子龍夫妻の悩み事相談A
「・・・まだ、多少痛む、か…」
訓練をすればズキっと痛みが傷の存在を示すように痙る。
そこまで気にはならないけれど…
「花殿が知れば、怒りそうだな・・」
普段、心配し過ぎでは?と思うほどに、自分のことを気にする花を思い出して、自然に笑顔になる。
周りから見れば、子龍も似たような…いやそれ以上にも見えるけど。
今日は…部屋に戻っておられるだろうか?
小さな期待と共に花の部屋の中に入れば、花はおらず。
一瞬頭をよぎったのは、、孔明の顔。
…今日も、まだ終わらないのだろうか。
この間と同様に、あんな風にからかわれているのかも知れない。
はあ、と溜息を一つついて、一度自分の部屋に戻った後に、様子を覗いに行こうと足を飜した。
子龍が部屋に戻れば、中からはすーっと寝息が聞こえる。
前ならば、警戒して槍を構えただろうけど…今は、違う。
思った通り、寝所に体を預けるように…座りながらうたた寝する花を見つけた。
花の様子をじっと見る。
見ているだけで、心が安らぐ。温かくなる。
いるだけで、こんな気持ちにさせてくれる花を見つけ、そして傍にいてもらえることは・・本当に奇跡だと思う。
子龍の体ばかり気遣う花だけど、花自身もここに住む、と決めて。
自分の知らぬところできっと困ることもあるだろう。心身共に疲れているのではないだろうか。
僅かな時間、誰にも邪魔せず寝かせてあげたいと、そっと花に上掛けを掛けようとすると…
「・・・・し、りゅうくん?」
「・・すみません。起こしてしまいましたか」
「・・あ、来るの待っていたら寝ちゃって…いけないいけないっ!私、今からお茶でも・・」
ふらっとしながら立ち上がる花を、慌てて支える。
「花殿。お茶はいいので休まれてください。」
「でも…」
何か不満気な花に、孔明とのやりとりをふと思い出した。
『お茶淹れるくらいしかできなくって…・』
そういえば、あの時…結局有耶無耶になっていたけれど…
「花殿」
「はい?」
「少し、傷が疼くのですが…」
「ええっ!?治りきらないのに無茶するからだよ!!大変・・お医者様・・・「ですから・・」
部屋を出ようとする花を引き留めて、子龍は花を座らせると、そのまま膝に頭を乗せた。
「・・・・・・・・・・・・え?」
「膝を、お貸しください。」
そのまま、ゆっくり目を瞑る子龍に、花は突然のことで何が何だか。
一人慌てて赤くなり、意味もなく手をぶんぶん振って、あちこち視線を彷わせるけど、子龍は満足そうにそのまま動かない。
「し、子龍くんって…本当に急にこういうことするよね・・」
「何か、いけなかったでしょうか…?」
目を開いて、きょとんと花を見上げる子龍の視線とぶつかって、花はますます赤くなる…
「…という感じなの」
「それは…惚気ではないかしら」
思い出したのか、真っ赤になりながら話す花に、芙蓉はさして興味ないように頷く。
晴れて両想い、恋人同士…いや、婚姻を控えた婚約者なのだから何も問題はないだろう。
「惚気じゃなくて!…私ばっかりわたわたするっていうのがね…」
「…つまり、子龍殿にも同じあなたと同じように・・・反応して欲しいってこと?」
指をくるくる動かしながら落ち着きのない花を見ながら、芙蓉が要点をまとめると、花はぴたっと指を止めて。
「子龍くんの、慌てたところなんて本当に数えるほどしか見たことないし。私ばかりこう・・・なるから」
「…子龍殿の慌てたところなんて、私は見たことないわよ。どんな時に慌てるの?」
「え?」
…まさか山中で水浴びしてて見られた、とか絶対言えない…言えないよね…
「み、見たことなかったかも…だから、たまには・・そんなところも見てみたいんだよね」
「花から行動すればいいんじゃないの?」
「…私から?」
何てことないように、求めた答えをすぐに出した芙蓉の言葉を、花は頭で反芻する。
「だって、あなただっていきなりされるからびっくりして、構える時間がないからそんな風になりやすいんでしょう?」
「・・・・なるほど・・・・で、でも無理だよ。自分からなんて・・・絶対無理」
「まあ、今みたいに、思い出すだけで真っ赤になるくらいだものね。・・でも彼はあれでも随分表情豊かになったと思うけど」
「・・・本当?」
目を丸くして、芙蓉をじっと見返す花に、安心させるような笑顔を向けた。
「本当。何言っても無表情で・・・はあ、とかはい。とかわかりました。とか・・・」
「…何かわかる」
「でも今はね〜…廊下とかですれ違う時とかに、必ず聞かれることがあるんだけど」
「え?何々!?」
知りたいっと身をよじって芙蓉におねだりする花に、芙蓉はくすっと小さく笑う。
「花の様子を聞かれるの。変わりはないですか?とか。困ったことなどありはしないでしょうか?とか。」
「・・?子龍くんが?だって毎日顔を合わせているのに」
「だから、ちょっと離れた時間でも気にかけているってことよね。それに…あなたの様子を伝えた後、あの子龍殿が…」
「…子龍くんが?」
芙蓉が押し黙ってためる間に、花も思わず緊張して聞くと…
「笑うのよ」
「・・・・・・・・・・」
「あ、今それが何?って思ったでしょう!?子龍が笑うなんてなかったのよ!?しかも優しい微笑みよ!?」
「こ、声が大きいよっ」
ちょんと花のおでこに指を突いて、悪戯めいた微笑みを浮かべる芙蓉。
「あなたのことを聞くだけで、そうなるってすごいことだわ。花みたいに元々表情豊かな子だとさほど思わないけど…あの変化は見事だわ」
「そうかな・・・そうなのかな」
事実、その変化がからかわれることを助長させている。
「そうよ。・・・全く。花と子龍二人から惚気聞かされているみたい・・・もちろん、私の話も聞いてくれるわよね?」
「う、うんっ!聞きたい」
芙蓉は知らないけど、ここでの二人の会話が、子龍を後に照れさせることになるとか。
END
今回は芙蓉さんに相談。
花ばかりが相談(惚気?)していますが、次は子龍さんが相談する予定です。
子龍さんみたいにあまり笑わない人がたまに見せる微笑みは威力絶大だと思います。