんじゃないだろうね、斎藤君」

もちろん千鶴の部屋がどこか書かれていないのは・・千鶴に群がる男防止のためだった。
男と女が相部屋になど…そんなことを教師が許す筈もなく、そんなことは当たり前の筈なのに盛り上がる男どもに。

そんな千鶴を取り巻く四人に声をかけることすら嫌だとばかりに、土方が千鶴の腕を不意に引っ張った。
急に輪から離れた千鶴に四人が一斉に目を目を向ければ、しかめっ面の土方が千鶴の腕を取って…四人を完璧に無視して話しかけている。

「千鶴、お前の部屋は今から案内する。行くぞ」
「あ、はい」
「ちょっと待ってくださいよ土方さん。取り敢えずその手気に入らないので・・」

ビシッ!

「っ!痛ぇな…お前は常にんなことばっかり気にかけてねえで、もっと他の有意義なことに目を向けろ!」
「…何言ってるんですか?正気ですか?千鶴ちゃん以上に有意義なことなんてありませんよ」

心底、そんなこともわからないの?とばかりの馬鹿にしたような総司の目つきに、土方は「ああ!?」とこめかみに血管を浮かせた。

「あるだろうが!ちっとは考えろ!」
「じゃあ逆に聞きますけど、何があるんですか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

土方さんは、何か言ってやろうと思ったのに、何も出てきません。
・・・お仲間な雰囲気が・・・

「・・・そこで黙るのも何かムカツキますね。土方さんって本当に苛々させるのうまいですよね」
「こっちのセリフだ!だああもうキリがねえ・・新八!!左之!!」
「了解!」「任せとけ」

いつの間に回り込んでいたのか、新八と左之が土方の背後から急に現れて。
左之が土方からバトンを受け取るがごとく、千鶴を手にしてあっという間に・・・その手腕は見事というしかなかった。

「あっ千鶴ちゃん・・・・!」
「おおっと総司、大人しくしとけよ?斎藤、平助、山崎。お前らもさっさと部屋に行け?それとも俺とここで勝負でもするか~!?」

むしろ、かかって来いっ!!と言わんばかりに目を輝かせる新八に、四人は閉口する。

「・・・土方さん、ここまでしますか?僕は殺るなら土方さんでいいですよ」
「物騒な文字使うな!!お前、知ってたら絶対行くだろうが!千鶴をんな危険な目にあわせる訳ねえだろ!」

今にも竹刀でも振り回しそうな土方VS沖田

「その勝負乗った!!じゃあオレが勝ったら・・・千鶴の部屋教えてくれよな!」
「おお、いいぜ?その軽口、後悔させてやっからかかって来い!」

同じ勝負でも爽やかな平助VS新八

「・・・・まあ、我々と同じ階はないでしょうね。安全なのはやはり上階の…」
「そうだな…土方先生の部屋をずらして、左之先生との間に千鶴を・・この可能性が高いだろう」

手にある情報を解析し、導こうとする斎藤&山崎

ホテルの従業員は、あの人たちは一体…と皆が避けて歩いていたらしい。




一方、千鶴は…左之に連れられて部屋の前に立っていた。

「いいか、千鶴の部屋がここ。んで隣が俺と土方さん」

斎藤さん、山崎さん。大当たりです。

「はい…でも先生って・・・受け持ちの生徒と同じ階になること多いんじゃ・・・」
「まあ、普通はそうだよなあ…でも今回は千鶴がいるだろ?」
「はい」
「女はお前一人だし。そうも言ってられなくてな。新八みたいに血が余ってるやつに生徒は任せてんだ」

千鶴を土方から頼まれた時に、それからずっと自然に持っていた千鶴の荷物を左之が千鶴に渡す。
千鶴は恐縮しきった顔で受け取ったのだが…

「・・・やっぱ、一人はさみしいよな」
「え?」
「今日はずっと賑やかだったろ?急に静かになってさみしいんじゃねえか?」
「あ…はい、それはちょっとあるかも・・です」

今日一日、五人で動いたことを思い出して、千鶴がその賑やかさを恋しそうに笑うのを見て、頭にそっと手が置かれる。

「・・・原田先生?」
「さみしかったら、俺と土方さんで…いや、俺だけでもいいけどな?お前に付き合ってやるから、んな顔すんな」
「・・はいっ」
「まあ、本当はあいつらと遊ぶのも許してやりたい気もあるんだがな…」

何せ、土方がものすごく警戒して。
面倒が起るのがわかりきってる!と…土方と左之だけは栞に書かれた階まで変えてしまったのである。
しおりに書かれている自分たちの部屋割が変更されているのはもちろん、秘密事項だった。

「大丈夫です。お昼はずっと一緒で…すごく楽しいですから!」
「すごく、楽しい・・か。よかったな。だけど俺も生徒ならよ、もっと、なあ…」
「…原田先生?」
「いや、何でもない。飯に遅れんなよ?ああ、後部屋番号は・・・あいつらには秘密な」
「はい」

しかし、先生の監視の目がどんなにあっても、くぐりぬけて一緒にいる時間を増やす…
そんな生徒は珍しくはなく。
特に、千鶴と一緒にいたい気持ちの強いものにはあまり意味はなかったのかもしれない――


「・・・千鶴ちゃんと一緒に来れてよかった・・本当に、よかった・・・」
「沖田さん・・・ど、どうしたんですか?」

皆で食堂でご飯中。
千鶴の横にちゃっかり座った総司が、しみじみと頷きながらおかずを口に運ぶ。

「だってさ、周り見てよ。男男男男…そんなむさくるしい中に、君が横にいて・・・ね?理由わかったでしょう」
「お前もそのむさくるしい要因の一因だろう。全く…だが千鶴がいることで華やぐのは確かだな」

同じくちゃっかり隣に座った斎藤さん。

『千鶴ちゃん!よかった!ご飯まで別なのかと思ったよ…部屋、どこ?』
『あ、あの…部屋は…そ、それより私もご飯ご一緒で嬉しいです』
『・・・・(教える気はない、か・・土方さんだな…)とりあえず、一緒に座ろうね。僕ここ、だから千鶴ちゃんはここ、はい』

ストンと椅子に座らせられる千鶴。
そして、まるでそうなることが自然のように、千鶴が腰を落とした途端、隣に座る斎藤が。

『・・・・・・・・・・』
『何だ、総司。その顔は。さっさと座れ』

その様子を見ていた平助と山崎は・・・

『・・・一君、どこにいた?急に千鶴の横に座ったよな?』
『・・沖田さんがうるさいのを理解しているので、気配を消していたのではないでしょうか・・・それにしても自然にする辺り…』

こんなやりとりがあった後の、総司と斎藤の千鶴がいてよかった発言に繫っている。

「私なんかじゃ華やかになんてならないですよ…」

斎藤の言葉に、千鶴が恥ずかしそうに俯いて小さく首を振ったのだが。
そんなことない、と言葉を続けたかった二人を遮って、千鶴の正面席は何とか勝ち取った幼馴染の平助が、本領を発揮し始めた。

「んなことないって!千鶴がいるだけで全然違うし!」
「・・そうかな、ありがとう」

こういう時、幼馴染の言葉だと素直に受け止めやすいのか、千鶴がにっこり顔をあげた。

「ありがとうは俺のセリフ、来てくれてありがとな!んでさ~…」
「・・・・平助君の考えてることわかる、ふふっ!どうぞ」
「やり~!!んじゃ唐揚げも~らい」

平助の箸が千鶴のお皿の上にある唐揚げに届くかと思われた時、

カツッ!!ガッ!!

平助の箸を、箸が邪魔をする。

「・・・な、何だよ総司に一君・・箸つけんなって」
「あのね、それは僕のセリフ。これは千鶴ちゃんのだよ・・平助」
「自分のものすらまだ食べ終えていないようだが」
「あ、いいんですよ?沖田さん斎藤さん・・平助君唐揚げ大好きだから・・・」

千鶴の唐揚げをガードする二膳の箸に目をパチクリさせながら、千鶴は二人を見上げたのだけど。

「千鶴、唐揚げを好きだから、という理由では平助にやる理由にはならない。これはおまえの分だ。しっかり食べなければ…」
「そうそう。好きって言う人みんなにあげられる訳じゃないよね?」
「それは…」

そうだけど、でもあんなに欲しそうな顔をしているのに…

ええと、と困ったように顔を左右させる千鶴に、山崎が助け舟を出した。

「沖田さん斎藤さん…気持ちはわかりますが・・雪村君が困っています」

・・・そんなことわかってるけど、ここで平助ばかりいい思いをさせては・・
引けない時はあるのだ…小さいことでも自分達にとっては、大きいことで。
こういう時、平助を優先されるのは・・・やはり面白くない。

総司は一転、箸で平助を牽制したまま、千鶴に曇りのない笑顔を向けて…

「千鶴ちゃん、おかわり」
「え?あ・・ご飯!気付かなくてすみません!あ、斎藤さんもないですね!一緒に・・」
「ああ、ありがとう」

二人の茶碗を受け取った千鶴が、平助と山崎の膳にも目を向けたが…

「雪村君。俺はいい」
「そうですか、平助君も・・・」
「~~~~オレはまだあるし、後で山盛り食べる!!」
「わかった、じゃあ・・・」

平助の言葉に妙に力がこもっているのは、二人の箸を抑えつける力がすごいからであった。
千鶴がいなくなると、平助にはその分遠慮ない視線が向けられた。

「僕の目の前でいい度胸だね…幼馴染風吹かせすぎ」
「正真正銘、幼馴染だし・・・いいじゃん」
「よくない。お前は・・・千鶴に特定の者が出来てもそうするつもりか?今のような態度は改めなければ、いずれ千鶴と共になる者が不快な思いをする」
「まあ、正論ですね」

いずれ、と言わず、今不快でしょうがない。とばかりに三人の冷たい視線が集中する。

「千鶴にそういう奴が・・もし、出来たらオレだって控えるくらいのこと・・・つうか、それがオレになるように頑張る訳だし!」

めげずに、素直に自分の気持ちを宣言すれば・・・ボキっと鈍い音がした。

「・・・・・・・・・・・・!?は、箸がっ!!」
「わ~大変だね~箸が折れたら食べられないなあ」
「よほど、使い込んでいた箸だったのだろうな」
「・・・取り替えるしかないですね。どんな理由にしろ、折れたのですからしっかり謝ってきてください」

棒読みで言葉を返す、三人に、平助が何故ここまでひどい目に…と嘆きながら取り替えに行ったのだった。








続く