『お雛様は何処??』




後編




『・・・・・・この服、これ、どうなっているんだろう?』

マントの中は真っ暗闇、というわけではなく。ルルが着替えるのに不便ない明かりは灯っている。
そこら辺のぬかりはエストにはない。
それでもマントの外は幾重にも張られた闇が、マントすら見えにくいほどだけど。

そんな中、ルルは制服を脱いで困っていた。
ひな人形の着物。それを一枚一枚とって、それをまた着るだけの筈だった。
けれど…

『服の合わせってこっち??このベルトみたいなのはどうやって使うんだろう…』

むうっと着物とにらめっこしていても進展する筈もなく。
何より外で待つ彼らに悪いと、一応努力はしたけれど。

『うう・・・こんなよれよれじゃなかったよね、これ、サイズ大きいんじゃ・・・』

ずるずると引きずるように歩いてみれば、当然裾を踏んで転んでしまった。

『・・・・うん、ちょっと着方がわからないし、聞いてみるのがいいかも』

取り敢えず、制服に着替え直そう。
まずは出鱈目に身に付けた帯が苦しくお腹を締めつけていたので、それを外そうとして。

『・・・うっ外れない・・・結び目・・・??これどうなっているの?』

ぎゅ〜〜〜

『ああっ!緩めるどころか、きつくしちゃった!・・・く、苦しいっ!ほ、ほどかなきゃ・・・明かりがちょっと足りないかも』
『・・・エストがマントの外真っ暗にしてるし、大丈夫よね?…レーナ・ルーメン!闇に閉ざされた空間を照らす光を放て!』

パアッ!!!

一気にまるで太陽の日差しをまともに見て、目がくらむように。

『ま、まぶしいっ!!こ、これじゃ明るくても見えないっ!レーナ・アンブラー!視界を惑わす光を封じ込めて!』

スー・・・・・・

『いやあ!真っ暗!何も見えない…ううっどうしてこう極端なの…』

その時、カサカサと何か音がした。
・・何だろう?誰もいる筈がないのに…振り向いたルルの目に飛び込んだのは…芋虫。
自分と同じくらい大きな…芋虫。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『キャー!!!!レーナ・ベントゥス!!!この空間を作り出すものを弾き飛ばして!!ここから出してー!!!』

この空間を作りだしているものは、マントだけではない。エストの魔法もその一つ。
普通ならば不可能と思われるけど、特殊な空間で魔法を連発したことにより属性が奇妙に重なっていた。
そして、ルルの恐怖心によって煽られた爆発的な瞬時の魔力解放が、それを可能にしてしまった――


「ところで、これも誰か着てみようよ」
「・・・・・これって、どれだよ」
「嫌だなあラギ君、これは、これ」

アルバロが指差した先には、お雛様と一緒に売られていたお内裏様。

「馬鹿か!てめーは!んなもん着るか!つーかできもしねーだろーが!」
「ああ、ラギ君は魔法が効かないから無理か。残念だったねえ」
「なっ・・・「ということはアルバロ。指輪をもう一つ持っているのデスか?」
「さすが殿下。正解」

にっと上辺だけの笑顔を浮かべると、指輪を取り出す。
で、誰がつける?と見渡せば、うんと返事をするものはいなく。

「う〜ん。小さくなるのはいいけど。どんな風になるのか興味あるし。でもあれに着替えるのはちょっとしんどいかも。
 図書館に行く時間がもったいないし」
「別に僕たちまで付き合うという道理はないだろう?大体、僕はあんな得体のしれない人形の服を着ようとは思わないぞ」
「楽しそうデスが、私はこのままの姿で、小さいルルを愛でたいデス」
「・・・そういうことは、言い出したあなたがしたらどうですか?」

しぶる一行(一名はつけても意味がない)を、へえ〜と意味あり気な視線で見渡した後、
アルバロはそれなら俺が小さくなるよ、と口にした。
こういうことには当事者にはならずに、傍目から見て楽しむアルバロらしからぬ言葉に、一同は多少なり驚いた。

「一人で小さくなって、もしかしたら不安がっているかもね。
 ルルちゃんがお雛様だから、お内裏様、旦那様になって・・あの子の相手してあげるのも・・・・悪くないかな」

少なくとも、好意を持つ相手にするような表情ではなく、何をするかわからないと言った表情で微笑みを湛えて…
そんな僅かばかり、悪戯めいたというには度を超えた感情を垣間見せたアルバロに、全く気付かないのは一人だけ。

「そっか、一人で小さくなって、不安になってるとか考えつかなかった。そうなのかな。それなら俺が小さくなって一緒に…」
「いや待て、ユリウス。今何を言おうとしたんだ?一緒に・・・」
「?いてあげたらいいかなって。だって暗闇の中一人だし。前みたいにアルバロの頭に乗っかってるわけじゃないから」
「…今は着替えてんだから、傍にいられる筈ねーだろーが」

あ、それもそっか。と頷くユリウスに、深い溜息の音。

「僕はその手には乗りません、アルバロ。そう言えば人を焚きつけられると思っているのでしょうが」
「へえ?俺がいつ、どうやって焚きつけたんだろう。自分の気持ちを素直に言っただけなんだけど」
「・・・・・・・」

無言でアルバロを半眼で睨むように見据えるエストに、アルバロはあくまで楽しそう。
そんな中、ノエルは一人、こんな決意を固めていた。
・・・気は進まない。そんなこと、気は絶対進まないが・・・し、しかしルルをアルバロの魔の手に渡してしまえば・・・!
それならば僕が守るしかない!!

「し、仕方ない僕が・・・」
「俺がするよ。小さくなるのって興味あるし。器が小さくなれば魔力の容量も減っているのかな・・・う〜ん・・・」
「そうデスね、等身大でルルを見たい、という気持ちもありマス」
「あれ、ビラールも?困ったな。どうしようか」
「こ、こらっ!勝手に話を進めるな!僕だってなってやってもいいと言っているんだ!!」

立候補しようとしたノエルは、突然の割り込みに顔を赤くしながら口を挟む。
そんな三人を呆れたように見ながら、ラギは座り込んだ。

「どいつもこいつも暇だな。好きにしろよ」
「ラギ?拗ねない拗ねない。ルルを迎えに行く王子様になれないのは残念デスが」
「誰がんなこと言った!!!」

一向に静かに待てない面々に、再びエストの深い溜息が。

「・・・そもそも、小さくなることに意味なんてありません。このままルルを待つべきでは?」
「エストくんも意地張らないで。本当はそうしたいんだよね」
「・・・・・・・・・・・・・」

アルバロを無視することに決めたらしいエストに、とんでもない伏兵が現れた。

「うん。その気持ちわかる。ルルを待つ時間があるし。少しでもいろんな体験するのはいいことだよね。
 それに、ルルの旦那さんって言葉聞いたらしてもいいかもって思ったんだ。
 きっと、誰かが一緒に付き合った方が彼女は喜ぶ気がするし。エストもそう思ったんだよね」
「絶対に違います」

にこにこと語るユリウスには賞賛と、呆れと、怒りと、困惑、様々な視線が集まる。
そんな穏やかな?時間は突如破られた。

パチパチッっと、静電気が走るような音がして、空間がしびれるような感覚。
エストがはっと闇の空間に振り返れば、自分がかけた魔法が中から破られるように膨張していて・・・

「なっ・・・・!?これはっ・・・・!?」
「・・さすがルルちゃん、何かやらかしたみたいだね」

アルバロがツッコむや否や、バチバチッっと先ほどより強い音がして、光が走った。そう思った瞬間――

ビキビキッ・・・・バン!!!!

ゴオオオオオオ・・・・・・・・

竜巻のようなものが目の前に現れて、闇は弾け、マントは瞬く間に天高くあがって・・・・

「す、すごいよ!意味がわからない!!どうしてあの小さい体でこんな暴風を!?エストの魔法はどうやって打ち消したんだろう!?
 風の属性が闇を打ち消すなんてありえない!ああ!本当に意味がわからない!!」
「・・っ!そんなこと、僕の方が聞きたいです。それより彼女が無事とは思えませんが」
「そ、そうだ!ルルはあのマントの中に・・・だとすれば・・・・!あの上空のマントの中だろうか?」
「すごく高くあがったね、ラギ君、ちょっと変身して助けに行ったら?」
「ここには女性はいないデスが・・・」
「んなこと言ってる場合か!!」

叫ぶなり、ラギはその竜巻の中に走って入りこもうとする。

「ラギ!危険です!通常では考えられない属性融合を起こしています!」
「んなことわかってる!だから、オレがいくんだよ!」

ラギは上空のマントを、それだけを見つめながら魔力の渦に巻き込まれていった。
それを見ていたエストは、くっと珍しく顔を歪めて魔道書を握りしめた。

もっと、注意を払うべきだった。
あの人から目を離すのは危険だとわかっていたのに…

何もかもが複雑に絡み合う風の渦を見つめて、ふうと一つ深く息を吐いて。
その力を徐々に押さえこむ為の律を編む。
それはノエルやビラール、アルバロには見聞きするだけで、手出しできないような高度なものだとわかる。

「くっ・・・待つだけしかできないのか・・僕は・・・」
「ノエル、待つことも大事デス。二人が無事に戻るように・・・戻れるように考えまショウ」

そんな二人から視線をずらして、エストを探るような、深い視線で見つめるアルバロ。
そこにはいつもの道化のような表情はなく。
その手腕にじっと見入っていたのだけど・・・

「アルバロ、さっきの指輪、貸してくれる?」
「・・・・?ああ、ユリウス君・・・・指輪?着替えるのならどうぞ」
「ユリウスっ!こんな時に貴様はっ・・・何を悠長なことを!」
「ノエル、大丈夫。落ち着いて・・・ユリウスには考えがあるみたいデスよ?」

ビラールの言葉にユリウスはにこっと微笑むと、魔力の渦すぐ近くまで足を進めて、徐に指輪をはめた。
ルルと同じように小さくなったユリウスは、それに興奮することもなく、魔力の渦に入っていく。

「!?ユリウス?何を・・・っ!?」
「エスト!大丈夫!害はないみたいだし・・魔法の発動、もう少し待ってて・・・・・ルルはっ・・・・!!!・」

あっという間に見えなくなり、声も聞こえない。
魔法の発動を・・・待て?その言葉に戸惑うエスト。
同じように戸惑うノエルとは別に、その行動に感心するビラールと、楽しげなアルバロがいた。



くっ・・・もう少し…

風が何度も回る中、体が進むかわからないけれど、必死に手を動かしてそのマントに手を伸ばす。
先ほどから、憎らしいほどクルクル翻っては手を逃れるマント。
注意して見ても、ルルの姿は見えないけれど、それでも・・・そこにいないとは言い切れない。

漸く指先を掠めたマントを手繰り寄せるように、ギュっと掴み自分の許に引き寄せて、立ち上がる風の中、ルルを探す。

・・・・チっやっぱりいねーか・・・どこに・・・・・?

その時、ラギの耳に『ラギー!』と声が・・・・
驚いて下を見れば、ルル同様に小さくなったユリウスがすごい速度で上がってくる。

「おまえっ大丈夫なのか!?」
『うん、下から見てて、この渦の先の風の流れがどこか抜けているみたいだから・・・
 小さい体のルルはそっちに・・飛ばされたのかもって・・・・・』

確かに、ラギの位置の高さだと、渦の勢いは少し弱まっているのでこれ以上体は浮上せず、ぐるぐる回るだけだけど。
ユリウスはそのままラギより高く昇っていく・・・
そして、ユリウスが言うように、一筋の風の流れに乗せられてそのまま見えなくなったのだった。


「って訳だ。どっか飛ばされた」
「・・・なるほど、そういうことですか・・・」

マントをキャッチしたラギを見たエストが魔法を発動して、その身を徐々に地上へ導けばユリウスの姿はなく。
こうして残されたメンバーはマントを中心に囲んで話している。

「二人とも小さいままデス。探しまショウ」
「・・・僕にも原因がないとは言い切れません。仕方ないですね」
「そうだな、ラギ、どっちの方向に飛んで行ったのかはわかるのだろう?」
「・・・・・・・・・・」

黙りこむラギに、ビラールとエストが何か言いた気な視線。
ノエルはここぞとばかりに、

「まさか、覚えていないのか!?唯一の手掛かりを!」
「う、うるせー!!あんなにぐるぐる回ってたら、周りの景色なんか見えねーんだよ!」
「まあまあ、ルルちゃんの居場所はわからないけど、ユリウス君の居場所はわかるよ」

・・・・・・え?

皆の表情が面白くて仕方ない、と言ったようにアルバロは口を歪めた。

「ユリウス君に指輪を渡した時にちょっと魔法薬をね、振りかけておいたから・・・
 ほら、うっすら虹みたいな細い線があるよね、あの先にいるよ」
「「そういうことは・・・早く言わないか!!(言えーーー!!!)」」

ラギとノエルの絶叫が響き渡った・・・


『ルル!ルル!大丈夫!?』

う〜ん・・・この声、ユリウス?
起こされるように体を揺さぶられて、目を開けば心配そうなユリウスの表情が目に入った。

『ルル!よかった!気がついて・・・何ともない?』
『うん!・・・ごめんなさい、また失敗しちゃって・・・』

きっと、大惨事になった、ということはわかる。
探しに来てくれたのだろうか?

『失敗なんてとんでもない!君の魔法はいつだって意味がわからなくて素敵だよ!』
『ううっ・・・あ、ありがとう…』
『ふわふわ落ちたんだ。体が小さいせいなのかな?何かの魔法の効果かな?そのせいで怪我しなかったみたいだけど』
『そっか・・・・・・ん??』

体を起こして目の前に広がる景色は・・・壮大で、それは壮大で。
ただの雑草がジャングルみたいに見える。体は小さいまま?それなら・・・でも、ユリウスは・・・?

『ユリウスも・・・小さいの??』
『あ、うん。君が飛ばされた先を追うのにはこれがいいかなって。ちゃんと見つけられてよかった』

迷惑をかけたのに、これ以上ないくらい優しく微笑むユリウスに、ルルは思わず鼻の奥がツンとする。

『ありがとう・・・探してくれて、ありがとう。見つけてくれて、ありがとう』

一人だったら、きっと、不安で不安で仕方なかったと思う。
嬉しくて、目に涙がじわっと滲んでくる。

『うん、どういたしまして。ルル、その服…』
『・・・・あ!・・・う〜ぐしゃぐしゃだ・・・また変なもの見せちゃった・・』
『ううん、そんなことないよ。人形見た時はそこまで思わなかったけど、ルルが着ているの見たら、かわいいなあって思った』
『・・・・・そ、そうなの?』
『うん。とってもかわいいよ、似合ってる。何だかいつもより大人っぽく見えるし。俺ももう一つの着ておけばよかったかな』
『ユリウスったら!』

ほのぼの漂う空気を、ばっさり斬り捨てるような怒号が突如響いた。

「心配して来てみれば、何をしてるんだ貴様あ!!」

二人の頭上に大きな影がかかると共に、怒った顔のノエルが。

『あ、ノエル。何って…ルルを見つけてたんだけど』
「違う!その後だ!」
『ま、まあまあ…ノエルも探しに来てくれたの?ありがとう!』

ぺこりっと頭を下げれば、ま、まあ君が無事ならいいんだ、と照れたような声。

「っんとに、おまえはトラブルばかり起こすよな。どーしたらこんなに問題ばっか起こせんだよ」
『ラギ!…そ、その頭どうしたの?』

ラギの髪は何だかものすごく寝癖がついたようにあちこちにピンピンはねている。

「別に、何でもねー「ラギは、ルルを助ける為に、単身で渦に向かったのデス。男の勲章デスよ」

え?と驚いてラギを見れば、余計なことを!とビラールを睨んでいて。
本当のことだとわかる――

『ラギ・・ありがとう。・・・私それ見たかったな。きっとかっこよかったよね!惜しいことしたわ!』
「て、てめー何言ってんだ。馬鹿じゃねーの・・・」
『ラギ、顔が真っ赤だよ?どうしたの?今頃何か異常をきたしたのかな』
「うるせーユリウス!余計なこと言ってんな」

ふふっとその光景に笑うルルに、冷たい声が耳に届いた。

「笑っている場合ではないでしょう?ルル。どうしてこうなったのか、説明してください」
『あ、ごめんなさい!どうしてって言うと…え〜と暗くて、まぶしくて…』
「・・・それで説明しているつもりですか?」

更に冷たさが増した声、ううっと俯いたルルに、そっと手が伸びる。
エストの掌に乗せられたルルから何故か視線を逸らして、エストはぽつっと謝罪を口にした。

「・・・今回のは、僕にも一因あります。危険な目にあわせて・・・すみません」
『そんな!エストのせいじゃないのよ!私が…調整できないから・・・』
「そう思うのなら、無茶はしないでください。」

ますます、目が離せなくなる・・そんな言葉を飲み込んで、
ルルに目を向ければ、いつもよりキレイに見えるルルが心なしかまぶしくて。
それでもいつもと同じように力いっぱい頷くルルに、つい安堵の表情になる。

「いやいや、さすがルルちゃん。ここまでは俺も予想できなかったな」

パチパチと場違いな賞賛はもちろんアルバロ。

『ごめんなさい…アルバロの人形の服も何だかよれよれになっちゃって…』
「それくらい、君が見せてくれたもので十分の価値があったから大丈夫だよ。それより…」

軽くエストの掌の上にいるルルに手を伸ばせば、そうはさせじとばかりにエストが向きを変えて…

「・・・・・・あれ?エストくん。どういうことかな?」
「別に、深い意味はありませんが。これまでの経験と勘が渡すなと言っているだけです」
「ふうん、別にいいけど。後で俺に文句を言わないでね」
「・・・・・・?」

エストが怪訝な顔をアルバロに向けた途端、掌にずしっとかかる負荷。
急激に元に戻るルルについていけず、無惨そのまま下敷きに…

「わ〜戻った!!すごいっ!服まで大きくなった!」
「ちょっと!ルル!っの、退いてください…っ!」
「あ〜あ、エスト君においしい役取られちゃったなあ」

けらけらとアルバロの高笑いが響く中、

『あ、ルルが元に戻っちゃった。俺はいつ戻るんだろう?』
「個人差があるとは言え、そんなに違いはないと思いマスよ?それにしても…かわいいと言うより、キレイデスね」
「た、確かに。いつもとは違った雰囲気で…この動悸はだ、だからだな!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

いつもより静かなラギに気付いたビラールは、ふふ、と笑いを漏らした。

「ラギ?見とれて声も出ないようデスね」
「はあ?誰が!違う!」
「そうだよね、ラギ君は…」

そのビラールの言葉にアルバロは後ろを振り向いて、標的にされたラギは不運としか言えない。

「自分の定位置をエストくんに取られて、嫌な気分になっているんだよね」
「…別に、ルルは俺の定位置じゃねーよ」
「…誰もルルちゃんなんて言ってないけど」

ぐっと言葉に詰まって真っ赤になるラギと、にやっと微笑むアルバロ。
どちらに軍配があがったのかは言うまでもない。

『ところで、俺はノエルが運んでくれるのかな。このまま歩いて帰るのは無理だと思うんだけど』
「何を言っている。どうして僕がユリウスを運ばなくてはならないんだ?」
「それなら大丈夫!私が運ぶから!!」

漸く重い着物ごとエストから立ち上がれたルルは、ユリウスを掬いあげると…ひょいっと帯上あたりに入れようと…

「ルル!それはやめとけ!!」
「・・・本当に考えなしですね。救いようがありません」
「あ〜!ユリウス!僕が運んでやる!ありがたいと思うんだな!」
「え?だけどルルが運んでくれるって言ってるし、俺はそれに甘えたい気もするけど」
「大丈夫大丈夫。それは気のせいデス」
「ルルちゃん、その位置でユリウス君が元に戻ったら、とんでもないことになるよ?」

アルバロはすいっとユリウスを持ち上げて、ノエルに渡すと…皆にばれない程度にそっと耳に口を寄せた。

「…それは俺でも、楽しめないかもね」

・・・じゃあ、他のは全部楽しかったのか、そんなことも思いつつ、近い距離にドキっとしながらアルバロを見上げれば、いつもの笑顔。

「きれいだね。似合ってるよ」
「随分よれちゃってるけど…嬉しいわ!ありがとう!」

その元気のいい返事に皆が振り向いて。

問題ばかり起こす活発なお雛様。
だけど憎めない。離れようとは思えなく。

つい笑顔になってしまうのは彼女の一番の魔法。




END









な、長くなりました^^;
着崩れた着物。はたして綺麗なの?とか言わないでくださいね(>_<)
ルルはかわいいから、何でも似合います!

オール…全員ルルが好き、みたいに書きたかったんですが、厳しいところも多々!
ワンドはキャラの個性が素晴らしいので長々となるし。
読まれた皆さまが飽きずに読み終えられていると嬉しいです。

後書きにもお付き合いくださりありがとうございました!