お雛様は何処??




注意!!
FDの全属性のルルのお話です。
アルバロとユリウスのイベントを見ていないとわかり辛いです。




前編




「うわ〜かわいい!かわいい!不思議な衣装だし…」
「うん。確かにかわいいね。だけど俺は君の方がかわいいと思うけどなあ」
「ありがとう!でもこれの方がかわいい・・・ってアルバロ!?いつの間に!?」

今日は休日。
たまには一人で…と街に出てみれば、露店に出された二体の人形に目を奪われて。
欲しいけど、ちょっとお金が足りない…どうしよう…
そんなことを思っていたら、突然かけられた声。

「さあ、いつからだろう?ルルちゃん夢中になると周り見えてないからね」
「う・・・・アルバロもお買い物?」
「うん、そうだね…寮にいても暇だったからね。ルルちゃんに会えるなんてツいてるなあ」

にっと微笑んで顔を寄せるアルバロに、にこっと、そうね!私もついてるわ!と言葉を返せば、何だか苦笑いを浮かべられた。

「ところで、これ雛人形でしょう?気に入ったの?」
「ヒナ人形って言うの?うん!とってもかわいいし!買いたいんだけど…・」
「ふうん。だけどお金が足りないんだ。困ったね」
「ど、どうしてわかるの!?」

そんなこと、一言も話していないのに!
それに財布の事情を知られるのは何だかちょっと恥ずかしい。
僅かばかり顔を赤らめて尋ねれば、内緒、と微笑まれるだけ。
(実はルルが財布の中と人形を見比べては溜息をついていたからだけど)

「俺が買ってあげるよ」
「い、いいっ!そんなの悪いし、そんなことしてもらう訳にはいかないもの!」
「う〜ん。俺もこれ、欲しいんだよね」
「・・・・・・・そうなの?」

アルバロが欲しいなら…そんな期待が顔に出てしまったのだろうか。
ルルの顔を見て目を細めて、笑顔を浮かべる。

「・・・じゃ、じゃあアルバロが買ったのを…たまに見せてもらってもいい?」
「いや、俺の部屋には置いてあるの変でしょ?ルルちゃんが持っててくれると助かるんだけど」
「でも・・・・」
「その代わり、俺のお願い聞いてくれる?」

ぱちっと片目を閉じて、いつものようにからかうように。
けれどつい頷いてしまったのは、人形を気に入ってしまったからだろうか…




『も〜!!ひどい!騙したでしょ!?』
「ん?ルルちゃん声が小さいよ。聞こえないなあ」
『誰のせいなの!!』

ルルは今、ミルスレアの寮の庭の一角。アルバロの足元にいる。
文字通り足元に。
以前買ってもらったことのある指輪。それをまたしてもつけられたのだった。

「でもルルちゃん、この人形って言うより、衣装が気になっていたんじゃない?」
『聞こえてるんじゃないの!』
「まあまあ、だから、小さくなったから・・・この人形の衣装、着られるんじゃないかな」
『・・・・・・・・・・・・・あっ・・・』
「着てみる?」

目の前に、自分と同じ大きさの人形を置かれて、繊細な衣装を見れば着たくなる。
思わず、うん、と返事をしたと同時に、ルルの頭上に大きな影が一つ、二つ…

「・・・アルバロ、てめー何してんだ。一人で人形遊びは怪しすぎるからやめとけ」
「ラギ、人にはそれぞれ趣味がありマス。ですが、部屋でこっそりするのがいいかもしれないデス」
『ラギ!ビラール!』

二人とも、人形の影になったルルには気付いていないようで、
完全にアルバロを痛い目で見るラギと、穏やかながら何を考えているのかなビラール。
その二人の耳にルルの小さい声が届いた。

「・・・・あ?ルルか?どこから叫んでんだ?えらい声が小せーけど」
「・・・辺りには見当たりまセンね」
「二人とも、ここにいるよ」

アルバロが楽しそうに人形の後ろを指さして、ひょこっと現れたルルにビラールはおおっ!すごいデス!と喜んだけど。
ラギは声にならない悲鳴をあげた。


「相変わらずろくなことしねーな!!つーかルル!てめーもこんなこと付き合うんじゃねーよ!」
『は〜い…でも戻る前に衣装着てみるのはいいかなって思うんだけど!』
「馬鹿か!大人しくしと・・「ハイ。ルルのかわいい姿、見てみたいデス」
『本当?』
「ビラール!てめーまでくだらねーこと言ってんじゃねーよ!ったく、お気楽はいーよな」

呆れた声を漏らしながら、ルルをぴんっと弾くと、いとも簡単にコテンと後ろに倒れて。

『ひどい!何するのラギ〜!!』
「んなことしてるてめーが悪い。ったく・・・ちゃんと元に戻んだろーな・・」
『ラギ、心配してくれてるの?』
「ち、違っ・・・「ラギは、元のルルに早く会いたいのデスね」
「そうだね、何だかんだ言っても、ルルちゃんの傍から離れないしね」
「う、うるせー!!余計なことばっか言うんじゃねー!!!」

頭上で響くラギの声は、ルルには頭が痛くなるほど大きくて、思わずよろめいて傍にあった布で頭を覆うようにした。
それはラギのマントだったのだけど。

「ばっ!入んな!」
『だって頭痛いんだもの!』

一見普通の会話のように見えるけど、男三人が人形の周りでおしゃべり。
それにラギは一人でクルクル回っているように見えて不審者極まりない。

「・・・一体何をしているんだ。ロビーにまで君たちの声は届いたぞ!」
「おや?ノエル君にユリウス君。勉強の邪魔しちゃったかな」
「いや、俺はちょっと調べ物で図書館に行こうとしてたところ。ところでラギは何してるのかな。踊りの練習?
 ひょっとしてドラゴンにだけまつわる伝承された踊りとかっ!?」
「てめーユリウス!何寝ぼけたこと言ってんだ!だ〜〜〜!!!ルルっく、くすぐっ・・・・・!!!」

ひ〜と顔を赤くして、首の後ろに手を伸ばしたラギ。(ルルいつの間にか首まで上がっていたんです)
「「ルル?」」
ユリウスとノエルが目を丸くした中、ラギが伸ばした手。その掌の上にちょこんと乗ったルルが・・・

「なっななななな何だこれは〜〜〜〜!!!」
「あっ!この間の指輪をまたはめたの?どうして?」

パニックになるノエルとは対照的に、ユリウスは小さくなったルルに手を伸ばして自分の掌に乗せた。

「ははっ!この間はアルバロが頭の上に乗せていたから、実感があまりなかったけど…本当にルルが小さくなっているんだね!
 軽いよ!身長と体重と同じ比率でちゃんと小さくなるのかな。というか、服まで縮むっていうのがすごいよね!元に戻る時は大きく・・・」
「どうどう、ユリウス君ストップ。ルルちゃん握りしめるところだよ」
「あ、ごめん!ルル大丈夫?」
『うん!』

ユリウスの掌の上をちょこちょこ動きまわって、そ〜っと下を覗き込んで、高い!と怖がっているのかはしゃいでいるのか。
キャーキャー騒ぐルルに、ユリウスとビラールとアルバロはにこにこしながら眺めていて。
常識人二人は顔をしかめている。

「というか、どうしてまたこんなことに?指輪の力と言っていたが・・・」
「あーそこの人形の服を着たいんだと。女ってくだらねーこと考えるよな」
『考えたのはアルバロだもの!』

ぷんぷんと怒ったように杖を振るルルに、ユリウスが「ルル!その状態で魔法使ってみて!」と目をキラキラさせている。

「ユリウス、魔法はまた後ニ。とりあえずルルに服を着せてあげなけれバ」
「あ、そうだね。ルルはあれを着たいんだっけ。」
『そう!早く着替えなきゃ!』

にこにこ微笑み合う二人。
ここで、ラギとノエルはあることに気が付いた。
ビラールは気付いているけど、大丈夫大丈夫と思っている。
アルバロはもちろん知っていて、ルルがどうするのか笑顔を張り付けて待っている。
気が付いていないのは、ルルとユリウスだけ。

その時、アルバロの視界に一人の少年の姿が映る。
少年エストはもちろん、皆の姿を見ると回れ右してしまったのだけど。逃がすはずもなく。

「・・・・・・・・・・・・・」
「どう?エスト君、かわいいでしょう?ルルちゃん」
「うん!ルルはかわいいけけど、小さくなるとかわいさがまた増えるよね!」
「そうデスね。小さくなるとかわいさが際立ちマス」
「か、かわいいというのは否定する訳ではないが…この状態を楽しむというのは・・・」
「おまえら、恥ずかしくねーのか・・・」

無理やり連れて来られて、ユリウスに突然手を差し出されたと思えば、その掌の上には人形が。
・・・いや、ルルがいた。
エストはルルとばっちり視線を合わすと、いつものように呆れたような、素知らぬふりするわけでもなく。
にっこりと、そりゃもうにっこりと冷たい笑みを湛えた。

『エ、エスト・・・?』
「よかったですね。それでは僕はこれで・・」
『ちょ、ちょっと待って!せっかくだからエストも見ていってよ!あのお人形の服着るから!』
「興味ありません。」
『ううっ…』

これでおしまいとばかりに踵を返すエストに、ルルは思わず待ってと手を伸ばして・・・・・

「ルルっ!危ないよ!」
ユリウスの声にエストが振り向けば、ユリウスの掌から落ちそうになるルルが目に入って・・・

「・・・・・・・・・・・・・・これは、脅迫に近いと思います」
『ご、ごめんね?でもきれいな衣装だし』

ユリウスの掌からこぼれ落ちたルルは、エストが咄嗟に伸ばした手の上に落ちた。
溜息ばかりが吐き出されながら下に降ろされた。

「・・・嫌だと言っても聞かないのでしょう?・・・ところで、ルル」
『なあに!急いで着替えるから待ってて・・・「ま、待って!」

思わずエストが焦ったような声を出す。
珍しい声にルルが顔をあげると、エストだけでなく、ラギとノエルも少々顔を赤らめていた。

「どこで着替えるつもり何ですか?」
『どこって・・・寮…』
「その姿で、自室に辿つけるんですか?」
『あっ!!・・・・・え〜と・・・・じゃあ・・・・』

やっぱり考えなしか、とノエル、ラギ、エストがはあ、と溜息つく中。
アルバロがにこにこしながらルルに近づく。

「ルルちゃん。俺が見張っておくから、どこか教室で着替えれば?」
「んなの信用出来るはずねーだろーが!!!」
「ん〜・・・じゃあ、俺のマントで隠しておいてあげるから、そこで着替えたら?」
「ば、馬鹿か!ユリウス貴様!こんな青空の下で、き、着替えさせるつもりかー!!!」
「そうデスね。今日は休日。どこに誰がいるかわかりまセン」
「・・・・・・・どこも一緒かと思いますが。魔法の闇で覆い隠せば見えないでしょう。」

まあ、念のため、マントを人形とルルの上にかけて、その上さらに闇で覆えば大丈夫だろう。
エストの言葉にルルが頷いて(エストの魔法なら大丈夫だもの!)、ユリウスがマントをかけてあげた。

「いきますよ、レーナ・アンブラー・・・」
「・・・うっかり光の魔法で照らしちゃったらどうしようかな」
「てめー、んなこと考えてるのか!」
「・・・風でマントが飛ばないように押さえてあげた方がいいかな」
「い、今着替えているんだろう?近づくのは最低だぞ!ユリウス!」
「楽しみデスね」


こうしてルルのお雛様を待つ6人には悪いけど。
そのまま着替えてお披露目できるようなルルではない――




後編に続く!