子龍夫妻の悩み事相談@




「花殿…」

夫婦になろうと誓いあって間もない日々。
まだ部屋を共にはしておらず、準備を進めてはいるが子龍を部隊を持つ将軍で、なかなか時間が取れずにいた。
だからこそ、稽古を終えた後の一時は共にいたいと。
けれど花は自室にはおらず。

…まだ、仕事が終わっていないのだろうか。

子龍は花がいるであろう、孔明の元へ向かったのだが…


一方花も。
残ると決めて。子龍の妻になる――
そう皆に話はしたけれど…今は…

「師匠、これで終わり・・じゃないんですか?」

子龍が孔明の執務室の前に辿りついた時、花の弱々しい嘆きが聞こえてきた。
そっと様子を覗えば、漸く膨大な竹簡の整理を終わらせた、と思ったのだろう花の目の前に、また竹簡が山積みにされている。
これでは休憩は一緒にはとれないだろうか。そう思ってその場を後にしようとした時に、勝手に耳に入って来る会話。

「そんな顔しても駄目〜。ボクだって今、その竹簡全部目を通して疲れているけど…またこれだけ来たんだから」
「・・・・・・本当だ」

益州を拠点において、孟徳軍、仲謀軍におびやかされることはなくなったとは言え、戦いが全くなくなった訳ではない。
それぞれが目指すものが違う中、いつ、何があるかはわからない。
戦いが今はない、とは言え、平和ぼけしていてはいけない。
今が続くように…しなければいけないことは山ほどあるのだ。

「まあ、益州の民も…玄徳様を大分信頼してくれるようになったから・・・少しはやりやすくなったけどね」
「・・やっぱり人柄ですね。玄徳さんは私みたいな子でも、初めて見た時から優しかったですし」

その花の言葉に子龍は自分と花の出会いを思い出して…
…あの時、廊下でぶつかって…余所見していたと謝られて。
自分は…花殿が何者か、審議するような目で見ていたと思う。
仕方がなかったとはいえ、玄徳様のように…優しかった。と思われるような出会いであればよかったのに…

今更ながらにそんなことを考えていると。

「・・・あれ?そこはボクの名前が出てもいいんじゃないのかな?初めてはボクだよね」
「師匠、その言い方、何だかちょっと・・・」
「ちょっと、何かな?」

楽しそうに声を出す孔明に、花はまたからかわれている、と口を尖らせて。
子龍も同じく部屋の外でむっとしていた。

孔明殿は相変わらず、花殿をからかうことを日常の常としているようだ。
一度、きちんと話をしなければ…

「いえ、何でも…師匠。一端休憩しませんか?お茶でも…」
「うん?いいよ。それで、花はそのお茶をどこで飲みたいの?」
「え?」
「そろそろ休憩時間だもんね。子龍殿に…会いたいよねえ」
「し、師匠〜!!」

顔を真っ赤にして慌てる花。
夫婦になると誓い合っても、こんな風に素直に反応するところは花のかわいいところ。
思わず自分の名前が出て、子龍も花のように頬を染めていたのだけど…

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

急に声が小さくなった。聞き取りずらくなる。
何を話しているのだろう?

「…まあ、お茶もいいんだけど。ボクは膝がいいなあ」
「膝、をどうするんですか?肩揉みとかは…」

・・・・・・花殿は、孔明殿の肩揉みなど今もしていたのだろうか。

「うん。そうだね、肩揉みも嬉しいけど。膝枕の方がもっといいなあ」
「膝枕!?」
「膝、と言えばもちろん膝枕でしょう…だから膝枕して「孔明殿。戯れはその辺りで止められては」
「し、子龍くん!?あっ休憩?・・もしかして、今の聞いて…」

慌てて顔を赤らめる花とは対照的に、子龍は厳しい顔。
よくわからないけれど、膝枕を花にねだっていたように聞こえた。それならば放っておくわけにはいかない。
それを迎え撃つ孔明の顔はいつも通り。

「子龍殿も休憩?いや丁度よかった。私たちも今休憩にしようかと…」
「孔明殿。花殿は私と共にあると誓い合ったのです。そうした態度は周囲にも誤解を招きますし…」

子龍は花を自分の後ろに隠すと、牽制するように孔明を見た。

「私も、不愉快です」

面と向かってはっきりそう告げられて、孔明は一度真面目な表情になった後、普段の臥龍を感じさせない笑顔に戻した。

「はて、そうした態度、とはどういったものだろう?」
「おとぼけになられる気ですか」

子龍の背中に隠された花にも、背中から子龍の怒気を感じられる。
・・・子龍くん、どうして怒っているんだろう…

「あの、子龍くん?どうしたの?」
「どうした、じゃありません。花殿、あなたももっと…ご自分の行動の持つ意味をお考えになって…」
「花、子龍殿は誤解しているみたいだよ」

子龍に咎められて、おろおろしている様子の花に、孔明が助け舟を出した。

「「誤解?」」

その言葉に花と子龍、二人が反応する。

「子龍殿は、ボクが花に膝枕をしてもらおうとしていたって勘違いしているみたいだね」
「…違うのですか?」「ええっ!?」

訝しむように二人の間に視線を彷わせる子龍と、そんな子龍に困ったように視線を投げかける花。

「では、どういうことだったのでしょう」
「そ、それは…」
「子龍殿が最近お疲れだから、どうしたら安らいでもらえるのか、という話をしていただけだよ」
「私が…?」

子龍が目を丸くして花を見れば、花は恥ずかしそうに視線を逸らしている。

「花殿…」
「…子龍くん、最近その、色々…私たちのことでの準備もあるし、忙しいでしょう?怪我もまだ完全に治った訳ではないし・・だから・・」

花は逸らしていた視線を子龍に戻して、しっかり目を見つめてはにかむように笑う。
名の通り、花のように可愛らしい笑顔。

「二人でいる時くらい、子龍くんが安らげるように…何かしたかったの。でも今までお茶淹れるくらいしかできなくって…」

もっと、もっと支えてあげたい。守られるだけでは嫌だと、
そんな意思を目に込めて、じっと子龍を見上げる花に、子龍もようやく笑顔になって。

「花殿…ありがとうございます。ですが…」

子龍は、そっと花の手をとり、花のおでこに自分のおでこをつける。
これ以上ないくらい、優しい視線をお互いに向けあって。

「あなたといることが、一番の安らぎです。傍にいてくださるだけで…私は――」
「子龍くん…」
「あーごほんっ…ここはボクの執務室なんですけど」

冷やかな声が甘い空気の中に入り込む。
二人は慌てて離れて、そんな様子を見た孔明は苦笑い。

「誤解は解けたみたいだね?子龍殿」
「っはっ!まことに申し訳ありませんでした。何とお詫びしたらよいのか…」

深々と頭を下げる子龍に、いえいえ、と孔明がにこにこと笑って。

「いやーお詫びなんて構わないよ」
「いえ、それでは私の気がすみません」
「…じゃあ、それなら…」

孔明は一層笑顔になる。

「花に一度、膝枕をしてもらおうかな」

ピシッと空気がひび割れた執務室。
暫く誰も近寄れなかったとか。







END






ゲーム内の子龍と孔明のやりとりは大好きです!
後で孔明さんをした時にちょっとせつなくなりましたけど…
子龍と花は夫婦になるって誓いあった後も、すぐにどうこうなる気がしないので(笑)
こんな風にみんなにからかわれているんじゃないかなあと。

お読み頂きありがとうございました!