子龍夫妻の悩み事相談




C




私は、どうしたらいいのだろう?

花を守り、共に生き、ずっと傍にいると誓った。
結婚を申し込み、自分の気持ちに応えてくれた花。
だから、傍にいることを幸せに感じて、周りの気持ちなど見えていなかった。

確かに花殿は…人を惹きつけて。

人との間に、隔たりを作ることのない、彼女の人柄は皆の気持ちを安らがせる。
それに気付いて…一人の女性として、花を特別に思うようになるのは…自分だけなどと、どうして思えたのだろう?

…いや、私に、周りを気にする余裕などなかった。だから・・・気付けなかったのか…

ふと時間が空いた時。視線を彷わせては花を探して。
見つけてはとりとめのない話をして、そんなことが、とても幸せで。
花の周りに時折いたのは、孔明くらいで。
そんな孔明にも、からかわれることはあったけれど…

主君の感情に気が付けないとは…

仕える者として情けない。
主君の目に留まったのなら…身を引くことだって珍しくない。
特に、花と自分はまだ、何も正式に夫婦となった訳ではなく―――

自分の立場をわきまえるのなら、私は…

忠実であるが故に、花を想う気持ちと、玄徳を慕う気持ちの板挟みにあう。
それでも…一度誓ったあの約束を違えることなど、考えることを頭が拒否して…

…花殿

こんな時なのに、脳裏に浮かぶのは花の笑顔――

ふと、最近耳にした花と孔明の会話を思い出す。
玄徳との出会いを、初めて会った時から優しかったと話していた…
包み込むような優しさと、守る強さを兼ね備えているあのお方に好かれていると知ったら、彼女はどう思うのだろうか。

何かを堪えるような顔を珍しく浮かべて。
どちらにも決断出来ぬ自分に、自責の念で胸が埋め尽くされて。
それでも視線の行先は一つだけ。
愛しい人の寝所の方向へと向けられて。

まだ別々の部屋。
今は眠りについているだろうか。
一目、と願う心とは裏腹に動かぬ足に、子龍は一人、立ちすくむしかなかった。


「あれ?花!」

元気のよい大きな声が花の鼓膜を勢い揺らして。
少し丸まっていた背が、その元気につられるようにピンと伸ばされた。

「翼徳さん、こんにちは。今は休憩ですか?」
「そうだよ!子龍はまだ向こうで槍の訓練してたみたいだけどな」
「そうですか。…あの、子龍くん変わりなかったですか?」

今朝、顔色が悪かった。
今日は休んだ方が…と言ってはみたけれど、大丈夫です。少し寝不足なだけですから。の一点張りで聞いてはくれなかった。
槍の訓練なんて・・していて倒れはしないのだろうか?

「うん?う〜〜ん…そういえばちょっと違ってた」
「えっ!?具合でも悪そうでしたか?」
「ううん。その逆。何かすごかった!強くてさ〜いつも以上に突きとか早くて!」
「…そうですか」

翼徳の言葉にほっと胸を撫で下ろす。
槍さばきが鈍ってる、とか…そんなこともないのなら本当に寝不足だけだったのかな?
いつも以上にすごかったのなら、体調は悪くはないのだと思う。
それならいいんだけど…でも後で一応様子見に行こうかな。

心配なのもあるけれど、休憩の時は一緒にいたいな、という気持ちも存分にある。

「う〜それにしても・・・お腹空いたな」
「体動かすと余計ですよね。え〜と……」
「う〜ん、今日は誰のところに…玄兄のところにでも行こうかな!花も来る?」
「えっいえ私は…お腹空いていないから大丈夫です」

もうすでに体が玄徳の方に行こうと駆けだす準備をしている翼徳に、花は思わず笑みを零した。
花の返事を聞くと、そっかあと少しだけ残念そうな顔をして。
その後すぐに、ぴゅ〜っと風のように去って行った翼徳の背中を見て、ぼんやり思ったこと。

・・・子龍さんもお腹空いてるかな?
今日は訓練張り切っているみたいだし…
こんな時、ちょっとつまむ程度のものとか作れたら…いいよね。

…迷惑、じゃないよね?
結婚したら…私がご飯とか…作るんだし…・お、奥さんになるんだから当然だと思うし。

自分で考えておいて、そんな生活を想像して気恥ずかしさでいっぱいになると、
早く、そうなりたいな…という願いで、後から胸がいっぱいになる。それと同時に不安も付いてきてしまうけど。

というか、私料理大丈夫なのかな…

はっきり言って、ガスも電気もないこの時代の料理は、今の自分にはレベルが高い。
火の調整なんかも自分でしなくちゃだし。
調味料なども…知らないものがたくさんある。

師匠には所用で出かけている間、休んでいていいよと言われているし…
芙蓉姫に教えてもら…今日は忙しいって言ってたっけ。
う〜んと…それじゃ雲長さんの時間が空いてないかな?

そういえば、ここに来る前。雲長が部屋に戻るのを見たのを思い出して。

今のうちに!それで子龍くんに何かあげたいな。

子龍の喜ぶ顔を想像して、花は雲長の姿を探す為にその場を離れたのだった。




END




子龍さん悩み中です。
書いてていたたまれなくなりますが…
玄徳のような君主はそんな…部下の恋人好きになっても奪ったりなんて絶対ないと思いますが。
曹操は確か…そのようなことがあったような…?部下じゃないんですが。
玄徳がとてもいい主君だからこそ、子龍は悩んでいるのではないかと。

次は、何も知らずに寝不足で、いろいろ参ってる子龍に花が差し入れなど渡すのですが…
もうちょっと続きます。