「君だから」
「暑い」
「ねえ、暑いんだけど」
「千鶴ちゃん?暑いって言ってるんだけど」
「・・・・だったら、離れたらいいと思います」
「やだ」
「・・・・私も暑いんですけど」
「それって僕に離れろって言いたいの?」
とっても言いたい。だけど、そんなこと言えば余計ひっつきかねない天の邪鬼みたいな人だから言わない。
うだるような暑さの中、屯所内には風もあまり通らなくて、熱気が充満している。
そんな中、わざわざ千鶴の元へやってきて、後ろから抱きついて来て暇な子供が母親に遊んで遊んでとねだるように離れない。
何もしていなくても汗ばむ日中に、こう抱きつかれては総司の体温も暑く感じられるし、それ以上に・・・自分も恥ずかしさから勝手に熱くなってしまう。
「・・・沖田さんっていつもこうなんですか?」
「いつもって?」
「だから、誰にでもこうやって・・・」
「・・・千鶴ちゃん以外の野郎にするわけないじゃない」
ただでさえむさくるしいのばっかりで暑苦しいのに、と一人ごちる総司の言葉に、
「いえ、そうじゃなくって、その・・・」
「?」
「夜とか、その皆さんとお店に行ったりした時に・・・その・・・」
「・・・・芸者にってこと?」
「そ、そうです」
相変わらず後ろから千鶴を抱きしめながら、総司は顔を前に突き出して、千鶴の顔をうかがうように覗きこむ。
その顔の近さに思わず頭を後ろに引っ込めようとするも、総司の肩に当たってできない。
「それ、気になるの?」
「・・・え?」
「僕が他の女性にそんなことしてるのか、気になるの?」
千鶴の顔を覗き込む意地悪げな視線は、とても楽しそうで。
「・・・き、気になりません」
気にならないわけはないのだけど、そんな視線を向けられて素直にはい。と答えること出来ない、かわいくない自分がいる。
「ふうん。じゃあ、何でそんなこと聞くの」
「!?・・・・そ、その人も大変だなって思っただけです」
ふいっと顔をそらして、思ってもみないことが口を突いて出る。
あっ・・・違うのに・・・そんなこと言いたいんじゃないのに・・・
黙ったままの総司が、それでも離れていかないのに少しほっとしながらも、恐る恐る顔を戻して総司の方見上げてみると・・・
ものすごく不機嫌そうな目、口、顔。
「あ、あの・・・沖田さん、さっきのは違うんです、あの・・・」
慌てて千鶴が自分の心に正直に話そうとすれば、総司は突然にこっと、不機嫌な空気をまとったままの不自然な笑を浮かべながら千鶴の言葉を遮る。
「悪いけど、ああいう店では僕が寄っていかなくても寄ってくるんだ」
「・・・・そ、そうですか・・・すみません」
「わざわざひっつくなんてしないよ、面倒くさい」
「・・・・そうですね・・・寄ってきてくれるんですもんね」
そんな光景を頭の中で考えてしまって胸がずきずきする。
総司だって男だから、好意を寄せられて悪い気はしないのだろうな、と一人考えごちて沈んでいると、はあ、と洩らされる溜息が耳にかかる。
「言っとくけど、僕は相手してないからね」
「・・・・そうなんですか?」
芸者さんみたいなきれいな子でも総司の目に留まらないのだろうか・・・それなら自分はなおさらと、余計に沈みこみそうになった時、後ろから抱きしめられる力がギュっと強められて、
「・・・どうでもいい子は寄ってくるのに、どうでもよくない子は僕から逃げようとしてばかり」
「・・・・・・・え?」
「挙句、僕が寄ってくるのを大変みたいに言うし」
「そ、それって・・・」
「君以外誰がいるのさ」
「・・・・本当に?・・・ま、またからかっているんじゃ・・・」
「・・・信じてももらえないしね」
拗ねたように言葉を漏らして、千鶴の頬に総司の頬を合わせてすがりつくように。
「沖田さん・・・」
そんなところが、子供っぽいところが、嫌いじゃないです・・・ううん、違う、ずっとずっと・・・
「・・・信じます」
千鶴はそっと総司の前髪を手で梳くように撫でた後、そっと自分に回された手を取る。
総司は千鶴の手を握り返して、そのままゆっくり自分ごと千鶴を立ち上がらせる。
くいっと体を回転させて千鶴と総司は向き合う形になって。
総司は自分の目線と千鶴の目線を合わせて、ゆっくりと問う。
「・・・ねえ、僕が迷惑?大変?」
「ち、違いますっ!」
真っ赤になりながらすぐに答えを返す千鶴に、総司はよしよしと頬を撫でて。
「じゃあ、何であんなこと聞いたの?」
「・・・・沖田さん、意地悪です・・・」
わかっているくせに、と口を尖らせて総司の方を見上げる千鶴に、心外だなと呟いた総司は、でも言葉とは裏腹に優しい微笑みを湛えていて。
「傍にいたくて、いけば必ず何か用ですか?だし、」
「傍にいれば、もっと近くにと思って抱きつけば暑い、離れろって言うし、」
「かわいい嫉妬を、と思ったら、大変だからと言ってくれるし、」
「・・・・ねえ、どっちが意地悪?」
「・・・・・・・・・・私です」
そんなことを首をかしげながら、自分の大好きな、弱い顔で言われたら・・・そう答えるしかないじゃないですか。
・・・やっぱり沖田さんの方が意地悪です・・・
口では語らないけど、目いっぱいそんな気持ちを込めて総司を見つめると、その視線に応えるように目を細めて薄く笑う。
刀を振う者らしい、ごつごつした手、けれど剣豪とは思えないような線の細い手で、優しくもう一度千鶴の頬を撫でて、軽く唇を落として。
「僕がひっついちゃうのは千鶴ちゃんだけだよ?」
「・・・・はい」
耳をくすぐるように撫でて、軽く吐息を感じられるくらいの一瞬の間の後に、ついばむように耳に唇を落としていく。
「・・・もう逃げられないよ?」
「・・・逃げられたことなんて、ないですよ」
ふふっと小さく笑いながら総司を見つめる千鶴。
その優しい眼差しを受けとめながら、総司は千鶴の唇をそっと、壊れものを扱うように優しく指先でなぞった後に、慈しむような包んでくれるような微笑みを千鶴に向けて、一言だけ言葉を落とす。
「逃がさないよ」
紡がれた言葉のすぐ後には、お互いの気持が一つになるように、
想いを重ねていくように一つ、二つ、三つ・・・
何度も何度も重ねて気持ちを伝えられるように、
愛を込めた口付けを。
END
10,000hitのリク作品いかがでしょうか。
リクを募集して1位になった沖千SSというプレッシャーがあったはずなのですが、
あまりいつもと変わらない沖千になった気もします(汗)
甘めを甘めを!という声に応えたく、最初から最後までべったりなお話です。
リクをしてくださった皆様が喜んでくださると嬉しいです。
本当にありがとうございました!!
これからもサイト運営がんばりますので、お付き合いよろしくお願いいたします。